「ドイツ児童文学賞」や「国際アンデルセン賞」などを受賞した不朽の名作『大どろぼうホッツェンプロッツ』。元気で優しい少年たちと、大どろぼうのハラハラする知恵比べが魅力です。この記事では、あらすじや登場人物、そして作中に登場する料理の魅力もご紹介していきます。
ドイツの児童文学作家オトフリート・プロイスラーが手掛けた『大どろぼうホッツェンプロッツ』。初版は1962年に刊行されました。日本では1966年に翻訳。その後、『大どろぼうホッツェンプロッツふたたびあらわる』『大どろぼうホッツェンプロッツ三たびあらわる』と続編も発表されています。
物語の舞台は、ドイツのとある田舎町。窃盗や誘拐をする大どろぼうのホッツェンプロッツと、彼を捕まえようとする2人の少年、カスパールとゼッペルを中心に物語が展開されます。ストーリーの中心は3人の知恵比べですが、そのほか魔法使いや妖精なども登場するファンタジー色も強い作品です。
対象年齢は小学校中学年以上。読み聞かせであれば、低学年からでも楽しめるでしょう。
ホッツェンプロッツ
『大どろぼうホッツェンプロッツ』の主人公です。特徴は、いつも被っているつばの広い帽子と、もじゃもじゃの黒ヒゲ、そして大きなかぎ鼻です。
大どろぼうと呼ばれてはいますが、実際は窃盗どころか強盗や誘拐までやってのけます。性格は大胆で狡猾、欲しい物は力づくで奪う悪党です。しかし殺人を犯したことは1度もありません。
町に近い森の中にある「どろぼうのねじろ」と呼ばれるアジトで独り暮らしをしています。
カスパール
『大どろぼうホッツェンプロッツ』のもうひとりの主人公。赤いとんがり帽子を被った、元気で利発な少年です。大好きなおばあさんが気に入っていたコーヒー挽きを奪われたため、取り返そうとホッツェンプロッツを追いかけました。想像力が豊かで、大どろぼうを捕まえるためにいろいろな作戦を考えつきます。
ゼッペル
『大どろぼうホッツェンプロッツ』の3人目の主人公。カスパールの友人です。緑のチロリアンハットを被ったのんびり屋さんで、カスパールと一緒にホッツェンプロッツを捕まえようとしますが、作中では悲惨な目に合うことが多い役回り。自分の指を金槌で打ってしまったり、仕掛けられた罠にかかってしまったりと、多くの災難がゼッペルに降りかかります。
カスパールのおばあさん
料理が得意なおばあさん。孫のカスパールを心から愛しています。物語の冒頭で「おばあさんがホッツェンプロッツと出会い、気絶する」というのがシリーズのお約束です。
アロイス・ディンペルモーザー
町の警察官で、ホッツェンプロッツの逮捕に執念を燃やしています。見た目がホッツェンプロッツと瓜二つなので、間違えられて不運な目に合うことも。カスパールとゼッペルの協力によってホッツェンプロッツを2度も捕まえ、シリーズ3作目では警部に昇進しています。
ペトロジリウス・ツワッケルマン
1作目に登場したホッツェンプロッツの友人で、森に住む大食漢の魔法使い。なんでも魔法でできるのに、好物のじゃがいもの皮だけは剥くことができません。皮剥きをする召使いを欲しがっていたので、ホッツェンプロッツが捕まえたカスパールを買い取りました。
物語の舞台は、ドイツのとある小さな町と森。ある日、大どろぼうのホッツェンプロッツが、おばあさんを脅してコーヒー挽きを脅して奪い取りました。それは音楽の鳴るコーヒー挽きで、おばあさんがとても大切にしていたものです。
そのことを知った孫のカスパールと友人のゼッペルは、奪われたコーヒー挽きを取り返すため、ホッツェンプロッツを捕まえようとします。2人は念のため帽子を取り換えて変装し、ホッツェンプロッツのアジトへと向かいました。
しかしホッツェンプロッツは2人の仕掛けた罠に気がつき、少年たちを捕まえてしまいます。そしてゼッペルを自分のもとで働かせ、カスパールを友人の魔法使いに売り飛ばしてしまいました。
魔法使いが家を留守にしていた時、カスパールは秘密の地下への入り口を発見。そしてそこに閉じ込められていたカエルと出会います。そのカエル、実は姿を変えられた妖精で……。
- 著者
- オトフリート=プロイスラー
- 出版日
シリーズ1作目の『大どろぼうホッツェンプロッツ』。登場人物がみな個性的です。ホッツェンプロッツは大どろぼうのくせに実弾ではなくコショウピストルを使いますし、人間を鳥やカエルに変えることができる魔法使いは、じゃがいもの皮を剥くことができません。残忍で冷酷なはずの悪党も、ユニークで愛嬌があり、物語にさらなる魅力を与えているのです。
ストーリーの展開がスピーディーなのもポイント。カスパールとゼッペルの交換していた帽子が意外なところで役に立ったり、妖精の力で魔法使いを退治したりと、児童向けの物語としてはかなりのボリュームですがハラハラドキドキの展開が続き、飽きることがありません。
また、作中に出てくるおいしそうなドイツ料理にも心奪われてしまいます。クリームを添えたプラムのケーキ、マッシュポテト、じゃがいもの唐揚げ……外国文化の香りが漂い、印象深い読書体験となるでしょう。
前作で捕まった大どろぼうのホッツェンプロッツが、カスパールとゼッペルに復讐をしようと目論みることから物語が始まります。
ある木曜日、カスパールのおばあさんは、台所で焼きソーセージを作っていました。隣には、鍋に入ったザワークラフトもあります。木曜日の昼食はカスパールとゼッペルの大好物であるソーセージとザワークラフトと決まっているのですが、そのことを知っているはずの2人がお昼を過ぎても帰ってきません。
心配しているおばあさんのもとにやってきたのは、なんと2週間前に捕まった大どろぼうホッツェンプロッツではありませんか。ホッツェンプロッツはおばあさんを脅して、昼食をすっかり食べてしまいました。驚きと怒りで、おばあさんは気絶してします。
釣りから帰ってきて事情を知った2人は、再びホッツェンプロッツを捕まえようと作戦を練ることにしました。偽の遺言状を入れた瓶をわざと落とし、ホッツェンプロッツをおびき寄せようとします。しかし心配してやってきた巡査部長のディンペルモーザーを、間違えて殴り倒してしまうのです。ホッツェンプロッツはその場で3人を捕まえ、閉じ込めてしまい……。
- 著者
- オトフリート=プロイスラー
- 出版日
誘拐されたおばあさんを助けるために、ホッツェンプロッツのもとへと出かけた少年たち。ディンペルモーザー巡査部長は彼らに気付かれずに追跡しようと、千里眼の国家資格をもったシュロッターベック夫人のもとを訪ねます。
水晶が曇って見えなくなり、追跡を飼い犬のバスティに手伝ってもらうことになりました。しかし出てきたのは、ワニ。元はダックスフンドだったのですが、シュロッターベック夫人の魔法が失敗してしまったというのです。いつも悲惨な目に合うディンペルモーザーに注目です。
捕まってしまった少年2人とおばあさん。大芝居を打ってホッツェンプロッツを椅子に括りつけることに成功します。しかし自分たちの足かせのカギを持っているのはホッツェンプロッツです。困っていたところに登場するのが、物語の冒頭から悲惨な目に合わされ続けてきたディンペルモーザー巡査部長でした。
みんなの足かせを外し、最後には警察官としての誇りを取り戻します。ホッツェンプロッツも捕まって大団円となりました。
その夜は、おばあさんとカスパールとゼッペル、ディンペルモーザー、シュロッターベック夫人、そしてバスティを交え、冒頭で食べ損なった焼きソーセージとザワークラウトで夕食会。おばあさんの料理はどれもおいしそうで、食事のシーンを読んでいるだけでも幸せな気持ちになってしまいます。
おばあさんが庭で洗濯物を干そうとしていると、突然、庭の茂みからホッツェンプロッツが現れました。警戒するおばあさんに、ホッツェンプロッツは刑期を終えて釈放されたのだと言います。さらに、改心してどろぼう家業を廃業すると言いました。最初は疑っていたカスパールとゼッペルですが、それが真実だとわかり、3人は仲直りをするのです。
しかし、これまで散々悪事を働いていたホッツェンプロッツ。おばあさんもディンペルモーザーもシュロッターベック夫人も、周りで悪いことが起こると、すべてをホッツェンプロッツのせいにしてしまいます。
カスパールとゼッペルは、誤解を解こうとするのですが……。
- 著者
- オトフリート=プロイスラー
- 出版日
ホッツェンプロッツは本当に改心しているのですが、大人たちは信用することができません。しかしカスパールとゼッペルは違います。ホッツェンプロッツを信じ、生計をたてるための働き口を一緒に考えようとするのです。
1度失った信用を取り戻すのは簡単なことではありませんが、ホッツェンプロッツの冤罪を解こうと少年たちが必死になって奔走する姿に心動かされるでしょう。人と人との繋がりについて考えさせられる、あたたかな最終巻となっています。
作中では、ホッツェンプロッツが「きみたちにひとつ、いいものをみせてやろうか?」と言って、自分のアジトでカスパールたちに料理をふるまう場面があります。森の中で作って食べる、その料理のおいしそうなことといったらありません。
本作は、個性あふれる登場人物や、疾走感のあるストーリー展開もさることながら、料理の場面が魅力的です。シリーズ1作目の『大どろぼうホッツェンプロッツ』でホッツェンプロッツがコーヒー挽きを奪った時、おばあさんは生クリームをかけたプラムケーキに合わせようとコーヒー豆を挽いていました。おばさんは決まって日曜日にプラムケーキを焼き、カスパールとゼッペルはそれをとても楽しみにしているのです。
フレッシュなプラムをぎっしり並べて焼いた甘酸っぱいケーキと生クリーム、そして挽きたての豆で淹れたコーヒーの組み合わせは素敵ですよね。
また『大どろぼうホッツェンプロッツ』では、「ザワークラフト」という料理がたびたび登場します。これは発酵させた塩漬けキャベツのこと。ドイツの定番料理です。ホッツェンプロッツが、おばあさんの作った鍋一杯のザワークラフトをぺろりと平らげてしまう場面もありました。
作り方の手順です。まず千切りにしたキャベツを塩もみして、ハーブをお好みで入れ、水分も一緒に保存瓶に詰め込みます。しばらく放置して、少し酸味が出てきたらできあがり。お酢を入れて酸っぱくするのではなく、乳酸発酵させるのがポイントです。軽く炒めたり煮たりして、ソーセージの付け合わせにしても最高でしょう。
また魔法使いツワッケルマンの大好物は、じゃがいもです。じゃがいもの団子を玉ねぎのソースに浸した料理が描かれています。これは、バルト三国地方で愛されている「ツェペリナイ」という料理によく似ています。
茹でてつぶしたじゃがいもに片栗粉を加えたものを皮にして、挽肉と玉ねぎのみじん切りを丸めたものを包み、楕円形に整えます。たっぷりのお湯で茹でてから、サワークリームをかけたり野菜を入れたソースをかけたりして盛りつければ完成です。
じゃがいもの唐揚げは、きれいな三日月型ではなく、大きくざくざくとブツ切りにしたものが山盛りになっているイメージ。ホクホクと湯気を立てている大量のポテトフライは、想像しただけでもお腹がぐうと鳴りそうですね。もちろん食べる方はいいですが、毎日たくさんの皮剥きをさせられる召使いにだけはなりたくないものです。