『やめるときも、すこやかなるときも』よくある恋愛小説?ドラマ化の原作小説が泣ける

更新:2021.12.7

誰かと一緒に生きるということは、自分の内側を見せていくということ。それはけして、美しいものばかりではありません。 窪美澄の小説『やめるときも、すこやかなるときも』は、心に欠けた部分のある男女が出会い、傷つきあいながらも寄り添う姿を描く、心温まる恋愛ストーリーです。この記事ではドラマ化される本作の魅力を、ご紹介いたします。

ブックカルテ リンク

『やめるときも、すこやかなるときも』が泣ける。アジア圏でもドラマ化される原作小説【あらすじ】

 

『やめるときも、すこやかなるときも』は、窪美澄が書いた小説です。主人公は32歳の男女です。

須藤壱晴は家具職人。女性関係にだらしなく、特定の相手を決めずにふらふらとしていました。対する本橋桜子は、家庭事情と苦い恋の経験から恋愛に奥手で仕事ばかりしてきました。

2人が出会ったのは、とある結婚式のパーティー。酒に酔った勢いで、ベッドをともにしてしまいます。その後、仕事を通じて再会した2人。一緒に過ごすうちに心の距離が近づいていき、互いに自分が抱える傷やトラウマを打ち明けていきます。 

お互いが抱えている事情は重く、すぐに受け入れ解決できるものではありません。そのビターな要素が入っていることで、きれいごとだけじゃない、リアルな恋愛模様が描かれます。

ちなみに本作は日本テレビにてテレビドラマ化されました。香港やタイなど、アジア圏8か国でも同時放送されました。

ドラマの詳細や見所は、公式サイト、または主演の藤ヶ谷太輔のメッセージ動画でご確認ください。

やめるときも、すこやかなるときも|日本テレビ

 

 

 

窪美澄とは。『ふがいない僕は空を見た』でも有名!

窪美澄(くぼみすみ)は1965年生まれ、東京都の出身です。短大在学中に家族の経済事情により中退、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターとして活躍します。

2009年『ミクマリ』が新潮社主催のR-18大賞を受賞し、作家デビュー。受賞作も収録された『ふがいない僕は空を見た』は本屋大賞2位にランクイン。映画化され、話題となりました。

著者
窪 美澄
出版日
2012-09-28

窪作品の多くは「性」を題材としていますが、大げさな描写や、問題提起をするような描き方はしていません。日々の生活を営むなかで起こることを淡々と描くので、作品の雰囲気が重くなるということはありません。

そんな日常に性に関する話題が溶け込んでいます。その描写は、女性に寄り添ったもの。自身も出産を経験しているからか、身体的に共感できるようなものです。  

また、出産以外にも自身の経験が作中に活かされているため、登場人物のそれぞれの状況もリアル。

本作では桜子が、家庭の経済事情で苦労しているのですが、作者自身も同じような経験があるとのこと。家計は誰が握っているのかといった事情がはっきりと描写されます。 

この後は、本作の登場人物をご紹介いたします。

 

登場人物

主人公は、家具職人の須藤壱晴と印刷物の制作会社に勤務する本橋桜子。ともに32歳で独身です。壱晴の女性関係はいささかだらしないですが、桜子はあまり積極的ではなく、奥手なほう。ドラマではKis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔と女優の奈緒が演じます。

チャラ男と奥手女子の恋愛なのかと思いきや、事態は思わぬ方向へ。実は2人とも本気の恋愛に積極的になれない、ある事情を抱えていたのです。 

著者
窪 美澄
出版日
2019-11-20

壱晴は高校生の時、恋人の真織を交通事故で失ってしまいました。事故を目撃していたこともあり、強いショックを受けた壱晴は、事故があった12月になると声が出なくなってしまうのです。

そんな「記念日反応」とともに、辛い記憶を振り返らないようにしてきた壱晴。女性と適当な付き合い方しかできなくなっていました。

対する桜子は、父親が家業を倒産させた後から酒におぼれて仕事をしなくなったため、1人で家計を支えています。男性から重いと言われたことがあり、日々の忙しさと過去の経験から、なかなか踏み出すことができません。結婚すれば人生が一変すると考えているものの、恋愛からは遠ざかっていました。  

2人はそれぞれ自身の抱えている問題に向き合いますが、特に壱晴の抱えている心の問題には、桜子の理解が欠かせません。過去の忘れられない人のことを、桜子がどう受け止めていくのかが、本作の大きなカギとなります。

原作小説の見所:傷ついた2人。とりあえず付き合ってみたことから始まるリアルさ

2人は一夜をともにした後、壱晴が桜子の勤める会社に、自作の家具のパンフレットの制作を依頼したことから再会しました。一夜をともにしたことも、再会したことも桜子的には不本意だったようですが、一方の壱晴は彼女のことを覚えてもいませんでした。運命的な再会ともいえる状況ですが、すぐに恋が燃え上がるわけではありません。  

きっかけとなったのは、仕事の打ち合わせ。そのさなか、壱晴の声が出なくなってしまうのです。そこから弱みを見せたことをきっかけに、2人の距離は縮まっていきます。

そして互いに多少気になる異性だから、とりあえず付き合ってみようとなる流れが、とても自然でリアル。燃え上がっている恋ではないこともあり、淡々としていますが、緩やかな交際は大人の恋愛らしいものです。

特に、2人の心の距離の測り方が絶妙。社会の中で生きてきた時間を感じさせます。 
 

原作小説の見所:ありきたりなラブストーリー?丁寧で繊細な心理描写が名作たるゆえん!

あらすじだけを見ると、傷ついた男と、奥手な女性との純愛ラブストーリー、という印象を受けるでしょう。よくある大筋で、そのとおりといえなくもありませんが、簡単な言葉では済まされない密度があるからこそ、本作は多くの読者から支持されているのでしょう。

作者は心理描写に定評があります。本作は壱晴と桜子、両者の視点で描かれており、物語をどちらか一方向から見るのではなく、両者の視点から見ることで、より内容に深みが出ます。

相手の言葉がどう響いているのか、行動によってどのような変化が起こったのか……。読者はそれぞれの心の揺れ動きを、丁寧に追いながら読み進めることができるのです。

特に、お互いのトラウマや弱みをどのように晒し、受け入れていくのか、という見ごたえのあるテーマが根底に置かれているのも、本作がよくある恋愛小説で終わらないゆえん。丁寧な描写で、難しいテーマを描きます。

穏やかで緩やかで優しい恋物語は、どこにでもありそうだけれどそうじゃない魅力があります。 
 

『やめるときも、すこやかなるときも』の結末から見えてくる、タイトルの意味とは【ネタバレ注意】

本作のタイトルは、教会で結婚式を挙げる際に宣誓の問い掛けとして、神父から問われる文言に対し、新郎新婦が答える誓いの言葉の文言です。日本でも教会式の結婚式が流行したこともあり、一般的に知られる言葉となりました。

命ある限りあなたを愛し、この誓いの言葉を守ってあなたとともにある。そう互いに宣誓するのです。  

著者
窪 美澄
出版日
2019-11-20

互いにすれ違い、葛藤がありながらも交際を続けた2人は、やがて1つのゴールにたどり着きます。最後に壱晴がマンションの窓に映る影を見つめ、懐かしいと感じるという描写があるのですが、やっと誰かと生きていくことを受け入れられたのだと、心が温かくなります。 

恋人たちにとって、結婚は1つのゴールといえるでしょう。しかし、形式だけならだれでも整えることができます。病めるときも、健やかなるときも、互いを支え、一緒に生きる覚悟があるのかと、宣誓は問いかけます。

本作では、病めるところから始まった2人の関係だからこそ、人が一緒に生きる意味をより深く実感できたのではないでしょうか。

人は1人では生きていけない。

そんな言葉にするとありふれて単純な事実を、ストレートに投げかけてくるのです。相手のことを深く考え、受け入れるとはどういうことなのか。あらためて考えるきっかけになる作品です。 

『やめるときも、すこやかなるときも』ドラマ版での見所を考察!

 

本作は、日本テレビの深夜ドラマ枠「シンドラ」での放送となりました。「シンドラ」は、漫画原作や人気芸人を脚本家に起用した、エッジの効いた作品を多く放送してきたドラマ枠。純粋な恋愛ドラマは珍しく、だからこそどのような描かれ方がされるのか、気になりますね。 

公式サイトではキャストのコメントが公開されており、壱晴役の藤ヶ谷太輔は「決してキラキラしているだけではなく、仕事や年齢、人間関係など男女問わず共感してもらえるような要素が散りばめられている」とコメント。

桜子役の奈緒は「コンプレックスとひずみの中で、自分だけでは乗り越えられない壁に囲まれながら、息苦しさを抱えている女性」と桜子を評しました。  

よいところも悪いところも、リアルに描くというコメントもあることから、原作のリアルな描写が活かされていると考えられるでしょう。文字で表現されてきた心の揺れ動きが、演技や演出でどう表現されるのかにご注目です。

動画や公式サイトからも情報をチェックしてみるのもおすすめです! 

やめるときも、すこやかなるときも|日本テレビ

 

 

 

人の心の温かさを感じることができる本作。誰かと生きることの意味について、あらためて考えさせられる作品です。ドラマでは、やはり2人の心の揺れ動きに注目したいところ。映像ならではの表現に期待です。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る