口下手だけど才能あふれる新人漫画家・戸田聖子(以下、セーコ)と、彼女に目をつけた成人漫画雑誌の編集・タナカカツミ。二人三脚の漫画製作で、彼女たちが成長していく姿が見られます。そして本作の見所は、戸田がどんな作品を描き出すのか、というところ。この記事では、漫画家と編集者の姿を描いた本作の魅力を紹介していきます。ネタバレも含まれますので、苦手な方はご注意ください。
タナカは、月刊の成人向け漫画雑誌「X+C(エクスタシー)」の編集部員。ある日、彼女のもとに戸田セーコが漫画の持ち込みに訪れます。
戸田は喋ることが苦手な様子で、会話中も「あー」や「うー」など言葉にならない声を発するだけ……。そんな彼女に対して、タナカは戸惑いを隠せません。
しかし、持ち込まれた作品からは、強い魅力と才能が感じられるものでした。
- 著者
- 近藤 笑真
- 出版日
- 2019-04-12
単身で上京してきて、お金もない戸田の様子を見かねたタナカは、彼女を自分の部屋に住まわせることに。こうして、公私ともにサポートしながら、二人三脚で漫画を作っていくことになります。
自分の言葉を出すまでに時間がかかってしまう戸田に、「ゆっくり待つから」と伝える田中。少しずつ信頼関係を育んでいく彼女たちの姿は、読者の心を穏やかにしてくれます。
本作は、編集者であるタナカの視点を通して描かれることもあり、戸田本人と、彼女の作品が持つどこかミステリアスな雰囲気に、読者もつい引き込まれてしまうでしょう。彼女たちは今後、どんな作品を世に送り出すのでしょうか?
自分の考えや気持ちをうまく言葉で表せない戸田ですが、漫画へのこだわりや想いは強烈なもの。秘められた才能を感じさせる彼女の姿は、タナカとともに読者の期待も高めてくれます。
戸田はタナカとコンビを組み、その後はライバル作家との対決や交流を通して、少しずつ変わっていきます。はじめは固苦しい表情が多かった彼女ですが、少しずつ笑顔が増えていく様子からも成長が感じとれるでしょう。
気持ちを言葉で表現することは少ないですが、周りから多くの影響を受けています。それは、作中で戸田が描いている漫画作品を見ても明らかです。
ミステリアスな雰囲気を持つ戸田ですが、これから彼女はどんな作家に成長していき、どんな作品を描いていくのでしょうか。
戸田の作品に才能を感じ、彼女の担当になった新人編集のタナカ。デビューに向けて、2人は新作の打ち合わせを始めます。しかし、ネームの修正について意見を述べたタナカに対して、戸田の反応は険しい表情で「うー」のひと言。
その圧力は、タナカがまるで大きな狼に睨まれているような気持ちになってしまうほどでした。心象風景の迫力には、読者も圧倒されてしまうかもしれません。
その後、取材のために訪れた遊園地では、作画の資料だけでなく、ストーリーに活かせる着想も得られます。最終的に出来上がった作品は、戸田が最初に思い描いていたものとは、まったく違ったものになりました。
はじめはタナカの意見に対して、頑なな表情を見せていた戸田ですが、遊園地の取材を終えるころには、「タナカさんがいたから変わった」「楽しい」と笑顔を見せます。
このように、頑なだった戸田が、タナカとの漫画製作を通じて成長していく様子が見所のひとつ。編集者と出会ったことで、一人で漫画を描いていたときとは違った楽しさを知ることができ、それが作品にも反映されていくのです。
雑誌の企画で、戸田は人気作家のNORuSH(ノラッシュ)と、アンケート票数で対決することに。安易に人気ジャンルを取り入れることなく、自身の描きたいもので勝負に挑む彼女を、タナカは全力でサポートします。
しかし、相手の編集・西による「若い世代に訴求する作戦」もあり、多くの票がNORuSHに奪われてしまうのでした。
西の巧妙な作戦には驚かされもしますが、ふだんからスマホで漫画を読んでいる方にとっては、作中の読者たちの反応にも納得でき、感心するところもあるでしょう。
そして、作品のPRなど編集としてできる戦い方があったことに気づけず、出遅れてしまったタナカ。自分の不甲斐なさに悔しさを噛み締めます。
はじめのころは、成人雑誌の仕事に対して「嫌いではないものの、好きとも言えない」わだかまりを抱えていた彼女ですが、この対決を通じてひとつの答えを見つけます。
作品や作家に対する気持ちを、素直な言葉で戸田に語るシーンは、タナカの編集者としての成長も感じることができる見所です。
編集としての自身の不足を反省しながらも、これからに対して前向きな意気込みを見せる彼女の姿を、読者はつい応援したくなってしまうでしょう。
アンケート対決は、NORuSHの勝利となり、「勝者の権限」で戸田は彼の願いをひとつ聞くことに。それは、コミケ参加を手伝うというものでした。
オススメのアニメ「占星少女都市ラック&シスター」の二次創作の漫画を執筆し、コミケ当日は、キャラクターのコスプレ衣装で売り子をします。 そして、NORuSHを通じたサークル仲間との交友も増え、戸田はコミケを存分に楽しみます。
のびのびとコミケを楽しんでいる彼女の姿は、漫画を描いているときの張りつめた表情とは違った和やかさがあり、新鮮に感じられるでしょう。
- 著者
- 近藤 笑真
- 出版日
- 2019-08-08
一方、戸田がサークルに寄稿した作品や、コミケ直前に作ったコピー本を見て、NORuSHは彼女の漫画に心を奪われてしまいます。
成人雑誌から少年誌への移行を考えていたNORuSHですが、物語に没頭するような戸田の在り方や、作品から刺激を受け、「自分には成人向け(エロ)作品で、まだできることがある」と考えるようになります。
雑誌の対決企画が終わった後もお互いを意識し、切磋琢磨している戸田とNORuSHの関係は、「よきライバル」という言葉がぴったりです。
ライバルの存在によって、戸田の成長が促されるのはもちろんですが、「人気作家からライバル視されている」という事実が、彼女の才能がただものではないことを、読者に感じさせる要素になっています。戸田とNORuSH、今後の2人の関係も注目していきたいポイントです。
戸田とタナカのコンビは、次にどんな作品を描くのでしょうか?新人漫画家の才能と成長から目が離せません!