時代小説という手法で現代人にも通ずる人間性を表現する、和田竜
和田竜は1969年に大阪で生まれ、広島県で育ちました。早稲田大学卒業後、番組制作会社や繊維業界紙の編集に携わります。その仕事の傍ら書いた脚本『忍ぶの城』によって城戸賞受賞、その脚本をノベライズしたのが大ヒット作『のぼうの城』です。
この作品で和田竜は第139回直木賞候補作に登るなど脚本、小説にとらわれない時代劇の手法による稀代のストーリーテラーとしてその地位を確立しました。そして彼は小説『村上海賊の娘』によって本屋大賞、吉川英治文学新人賞を同時受賞するなど様々な文学賞を総なめにする確かな実力を持った作家と言えるでしょう。
ここでは、そんな和田竜の文庫化された代表的な作品4冊をランキング形式でご紹介します。
4位 心根優しい少年と激動の時代との軋轢を描く『小太郎の左腕』
時代は1556年、群雄割拠の戦国時代を舞台にした和田竜のエンターテイメント小説です。西国においてその勢力拡大を続ける両雄、戸沢家と児玉家が対立していました。それぞれの陣営には上昇志向の強い武功者、「功名あさり」こと林半衛門、「功名餓鬼」こと花房喜兵衛というそれぞれに似たような異名を持つ個性豊かな人物同士が様々な策謀によって争いを続けていたのです。
そんな中にあってまるで注目をあつめる事のなかった11歳の左構えの鉄砲の名手、雑賀小太郎が「最終兵器」として急にその名をはせるようになります。
この物語は凄腕の鉄砲の名手でありながら、無垢で心優しい小太郎が両陣の命運を握ることになるというある種数奇な物語と言えるでしょう。小太郎の優しい心根と激しい戦いの時代背景の中で生まれる人間模様を描く痛快時代エンターテイメントです。
人間臭さのようなものを描かせたら右に出るものがいない、和田竜の渾身の作品と言っていいでしょう。
3位 破天荒な忍者が、策謀渦巻く戦闘を繰り広げる『忍びの国』
和田竜が書いたこの作品は、日本の特殊な技術者集団である忍者と織田信雄の軍勢の策謀が繰り広げられる物語です。まさに日本ならではの痛快無比の娯楽作品と言えるでしょう。
生来の怠け者でありながら伊賀忍者一の腕を誇る無門という人が主人公です。何かキャラクター設定としては「のぼうの城」に通じるものがあります。茫洋としながらも実は切れ者であるという無門という人物が生き生きとした描写によって迫力を持って描かれた作品です。
普段は無類の怠け者でありながら「やる時はやる」という凄腕の忍びの姿が描かれます。織田信雄軍との激しい騙し合い、化かし合いが息もつけない攻防戦として描かれる様はまさに圧巻の戦国歴史絵巻と言えるでしょう。突飛な無門の数々のアイデアやスリル溢れる策謀の数々、臨場感溢れる戦闘シーンなどページを捲る手が止まらない、そんなことがうけ合いの和田竜の一作です。