『歎異抄をひらく』5分で解説!反論多数!? 賛否両論でも親しまれる名著

更新:2021.11.18

言葉は誰にでも発することができるものですが、多くは記憶から消えてしまうもの。長く人の心に残る先人の言葉は、現代に生きる人々の指標になり、心を支え励ます力があるのではないでしょうか。『歎異抄をひらく』も、人の生きる道しるべとなる一冊。アニメ映画化される名著を解説いたします。

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解説本『歎異抄をひらく』内容をネタバレ解説!2019年5月映画化

『歎異抄(たんにしょう)をひらく』は、鎌倉後期に書かれた仏教書『歎異抄』をわかりやすく意訳した解説書です。作者は高森顕徹で、2008年3月に1万年堂出版より発売されて以降、人々に長く愛され読み継がれている名著です。 

本作は3部構成になっており、第一部は高森顕徹による意訳文、第二部は本文の詳細な解説、第三部は原文が全章分掲載されています。

本書の大きな特徴は意訳文。最も有名な言葉「善人なおもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや」は、「善人でさえ浄土へ生まれることができる、ましてや悪人ならなおさらだ」(『歎異抄をひらく』より引用)と意訳され、より理解しやすくなりました。 

 

 

著者
高森 顕徹
出版日
2008-03-03

また本作は親鸞の言葉とされている原文のすべてと、意訳文が上下段で掲載されており、原文のどのあたりを意訳しているのかが一目でわかるつくりになっています。古典的な言い回しと現代文のわかりやすさ、両方を楽しむことができるのも、本作の魅力です。 

2009年には本文を朗読したラジオ放送が行われ、朗読DVDも発売されました。そして、2019年5月にはアニメ映画が公開されることになりました。本作にストーリーはありませんが、映画では原文の著者とされる唯円と師匠の親鸞が出会い、『歎異抄』を書き上げるまでが描かれます。声優のキャストは、石坂浩二、増田俊樹、細谷佳正の出演が発表されました。 

『歎異抄をひらく』作者・高森顕徹を紹介!

『歎異抄』を世間に広めるきっかけとなった本作の著者は、高森顕徹(たかもりけんてつ)。浄土宗親鸞会の会長を務める宗教家です。1929年富山県氷見市生まれ、1945年に大日本帝国海軍飛行予科練習生として従軍していましたが、敗戦により復員。龍谷大学専門部に進学します。 

 在学中に信心決定することを決意。信心決定(しんじんけつじょう)とは、阿弥陀仏による救済の信仰が、心に確立されているということ。18歳で阿弥陀仏からゆるぎない信心を得たといわれています。 

著者
明橋 大二 伊藤 健太郎
出版日
2001-04-20

1952年に徹信会、現宗教法人浄土真宗親鸞会を設立。日本だけでなく世界各地で講和なども行なっています。著作も多数発表しており、『光に向かって100の花束』をはじめとした『光に向かって』シリーズ、監修を務めた『なぜ生きる』など、いずれもベストセラーとなっています。

そもそも『歎異抄』とは?親鸞の教えが親しまれる理由を解説!

本作は『歎異抄』の意訳や解説文が掲載されている解説書です。『歎異抄』は鎌倉時代後期に書かれた、親鸞の教えを記した仏教書。著者不明となっていますが、一般的には浄土真宗の宗祖といわれた親鸞(しんらん)の直弟子の1人、河和田の唯円(かわわだのゆいえん)が書いたといわれています。 

唯円は親鸞の弟子の1人で、親鸞の孫である唯善の師でもあります。河和田とは常陸国河和田、現在の茨城県水戸市あたりに住んでいたことから称されました。

師匠である親鸞の教えを記した書が『歎異抄』ですが、親鸞とは鎌倉時代前期から中期にかけて活躍した人物。しかし自伝などを記した書物は残っておらず、その生涯は謎に包まれている部分が多くあります。数多くの弟子がおり、彼らの残した書物により、その人となりや言葉が伝わることとなりました。 

古典というと、物語や日記のようなものが大半で、単純に昔のことが書いてあるだけという印象を持たれている方も多いでしょう。それぞれの時代で文化も考え方も変わってきているのに、参考になる部分があるのかと、疑問がわいてきます。

その理由の一つは、『歎異抄』が「なぜ生きるのか」という人間が一度は考える根源的な問いについて、答えを明示しているからです。命あるものはいずれ死を迎えます。それは誰一人として例外はありません。 

生きていることがむなしくなるほど、つらい出来事もあるのに、なぜ生きるのか。問いに対する一つの答えを、親鸞が示しているのです。その言葉によって、心が軽くなり生きる希望を持ったという人もいるでしょう。救いの一つの形だからこそ、『歎異抄』に書かれた親鸞の教えは現代でも親しまれているのです。 

『歎異抄をひらく』3つのポイント!

『歎異抄』は古典であるため、同じ日本語とはいえ馴染みのない現代人には読みづらい部分が多々あります。言い回しや表現も独特なところがあり、文章として読めたとしても、意味を理解するのに時間がかかることもあるでしょう。本作は『歎異抄』を読みやすくする工夫がなされており、より深く理解することができます。 

 

  1.  本文が意訳されているため、分かりやすくなっています。鎌倉時代の文章は現代のものに比べて難しい言い回しが多く、使われていない表現も多々見られため。解説が必須ともいえるところもあるのです。

    最初から原文を読んで、その意味を正確に拾い上げるのは難しいでしょう。本作では、原文をただ訳するのではなく、親鸞が弟子に伝えたような言葉に意訳することで、教えがすんなりと頭に入ってきます。  
  2. 詳細な解説が掲載されているため、理解が深まります。『歎異抄』には唯円の論文的なものも書かれていますが、本作では親鸞が語ったとされる言葉が、第一条から第十条までを掲載。

    その中で多くの人に知られている有名な一文から、あまり知られていない一文まで、解釈や言い回しが難しいものについての解説文が載せられています。疑問も解消され、より深く親鸞の言葉を知ることができるでしょう。 
     
  3. 読みやすい工夫がされているため、飽きずに読むことができます。本作はフルカラーになっており、時折挟まれる美しい写真が息抜きとなるでしょう。

    また、文字のサイズが大きいので、どんな年齢の方でも、気軽に手に取って読むことができるので、読書のストレスを軽減してくれます。 

 

『歎異抄をひらく』に反論多数!? 理由を解説!

『歎異抄』は親鸞の唯円が記したものとされていますが「すべてを忠実に記したわけではないのでは」という学説もあります。親鸞に関連したほかの著書と思想の相違がみられるため、唯円の思想が盛り込まれている可能性があるとの指摘がなされました。 

文章の解釈というのは難しく、人それぞれ異なります。本作でもその傾向があり、反論を呼んでいるのです。反論の多くは、高森顕徹が書いた意訳について。たとえば「ただ信心を要とす」という一文でも、「助かったとハッキリした心」という意訳に対し、「ただ念仏で往生できると信じた心」ではないか、と反論がなされました。  

このような反論がなされている背景の一つが、著者が浄土真宗親鸞会という仏教新宗派を発足したから、というのも理由の一つのようです。浄土真宗の宗派の一つとして主張をしていますが、伝統的な浄土真宗の宗派とは解釈が異なる部分が多く、そういったところから反論が多くなってしまったのでした。 

また、著者は宗教家です。反論をする人の中には『歎異抄』をはじめとした親鸞に関する書を研究する学者も多く存在します。宗教家から見た『歎異抄』と、学者としての研究成果が異なるという部分も、反論を呼んだ一因なのでしょう。  

しかし、あくまでも解釈は個人によって異なるもの。同じ文章を読んでもそれぞれ感じることが異なるように、『歎異抄』のとらえ方のひとつとして、読むことは間違いではないのではないでしょうか。 

「善人なをもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや」の本当の意味とは?

『歎異抄』のなかでも、もっとも有名な一文が「善人なをもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや」です。現代文にそのまま訳すると「善人でさえ浄土に生まれることができる。悪人ならなおさらだ」となりますが、これを読んで疑問符が浮かんだ人が大多数ではないでしょうか。 

日本では、善人は極楽浄土に行けるが、悪人は地獄に落ちるという死生観が根付いています。その考え方からすると、悪人は浄土に行くことなく、地獄に落ちなければなりません。悪いことをした人には相応の罰が必要である、と考えるのが普通ですが、なぜ親鸞はこのようなことを言ったのでしょうか。 

著者
高森 顕徹
出版日
2008-03-03

本作では、親鸞自身が己を悪人であると考えていたと書いていました。浄土真宗は、阿弥陀仏の他力本願の信心によって成仏することを宗旨としています。他力本願とは他人任せという意味ではなく、他力=阿弥陀如来の本当の願い、望みをかなえる力なのだとか。簡単に言えば、阿弥陀如来を強く信じることで、成仏ができると考えていたのです。  

その教えを広めた親鸞自身は聖人であり、悪人ではないのでは、と思いますが、実は違います。この場の悪人とは、阿弥陀如来に悪だと見抜かれた全人類のこと。人類は誰一人として漏れなく悪なのです。

親鸞の考える、悪人が極楽浄土にいける理由とは……?本作を読むと、肩の荷がスッと軽くなるような気持ちになります。「生きる理由ってなんだっけ」そんな風に少し立ち止まってしまったときに、本作と一緒に考えてみるのはいかがでしょうか。

個人の生きる指標ともなる古典、『歎異抄』。その考えをより身近なものとした本作は、多くの悩める人の傍らにある本の一つとなりました。映画では親鸞の思想だけではなく、師弟のきずなも描かれる様子。より親鸞の思想を身近に感じることができそうです。

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