『異世界食堂』は「ヤングガンガン」で連載されている原作・犬塚惇平、漫画・九月タカアキの作品です。本作の舞台は、週末だけ異世界と繋がる洋食屋。噂を聞いて訪ねてきた異世界の客との交流を描いた、1話完結のファンタジーグルメ漫画となっています。 スマートフォンアプリの「マンガUP!」からも無料でご覧いただけます。
オフィス街に近い商店街に店を構える、洋食屋「洋食のねこや」。現在の店主が先代から継いで10年になる、ごくごく普通の食堂です。
しかし、それは平日だけのこと。1週間のうち土曜日だけは、入り口の扉が魔法の力で異世界に繋がってしまうのです。そしてそこは文化や姿形もまるで違う異邦の客で賑わう「異世界食堂」と呼ばれるように。「洋食のねこや」に集まった人々が、料理を通して交流を深めていきます……。
- 著者
- ["犬塚惇平", "九月タカアキ"]
- 出版日
- 2017-06-24
全編通して、毎回登場するキャラは店主のみ。しかし、彼が主人公というわけではありません。1話ごとに登場人物が異なり、提供される料理を軸に物語が進みます。店主は、お客と会話したり、その時々のメニューを決めたり、話の潤滑油的な働きをしますが、本筋には絡んできません。
各話で語り手が変わりますが、舞台が「洋食のねこや」であることは共通しています。そこで取り上げられる問題や背景が異なるのが特徴です。話し手となるのは、トレジャーハンターや傭兵、賢者や騎士、魔王まで。「ねこや」を訪れて常連となった人々は、別の話に関わってくることもあり、ゆるやかに話がリンクしているのが読んでいて楽しいところ。
彼らはそれぞれ、「洋食のねこや」のメニューに食べ方のこだわりがあるのもポイント。時々違うものも口にしますが、そういったところに注目しながら、彼らの好みの傾向を読み取るのも、まるで自分が常連になったような気分に浸れることでしょう。
本作は小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載されていた、同名タイトル小説の漫画版です。2016年から、ヤングガンガン誌上で連載がスタート。2017年にはテレビアニメ化もされた、人気のある作品です。
人気の秘密は、バラエティ豊かな登場人物と、日本人にとっても、ごく身近にある洋食料理との関わり。洋食とは、西洋料理を日本が独自にアレンジし発展したものなので、異世界の住人には未知のグルメとして映るのです。
それらは原作の時点でも非常に美味しそうに感じられましたが、漫画版では匂いや味も想像出来るほど見事に描写されます。さらに美麗なキャラが食べた時に見せる表情も相まって、「美味しそう」感が2倍にも3倍にも感じられるはず。
登場人物同士の関係や、後の展開に繋がる細かい描写を楽しめるのも、漫画版ならではの特色といえるでしょう。
原作では遅れてレギュラーとなる給仕のアレッタと黒の2人が、早めに登場するのも漫画版ならでは。給仕の2人が、どんな関わり方を見せてくれるのかも、ぜひご注目ください。
サラ・ゴールドは、憧れのトレジャーハンターであるウィリアム・ゴールドの足跡を辿り、彼が晩年に愛した財宝があると知ります。彼女がそれを探しているところから物語はスタート。サラは、ウィリアムが7日に一度、「ドヨウの日」と名付けた日に、ある廃坑に通っていたことを突き止めます。
そこに財宝があると踏んで探していた彼女の前に、扉があらわれます。それが「洋食のねこや」に通じていたのです。
- 著者
- ["犬塚惇平", "九月タカアキ"]
- 出版日
- 2017-06-24
財宝どころか、人でごった返す店内を見てサラは拍子抜け。気さくな店主に案内された彼女は、ウィリアムが好んだというメニューを選びます。それは揚げたてサクサクのメンチカツ定食でした。
このメンチカツこそ、ウィリアムが愛したお宝だったのです。どんな財宝にも代えがたい至福の逸品。トレジャーハンターとしてはまだ駆け出しのサラですが、実はウィリアムのひ孫。彼女はこのメンチカツから、ひ祖父との過去を思い出します。
料理は、味や食べ方から、故人との思い出や懐かしさを想起させる素敵な遺産だと思わせてくれる名エピソードです。
異世界の設定だけど、どこか身近に感じられる話。心をほっこりします。
東大陸で勇名を馳せる大剣豪タツゴロウ。武人の彼も、ひとたび「洋食のねこや」に来店すれば、常連の1人でしかありません。七日に一度という営業サイクルから、なかなか会えない顔見知りも出てくるのですが、タツゴロウが久々に訪れたその日には「ロースカツ」の常連がいました。
- 著者
- 九月タカアキ 犬塚惇平 エナミカツミ
- 出版日
- 2017-09-25
かつて邪神戦争で活躍した4英雄の1人、大賢者アルトリウス。タツフォロウとアルトリウスは、俗世では人に平伏されるような身分でした。しかし、「洋食のねこや」では互いの好物メニューから「ロースカツ」と「テリヤキ」と気さくに呼び合う仲。
タツゴロウによる、ライスへのこだわりや、酒の飲み方はなかなか粋で、テリヤキチキンの作法は思わず真似したくなるでしょう。
また、タツゴロウとアルトリウスの会話の中には、1巻にも出てきたウィリアムが登場。故人を偲ぶところも、長年の常連客らしいやり取りでしんみりしてしまいます。
こうした異世界食堂こと「洋食のねこや」を訪れる、常連客同士のやり取りも本作の見所。元々の世界のしがらみから解放されて、店内独自の交流になっているのが面白いところです。
常連客同士のやりとりから、過去の主役が脇役で登場するなど、ゆるやかにリンクされていることが分かるエピソード。常連のお店っていいな、と思わせてくれる第2巻です。
賑やかながら平穏な一時を、美食と楽しむのが「洋食のねこや」の流儀。しかし、時にはぴりっと緊張感漂う一幕もあります。殺気立った常連達が、いがみ合いを始めるのです。
きっかけはほんの些細なこと……サンドイッチにぴったりの食材は、という話題でした。
- 著者
- 犬塚惇平
- 出版日
- 2018-07-25
人には好みがあり、それぞれこだわりがあるもの。それは「洋食のねこや」を訪れる常連達も同じ。おのおのが愛し、1番と信じてやまない食材の組み合わせによって、サンドイッチ論争が勃発します。
メンチカツにエビカツ、ロースカツかテリヤキチキン。はたまた生クリームのフルーツサンドか、あるいはカスタードのフルーツサンドか。
俯瞰して見ると、くだらないとも言いかねない争いですが、こだわりのある人間にとっては、重要事項……なのかも知れません。ただ、最後にはお互い、いち押しのサンドイッチを食べ比べて、舌鼓を打って一件落着するので安心です。ぎりぎりを競り合った競技者が、互いの健闘を称えるかのように笑いあうシーンに、思わずほっこりしてしまいます。
自分たちでも経験あるかも?という、くだらないながら癒されるエピソード。それをくり広げるのが、育ちの良さそうな冒険者と名剣を携える騎士、テリヤキを愛する老侍……など、異世界食堂だからこその面々が言い争いをしているのも、見所です。
彼らが愛するサンドイッチを、自分で再現したり、食べ方が広がる本作品を、ぜひご覧ください。
いかがでしたか?読んでいると、心が温まり、思わずお腹がすいてしまう「洋食のねこや」の物語。ぜひ、お楽しみください。