永劫の時を生きながらも、まだ果たされない目的のため、世界を旅し続ける主人公・ミカ。切なくも美しい物語を描く物語、それが『魔女の心臓』です。 一見暗い印象を受けますが、旅の途中で出会う人々とおりなす、数々のエピソードにさまざまな感情が呼び起こされる作品となっています。今回は、そんな本作の魅力を最終回までご紹介。ネタバレ注意です。 また、本作は無料のスマホアプリから読むことができるので、ぜひご利用ください。
「境界(あわい)の魔女」と呼ばれる少女・ミカ。彼女は、双子の妹によって心臓を奪われた事により、不死となってしまいました。
言葉を話す事のできる、不思議なランタン・ルミエールとともに心臓を持ち去った妹を探すため、世界を旅し、さまざまな人と出会います。いつか妹を見つけて心臓を取り戻し、自らの不死の寿命に終止符を打つ、その時まで……。
- 著者
- matoba
- 出版日
- 2012-10-22
ダークファンタジーの本作は、登場人物達に降りかかる凄惨な運命に、ハラハラしつつも読み進めてしまう魅力に溢れています。
主人公であるミカの目的は、自らの心臓を持ち去った妹を探すこと。しかし、その目的を達成したとして、その先には永劫の時を生きてきたミカの人生の終焉、つまりは死が待っています。
そんな運命を知りつつも、旅をすることを止めない彼女の、救いのない物語……と思う方もいるかもしれません。しかし、本作は切なくも、前向きな物語なのです。
ダークファンタジーと呼ばれる理由は、彼女が出会う人々との物語にあります。
例えば、ミカが旅の途中で知り合った、人懐っこく、家族思いの少女・カレン。ミカが、どこにいるかわからない妹を探していることを話すと、カレンは涙ながらにミカを抱きしめ励まします。そんな優しい彼女の家に遊びにいくことを約束するも、その夜彼女は殺されてしまうのです。
犯人はミカによって退治されますが、彼女に残るものは、虚無。犯人はいなくなったとしても、死んだ人は帰ってきません。もし、彼女も死ぬことができたら、カレンが殺された姿を見なくて済んだのかもしれません。ミカは多くを語りませんが、彼女の切ない表情に胸を打たれます。
物語が進むうちに、旅をして出会った少女と再会することもあります。しかし、数十年後に再開した時には、老婆となっているのです。不死であるミカを置いて、人生の終焉を迎えようとする周囲の人物。自分だけが残されてしまう哀しさを感じられるでしょう。
永劫の時を生きるミカの旅には、こうしたなんともいえない気持ちになる展開が随所に盛り込まれています。このダークな雰囲気こそ、切ないながらも本作の魅力となっているでしょう。
ダークな雰囲気を演出するうえで重要な要素となっているのが、繊細で美麗な絵柄です。キャラクターも繊細に描かれており、可愛らしくもダークな雰囲気とマッチしています。
- 著者
- matoba
- 出版日
- 2012-10-22
また、本作では、そんなファンタジー世界を象徴するようなシーンがいっぱい。随所で魔法を使う場面も描かれます。
ミカが自らに降りかかる火の粉を払うため魔法を使用した際には、彼女の魔法の強大さ、禍々しさを伝えるための描写がしっかりと表現されました。これによって、魔法に対して畏怖を覚える人間達のリアクションにも説得力が生まれ、ミカの特異性も強調されるのです。
本作の魅力を引き出す美麗な絵にも、ぜひご注目ください。
一話完結型が多く、旅の途中で出会った人物達とのエピソードを楽しめる本作。
一方で、ミカの妹を探すという目的については、随所で伏線が張り巡らされています。なぜ妹・ニナはミカの心臓を持ち去らなければならなかったのか、その目的については明らかになっていません。
そんな妹を探すために旅に出たミカに、なぜランタンのルミエールは同行する事を決めたのでしょうか。そもそも2人は、冒頭から一緒に旅をしています。果たして、どのよう出会ったのでしょうか。
そして、作中で「境界の魔女の物語はミカとニナの物語」というものがあります。
ミカが不死の魔女になった経緯を考えれば、姉妹2人の物語という表現もわからなくもありませんが、この言葉が何を指すのかは不明なままです。これらの謎を残したまま、物語は終盤まで進んでいきます。
しかし最後にはそれらの伏線がしっかりと回収され、綺麗な結末を迎えるのです。次々と生じる謎に首を捻りながらも、考察をしながら読み進むのも、本作の楽しみ方といえるでしょう。
本作のダークで切ない雰囲気についての魅力を中心にお伝えしてきました。しかし、本作は随所に盛り込まれるコメディ展開も楽しい作品となっています。
ミカは基本的に冷静沈着で、静かな雰囲気を纏っています。しかし、アルコールにめっぽう弱いという弱点を持っており、1度無警戒にシロップ酒を飲んでしまった際には、ほんの少量で倒れこんでしまう程の酔い方を見せました。
その際には周囲の人々がドタバタと慌てふためき、ミカは自らの不覚ぶりに反省するという、本作ではあまり見る事の出来ない和やかな展開が描かれていました。
それ以外にも、基本的にユルイ雰囲気のルミエールは旅の和ませ役ですし、リツカというキャラクターが旅に合流してからは、これまでにない賑やかな展開があったりもします。
こうした思わず微笑んでしまうような展開も増えてくるため、シリアス一辺倒な展開はちょっと……という読者の方であっても、安心して読み進める事が出来るのではないでしょうか。
500年前に妹ニナと別れた湖。そこで出会った精霊・ロルロージュから、ミカとニナ、2人の過去が語られていきます。巫女・リサと、彼女が身ごもった双子の秘密。ついに、ニナたちの謎が明らかになっていくのです。
すべてが明かされる、最終巻です。
- 著者
- matoba
- 出版日
- 2016-03-12
ダークファンタジーの結末らしく、切ないラストが待ち受けています。これまで共に旅をしてきたミカとルミエールにも、お別れの時がきます。思わず涙してしまいそうになるような展開とは、どんなものなのか。
果たして、ミカは心臓を手に入れ、旅を終わらせることができるのか?すべての伏線が回収されていく本巻を、ぜひ手に取ってご確認ください。重いテーマではありますが、最後はきっと、これでよかったと思えるラストが待っています。