LINEマンガで連載が始まって以来、ランキングでも常に上位をキープするほどの人気漫画『鈍色の箱の中で』。幼いころから同じ分譲マンション――「鈍色の箱」に暮らしている高校生たちの物語です。しかしキラキラとした青春漫画というよりは、それぞれの恋心が複雑に絡まる様を描いたヒューマンドラマといった趣です。 本記事では、そのキャラクターや、あらすじ、見所をご紹介します。
分譲マンションにはたくさんの家族、人が住んでいます。その狭い空間のなかでは、一言では表すことのできない様々なドラマがくり広げられているのです。
本作の舞台となるマンションに住む5人の幼馴染は、それぞれが別の人間に片思いをしていました。美少女の美羽は隣の部屋に住む基秋に想いを寄せますが、基秋は最上階に暮らす年上の女性に想いを寄せています。
ギャルのあおいと野球部の悟は付き合っていますが、彼らの関係には1階の部屋に住む幼馴染の1人、ハーフの美少年・利津の存在が付きまとっています。
全員が複雑な片思いを抱きながらも歪な関係を重ねていくのです。
LINEマンガで人気を博し、2020年1月にはテレビドラマ化した本作。満を持してのドラマ化に、注目度もさらに上昇している作品です。 ドラマ作品の詳細は、番組公式ページでご確認ください。
このあとは、本作の魅力を、登場人物たちのそれぞれが抱える思いを通してご紹介。5人全員が報われない思いを抱いている様子は、読者の心を締めつけてきます……。
辻内基秋は、405号室に住む高校一年の少年です。どこかボーっとしているような目つきが特徴で、何を考えているのかよくわらかないようなところがあります。絵が得意で、幼い頃から幼馴染の輪を離れて1人で絵を描いているようなところがありました。
分譲マンションには幼い頃に引っ越してきました。ちょっとした入れ違いで親と離れた際、マンションの共有施設でバイオリンの練習をしているお姉さんを目撃。その音色とバイオリンを演奏する彼女の姿に魅せられて以来、密かな想いを抱いています。
クールで感情が表に出ないタイプのキャラクターで、登場する幼馴染の中で最も何を考えているのか分からない人物です。しかし積極的な美羽と関係を持つようになってからは少しずつ感情のふり幅が大きくなっていくようなところも感じられます。
特に美羽にとっては、行動理由の多くを握っている重要なキャラクターです。
筧美羽は、406号室に住む高校一年の少女です。明るく積極的な性格で、幼い頃から遊びの中心にいるようなタイプ。1人でいる基秋に興味を持ち、好意を寄せてきました。
- 著者
- 篠原知宏
- 出版日
- 2017-08-10
誰もが認める美少女で、学校でも注目されているようです。作中の序盤では人気のある先輩と付き合う様子が描かれますが、基秋一筋な気持ちに変わりはありませんでした。
彼の部屋と壁一枚を隔てて自分の部屋が隣接しているということで、美羽はしょっちゅう壁に耳をつけて隣の音を聞きます。また、好奇心だと言い訳をして彼とのキスを繰り返すなど、気持ちが強いがゆえに大胆な行動をとる人物です。
基秋を見つめ続けてきた彼女は、当然、彼がバイオリンのお姉さんに想いを寄せていることは気が付いていました。しかし、気付いていないフリをして、さらに自分の基秋への好意をひた隠しにしています。その様子は、ストーリーが進むにつれて切なさを増し、読者の心を揺さぶります。
高島あおいは、315号室に住む高校一年生です。幼い頃は大人しく内気な性格でしたが、高校生になった今はギャル系で、どちらかというと派手なタイプの女の子に成長しています。
あけすけにものを言い、強気な面も目立つのですが、実は繊細で傷つきやすい部分もあります。そういったところは幼い頃を彷彿とさせ、彼女に付きまとう過去が垣間見えます。
彼女は幼馴染のひとり、悟と付き合っていますが、心のなかでは、もうひとりの幼馴染・利律のことが忘れられないのです。
幼い頃、彼女は利律を人形のように可愛い女の子だと思い込んでいて、崇拝や尊敬ともいえるような気持ちを抱いていました。彼が男の子だと知ってからは、王子様のようだと思うようになり、その気持ちが恋心に変わるのに時間はかかりませんでした。
しかし、ある日突然、利律が3人で過ごすことを拒絶します。その喪失感を埋めるようにあおいは悟と交際をはじめたのです。
それでももちろん、利律に対する気持ちがまったく消えたわけではありません。悟のおかげで安定していますが、少しでも利律の影がちらつくと、彼でいっぱいになってしまう不安定な心が読者を切なくさせる人物です。
庄司悟は、201号室に住む高校2年の少年です。野球部に所属しており、あおいを野球部のマネージャーに勧誘しました。幼馴染の中では一番の年長で、性格的には一番裏表のない存在かもしれません。
仲間想いで、あおいをマネージャーに誘ったのも利律に夢中な彼女の目を少しでも別のものに向けさせるためでした。また、バラバラになりそうな幼馴染たちを再びまとめるため、お花見を企画することもありました。
あおいと同じく、幼い頃に女の子だと思っていた利津に初めて恋をしましたが、後に男の子だと分かって失恋。それからは友人として利津と付き合ってきましたが、それでもどこか彼に恋愛感情めいたものを捨てきれずにいるようです。
あおいとは、お互いに利津に拒絶されたショックを埋め合うように付き合い始め、しょっちゅう自分の部屋で密会を重ねています。
ちなみに、父子家庭で悟の父親は悟とあおいが家で密会していることに気が付いていて、度々複雑な気持ちにさせられているようです。この展開は本作で唯一といってもいいほどのギャグ要素がある部分なので、切なく重い展開がつづく本作の緩衝材になっています。
真田・利津・アロワは、107号室に住む高校1年生です。外国人の母を持ち、容姿端麗な顔立ちをしています。小学校にあがるまでは母親に女装をさせられていました。その可愛らしさから、誰もが利津のことを女の子だと信じて疑わなかったほどです。
しかし、そんな中でもすぐに自分のことを男だと見抜いた美羽に対しては特別な気持ちを抱いています。恋心にも似ていますが、今いる環境に対する鬱屈とした気持ちを持つ同士としての共感でもあるようです。
- 著者
- 篠原知宏
- 出版日
- 2018-04-13
幼い頃から悟とあおいの3人でつるんでいましたが、ずっと晴れない気持ちを抱えていた利津。ある日、突然2人といることを拒絶します。以来、幼馴染同士の狭い関係でつるんだり付き合ったりしている悟やあおい達のことを見下す言動を繰り返すのでした。
さらに基秋と美羽が付き合うようになってからは、自暴自棄のように、このマンションで育った関係すべてを壊したいという衝動に駆られるようになります。ストーリーをかき乱しながらも、その苦しそうな様子に感情移入してしまいます。
- 著者
- 篠原知宏
- 出版日
- 2019-03-15
登場人物の視点が各話ごとに切り替わり、その複雑な気持ちや関係がどこか淡々と描かれていく本作ですが、3巻4巻あたりからその関係はさらに複雑化していきます。特に4巻からはスピード感もアップして、ハラハラする感覚も味わうことができるでしょう。
ここまで、基秋と美羽、悟とあおいのカップルが誕生していましたが、カップルになったからといって全員が一途にお互いを想っているわけでもありませんでした。付き合いながらもどこかバラバラの方向を見ていた4人。さらにそこでは、利津とバイオリンのお姉さんがストーリーをかき乱す要素となるのです。
悟と付き合いながらも利津のことを忘れることができていなかったあおいが利津が急接近したり、結婚してマンションを出ていたバイオリンのお姉さんが離婚して戻ってきたりしています。
特にバイオリンのお姉さんは、基秋にとっては憧れの存在です。彼女の登場が、基秋とあおい、それに利津の関係をさらに複雑にしていくことは間違いないでしょう。
一方、利津と体を重ねたあおいと悟の関係も気になるところです。ますます複雑になっていく登場人物達の関係に注目です。
2020年にテレビドラマ化した本作。原作では、登場人物達の複雑な気持ちと人間関係を、どこか淡々と静かに描いているのが特徴であり魅力でした。
そもそも本作は、ファンタジーな要素などがない人間ドラマが見所の作品なので、実写のテレビドラマになったとしても、そういった面では違和感なく表現されるのないでしょうか。むしろ生身の人間が演じることで、よりリアリティのある物語になるともいえるかもしれません。
登場人物達の切なくて複雑なリアルな人間ドラマが実写化によってさらにリアルにその世界を楽しむことができるドラマ化作品。原作を知っている方はもちろん、人間ドラマが好きな方はぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。
詳細はドラマ公式ページでご覧いただけます。
いかがでしたか? 登場人物達の複雑で切ない気持ちのからみ合いが魅力的な本作。違う描き方をすればドロドロした昼ドラのようなストーリーにもなりそうですが、本作ではどこか淡々と、静かに描かれているせいが、ドロドロしたものを感じることは少なく、むしろ切ない部分が浮き上がって見えてきます。切なくて不器用な高校生達の人間ドラマを、この機会にぜひチェックしてみてください。