数ある物語のなかでも時代を超えて読み継がれている名作、「ドリトル先生」シリーズ。すべての作品に先生と動物たちの楽しいエピソードがたっぷり詰め込まれていて、読みごたえ十分です。この記事では、作品の時代背景やあらすじ、主に活躍する動物たちとともに、シリーズのなかでも特におすすめの作品を紹介していきます。
1922年にアメリカとイギリスで第1作が刊行された「ドリトル先生」シリーズ。アメリカで活動したイギリス出身の小説家、ヒュー・ロフティングの児童文学です。
ロフティングは第一次世界大戦に従軍し、西部戦線に赴きますが、その際に軍用馬が射殺される光景を目の当たりにしました。「けがをした人間は手当てを受けるが、けがをした動物は射殺されてしまう」と心を痛め、「動物の言葉を理解する獣医師の物語」というインスピレーションを得ます。
本シリーズの舞台は、1830年代後半から1840年代前半のイギリス。ドリトル先生は、田舎町の沼のほとりにある先祖代々引き継がれている大きな屋敷に住んでいます。屋敷には、たくさんの動物たちが住んでいました。
ドリトル先生は博物学者で、医学博士でもあります。しかし屋敷の動物たちが迷惑をかけるので、人間の患者が寄りつかなくなっていました。
そんなある日、オウムのポリネシアから、「動物語」の存在を教えられます。ポリネシアから手ほどきを受け、「動物語」を話せるようになった先生のもとには、その噂を聞きつけた動物たちが世界中からやってくるようになりました。
ところが今度は、サーカスからワニを引き取った件で先生に愛想を尽かした妹のサラが、屋敷を出て行ってしまいます。その責任が自分たちにあると感じた動物たちは、それぞれの特徴を活かし、協力して先生の手伝いをするのです。
「ドリトル先生」シリーズは、挿絵もすべてロフティング自身が描いているというのが驚きでしょう。動物たちとともに暮らす先生の物語。対象年齢は小学校3年生からです。
主人公のドリトル先生、本名はジョン・ドリトルです。コロコロとした超肥満体型で、その姿はまるで「マザー・グース」に登場するハンプティ・ダンプティのよう。礼服であるフロックコートにシルクハット、ステッキを持っていて、まさに典型的な英国紳士だといえるでしょう。
ドリトル先生は、人間と動物、大人と子ども、貴賤の分け隔てをせず、誰に対しても真摯な態度で接する広い心の持ち主です。当時としては珍しく、人種や階層にもこだわりません。むしろ、相手が間違っていれば国王であろうとまっすぐに進言する度胸があります。
その一方で、女性との付きあいは苦手。独身です。金銭に対しては無頓着で、収入があればすぐに自分の研究や動物たちのために使ってしまいます。そのため、広大な屋敷を所有しているものの、いつも無一文なのです。
それでもドリトル先生は、慕ってくれる友人や動物たちに囲まれて、いつも幸せそうに暮らしています。
ポリネシア
180歳を超える、アフリカ出身のオウムです。おしゃべりで博識。とある船でペットとして飼われていました。ドリトル先生に、動物の言葉を覚えて動物の医者になることを勧めます。
ジップ
ドリトル先生の屋敷の番犬です。自身が雑種であることにプライドがあり、人間の血統種尊重を馬鹿にしています。先生とは強い信頼関係で結ばれているので、鎖につながれてはいません。
ダブダブ
世話焼きなアヒルで、ドリトル家の家事担当です。愚痴が多いおばさんアヒルですが、細かいことによく気が付き、動物に甘くなってしまうドリトル先生に代わってみんなを叱ります。
チーチー
ドリトル先生の患者だったチンパンジーです。オルガン奏者に虐待されていたところを先生に引き取られました。先生とアフリカに行った際は、1度は現地に残る道を選びますが、後に人間の女の子に変装して戻ってきます。
トートー
計算が得意なフクロウです。お金の管理が苦手な先生に代わり、会計をしています。とても保守的な性格の持ち主です。
1920年にアメリカとイギリスで刊行された「ドリトル先生」シリーズの1作目です。
人間の患者が寄りつかなくなり、動物の医者になったドリトル先生のもとへ、アフリカから飛んできた季節はずれのツバメがある報せを届けました。それは、アフリカでひどい疫病がサルたちを苦しめているので助けてほしいというものでした。
ドリトル先生はサルたちを救うため、動物たちを引き連れてアフリカへと向かいます。一行は王様に捕まったりサルを助けたり海賊に出会ったりと大忙し。気のいいドリトル先生と動物たちの掛けあいがとっても楽しい物語です。
- 著者
- ヒュー・ロフティング
- 出版日
- 2000-06-16
第一次世界大戦に従軍したロフティングは、怪我をした軍馬にもちゃんとした看護をするべきだと感じました。
「助けるためには人間が馬の気持ちを察してあげなきゃいけない。馬語でも話せたら……」こんな思いを膨らませていったのです。
作りあげた物語を手紙にし、子どもたちへ贈ることにしました。こうして誕生した、「ドリトル先生」シリーズの最初の一冊。まずはやっぱり本書を読んでみてください。
シリーズ2作目、靴屋の息子トミー・スタビンズ少年が、先生とともに航海の冒険へ出る物語です。
行先は、ブラジル近海の海上をさまよう「クモサル島」。先生の敬愛するインディアン博物学者、ロング・アローが消息を絶った孤島でした。
一行は、どうにか船の操舵に必要な人員を確保して航海を始めますが、その後も密航者がいたり闘牛に参加したりと、波乱万丈。目的地を前にして、船は嵐で大破してしまいます。さらに、苦難のすえにようやくたどり着いたクモサル島には、危機に瀕した部族がいて……。
- 著者
- ヒュー・ロフティング
- 出版日
- 2000-06-16
トミー・スタビンズ少年の視点で進む『ドリトル先生航海記』。
どことなく客観的に描かれていた前作と違い、貧しい靴屋の少年から見た偉大なドリトル先生との出会い、そして大冒険にくり出すというストーリーが、どんな読者も惹きつけます。
努力の人である先生ですが、どうしても貝の言葉が理解できなくて苦悩する場面にも注目です。
シリーズの11作目の『ドリトル先生と緑のカナリア』。
とあるペットショップで、1羽のカナリアが美しい声で鳴いているのを耳にした先生。ピピネラという名前のその子を買い求めました。
不衛生な環境から救い出してくれた先生にお礼を述べ、自分の数奇な半生を語り始めるピピネラ。なんと、一般的には鳴かないといわれているメスだったのです。すっかり感心したドリトル先生は、ピピネラ主演の「カナリア・オペラ」を上演することを思い立ちます。
- 著者
- ヒュー ロフティング
- 出版日
- 2000-11-17
『ドリトル先生と緑のカナリア』は、ロフティングの死後に、遺構からまとめられた作品です。ロフティング夫人の妹、オルガが補作して完成しました。
本作の主人公は、籠の鳥として飼われ、一時は野鳥として生活し、まるで人間の女性のように波乱万丈な人生を送ってきたピピネラです。
後半では、生き別れになった大切な飼い主「窓拭き屋」を探す冒険に。2人の種や性別を超えて通じあう思いに、胸が熱くなるでしょう。