文芸

盛田隆二のおすすめ小説!リアルに人間を切り取って描いた5作品

更新:2020.11.24 作成:2016.12.11

長い時代の流れの中の物語もほんの数日間のできごとも巧みに紡ぎあげる盛田隆二。リアルだけれど冷たくない、切ないけれど悲しくない。そんな後味が魅力です。

「ぴあ」編集部勤務しつつ小説を書き続けてきた盛田隆二

盛田隆二は1954年、東京都目黒区で生まれ、埼玉県立川越高等学校を経て明治大学政治経済学部政治学科を卒業しました。16歳の時に書いた小説が「高2時代」という雑誌で1等賞になったことがきっかけで、いつか一冊の本を書こうという気持ちがずっとあったそうです。

日本文学学校で学びながら、「文芸界」や「すばる」に投稿し、4年の時にはある文芸誌の最終選考まで残り、留年して小説を書くことも考えたそうです。しかし編集者の後押しを経て会社に勤めることを決意。ぴあ株式会社に入社し編集のかたわら小説を執筆して、1985年『夜よりも長い夢』で早稲田文学新人賞佳作に入選しました。18年勤めた後に同社を退社し、専業作家になりました。

当初は自分の書きたいことのみを、外部を遮断するようにして書いていたそう。その後48歳くらいの頃に書きたいテーマがなくなったと感じます。しかし、取材して書いた作品の反響から、自分の枠の外のテーマを書くことも面白いと思うようになり、そこから世界観が広がっていきました。

そんな盛田隆二の作品はリアルで緻密な内容と、ニュアンスのある読後感が特徴。今回はそんな作風が感じられる作品を集めました。

元禄から平成へ300年分の新宿を描いた傑作

1699年・元禄の内藤新宿から、1998年の新宿まで、300年にわたる新宿の歴史と、その歴史の流れの中、社会の底辺を生きるある一族の姿を重ねて描く壮大な物語です。
著者
盛田 隆二
出版日
2009-10-08
下諏訪から江戸へ逃げた三次を初代とする一族の人間たちは、男色、遊民、歌舞伎役者、詐欺師など、みなアクが強く、さらに性的に早熟で奔放、小児男色、3P、近親相姦などなど背徳の限りを尽くします。その一族の血の流れは危うく、消えそうになりながらも300年の間続きます。

時代背景や情景の描写が綿密で、展開も文章も読者を圧倒する勢いです。ページはさほど厚くないにもかかわらず、とにかく文章で積み重ねられた300年は濃密。盛田隆二の手腕に敬服するばかりなのです。

生きるということと、生物としての繁殖・性そんな生々しく濃い内容が大きなスケールで楽しめる傑作です。

失われたものを懐かしむやるせない想いを描いた作品

日本とインドのハーフで、人材派遣会社で日本人の主婦や出稼ぎ外国人に仕事を斡旋したり、彼ら絡みのトラブルに対処したりの毎日を過ごしている風間裕一の日々を淡々と描く形になっています。

描かれるのは東京の晩夏の8日間で、章のタイトルはその日の日付。
著者
盛田 隆二
出版日
短い期間のできごとですが、パキスタン人労働者のシカンデル、日系四世のルイーズ、フィリピン人でバーのママのミルナ、裕一の父親の再婚相手の衿子、父親の愛人でフィリピン人のフェー、追っかけの中学生あずさなど、多くの人物が登場します。先ほどの『ストリート・チルドレン』が流れを楽しめるスケールが魅力なら、これは8日間という短い日々の一瞬の濃密さが魅力です。

みな寂しく、弱く、社会に揉まれ、癒せない喪失を抱えて生きているのです。彼らが裕一と接点を持ち、互いに微妙に噛み合わないまま、また別れていく。そんな誰しも感じたことのある、失われたものへの切ない気持ちが詰められた作品になっています。

淡々とした中のリアルがとても沁みる1作、ぜひ手に取ってみてください。

ひとまわり歳が離れた男女の逃避行が切ない名作

恋人に別れを告げられたあと、偶然入ったラーメン屋で大学生・俊介は、「Mさん」こと涌井裕里子と遭遇しました。彼女は俊介のバイト先のコンビニに、土曜の夜11時過ぎにやってきて、いつもチョコレートの「M&M」をひとつだけ万引きしていくのです。俊介はこのひとまわり年上の裕里子と恋に落ち……。
著者
盛田 隆二
出版日
俊介は裕里子に夢中になり、将来を棒に振ります。内定をなくし、大学を中退、すりにまで手を出します。落ちぶれていくことになるのですが、彼らは満ち足りていて幸せ。周囲の目線とはうらはらに、どうしても離れられないのです。

ある意味、純愛の話。堕落していくふたりを描いているので、決して明るく楽しい作品ではないのですが、だからこそ二人の熱情は強い引力があります。あたりまえの恋愛小説より、もしかしたら純愛かもしれない、そんな風に感じられるちょっとダークな恋愛小説です。

不倫を含んだ、ある男の物語。盛田隆二のデビュー作

顧客に謝罪する部下の森村茜に同行して、顧客の別荘がある箱根へ行った帰り。城南銀行五反田支店の次長・秋野智之は、彼女の涙を見て、妙な息苦しさを感じ……。
著者
盛田 隆二
出版日
2008-10-09
週に一度食事をいっしょにして会話をするだけの関係だったはずなのに、抑え切れずに男女の関係になってしまったふたり。スタートすらありふれた不倫がテーマなのですが、リアルな展開を見せるため、気がつくと引き込まれてしまいます。

そこに家族の問題、銀行から脱落していく者の姿が絡み、ただの不倫物語では終わらない膨らみをもった作品です。言えない関係を気づいてしまった秋野と茜ですが、二人とも背筋が伸びている感じで凛々しさすら感じます。

そんな不倫だけではない物語の膨らみが一気に加速し、ストーリーとして結実していく後半は眼が離せなくなる力があります。

言葉を知ることは世界を知ること

町田周吾は、認知症の父を施設に入れることになり、場面緘黙症の娘・志歩とふたりで暮らす介護士の乾あかりと出会います。次第に親しくなり、惹かれ合っていくふたりですが、彼らの前には巨大な障壁がいくつも立ちはだかっているのでした……。
著者
盛田 隆二
出版日
2012-11-13
恋愛小説ですが、互いが人には簡単に相談しづらい問題を抱えていることで、甘いだけの恋愛を描いたものではありません。リアルで厳しい現実がそこにあるという感じで、読んでいてもなかなかに堪えます。ですが、だからこそほんとうに大事なもの、守らねばならないものが身近なものとして見えてくるのかもしれません。

登場人物たちはみな真正面から伝えることが不器用な人間ばかりです。周吾は不器用だし、志歩は場面緘黙症、周吾の父親は認知症のせいばかりでなくもともと無口で……。

でも言葉だけが伝える手段とは限らないし、相手を想う気持ちはむしろ言葉など越えるのではないかなと思うことができました。少し切なさもあるけれど、とても素敵な作品です。

盛田隆二の作品はリアルさと切なさがうまく交ざり合ったものが多いと思います。いろいろな形の人間模様を描くのが魅力ですので、ぜひ読んでみてくださいね。