漫画雑誌「モーニング」で2014年に連載されていた本作は、急死した漫画家に成り代わり、その編集者とアシスタントが連載をしていくというサスペンスストーリーです。売れっ子漫画家のもつ財産と、日本中が続きを楽しみにしている作品を終わらせるわけにはいかない……そんな気持ちの間で揺れ動く主人公たち。一体どんな結末を迎えるのか、ハラハラが止まらない作品です。 2019年秋からドラマ化も決定した『ミリオンジョー』の魅力と、全3巻のあらすじと見所をご紹介します。ネタバレも含まれますので、ご注意ください。
最新刊の初版が500万部を突破するという、国民的人気漫画『ミリオンジョー』。それを描く漫画家・真加田恒夫(まがたつねお)が急死したことから、物語は始まります。
本作は、急死した漫画家の編集者であり主人公の呉井総市(くれいそういち)とチーフアシスタントの寺師良太(てらしりょうた)が、漫画家の死を隠蔽し、自分達で漫画の続きを描いていくというストーリー。
誰にもバレずに成り代わることなんてできるのだろうか……と思われますが、急死した漫画家はなんと極度の人間嫌いでした。普段から編集者とチーフアシスタント以外とは顔を合わせることもなく、孤児院で育った天涯孤独な身であり、世間にもまったく正体を明かしていなかったことから、急死した事実を隠蔽することができてしまいました。
彼らには、人気漫画を終わらせたくないという気持ちの他に、富や名声を手に入れたいという欲望もありました。そんなドロドロした気持ちや犯罪を犯したという罪悪感を抱えながら、主人公達はどこへ向かっていくのか……ラストまで目が離せません。
- 著者
- 市丸 いろは
- 出版日
- 2013-07-23
2019年10月から、Kis-My-Ft2の北山宏光を主演にしてテレビドラマ化されることが決まっています。原作ファンからは放送を待ち望む声もあがっており、ぜひ注目しておきたい作品です。
「漫画家」を題材にした作品と本作の違いは、漫画家を題材にしたサスペンスストーリーにあります。
人気漫画家の急死を隠して、漫画を描き続けるというあらすじを聞くと、主人公や仲間達が作品のために一丸となる熱血ストーリーを思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし本作は、死んだ漫画家の死体を隠蔽してしまいます。当然、許されることのない行為。そんな秘密を抱えた主人公達は、自分達の正体がバレ、罪が露見するのではないかと、負の感情に追い詰められ支配されていきます。目の肥えた人たちが、作品に疑いをかけるシーンのハラハラ感は、まさにサスペンスそのもの。
そして本作はサスペンスだけでなく、国民的漫画の存在意義や、漫画を作るという大変さと面白さ、魅力などを感じることができる熱血な部分もあるのです。熱血な展開とサスペンスな展開とが融合した新しい漫画作品だといえるでしょう。
本作のタイトルにもなっている「ミリオンジョー」は、架空の漫画雑誌「週刊少年グローリー」で10年以上も連載をしている冒険バトル漫画で、最新刊が出れば初版500万部を突破するバケモノ漫画です。たとえるならば「ワンピース」といったところでしょうか。
そんな国民的な漫画家の担当編集者が呉井総市(くれい そういち)です。もともと漫画家志望でしたが、夢を諦めてからはまったくやる気がありませんでした。大学卒業後に編集者となり、上がった原稿をただ印刷所へ持っていくような、そんな仕事ぶりの男です。
真加田は度々「心臓が痛い」と電話してくることがありました。〆切当日も、真加田から心臓が痛いと電話がありましたが、締切を延ばすための常套句だと思い、相手にしなかった呉井。しかし気になって仕事場を尋ねると、そこには急死した真加田の姿があったのです……。
物語が本格的に始まるのはそこから。真加田のチーフアシスタントである寺師と呉井は、真加田の死はなかったことにして、自分達が漫画を描き続けることを決めてしまいます。
死んだ漫画家の意思を継いで頑張るような話に聞こえるかもしれませんが、そうではありません。そのような側面もないわけではありませんが、うまくいけば名声や大金が自分のものになるかもしれないという下心がチラつきます。
そもそも人間嫌いで呉井や寺師以外の人間に会わない真加田の性格を利用して、死体を隠してしまった時点で犯罪です。そんな不穏な空気から始まるゴースト漫画家達にどんな試練がまっているのでしょうか。
期待が高まる第1巻です。
「ミリオンジョー」を終わらせないため、真加田の死への罪悪感、富と名声を得られるかもしれない下心など、様々な思いを抱きながら、編集者の呉井とチーフアシスタントの寺師は、呉井の仲間も入れて真加田の死体を隠し、彼に成り代わり、漫画を描きました。
そしてついに成り代わってからの1話目が雑誌に掲載されたのですが、評判は見事なまでにガタ落ち。それもそのはずで、編集者とアシスタント、真加田の残したメモがあるとはいえ、素人の域を出ていない2人にとっては、国民的漫画を作り上げることは並大抵のことではなかったのです。
- 著者
- 市丸 いろは
- 出版日
- 2013-10-23
全3巻のうち2巻目にあたる本巻では、急展開を迎えます。破滅が見えかけているのも、ハラハラ感に拍車をかけるでしょう。どんなに漫画のためを思っても、死体を隠してしまっている以上、バレたら謝るだけではすまないですし、後に引くこともできません。
そんな状況が、主人公達をますます追い詰めていきます。読んでいるとどんどん苦しくなってしまうこともあるでしょう。ボロボロといろいろなところで粗が立ってくるのもスリル満点な中盤編です。
良くも悪くも様々な気持ちを抱きながら、「ミリオンジョー」を未完のまま終わらせないという気持ちで漫画を描き続けていた呉井。しかし、最終巻である本巻では、それもとうとう崩れ去ってしまいます。
真加田が正体を明かさない謎に包まれた人物であるということを利用してやってきていましたが、周囲には「ミリオンジョー」への不信感が募り始めました。
作品のクオリティについて編集長から突っ込まれたり、事情を知らないアシスタントへの指示出しの際にボロを出してしまったり……「ミリオンジョー」を書いているのは真加田ではなくなったのではないか?という疑問が少しずつ広がっていきました。
そしてとうとう迎えてしまうのは、連載の中止。その時、呉井の取った行動は……最終巻らしく、ラストに向かって一気に走り抜けていきます。
死体遺棄という許されない行為から始まっているので、呉井たちは一体どんな結末を迎えるのかというのも気になる点です。本作が気になった方は、ぜひ手にとってその衝撃を楽しんでみてください。さまざまな問題点を抱える本作ですが、見事な結末になっていると感じるのではないでしょうか。
本作は全3巻で完結していることもあり、一気読みできるというのも魅力的です。センセーショナルな設定でハラハラドキドキしつつも、きれいにまとまってりうストーリーも読みやすさの秘訣。ドラマが始まる前に、ぜひ一度手にとってみてはいかがでしょうか。