『クリス・クロス 混沌の魔王』やっぱ面白い。元祖VRMMO小説をネタバレ

更新:2019.5.8 作成:2019.5.8

本作は1994年に電撃文庫から発売された、高畑京一郎のライトノベル。ゲイルと名乗る主人公が、「ゲームオーバー=死」とされる仮想現実ゲームに挑み、生還を目指していく物語です。 日本で初めてバーチャルRPGをフィーチャーしたとされる本作について、ここでご紹介していきましょう。

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小説『クリス・クロス 混沌の魔王』あらすじ:ダンジョントライアルに潜む罠

 

日本国内の大手電子機器メーカー数社が、総力を結集して生み出したスーパーコンピューターMDB9000、コードネーム「ギガント」。その性能をフル活用して、仮想現実体験型RPG「ダンジョントライアル」が開発されました。

それは、世界最高峰の最新技術をわかりやすく体感してもらうという試みでした。

 

著者
高畑 京一郎
出版日

 

「ダンジョントライアル」公開にあたって、先行して一般公募で選ばれた256人のプレイヤーが思い思いのキャラクターと職業を設定し、ゲームに参加。そのなかの1人に、主人公・ゲイルがいました。
 

彼は他プレイヤーと組んで地下迷宮へと挑んでいくのですが、その途中、死亡したプレイヤーが復活する方法がないことを知ります。そんな彼らを嘲笑うように「魔王ギガント」を名乗る謎の声が、プレイヤー達に語りかけるのです。

その声は、迷宮での死はゲームオーバーではなく、現実にある肉体の死に繋がっていると言うのでした。

「ダンジョントライアル」は、魔王ギガントこと開発者・江崎新一が仕組んだ、壮大なデスゲームだったのです。

 

作者:高畑京一郎について

 

高畑京一郎(たかはた きょういちろう)は1967年生まれ、静岡県出身の小説家です。

1994年、第1回電撃ゲーム小説大賞(現・電撃小説大賞)で『クリス・クロス 混沌の魔王』が金賞を受賞してデビュー。これが、その後の電撃文庫の指針となりました。さらに、続けて発表したタイムトラベル小説『タイム・リープ あしたはきのう』がヒットし、同作は1997年に同名実写映画が公開されました。

 

著者
高畑 京一郎
出版日

 

作風の特徴は、丁寧に理詰めで設定を練られていること。基本的にSF作品が多く、特に代表作といえる「タイム・リープ」では、タイムトラベルについて説得力のある描写が話題を呼びました。設定がストーリーと密接に絡みついており、巧みなストーリー展開にも定評があります。

2002年からは電撃ゲーム小説大賞で選考員を務めるようにもなり、高畑は今日の電撃文庫ブランドの礎となった人物といえるのです。

このように作家としての実力、作品の面白さは折り紙付きなのですが、業界屈指の遅筆作家としても知られています。残念なことに、2006年以後、2019年5月現在まで新作が出ていません。

 

『クリス・クロス 混沌の魔王』注目ポイント:流行を先取りした凄い設定

あらすじをご覧になった方のなかには、既視感を覚えた方も少なくないのではないでしょうか?

一般に普及したPCが高性能化したことにより、昨今は新しい分野としてバーチャルリアリティ、VRが多くの注目を集めています。そして、それと前後するように、仮想現実でリアリティのあるRPGを体験する、という基本設定を持った小説や漫画がとても人気となったのです。

たとえば川原礫の『ソードアート・オンライン』(以下、SAO)。世界で初めてサービスの始まった、同名のVRによるMMORPG(大勢が参加するRPGのオンラインゲーム)が舞台の作品です。

そこに参加した約1万人のプレイヤーが、開発者・茅場晶彦の思惑でログアウト不可能になり、ゲームオーバーになれば現実でも死ぬことが宣告されます。主人公・キリトは生還を果たすため、ゲームクリアを目指していくのです。

 

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

2009年04月10日
川原 礫
アスキーメディアワークス

 

背景や規模こそ異なりますが、「クリス・クロス」のあらすじと非常に似ているといえるのではないでしょうか?しかし、「SAO」が電撃文庫から出たのは2009年で、「クリス・クロス」は1994年。もちろん2作品は別々の作品ですし、SAOの方は現在も連載中で世界観も広がっており、おそらく結末は違ったものとなるでしょう。

これはVRゲーム小説の始祖「クリス・クロス」が、あまりにも時代を先取りし過ぎたために起きた類似といえます。約25年前の作品とは、到底思えません。

また、ゲームオーバーが即刻プレイヤーの現実の死に繋がるという、近年人気のデスゲーム要素をすでに含んでいたというのも注目点でしょう。

 

『クリス・クロス 混沌の魔王』注目ポイント:キャラクターも魅力的!

 

主人公は、盗賊のゲイルです。判断力と洞察力に優れた男で、職業柄前衛向きではないものの、仲間からリーダーとして頼られています。普段はシニカルですが、根は熱い人間です。

主人公が盗賊というのは今でこそ珍しくありませんが、当時は斬新なものでした。ほとんどが戦士や剣士など、ヒロイックなキャラクターが多かったのです。

ちなみに作中のゲーム「ダンジョントライアル」では、そんな世相を反映して前衛職や派手な魔法使いを選ぶプレイヤーが多く、サポーターが足りないというある種リアルな描写も出てきます。

そして、ヒロイン格が女戦士のリリス。ゲイルがゲーム内で最初に出会ったプレイヤーで、パーティーのなかで信頼を置く人物となっていきます。

そして、奇妙に「ダンジョントライアル」の内情に通じた戦士・シェイン。脇役がよいというこだわりからリーダーを固辞するも、その言動には歴戦の風格があります。ただの一般プレイヤーとは思えませんが……。

他にも物語が進むと仲間キャラクターが増え、仲間にはならないものの、共闘する別パーティなども登場。

さまざまなキャラクターが登場する本作。ただし、名前を含むプレイヤーのゲーム外の詳細は一切語られません。ゲイルを除いたキャラクターが、実在するかどうかも不明なのです。

 

『クリス・クロス 混沌の魔王』注目ポイント:交差するか?高畑ワールド

 

「クリス・クロス」は1巻で完結しており、その後の物語は語られていません。しかし、黒幕である江崎新一についてだけは別。高畑の次作「タイム・リープ」の最後に、彼の後日談が描かれているのです。

 

著者
高畑 京一郎
出版日

 

刑務所らしき場所に軟禁されている江崎のもとへ、「タイム・リープ」の重要人物・若松和彦が訪ねてきます。若松は、若い頃の自分が目にした時間跳躍現象を応用し、星間宇宙船の建造を目論んでいました。その船に必要な精密計算のため、江崎に「ギガント」以上のコンピューターを作らせようとするのです。

高畑は、この後日談ような各作品のキャラクターが登場するクロスオーバー小説も構想しているそうですが、今のところ実現していません……。

 

『クリス・クロス 混沌の魔王』注目ポイント:予想外の結末【ネタバレ注意】

多くの仲間の死を乗り越えて、ゲイルのパーティは魔王に挑みます。そして、ついに勝利することが出来ました。そして視界は白くなり……。

病院で目覚めた主人公は、「ダンジョントライアル」が終わったことを伝えられます。

著者
高畑 京一郎
出版日

地獄のような世界から抜け出した一向。やっと訪れた平和を喜び、病院で和やかに過ごします。

しかし、その病室で突然、女が悲鳴を上げるのです。彼女はリリスでした。鎮静剤を取りに行くという病院関係者から、彼女を任される主人公。関係者がいなくなった病室で、彼女は病室にあった造花を差し出すのでした。

仮想現実の世界は、味覚や嗅覚は再現されていません。主人公は、その造花に匂いがないことに気付くのでした……。

物語の結末は、ハッピーエンドではありません。まるで、マルチエンディングのゲームでトゥルーエンドに至り、裏の真相を暴いたかのような苦い展開が描かれます。再び始まった地獄のなかで辿る、主人公の運命。ぜひ、その衝撃の結末を見届けてください。

いかがでしたか?「ゲーム的」ではなく「ゲームそのもの」をモチーフとしたのが、当時斬新な設定でした。本作『クリス・クロス―混沌の魔王』の存在があるからこそ、後のゲーム小説があると言っても過言ではありません。