美少女は、口内の触手で男から栄養を奪う……。 本作は人と虫、両方の性質を持った少女が、世間を巻き込みながら主人公の少年を追い求めるという、いわば究極のヤンデレラブストーリーです。しかし単に恋愛ものに終始せず、SFとしての骨太な設定も楽しめます。 この記事ではそんな本作の魅力を結末までご紹介!下のボタンからダウンロードできるスマホアプリで読むこともできます。
高校生の高砂陵一はここ最近、同じ悪夢にうなされています。舟に乗って川を進んでいるのですが、周りには水に浮かんだ無数の死体が……。
なぜか陵一の乗っている舟だけがぽつんとあり、死体とともにたゆたう美しい黒髪の女性が流れてきます。まるでその姿はミレーの絵のひとつ「オフィーリア」のよう。
しかし彼女がニッコリ笑いかけたのもつかの間、口が虫のように大きく開いて、食べられそうになります。「うわぁぁ」と叫んで起きたところ、そこはいつもの化学の授業中でした。
そんな悪夢から始まる本作は、ここからさらに不気味な展開になります。なんと、夢に出てきた美しい黒髪の女性が、陵一のいる学校に転入してくるのです。これだけでも大変怖いのですが、さらに追い打ちをかけるように恐ろしい出来事が始まっていくのでした…。
- 著者
- 里見 有
- 出版日
- 2015-06-25
夢に出てきた女性が実際に目の前に現れるというのは、ともすれば恋の始まりに繋がる作品も想像できますが、本作は悪夢に出てきた女性で、不気味さを感じさせます。
また、本作のタイトルが『蟲姫』ということで、作品内にはこれでもかというほど大量の虫が登場。クラスメイトのペットが無数の蟻に襲われるシーンなど、小さいながらも数が多い恐ろしさがとてもリアルに表現されています。
突如現れた美少女・宗方聴久子と悪夢の関係とは?そして、陵一は今後どうなっていくのでしょうか?
この作品は原作者が外薗昌也(ほかぞのまさや)、作画が里見有です。外薗昌也は1980年、19歳のときにデビューしました。ホラーやSF漫画が多いなか、ラブコメディ作品も手がけていますが、ストーリーはシリアスなものが多く、骨太な内容を描きます。
恐ろしいような、でも惹かれてしまう独特の世界観が魅力で、本作では原作者ですが、作画まで担当している作品もあります。彼の独特の世界観を楽しみたい場合は本作や『犬神』、少し軽いものを楽しみたい場合は『琉伽といた夏』などがおすすめです。
- 著者
- 出版日
- 2017-03-28
また、本作の作画を担当している里見有はイラストレーターとしても活躍している漫画家。SNSでもよくアップしていますが、一枚絵としても十分通用するような美しい絵が特徴です。本作にてデビューしますが、作品世界に引き込んでくるような十分な迫力のある作画です。
本作でもそうですが、2019年9月現在連載中の『血海のノア』でもどこか暗い印象を受ける丁寧な作画でゾクリとするような世界へ引き込んできます。
- 著者
- 里見 有
- 出版日
- 2015-07-17
本作は先ほど作者の紹介のところでもお伝えしたとおり、ストーリー、作画ともに読者を引き込んでくるような特徴を持つ2人がタッグを組んだ作品。まずはその美しい絵の力についてご紹介したいです。
大量の虫がうごめく様子やこちらを襲ってくる展開は、一般的にはあまり見たくないものではないでしょうか。生理的に嫌悪感を感じる人が多いかもしれません。
しかし、その様子を恐ろしいと感じながらも、里見有の引き込まれるような作画についつい引き込まれてしまうのです。
まるで近くで見ているかのように、今にも本当に動き出してこちらに向かってきそうな恐ろしさと、力。映画でも見ているような感覚で、気がついたらストーリーにどっぷり浸かってしまう魅力があります。
- 著者
- 里見 有
- 出版日
- 2015-07-17
本作は聴久子の妖しい魅力も見所のひとつです。
聴久子は美少女で、周りの男子生徒も女子もすれ違ったら思わず振り返ってしまうほどです。高校生とは思えないほど完成された美しさで、しかし年相応の可愛さも持っています。一見すると、仲良くなりたいと思うような人物です。
しかし聴久子の正体は、捕食者。もともと人間でしたが、今はその存在を超えた者として人間を狙っています。美しい、そして恐ろしいどちらも持ち合わせているミステリアスな女性です。
さらに陵一のことを「かわいい」と評し、なぜかとても気に入っており、彼にアプローチします。しかしそれは恋なのか、捕食者としての性なのかが分からず、恐ろしいところです。
- 著者
- 里見 有
- 出版日
- 2015-07-17
本作は外薗昌也のストーリー作成力によって全3巻ながら濃い内容になっているところも見所です。全体を通じて伏線がしっかりはってあり、最終話までに丁寧に回収していきます。
1巻では聴久子が男に襲われているところに遭遇したのをきっかけに、怪我をした彼女を自宅に連れていき、目をつけられてしまいます。
2巻では、聴久子がなぜ捕食者となったのか理由が明かされることになります。難病となった聴久子に父親があることをしたこをきっかけに、人と虫の特性を持つ生き物となったのです。
彼女が生まれた理由については、他の方法がなかったのか、なぜこうなってしまったのかと考えずにはいられない内容です。
2巻にて聴久子の生い立ちがわかりましたが、3巻では人間VS蟲姫の戦いがくり広げられ、スピーディーに結末まで物語が進みます。
聴久子は陵一との子をなすために、いったん彼女の手から救われた彼を取り戻そうとします。そのために虫を操り、彼を探すのでした。
- 著者
- 里見 有
- 出版日
- 2015-08-19
彼女の過去を知っており、陵一を助けた久住という男はそれに対抗するため、聴久子の父親に似ている陵一の父親を使って陽動作戦を実施。聴久子に殺虫剤をかけることに成功します。あわせて進化促進物質を蟲姫に打ち込み、体内から彼女を壊そうとします。
これにより聴久子の体内の細胞は破壊され、その影響で街中から大量の虫の姿も消滅しました。しかし、これだけではまだ闘いは終わらず……。
果たして聴久子は消滅してしまったのでしょうか?ストーリー全体を通じ、何度も聴久子は陵一を襲いますが、なぜ彼ばかり狙っていたのでしょうか?
最終回ではそんな疑問やストーリーに貼られていた伏線が見事に回収されていきます。安心したのもつかの間、最後の最後で新たな展開を次々と生み出していくのが、ストーリーの見所です。
最後は切ないハッピーエンドとともに、その後の人類の進化に恐怖が感じられる結末。ストーリーの終わりではありますが、また新たな恐ろしい展開がこの世界ではくり広げられるだろうという予感がします。
究極のヤンデレラブストーリー、そして骨太なサイエンスフィクションを読んでみたい人は、ぜひ『蟲姫』を手に取ってみてください。