フランスの古典文学の1つである『マノン・レスコー』。魔性の女マノンによって破滅への道を歩んでいく騎士の青年、デ・グリューの姿を描く、ロマン主義を代表する名作です。 これまでオペラや映画など様々に形を変えながら語り継がれてきた本作。今回は、日本でも映画化や舞台化がされてきた『マノン・レスコー』のあらすじと魅力をご紹介します。
名門貴族の家に生まれ、将来を期待されていた騎士の青年デ・グリューは、ある日、マノン・レスコーという美しい少女と出会い、ひとめぼれ。人生が一変しました。そして修道院に入るはずだった彼女とともに駆け落ちするのです。
しかし、美しいマノンは、実はとても享楽的で派手好きな魔性の女性でした。お金や宝石に目がくらむ度に男を乗り換え、デ・グリューのことも捨てたり戻ってきたりとさんざんふりまわします。
デ・グリューはそんな性格を知りつつも魅惑的な彼女から離れることができません。そしてマノンへの愛のために身を滅ぼしていくのです。しかし、彼と日々を過ごすうち、マノンにも変化が表れてきて……?
- 著者
- アベ・プレヴォー
- 出版日
1731年に発表されたフランス文学『マノン・レスコー』。ロマン主義の走りとも言われている本作は、デ・グリューやマノンなどの繊細な心理描写が特徴の1つとなっています。フランスやアメリカ、そして日本でも、オペラやバレエ、映画、ミュージカルなど様々な作品の原作となり、時代や国境を超えて語り継がれてきました。
2019年11月には、本場のオペラを映画館で楽しむことができる「METライブビューイング」での上映も決まっており、日本国内でもあらためて注目が集まっている古典作品です。
「METライブビューイング」ではもちろん日本語字幕が付きますが、オペラ内の歌の歌詞はインターネットや本で対訳が紹介されていることも多いので、映画館へ足を運ぶ際はぜひそちらもチェックしてみてはいかがでしょうか。
主人公のデ・グリューの人生の狂わせたヒロインが、マノン・レスコーです。彼女は、老いも若きもあらゆる男を虜にする美しい容姿を持っています。もともと修道院に入るはずでしたが、その性格はとても享楽的で派手好き。相手をたぶらかし、金の切れ目が縁の切れ目とばかりに男と男の間を渡り歩きます。
しかし傍から見ると魔性の女のマノンですが、男達に直接的に犯罪を犯させたり、自分が犯したりすることはありません。加温所がやることは、お金や宝石に目がくらんで男を乗り換えたり、いらなくなった男を排除するために告げ口をしたりするくらい。あくどい性格というよりは、ただただ自分の欲望に忠実に生きているのです。
そんな性格が彼女をより魅力的に見せるのか、男たちは自ら犯罪に手を染めたり、家を捨てたり、道を踏み外していきます。魔性の女というのは間違いありませんが、計算ずくではなく、まさに生まれ持った「性」が、作中の男だけでなく、読者をも魅了するのです。
また、作中では、マノンが美女であることは語られますが、髪や瞳の色といったこまかな描写はありません。それは、あえて容姿像をあいまいにすることによって、読者の想像をかきたてるためだそうです。読者の数だけマノンがいると思うと、それもまた魅力に感じられますね。
本作の主人公のデ・グリューは、名門貴族の騎士の青年で、学業も成績優秀で誰からも期待を寄せられるような人物でした。しかし、彼の人生は、マノンとの出会いによって180度変わってしまいます。
美しいマノンに一目ぼれしたデ・グリューは、彼女と生きるために名門の家を捨て、駆け落ちしました。まさに愛の逃避行といったところですが、その後に甘い生活が待っていたわけではなく、彼女の魔性に振り回されることになってしまうのです。
デ・グリューは、マノンのために賭博や泥棒、さらには殺人まで犯し、その身を堕としていきます。しかし、これらは確かに彼女のためではありましたが、彼自らの意思で行ったことでもありました。つまり、愛のために破滅の道を自ら選んでしまったのです。
傍から冷静な目で見れば、何とバカなことを……という思いを抱くかもしれません。しかし、デ・グリューの言動の根底にあるのは、純粋な愛。身を滅ぼしながらも一途に命をかける彼が堕ちていく様子は、愛の持つ力を感じさせ、恐ろしくもあります。
享楽的で贅沢好きな魔性の女・マノンは、自分を一途に愛し駆け落ちまでしたデ・グリューのことを、ある時は裏切り、ある時は利用してきました。お金が無くなったからといって彼の生家に連絡して家に帰させたり、お金のある老人の妾になってしまったりします。彼に対して愛情を感じつつも、決して一途とはいえない行動をとっていたのです。
そんな奔放なマノンでしたが、どんなに傷つけても最後は自分のもとへ戻ってきてくれるデ・グリューの愛に、しだいに感化されていきます。
たとえば、あることが原因で逮捕されてしまったマノンが植民地であるアメリカへ流刑されることになってしまうことがありました。そんな彼女を追って、デ・グリューは自らもまた、アメリカへ渡る決意をします。そしてこのことが、マノンの心を変えるきっかけにもなるのです……。
アメリカでは2人のつつましい生活が始まります。その展開は、ラストへと続く重要なポイントともなります。魔性の女に生まれついたマノンがどういう結末を迎えるのか、ぜひ本編を手に取って確認してみてください。
主人公を始め、様々な男を魅了してきた魔性の女・マノン。駆け落ちをした後も行く先々で男を魅了し、デ・グリューを裏切ることもありました。しかし何度裏切られても、どんな障害や困難が襲い掛かってきても、マノンへの執着にも似た愛のためにあらゆることを捨てる彼の姿に、心が変化していきます。
物語の終盤で、マノンはとある理由から植民地であるアメリカに流刑となり、デ・グリューも彼女を追って渡米。そこでようやく彼の愛を知ったマノンは2人で平穏な日々を送ることを決めます。
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デ・グリューも、彼女の気持ちがようやく自分に向いたことに喜びを知り、幸せを感じていました。2人はここでようやく本当の意味で結びついたといえるでしょう。しかし、そんな幸せな生活も、マノンに横恋慕した男の登場で壊れていきます。
マノンを奪おうとした男と決闘まですることになってしまったデ・グリューでしたが、その決闘が、デ・グリューとマノンの終わりの始まりでした。決闘の末に2人はアメリカの地を離れなければならなくなるのですが、その先に待っていたものは……?
ラストは、デ・グリューが失うもの、そしてマノンが得るものについて、考えさせられる内容。果たしてそれはハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、ぜひ読んでみてあなたなりの考えを深めてみてはいかがでしょうか。
いかがでしたか? 古典文学というと少しとっつきにくさを感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、男と女の破滅的なストーリーは、時代を超え、現代にも通じる魅力があります。これを機会に手に取ってみてはいかがでしょうか。