推理が得意な男子高校生・山野智也は、ある日片想いをしている谷川沙希の幽霊と出会います。彼女はまだ、存命なのに、です。話を聞いていくうちに彼女が未来からやってきたことが分かり、その死の運命を変えるために、2人は解決策を模索していきます。 この記事では、本作の見所を紹介していきます。
洞察力と推理力が周りより少し高い男子高校・山野智也。ある日、中学から片想いを続けていた谷川沙希の幽霊と出会います。幽霊の沙希は10日から30日後以内の未来からやってきており、このままでは彼女が亡くなってしまうことを知った智也。
彼女がなぜ亡くなったのか、亡くなる未来を変えるためにはどうすればいいのか、試行錯誤をしながら、その真相に迫っていきます。
- 著者
- 大柴 健
- 出版日
- 2016-02-17
そして沙希の死には、自殺した女子生徒・西田が絡んでいると気づいた智也。彼女は自殺ではなく他殺だったと、推理します。
沙希はその犯人を見てしまい、殺されることになったとのではないかと推理し始め……。
何度も訪れる危機を乗り越えた先には、歪な人間関係と、そこに絡む西田自殺の真実がありました。
本作の見所は、谷川沙希の幽霊(通称・沙希)と出会った段階では、実際の谷川沙希(通称・谷川)は生きているという斬新な設定。
好きな子が死ぬ未来を変えるために、主人公が過去に飛ぶ、というのなら分かりますが、過去に飛んできたのは死んでしまった沙希のほうなのです。このツカミで一気に物語に引き込まれて生きます。
また、沙希の幽霊ならではの設定もミソ。彼女は智也以外の人間には見えず、彼となら自由に動きまわれること、沙希と谷川は、同じ時間、同じ場所に存在するのも可能なこともポイントです。
沙希が体験したとおりの未来だと、谷川は亡くなり、谷川が生きる未来に変われば、沙希が消滅する可能性もある、という必ずどちらかを失う可能性のある本作。一体、残るのはどちらなのか。設定に注意して読みながら、最後まで目が離せません。
また、本作はミステリー要素がどんどん濃くなり、それによってさらに物語に引き込まれていきます。
幽霊の沙希を見て、智也は「沙希の髪が谷川より短く」また「谷川が近々散髪予定があること」、「制服が夏服であること」、「音楽プレイヤーに10日後に発売される曲が入っていた」ことから、遠くない未来に谷川が亡くなり、沙希はそこから来たのだと推測しました。
智也の推理シーンは、わかりやすく的確。沙希の死に、自殺した女子生徒・西田が関わっているとわかってから、西田の友人や、トラブルを起こしていた生徒などを探っていき、容疑者が複数いることが判明してからも、一体誰が犯人なのか整理しながら読者も考えることができます。
その後、証拠が出揃ってから真犯人を追跡するようになってからは、怒涛の展開。よりミステリー色が濃くなります。構成も緻密に練られており、過去のセリフが伏線になっていたりするなど、終始目の離せない展開が続いていくのです。
動機などは、ミステリーものらしく1番最後に明かされるので、読みながら犯人の動機を考えていくのも面白いですね。
幽霊とはいえ、長年片想いをしていた相手と一緒にいる時間が増えた智也。沙希との出会いがきっかけで、谷川とも仲良くなっていくことになります。そのきっかけ作りを幽霊の本人が手伝ってくれるというのは、本人の心情が分かるぶん、とても心強い味方です。
彼女は何かと智也と谷川の接点を作ろうとしますが、谷川と智也が仲良くしているのを見ると、少々嫉妬している様子。幽霊の自分を「沙希」生きているほうを「谷川」と呼ばせるなど、積極的なシーンも見られます。
2人は同一人物ではありますが、置かれている環境が違うということもあり、少々考え方や行動に違いがあるようです。好きな子が遠くない未来に殺される、という現実はなかなか厳しいものではありますが、沙希と智也はお互い一緒に居られるのを嬉しく楽しく思っている様子。
しだいに、沙希は沙希として独立しはじめ、智也も沙希を1人の人として考えるようになっていきます。もちろん目指す未来は、谷川が亡くならず生き続けるというものですが、簡単に割り切れることではありません。
不思議な三角関係の展開が面白く、切ない気持ちにさせられます。沙希と智也、谷川と智也の関係がどうなっていくのか、彼らの恋の行方にも目が離せません。
行動をともにすることで距離も縮まっていく智也と沙希。ピンチを迎えながらも、必死に真相を追っていきます。動機に気づいた智也は、絶対に犯人を警察に突き出すことを決意。しかし時間は待ってくれません。このままでは谷川が殺されてしまうため、ハッタリをかけながら犯人を追い詰め……!?
謎の真相が明らかになったとき、彼らは選択を迫られます。沙希は、谷川が死んだからやってきた幽霊。ということは、その未来がなくなったら……。事件解決に、素直に喜ぶことはできない彼ら。そんなとき、智也がある仮説を立てます。
智也の仮説とは?そして、それは立証されるのでしょうか?
- 著者
- 大柴 健
- 出版日
- 2018-08-09
犯人を追う上で、何度も失敗してきた智也たち。その苦労が報われた様子は、読者としても嬉しくなりますよね。真犯人を突きとめ、動機も明かされることで、全ての謎が怒涛の勢いで解決する気持ちいい最終回は見逃せません。
犯人を捕まえるシーンはもちろんのこと、智也、沙希、谷川が最後どうなるのかも見所です。沙希は徐々に薄くなっていき、最後の時間を迎えます。彼女の記憶は、失くなってしまうのでしょうか……。最後に彼女が谷川に言ったのは、未来ある言葉でした。
ラストはぜひ、手にとって実際に読んでみてください。
未来から来た好きな子の幽霊と、未来を変えるために犯人探しをするという、パラレルワールドな要素のあるミステリー作品。複雑な人間関係も見所となっていて、推理ものが好きな方にはとてもオススメの作品となっていますよ。