何かになりたい。でもまだ何者にもなれていない。よほどの天才でない限り、誰もが持つ悩みではないでしょうか。この物語の主人公も、そうやってもがいている普通の人。 ファンタジーじみた才能があるわけでもなく、機会にも恵まれず。夢破れて、もしあの頃に戻れたなら……と考えた時。突然のタイムスリップに巻き込まれたなら。あなたなら、どうするでしょうか? あり得た未来を本気で作っていく姿が人気を呼び、アニメ化も決定した話題作の紹介です!
夢に向かって突き進む様は美しいといいます。この記事を読んでいる人にも、今目指している、あるいは持っていた夢があることでしょう。
しかし現実は厳しいもの。夢を叶えられるのは一握りの、才能と幸運を持った人たちです。大半の人は力尽きて諦めてしまうのではないでしょうか。
それに対して、この作品に出てくるのは、迷わず目標へと駆け抜けていくヒーロー……ではありません。自分の能力に疑問を抱き、才能があっても気付くことなく迷っている、リアルな弱さを抱えた学生たちです。
だからこそ、悩み苦しみながら全力で作りたいものを作っていく姿に感動し、共感できるのです!
この記事では、そんな本作の魅力をご紹介。アニメ化もされますが、登場人物の繊細な心の動きは、原作で味わわなければもったいない!誰かのものでない私たちの、僕たちのリメイクを紹介いたします。
ちなみにアニメは公開日やキャストなどは未定です。
主人公・橋場恭也は28歳のゲームメーカー社員、でした。地方大学を卒業して、夢をかなえるためゲーム作りの道に進んだものの、入った零細メーカーの経営は無茶苦茶。数年で倒産して恭也は無職になりました。
ひどい始まり方ですが、会社の都合に振り回される様子が身につまされる人もいるかもしれません。
その後、実家に帰ったはいいものの、当然やることも無く、かつて気まぐれで受けた芸大の合格証書を手に、あり得たかもしれない大学生活を夢見ていました。
と、そのまままどろみ、気づくとそこは、10年前の2006年の自室で……!?
今度こそ後悔したくないと決意した恭也。くせ者だらけの芸大で、未来で身に着けた技術と、最後まで捨てきれなかった情熱を頼りに、もう一度の青春をリメイクしていきます。
いわゆる「お仕事系」、「業界もの」と呼ばれるジャンルの本作ですが、そのなかでも抜きんでた人気を持つ理由は、そのリアルさにあると言っていいでしょう。人もそうですが、ところどころででてくる用語や小物、想像もできなかったけどあり得そうな展開。それらの細部がストーリーに説得力を与えています。
作者・木緒なちは、デザイナーからライターを経てラノベまで書くようになった、多芸多才を絵にかいたような人物。しかし目立ったヒット作を持たなかった器用貧乏な人でもあります。どことなく主人公に似ている経歴です。
それだけに作品を作るときの苦労や、巻き起こるトラブルの数々はリアルの一言。ラノベらしいお手軽な解決策で何もかもうまく行くなんてことはありません。ちょっとしたことがドタバタにつながる様子に、応援しながらも思わず笑ってしまいます。
そして一芸に圧倒的な才をみせる人たちへの、悲しみさえ覚えるような憧憬には、共感を覚えずにはいられません。この作者でなければ書けない、という作品は滅多にありませんが、「僕たちのリメイク」こそそういう作品ではないでしょうか。
- 著者
- ["木緒 なち", "えれっと"]
- 出版日
キャンパスライフの魅力のひとつは、なんといっても自由なこと!本作にも大学を舞台にした物語ならではの、大人未満、子供以上の自由さがあふれています。
夏の海、お祭り、仲間とのたわいのない雑談……。なんでもないようで、どこか儚い様子です。
それは主人公の恭也が大人になってから、タイムスリップし、その大切さを誰よりも知っているから。かつて叶わなかった夢を今度こそ実現すると決意し、青春を楽しみながらも、その自由な時間で次々と作品を作り上げいきます。
そしてその情熱が仲間たちをひきつけて、大きなうねりになっていくのです。
たとえば、よい作品というのは、ただよいものを作るだけでなく、多方面からの肯定されることが必要となります。
実際のワークなどで、教師だけでなく、同級生、果ては不特定多数の観客からの人気を得るために、作戦をたててチームワークを発揮する様子は見もの。頭脳バトルのような緊迫感と、大きなイベントを前にしたような高揚感があり、引き込まれてしまいます。
また、過去に戻るという設定を、ただの強くてニューゲーム作品の道具にするのではなく、リアルさをもって描いているのも、この作品の魅力です。
恭也は、未来で得たものもあれば失ったものもあります。苦い経験を積み重ねたことで、歳に見合わない打たれ強さを持っていますが、それは鈍感さと表裏一体。同じ歳であるはずの仲間たちが、若さゆえの悩みを持っていることに気づいてあげられません。
断絶に苦しめられる登場人物それぞれの戦いが、視点ごとに書き分けられて、物語をより大きく盛り上げます。
本作は、ヒロインもかわいさいっぱいです。
たとえば、シノアキ(フルネーム)。のほほんとした天然っぷりをかまし、方言を使う素朴な一面とは裏腹に、実は恐るべき画力と集中力を誇るイラストレーターです。包み込むような優しさと、自分にはこれしかないと信じる絵への激しい情念。この二面性に、恭也も読者も時には癒され、時に圧倒されます。
さらにギャルっぽいけど実は真面目で努力家な奈々子。まだ自分の才能に気が付いていませんが、歌い手としての才が隠れています。しかし自分に才能が無いと思うのも当たり前。過去の彼女はまったくの音痴なのです。彼女が迷いながらも本当にやりたいことを見つけていく成長ぶりは応援しつつ、時に予想を超えた驚きをもたらしてくれます。
どちらも一言で言い表せないほどの個性の持ち主で、ただのテンプレ―トなキャラではありません。
主人公の恭也は社会人経験を生かして時に2人を助け、時に彼女たちに助けられ、さまざまな困難に立ち向かっていきます。その間に生まれる、好意。
同士としての気持ちと、恋愛対象としての気持ち、これらが複雑に絡まりあい、ラブコメとしても楽しめます。どちらを応援すればいいのか、もどかしくなること請け合いです。
- 著者
- 木緒 なち
- 出版日
- 2017-07-25
思春期の繊細さを書いているだけあって、原作小説では感情の表現に重きを置いています。それを超絶画力で描き切っているのが、コミカライズ版の「僕たちのリメイク」です。
繊細な心境の変化をコマの中に落とし込み、微妙な表情で登場人物の心中を鏡のように写しだしています。恭也の何者にもなれなかった悔しさ、未来で憧れた仲間たちを励ますときの、ひたむきさ。繊細な文章を、繊細な表情の描写によって見事に表しています。
文章がより鮮明になったような内容は必見。原作からコミックでも、その逆でも、読めば両方をより楽しむことができるはず!
スマホのアプリからでもご覧になれますので、気軽に触れられるのもうれしいです。
- 著者
- 閃 凡人
- 出版日
- 2019-04-09