『いきのこれ! 社畜ちゃん』は、ややブラック気味なIT企業で働く主人公「社畜ちゃん」が、楽しい同僚と笑えない納期に追われながら、日々頑張るITあるある4コマとなっています。ウェブマガジン「@vitamin」で連載されている原作・ビタワン、作画・結うきの作品です。
「社畜ちゃん」こと、主人公の佐倉桜花(さくらおうか)は、都内某所にあるIT企業・ブランクソフトウェアに勤めるシステムエンジニア(SE)です。個性豊かな同僚が働き、やり甲斐のある仕事が任される職場……と言えば聞こえはよいものの、終電を逃して泊まり込んだり、休日出勤もザラにある、ちょっとブラックな会社でした。
本作は社畜ちゃんを中心としたブラック企業、IT業界あるあるネタがコメディタッチで描かれる4コマ漫画です。
原作者のビタワンが実際にエンジニアとして会社勤めしており、そこで見聞きした話や実体験が元になっているとか。そのため、漫画ながらとてもリアルな内容に思わず共感してしまうのが本作の特徴です。
- 著者
- 結うき。
- 出版日
- 2016-05-26
本作には結構きつめのブラックネタが頻出します。それでも荒れることなく楽しめるのは、ひとえにキャラが個性的で癒やされるからです。なお、各キャラは基本的にあだ名でしか呼ばれません。
社畜ちゃん
SEとしての腕はよいのですが、お人好しのためいつも損な役回りをしています。酔っ払うと通称「撫で魔」と呼ばれる暴走セクハラモードに。
先輩さん
連載当初からのレギュラーながら、本名年齢などが不明な。穏やかで包容力のある美女です。コミュ力が高いので、お客さんとの折衝もうまく、仕事ができる信頼の篤い人物です。ただし朝が壊滅的に弱く、しょっちゅう遅刻する欠点があります。
後輩ちゃん
高校卒業後、ろくにPCも操作出来ないのに、カッコ良さそうだったという理由だけで入社した凄い女の子です。天然キャラですが、ブラック企業に毒されてないので、しばしばブラックネタへのツッコミ役になります。
同期ちゃん
社畜ちゃんと同期入社の女性社員。部署は異なりますが、仕事の進行が別々なのをよいことに、たまに忙しい社畜ちゃんの下へ遊びに来ます。
ちなみに同期入社の社員はもっと多かったそうですが、現在は社畜ちゃんと同期ちゃんのみというところからもブラックさが窺えます。
この他にも準レギュラーとして、腹立たしいのにどこか憎めない「上司さん」、有能か無能かわからない男性社員「モブさん」、無茶な納期を言い渡してくる「営業さん」、ソシャゲ廃人の「バイトちゃん」など個性的なキャラが目白押しとなっています。
原作者が本職SEということも相まって、胸に刺さるエピソードが多いのが魅力と言えます。
社畜ちゃんがチョロさに付け込まれて仕事が増量されるシーン。仕事ぶりを褒めて持ち上げてから、一旦よい気分にさせところで、彼女は仕事を押しつけられるのです。上司の口車は手慣れた詐欺師のように鮮やかです。
終電ギリギリになることもしばしばなIT業界。社畜ちゃんが後輩ちゃんに終電時間を覚えておくようアドバイスする場面も出てきます。その際、始発と休日ダイヤも一緒に覚えておくように言ったのが意味深です。その意味とは、「終電を逃し、休日出勤も当たり前」ということ……。
営業の安請け合いが社畜ちゃんたち現場のSEへのとばっちりになったり、打ち上げの飲み会にも仕事を持ち込んだり。理不尽すぎて、これが実際にあったらと考えると……考えたくないですね。
また休日の社外での過ごし方や、第三者視点の常識が差し挟まれることもあります。ブラック企業ネタで感覚が麻痺してきたところへ、そのような話が出てくるので、それもまた新鮮な面白さが持続します。
ITネタやブラック企業ネタばかりだと殺伐としてしまいそうですが、そうはならないのも本作のよいところです。
レギュラーキャラは女性ばかりで、キレイ系から可愛い系まで揃っており、仕事内容に目を瞑れば非常に華やかです。そんな女性キャラが、日々の激務の合間で見せるサービスシーンが魅力的なのです。
社畜ちゃんは仕事中、固まった体をほぐしたり、伸びをすることがあります。そんな時、発育のよい彼女のスタイルが強調されて、目の保養になるのです。本人に自覚がなく天然なのも、一部の人にはウケる部分でしょう。男性モブ社員でなくとも、揺れる胸は思わず目で追ってしまうかもしれません。
また社畜ちゃんと先輩さんのボディタッチは、後輩ちゃんが百合と誤解してしまうほど過激。社畜ちゃんが先輩さんの巨乳に顔を埋めるくらいはまだよい方で、飲酒時に暴走した社畜ちゃんが後輩ちゃんを襲ったりもします。
こういった健全なちょいエロも魅力なのです。
本作はIT漫画だけあって、原作者の実体験から語られる勉強法が結構ためになります。
作中初期の後輩ちゃんはド素人。その教育係に任命された社畜ちゃんは、後輩ちゃんにもわかりやすいテクニックをいくつか伝授します。たとえば「写経」。これはお手本のテキストを見ながら、手打ちで同じプログラムを打つというものです。
仏教で経典を書き写すことになぞらえて「写経」と言っていますが、要は漢字の書き取りと同じ。お手本通りにすることで、自然とプログラムの初歩が学べるわけです。
作中でのワンポイントアドバイス以外にも、単行本各巻に初心者向けプログラミング講座というコラムも載っています。勉強は継続が何よりも大事なので、本作片手に楽しみながらプログラミングを学んで行くのもよいのではないでしょうか?
- 著者
- 結うき。
- 出版日
- 2018-11-24
楽しく嬉しい給料日。後輩ちゃんは使い道を考えて胸を躍らせますが、対称的に先輩さんと社畜ちゃんは浮かない顔をしていました。実家住みの後輩ちゃんには充分でも、1人暮らしの2人には充分な金額ではなかったのです。
ピンと来ない後輩ちゃんに対して、2人は切々といかに1人暮らしにお金がかかるのかを説きます。
これはITあるあるというより、社会人あるあるネタと言うべきでしょう。思ったよりもらえなかったつらさ、収入に対する光熱費等の多さが胸に突き刺さります。
またここでは給料にからめて、レギュラーキャラそれぞれの趣味や私生活が描かれます。社畜ちゃんは職場と自宅の往復で使い道がなく、空き時間でできるソシャゲ課金というのが現代的です。先輩さんはと言うと、スマホやタブレットのガジェットを買い漁るという意外な一面が見られます。散財でストレス発散してるだけのようにも……。
給料事情から見えてくるキャラの個性が見所です。
IT業界のよいところも悪いところも、コミカルに笑い飛ばすのが本作の面白いところです。SEを目指す方は、将来に備えて読んでおくと勉強になるかもしれません。