本作は「マーガレット」で連載されていた、ひろちひろの作品です。日々をなんとなく生きていた主人公の少女が、1つのことに打ち込む少年と出会い、彼に感化されてボランティアをおこなう部活で高校生活を謳歌する青春漫画。きらびやかで爽やかな恋愛が描かれていきます。 等身大の高校生が仲間と協力して一つのことに打ち込む姿は、読者の心を揺さぶるでしょう。 本作はスマホアプリから無料でお楽しみいただけるので、気になった方はぜひどうぞ。
成瀬姿乃芙(なるせ しのぶ)は、高校に入学したばかりの女子高生。友達も出来て高校生活を順調に過ごしていましたが、何事も長続きしない性格のせいで部活などには入っていませんでした。
1ヶ月が経ったころ、用事を頼まれて行った美術室で、寡黙な男子学生・御徒町景(おかちまち けい)と出会います。彼らは一応クラスメイトではあったのですが、ほとんど接点がなく、これがきっかけとなって少しずつ話をするようになるのです。
- 著者
- ひろ ちひろ
- 出版日
- 2017-08-25
学内でささやかな交流をしていく2人。そんな彼らを見守っていた保健室の養護教諭は、自然消滅していた学校内外のボランティア「奉仕部」を再始動させ、彼らを勧誘します。
お堅い御徒町とは正反対に、明るく軽い男子・袴田伊吹(はかまだ いぶき)がそこに合流し、衝突しつつも和気藹々とした奉仕部の活動がスタートするのです。
この記事では、爽やかな青春が描かれる本作の魅力を紹介します。
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姿乃芙は、基本的に誰が相手でも分け隔てなく話す、明るい少女。言動は一見すると軽いですが決してギャルというわけではなく、多感な等身大の女子高生といえるキャラクターです。
ゆるふわロングの茶髪と、よく変わる表情が可愛らしい彼女。思ったことをとりあえず口に出してしまうのが玉にきずですが……。彼女はよくも悪くも、素直なところが目立ちます。
- 著者
- ひろちひろ
- 出版日
- 2017-12-25
そんな彼女は、何をやっても長続きしない、というのが密かな悩みです。1番長続きしたのが習字の4ヶ月で、最短が1週間で終わった日記という有様。彼女は自身の性分について諦めてしまっており、順調な高校生活でも、続かないからと部活だけは入っていませんでした。
それが御徒町との出会い、交流することで変化していきます。さまざまな新しいことへの意欲が湧くようになり、奉仕部の活動を楽しむようになるのです。
やたらと彼女へアプローチする袴田には引き気味ですが、御徒町が間に入ってのじゃれ合いは、まんざらでもない様子。彼らの関係性にも注目です。
黒縁眼鏡の似合う、知的で物静かな男子。作中では下の名前ではなく、ほぼ「御徒町」としか呼ばれません。
感情を表に出すことがなく、常に仏頂面なのが特徴。特に、考え事をしている時には表情筋が動かないようで、他人(主に姿乃芙)から不機嫌になったと思われることも多々あります。そもそも姿乃芙が彼と接するようになったのも、不機嫌(と思い込んでいた)な態度に探りを入れるためでした。
しかし実際には、他人のことを深く考える優しい少年です。やや堅物な面もありますが。
- 著者
- ひろ ちひろ
- 出版日
- 2018-04-25
姿乃芙は、会話のなかで不意に見せる彼の柔らかな表情やリアクションに、しだいに惹かれていきます。普段が仏頂面な分、素の優しさが滲み出る表情は、破壊力抜群。奉仕部の活動では砕けた様子も見せますが、姿乃芙にだけ見せる柔和な表情に、読者はトキメキを覚えるでしょう。
彼は幼いころから絵を描いており、奉仕部は美術部と兼部。この、絵画をずっと続けてきたという点が、姿乃芙に影響を与えていきます。彼女は自分の長続きしない悪癖を思い直し、新しいことに挑戦していくようになるのです。
奉仕部には姿乃芙や御徒町の他に、同じ1年生の男子である袴田と、彼らとは少し遅れて入部した1年女子・太田愛結実(おおた あゆみ)がいます。
袴田は当初から姿乃芙にアプローチしているので、読者的には御徒町の恋のライバルなのですが、あまりギスギスすることのない不思議な関係となっているのが魅力。
奉仕部の活動は、基本は何でも屋。学内外で人手が必要なことに手伝いとして参加するため、ほとんどが掃除、片付け、もしくは準備といった雑用です。しかし、バケツを頭に被せるなどの他愛のないおふざけが合間にあったり、リアルな高校生活を感じられます。
部活を通して友情を育み、想いを募らせ、そして時にキャラの内面に踏み込んでいく本作。御徒町の絵にかける情熱、普段は軽いノリなのに、過去に苦い経験からバスケ部を辞めた袴田……。青春は決して楽しいだけに終始しないというのが、本作のよいところでしょう。
物語は姿乃芙の目線で進み、少しずつ御徒町や袴田といったキャラの掘り下げがおこなわれていきます。御徒町は付き合うまでは取っ付きにくいものの、一旦内面を知れば、どんどん魅力が溢れていくタイプ。一方の袴田も、チャラいだけかと思えばそうでもなく、案外いいやつと思えてくるキャラクターです。
姿乃芙は御徒町の素朴さにどんどん惹かれていきますが、じれったいほど仲は進展しません。その純な感情も、本作のよいところでしょう。
- 著者
- ひろ ちひろ
- 出版日
- 2015-09-25
作者のひろちひろは、前作『年下の男の子』から絵が美麗なことで知られていました。
透明感のある絵柄が、大人でも子供でもない、微妙な年齢であるキャラクターを見事に表現。線が細くて透明感のある絵は、彼らのきらめく青春をうまく表現しており、同時に今しかない学生生活の切なさのようなものを感じさせてくれるでしょう。
本作ではさらに画力に磨きがかかって、微妙な変化や感情の機微が丁寧に描かれていきます。恋愛経験のない姿乃芙が、戸惑いながらも御徒町に惹かれていく過程が、なんとも見事です。
表情には出ているのに、感情と理解が追いついていない未成熟な恋。彼女と御徒町の仲はじれったいほど進みませんが、そのウブな関係もよいところでしょう。
御徒町と袴田による喧嘩未満のじゃれ合いがありつつも、奉仕部の面々はおおむねが仲よく、個人個人のわだかまりを乗り越えつつ平穏に過ごしていました。
美術部で伸び悩んでいた御徒町は、心が動いたものを描けという助言に従って、姿乃芙をモデルにして絵を描き始めます。姿乃芙は彼の意図を図りかねましたが、それはそれで大事な一時でした。
- 著者
- ひろ ちひろ
- 出版日
- 2018-08-24
夏休みになって、地域の祭りに奉仕部が手伝いとして参加。姿乃芙はふとした拍子に、お祭り実行委員の女子が御徒町の元カノであると知り、ショックを受けてしまいます。それは自称元カノの一方的な言い分で事実とは異なったのですが、御徒町と姿乃芙の関係を後押しするきっかけとなるのです。
その後、御徒町は姿乃芙をモデルとした絵を完成させ、展覧会に出展。その見事な出来は、描き手である御徒町がモデルである姿乃芙をどれだけ想っているか、一目でわかる渾身の1作でした。2人の気持ちが完全に通じ合った瞬間です。
いじらしく、じれったかった2人の関係性が、ここにようやく結実。心の底から祝福したくなるシーンです。とはいえ、御徒町の堅物さがすぐなくなるわけもなく、物語はこの後も続いて、姿乃芙はヤキモキするはめになるのですが……。
一向に手を出さない御徒町の態度に、彼女は周囲からはやし立てられたことも相まって、段々と不安を覚えていきます。御徒町が変わらないのは、彼の誠実さの表れであることは読者には明白なのですが……。
そんな彼が自らクリスマスデートを申し込むラストが、本作最大の見所。最後にどういう変化を見せるのか、当事者でなくとも胸が高鳴るでしょう。彼らの純粋すぎる恋は、どんな結末を見せてくれるのでしょうか。ぜひ、ご確認ください。
いかがでしたか?本作は棘も毒もない、健全で爽快な青春を疑似体験出来る作品です。ページをめくれば、いつでも青春を味わうことが出来ますよ!