『カラフル』は、一度死んだ「ぼく」が自殺を図った中学生の体を借りて、生前の過ちを探るストーリー。これまで実写、アニメと映画化されてきましたが、ついに世界に飛び出し、タイでも映画化されました。日本では2019年に公開予定。今回はこの話題作『カラフル』をネタバレを含みながらご紹介します。苦手な方はご注意ください。
本作は、直木賞作家・森絵都の代表作。かつて、約300校の高校生図書委員による、文春文庫の人気投票で1位に選ばれるほど。若い世代から大人まで、非常に人気のある作品です。
ストーリーは、死んで魂となった主人公の「ぼく」が、自殺を図った中学生・小林真の身体を借りて、生前に自分が犯したあやまちを探る奇想天外なもの。
「ぼく」は、真が抱える問題に直面しながら、自分が生きていた世界のことを理解していきます。そして、その先に自分の犯したあやまちがあったのです。
- 著者
- 森 絵都
- 出版日
- 2007-09-04
2000年に公開された実写映画の主演を田中聖が、監督は中原俊が務めました。さらに、2010年にはアニメ『クレヨンしんちゃん』の演出・監督を担当した原恵一によって、劇場アニメも公開され、日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞しました。
その後も人気は劣ることなく、2018年にタイで本作を基にした映画『ホームステイ ボクと僕の100日間』が公開されました。日本での公開は2019年10月5日を予定しています。
森絵都は、児童文学、絵本、翻訳、エッセー、アニメのシナリオなど幅広い分野で活躍している作家です。
本作で産経児童出版文化賞を受賞したほか、デビュー作『リズム』で講談社児童文学新人賞、『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞など、豊富な受賞歴を持ちます。
水泳の飛び込み競技がテーマの青春スポーツ小説『DIVE!!』では、若い世代を中心に絶大な人気を誇っています。
- 著者
- 森 絵都
- 出版日
- 2006-05-25
森作品の魅力は、児童文学出身ならではの発想の柔軟さ、表現のみずみずしさでしょう。
性別問わず、幅広い世代の人の心に直接刺さるようなセリフに満ちています。作中の名言・至言にしびれたというファンのレビューもネットに多く見られます。
死んだばかりで魂となった主人公「ぼく」。本来なら生まれ変われるのですが、生前に犯したあやまちのせいで「輪廻のサイクル」からはずされたことを、プラプラという天使から告げられます。
「ぼく」には、前世の記憶がありません。輪廻のサイクルに再び乗るには、自分の犯したあやまちを思い出さなくてはならないのです。自殺を図った中学3年生・小林真(まこと)の体を借り、自身が犯した「あやまち探し」の日々が始まります。
ファンタジー要素が濃い設定。一見すると児童文学のようにも見えますが、そんなことはありません。本作の登場人物はみな、シビアな問題を抱えています。いじめ、自殺、リストラ、悪徳商法、不倫、援助交際など、現代の社会問題が、真の周りに潜んでいたのです。
優しそうな家族も、それは仮面の姿。利己的だったり意地悪だったり、別の顔をもっているようです。
リアルな設定で、どんよりとした展開もあります。しかし天使の登場や、生まれ変わりというありえない世界観、ユーモアたっぷりの文章のおかげで、暗い作品ではありません。
本作の主人公には記憶がありません。自分で分かっていることといえば、一人称が「ぼく」であるため、おそらく自分は男だったのだろうということだけ。
そんな状態の彼が、いきなり知らない人間関係の中に放り込まれたらどうなるのでしょうか。
自分にはやらなければならないことがあるにも関わらず、直接関係なさそうな、とんでもない目に遭って振り回されてしまう様子が描かれています。
そして、学校の微妙な空気。真の自殺の件は生徒たちに伏せられています。しかし同級生には、真の変化を察されたりして……!?
自分が「ぼく」だったらと思うと、ぞっとしそうなハラハラ感があります。前半部分は、テンポのよいコメディ映画でも見ているようで、気軽に楽しめます。
そして、真には兄がいます。彼の言葉を借りれば、真は「ばかでぐずでどうしようもなく臆病者」。絵がうまいことくらいしか取り柄がありません。そんな真に身体を借りている主人公は、前髪をムースで立てて背の低さをカバーし、2万8,000円もするスニーカーを買って、「ぐずな真」からの脱却を図ったりもします。
一度は死を決意した真。そんな彼を、「ぼく」はどのように変化させてくれるのでしょうか。
そんなある日、真に扮する「ぼく」にとって、とことんツイてない日が訪れます。前半の大きな転機。一体彼はどうなってしまうのか、気づけば本作の世界に引き込まれてしまうでしょう。
ネットのレビューでは、本作の魅力として登場人物たちのセリフが「心に残る」、「名言」と称賛するものが多いです。確かに、ページをめくるたびに印象深い表現に出会います。
「ほんとは長生きしたいけど、一日おきに死にたくなるの」
(『カラフル』より引用)
これは、真の初恋の相手である桑原ひろかが、自分の不安な気持ちを彼に告げる言葉です。この気持ちの揺らぎが共感を呼び、SNSをはじめネットで大きな話題となりました。
そんな彼女を前にした主人公の心の声は、作品が最も伝えたいことではないでしょうか。
「人は自分でも気づかないところで、だれかを救ったり苦しめたりしている。この世があまりにカラフルだから、ぼくらはいつも迷っている」
(『カラフル』より引用)
主人公に初めてできた友だち、早乙女君のセリフも印象的です。
「今日と明日はぜんぜんちがう。明日っていうのは今日の続きじゃないんだ」
(『カラフル』より引用)
10代の不安定な気持ちが伝わってきます。
自信満々ではない、だれにでもあるような、本質を突いた言葉が、共感を呼ぶのではないでしょうか。根っこに優しさが感じられる言葉ばかりです。ぜひ本作から、自分の心に刺さる名言を探してみてください。
真の心の傷にとらわれていた主人公は、まわりの人たちの弱さや痛みに鈍感すぎたことを恥じます。
主人公の中にあった小林家に対するイメージも少しずつ変わってくのでした。それとともに、自分は本当の真ではないという、彼の家族をだましていることへの罪悪感が生まれてきます。
- 著者
- 森 絵都
- 出版日
- 2007-09-04
「この家の人たちに、本物の小林真を返してあげたい」そんな主人公の気持ちの変化も見逃せません。
真を元の世界に戻すためにも、主人公は前世で犯したあやまちを思い出す必要があります。本当に思い出せるのでしょうか。そして、そのあやまちとは何なのでしょう。先が気になって最後まで一気に読んでしまいたくなります。主人公に待っている、驚きの事実とは……。
作者はどうして『カラフル』というタイトルをつけたのでしょう。人それぞれの個性、生活が生き生きとしてくる色合い、それらを超えて作者が突こうとした「カラフル」の意味を、本編で確かめてください。人の見え方 が変わってくるかもしれません。
死んだ魂に、神様がチャンスをくれる。仲介役は天使。似たような設定の映画や小説はいろいろありますが、本作はそのどれとも異なる、ユニークな答えを用意してくれています。もしも、森絵都作品をまだ読んでいないという方には、1作目としてもおすすめです。