不倫とは、幸せな未来が見えない空虚な関係ですが、小説に描かれる禁断の恋は、美酒のように読者の心を酔わせてくれます。この記事では、数多ある不倫小説のなかから読んでおきたい6作を厳選して紹介しましょう。
裕福な家庭で育った梅澤梨花。25歳で結婚して専業主婦になりましたが、子どもには恵まれません。夫が何かにつけて自分が養っていることを主張してくるので、反発して銀行で働きはじめることにしました。やがて得意先の男性の自宅で、孫の光太と出会い、不倫をしてしまうのです。
そして梨花は、関係を維持するために巨額の横領に手を染めていきます。
- 著者
- 角田 光代
- 出版日
- 2014-09-13
2012年に刊行され、「柴田錬三郎賞」を受賞した角田光代の作品です。2014年にはテレビドラマ化、映画化もされ話題になりました。
美しくあるために洋服や化粧品を買いあさり、不倫部屋としてマンションを借りる……そのために次々と金を着服し、金さえあれば何でも手に入るという万能感を味わっていきます。金がもたらす快楽は強烈で、気付いた時にはもう後戻りすることはできません。バレるかバレないかという瀬戸際の展開にハラハラしっぱなし。胃を締めつけられるようなスリルを堪能できるでしょう。
満たされない心を埋めるために、軽い気持ちで始めた不倫。ごく普通の女性だった梨花がふとしたきっかけで転落していく様子は、1歩間違えれば誰もが罪を犯しかねないお金の怖さと、不倫の盲目さを教えてくれるのです。
会社社長の浩とともに、大きな屋敷に暮らす専業主婦の美弥子。とても真面目な性格で、家事を完璧にこなし、近所づきあいにも隙がありません。
大学で英語の教師をしているアメリカ人のジョーンズは、純粋無垢な彼女に好意を抱き、デートに誘いました。美弥子は2人で出掛けるうちに、気がつくとジョーンズのことばかり考えるようになってしまうのです。
- 著者
- 江國 香織
- 出版日
- 2013-02-15
2010年に刊行され、「中央公論文芸賞」を受賞した江國香織の作品です。
浩は何事もそつなくこなす典型的な日本人で、従順で料理上手な美弥子との生活を気に入っています。専業主婦の美弥子にとっても、夫は自分の存在価値を認めてくれる唯一無二の存在でした。
一方のジョーンズは異国からやって来た知的な自由人で、浩とはまったく違う鮮烈な魅力を放っているのです。外の世界を知ってしまった美弥子は、後戻りできなくなってしまいます。
ただジョーンズからしてみると、浩の保護下にいる美弥子をかわいらしいと感じていたのであって、カゴの外に放たれた小鳥がどうなるかまでは考えておらず……。
浮世離れした純愛のような不倫の物語。自分らしく生きるとはどういうことなのか、不倫の先に幸せはあるのか、含みをもたせた結末に考えさせられる一冊です。
バブル時代に青春を謳歌した麻也子は、32歳。結婚6年目の夫がいますが、彼からの愛情は感じられません。
そんな時、「離婚した場合のキープ」と考えていた弁護士の南田が結婚することを知って、ショックを受けます。傷ついたプライドを癒すために彼女がとった行動は、かつての恋人である野村に連絡をとることでした。
- 著者
- 林 真理子
- 出版日
- 2001-01-10
1996年に刊行された林真理子の作品です。翌年にテレビドラマ化、また映画化もされて社会現象を巻き起こしました。
野村に別の不倫相手がいることを知った麻也子は、今度は年下の音楽評論家である通彦との不倫に走ります。やがて本気で好きになり、夫と別れて通彦と結婚。しかしすぐに相手に幻滅し、再び野村に連絡をとるのです。
複数の男と関係をもっても満たされない麻也子の欲深さが、何もかもが過剰だったバブル時代を彷彿とさせるでしょう。私だけが損している、と感じていつまでも幸せにたどりつけず、暴走に歯止めがかからなくなり、「それなら子どもを産んでみようか」と思い立ちます。
麻也子は美しい容姿をともなっているので、一見小悪魔のようにも見えますが、実際は浅はかで幼いことがわかる人物描写も秀逸です。
屋根付き橋の写真を撮影しようと、アイオワ州の田舎にやってきたロバート・キンケイド。場所を尋ねるために、農家の主婦フランチェスカに声を掛けました。
お互いに惹かれあう2人。運命の相手だと確信しながらも、ロバートは流浪者で、フランチェスカはアイオワに定住しています。わずか4日という短い時間で、2人は灰になるまで愛しあいました。
- 著者
- ロバート・ジェームズ ウォラー
- 出版日
- 1997-09-10
1992年にアメリカで刊行されたロバート・ジェームズ・ウォラーの作品。日本では1993年に販売されたほか、1995年に公開された映画も有名でしょう。
フランチェスカは感受性豊かで、読書好きの聡明な女性です。しかし田舎の人々にあわせた暮らしをもう20年も続けていました。そんななかで突然現れたロバートとは、一編の詩を共有することができたのです。ロバートも、フランチェスカがもつ知性や情熱が魅力的だと感じました。
お互いがお互いのどこに惹かれ、どのように恋心が醸造されていくのかが、言葉を尽くして丁寧に描かれています。ラストは涙なしには読めないという声が続出。不倫という言葉で片付けることのできない、感動的なラブストーリーです。
アパレルメーカーに新卒で入社した仲江翠。どのように振る舞えば、自分が男性にとって魅力的な女性に映るのかを知り抜いています。
働きはじめてすぐに課長と不倫関係になり、その一方で結婚相手に手頃な同期、恭一郎もキープ。ゲーム感覚で恋愛をし、男たちを手玉にとっていました。
- 著者
- 乃南 アサ
- 出版日
- 2004-03-28
1991年に刊行された乃南アサの作品。タイトルの「ヴァンサンカン」とは、フランス語で「25歳」という意味です。
翠は恵まれない家庭環境で育ったからこそ計算高くなり、贅沢をさせてくれる不倫相手と、将来有望な結婚相手の両方を必要としていました。自分はうまくやれている……そう思っていた時に、同僚の女性が上司と心中事件を起こすのです。しかし翠は、その一途な思いを理解できません。彼女の心の奥にある孤独や寂しさが垣間見れて、切なくなってしまうでしょう。
やがて不倫相手には遊ぶつもりが遊ばれていて、恭一郎の女を見下す一面にも気づいていきます。その時翠はどんな行動をとるのでしょうか。恋愛に振り回されながらも、結局自分の幸せは自分で探さなければいけないという、自由と厳しさが描かれた作品です。
出版社で腕利きの編集長として知られていた久木。しかし社内で揉め事を起こしてしまい、50歳を過ぎて左遷されてしまいました。窓際族としてモヤモヤする日々を過ごすなか、カルチャーセンターで書道の講師をしている凛子と出会うのです。
妻子ある身でありながら、美しい凛子を忘れられなくなった久木は、己の心情を切々と訴え続け、やがて彼女もそれを受け入れ逢瀬を重ねていきます。
- 著者
- 渡辺 淳一
- 出版日
- 2004-01-24
1997年に刊行された渡辺淳一の作品です。映画化とテレビドラマ化もされて社会現象になり、累計発行部数は300万部を超える大ベストセラーとなりました。
良識ある凛子が背徳に溺れていく姿が艶めかしく、何度もくり返される性描写は渡辺文学の真骨頂だといえるでしょう。想像をかき立てられます。
社会的地位が少しずつ崩れていく危うさのなかで得る快楽は、まるで麻薬のよう。延々と語られる密室の愛は、周りの人を傷つけながら、終焉に向かって突き進んでいくのです。不倫を描いた小説の代表作として、読んでおきたい一冊です。
たとえ妻や夫がいたとしても、生まれてしまった感情を無くすことはできません。禁じられているからこそ激しく燃えあがり、1歩踏み出したとしても、現状の安寧に留まったとしても、苦しむことになるでしょう。不倫を描いた小説を読んで、愛についてじっくり考えてみてください。