ライトノベル界においては昨今、ハーレム系や転生系作品が多く、ラノベといえばそういうある意味「コテコテ」の展開のイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。 今回紹介する『安達としまむら』はそんなイメージとは真逆の作品。タイトルの2人を中心とした日常を描いたゆるゆるな物語です。2019年にはテレビアニメ化が決定した本作の百合模様と見どころを紹介いたします。
本作は岐阜県の高校および周辺地域が主な舞台。安達としまむら、2人の女子高生を中心とした人物たちの日常がくり広げられます。
主人公・安達桜(あだち さくら)と島村抱月(しまむら ほうげつ)は授業をサボっていた時に体育館の2階で出会います。それからたびたび一緒に授業をサボるようになり、卓球や雑談などをして普通の日々を過ごしすようになるのでした。
しかし、ある時を境に安達はしまむらに対して特別な感情を抱きます。そしてしまむらに対しての感情に煩悶しながらも、普通改め少し変わった日々を過ごしていくことになるのです。
本作はKADOKAWAのライトノベルレーベル「電撃文庫」にて発表されています。思春期特有の感情や人間関係が一人称視点で緻密に描かれ、人気を博しています。
- 著者
- ["入間 人間", "まに"]
- 出版日
- 2016-12-22
本作は原作を入間人間、イラストをのんが担当。
入間人間(いるま ひとま)は岐阜県出身のライトノベル作家です。大学在学中の2006年に電撃小説大賞で最終選考に残り、翌2007年に電撃文庫より小説家としてデビューします。
その後、様々な作品を発表。代表作の『噓つきみーくんと壊れたまーちゃん』は2011年1月に実写映画化、『電波女と青春男』は同年4月にアニメ化され、次々と人気作を執筆しています。
- 著者
- 入間 人間
- 出版日
入間作品の特徴は作中にパロディ表現を用いることと、登場人物を複数の作品に登場させるクロスオーバーを採用していることです。また、非常に速筆であることが知られており、多くの出版社で同時に多数の連載を抱えています。
作者公式サイト「入間の間」でもWEB小説を発表。入間作品のサイドストーリーやアフターストーリーなどが読むことができるファン必見の内容となっています。
本作は登場人物のキャラがとても濃いです。ここではそのなかでも物語の本筋に関わる主要人物を紹介します。
主人公、島村抱月(しまむら ほうげつ)は茶髪のロングヘアーでどちらかというと冷めた性格をしているキャラです。表面的にはいい顔をしているものの、内心どうでもいいといった感じで人や物に執着しない性格と評されているキャラです。
そんな彼女が唯一心を許しているのが安達。彼女は地の文で冷静なツッコミを入れることが多く、安達とは反対の一面があります。どちらが主人公なのか分かりにくいですが、入間人間いわく本作の主人公は彼女です。
なお、抱月という名は実在した文芸評論家の島村抱月からとったと思われます。
もう一人の主人公、安達桜(あだち さくら)は黒髪のミディアムで不良のクール系だったキャラです。というのもクール系であるのは作品の序盤やしまむら以外の相手に対してのみです。それ以降は全てを彼女のためにと言わんばかりの行動を取ります。時には暴走することもあり、一途ですが不安定な一面を持っています。
しまむらの友人、日野晶(ひの あきら)は明るい性格のお調子者で釣り堀での釣りが趣味。家は和風の豪邸で親や4人の兄が伝統や風習を重んじる人です。彼女はあまり家のことは気に入っていない様子です。
日野の親友、永藤妙子(ながふじ たえこ)はおっとりとしたマイペースな性格。周りから注目されるほどの巨乳の持ち主でもあります。マイペースで記憶力に乏しいですが、所々で察しが良かったりします。家は精肉店です。
謎の少女、知我麻社(ちかま やしろ)は釣り堀で日野が出会った自称宇宙人です。日野が出会った際は宇宙服を着ており、その後もサメの着ぐるみなど変わった服装をして登場。
水色の髪と瞳を持ち、超能力が使えます。彼女いわく「ドーホー」を探しているようですが、主にしまむらの妹と一緒に遊んでいます。
しまむらの小学校時代の友人、樽見(たるみ)は小学校ではあだ名で呼び合う仲でしたが、中学では別々になったためしだいに疎遠になりました。偶然再会した後は、彼女が積極的に関わり、元通りとはいきませんが再び友人になります。
以上が主要なキャラとなります。ヤシロのような不思議のみで構成されたようなキャラから、普通にいそうな女子高生まで様々なキャラが登場する作品です。
本作はいわゆる百合作品。というのも入間人間は編集者から「『ゆるゆり』みたいなものを書いてほしい」と言われて書いているのです。そのため、様々な人間関係が重要なポイントです。
まずは、安達としまむらに。この2人はいつになったら付き合うか否かが注目でしたが、6巻で付き合い始めました。ここからさらに仲を深められるか、いつまでこの関係が続くのかが注目です。
彼女たちの見所は、温度差。安達は顔が真っ赤になっているのに対して、しまむらはごく普通に対応します。決して彼女が鈍感というわけではなく、分かっているけど受け入れているといった感じです。この安達に対してのみ見せる優しさについ頬が緩んでしまいます。
また、安達の言動は時に常軌を逸することがあり、いつ壊れてもおかしくない危うい関係は読者をドキドキハラハラさせるものです。
日野と永藤については主に幕間で展開されます。この2人は幼馴染ということもあり、熟年夫婦を感じさせるやり取りではないでしょうか。互いに相手のことを知り尽くしており、言わなくともわかるというような空気を感じます。
あとは、しまむら妹とヤシロも外せません。この2人はペットと飼い主を彷彿とさせる関係。お菓子を与えられて喜んでいるヤシロを見るしまむら妹のイメージが強く、この微笑ましい関係が続いてほしいと思わせられます。
この他にも安達・しまむら・樽見の三角関係や安達の親子関係など気になる関係性が多くあります。登場人物達の関係が今後どうなっていくのか目が離せません。
本作には読者の共感を呼ぶ名言が多数あります。
まずは安達がしまむらに告白しそうになった際のこと。恥ずかしくなって逃げた後に登場したセリフです。
「なんだばしゃぁぁぁ」
(『安達としまむら』1巻より引用)
自室で悶え生まれた新しい日本語。強烈なインパクトがあり、言葉で表せない複雑な感情を表現したことが伝わってくる、共感度満点のものです。
一部の百合好きには、迷いを表すときや悶えるときに使われています。
- 著者
- 入間 人間
- 出版日
- 2014-08-09
続いてはバレンタインデーのエピソード。その日をともに過ごした安達としまむらですが、最後にしまむらからのサプライズメッセージが送られます。
電光掲示板に表示されたメッセージがこちらです。
「これからも仲良くしていこうね! 島村抱月」
(『安達としまむら』3巻より引用)
思わず感激して彼女に抱きつく安達。それまでサプライズのために頑張ってきた彼女の努力が報われる名シーンでもあり、思わず読者も涙するでしょう。
最期は花火大会でのこと。安達がしまむらに告白をし、それに対する彼女の返答がこちらです。
「まあ、いいか」
(『安達としまむら』6巻より引用)
彼女の変化を表す一言です。
人間関係にドライな彼女が安達を受け入れたのは、これより前にお盆で祖父の家を訪ねたことがきっかけでした。飼い犬ゴンを見て自身の過去を振り返り、その後に祖母の言葉を受け、彼女の意識が少しずつ変わっていっていたのです。
告白への返事から彼女が他者を受け入れ、人間関係に偏りが出来ることを許容したのが分かります。ここまで安達の恋を応援してきた読者にとって、このシーンは最も感動的だったといえるのではないでしょうか。
本作の聖地は明確には示されていませんが、随所の表現から岐阜県本巣市ではないかと考えられています。入間人間が岐阜県在住であり、代表作『噓つきみーくんと壊れたまーちゃん』や『電波女と青春男』も岐阜県および東海三県を舞台にしています。
- 著者
- 入間 人間
- 出版日
- 2015-11-10
作品をとおして安達としまむらがよく遊びにいくシーンで登場するショッピングモールは、イオンモール各務原やモレラ岐阜が舞台。5巻では2人で訪れたスポーツジムはスポーツジムアクトスが舞台となっています。
このようにモチーフとなっている施設が多数確認されているので、小説片手に岐阜県本巣市で聖地巡礼をするのもいいかもしれませんね。
- 著者
- ["入間人間", "山根真人"]
- 出版日
- 2011-05-27
入間人間の特徴として挙げられる、クロスオーバーについても注目です。
たとえば、登場人物にも挙げたヤシロが本作のクロスオーバーの代表といえるでしょう。彼女は入間人間の作品『電波女と青春男』に登場する星宮社(ほしみや やしろ)の設定と藤和エリオ(とうわ えりお)の容姿を合わせたようなキャラになっています。
また、安達に助言をもたらす占い師は『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』に登場しています。この他にも様々な作品からキャラが出てきているので、作中に出てきた際にニヤリとするのも入間作品の楽しみ方のひとつです。
前巻(7巻)は付き合い始めた2人にカップルらしいやりとりや感情が生まれ、徐々に関係性が変わっていく様子が描かれました。思わずニヤリとしてしまう内容でしたが、それから2年半の月日を経て待望の新刊です。
8巻の内容は修学旅行。修学旅行といえば、班行動やお風呂、宿泊など注目ポイントが多数あります。彼女らはドキドキの修学旅行を無事過ごせるのでしょうか。
- 著者
- 入間 人間
- 出版日
- 2019-05-10
付き合ってから初の旅行、入浴や就寝などで思わず顔がほころぶ内容です。しかし、同じ班員からの目や意外な人物が同行するなど波乱もあります。
そのなかでも特に見所は2つです。
1つは終盤に霧の中ではぐれてしまうシーン。
若干ずれが生じていた2人の想いが一つになり、彼女たちの想いの大きさが実感される内容です。これからも2人なら大丈夫、そう感じさせるシーンで、ここまで頑張った安達と祝福したくなるでしょう。
2つ目は2人の将来が垣間見えたということ。
本編「最初の旅の端」の前後に「遠路」「帰路」という章があります。この章は彼女らの10年後の話。なんと2人は10年後には同棲していて、サンフランシスコに旅行に出かけるほど。
本編では叶わなかった2人きりの旅行であります。少なくとも10年は一緒に過ごし、良い関係を保っていたことが明らかになる幸せなその後の姿です。
このように本巻は2人の未来像が見え、読者にとって非常に喜びと安堵が詰まった内容となっています。結ばれることは分かっているものの、これからどのようにして距離を縮め、同棲や旅行をするまでに至るのか目が離せない展開です。