文庫本化されたおすすめ恋愛小説23選!

更新:2021.12.14

気になるけど、価格や大きさで手に取るのを躊躇してしまった小説ってありませんか?そこで今回は、文庫本化されたことでお手軽に読めるようになった恋愛小説をご紹介いたします。

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恋愛小説を初めて読む方にもおすすめ!

主人公の勝利と年上のいとこのかれんの恋が描かれた物語です。シリーズを通して二人は、自分たちの関係を公表できない現実を、強く乗り越えながら愛を育んでいきます。

読み始めたら最後、次々と読み進めてしまうほど、読む度に新鮮なときめきときらめきを感じさせてくれる作品です。1冊1冊が薄くすぐに読めるので、普段本を読まない方にもおすすめです。

父親の転勤で、2年間いとこのかれんと丈と同居することになってしまった勝利。久しぶりに会ったかれんがとても美しく変貌していて、さらに、勝利の通う高校の新任美術教師になるということに驚きます。同じ屋根の下で暮らすうちに勝利は、かれんの過去を知ることになります。そして勝利は、かれんを意識しはじめ、恋心を抱き、二人は互いに惹かれていきます。

しかし、いとこ同士の二人は、関係を公表できません。その現実に切なさを感じるも、強く乗り越えていく二人の純真な想いは、胸をくすぐります。

 

著者
村山 由佳
出版日
1999-06-18


真っ直ぐで素直な心を持つ登場人物たちに、心が温かくなる作品です。それぞれが事情を抱えて、悩み苦しんでいますが、真っすぐに人と向き合える強い心に、胸打たれました。ひたすらに純真なこの作品は、切なくてもどかしい気持ちで胸を掴まれます。そして、最後には爽快感を感じさせてくれるはずです。

その場の空気や心情の些細な動きなどが、とても繊細に表現されていて、心情がひしひしと伝わり、物語の中へ引き込まれてしまいます。海や空などの描写がとても美しく、今にも匂いが漂ってくる感覚に襲われるほどです。辛い現実からひと休みしたくなったら手に取ってみてください。

男性作家が描く、心のかたち

伊坂幸太郎、石田衣良、市川拓司、中田永一(乙一)、中村航、本多孝好という6人の人気男性作家が織り成す恋愛小説短編集です。様々な感性で紡がれた6つの物語は、どれも日々の胸に刺さった棘を落としてくれるでしょう。

男勝りな女友達萌枝が、失恋して傷ついた「僕」を慰め、恋心が花開く『魔法のボタン』(石田衣良)では、子供のころ流行った、右は透明に、左は石に、そんな魔法のボタンごっこで二人の距離が変わり始めるのです。友情から愛情に変わる二人の心模様は微笑ましく、胸にそよ風を吹かせてくれる作品です。

そして、オートバックにいた主人公の彼女が、中学時代の同級生だった渡辺に、声をかけられたところから物語が始まる『卒業写真』(市川拓司)では、懐かしく思い出話に花を咲かせているうちに、もう一人の渡辺への恋心が蘇るも、思わぬ展開へと進んでいきます。その彼女の心情に胸がキュンとなり、初恋を思い出させてくれます。

最後の『Sidewalk Talk』(本多孝好)では、離婚する男女の最後の夜を描いた物語が紡がれています。5年の結婚生活に終止符を……そう決めた二人の別れの夜。彼女をまとう香りが思い出させる二人の軌跡に、心が震えます。

 

著者
["伊坂 幸太郎", "石田 衣良", "市川 拓司", "中田 永一", "中村 航", "本多 孝好"]
出版日
2007-09-01


恋愛には背景があり、それを取り巻く人々に支えられ、背中を押してもらいながら、自分たちのかたちを築いていくものです。

それは知人であったり、友人であったりと様々ですが、その背景描写が繊細に表現されていて、人との繋がりの温かさを感じさせてくれる1冊です。そして、それぞれの人物が抱える想いは、どれも甘く切なく、そして心を穏やかにしてくれます。様々な恋愛の軌跡が綴られた6つ物語は、あなたの恋を色づけてくれるかもしれません。

不純な純愛

主人公の女子中学生と教師との恋愛を中心に、それを取り巻く人々の恋愛と成長の物語です。ひとつの町を舞台として、それぞれの人物による、独立した複数の物語が紡がれています。一見バラバラに感じるのですが、全体を通して知ることで、ストーリーの全貌が見えてくる作品です。

舞台はとある小さな町。都会からの転校生に戸惑った、幼い小学校時代から始まります。そして、交換日記が愛の証だった中学時代へと、時の流れに添って展開されます。中盤までは微笑ましい展開が続くも、あることをきっかけに、物語は猛スピードで走りだします。それに合わせ読む手も止まらなくなるでしょう。

 

著者
姫野 カオルコ
出版日
2007-02-24


小学校~中学卒業までの、同級生たちそれぞれの日常、交流、事件を綴り、そして19年後の彼らのその後を綴っています。

小中学校には確かに「恋」がひしめいていました。でも、かけがえのない特別な恋はひとつだけです。それを巧みに表現された作品構造はとても痺れます。

小学生だった頃のありそうな細かい描写は、かつての自分とかさなり、ちょっと噴き出してしまうことも。中学生は多感な生き物であるがゆえに、稚拙で、儚い恋に溺れてしまうその心情もリアルで、つい入り込んでしまいます。

男女が肌を合わせるためだけの部屋など、繰り返される性の描写は、ただ卑猥なだけではなく、歴史上の出来事や人物を巧みに引用しながら人間の欲望を描いています。恋に堕ちるではなく、まさしくツイラクという表現がぴったりの激しい恋がここにあります。

14歳と23歳の二人の許されぬ恋は、苦しくて、不自由で、それでも会いたい気持ちを抑えることが出来ない。会ってしまえば肌に触れたい衝動が、とても切なく描かれていて胸が苦しくなります。甘くて、切なく、残酷に展開していくストーリー。

あなたも、狂おしいほどまでにほとばしる「恋」にツイラクしてください。

儚い時のなかであなたを想う

偶然再会したかつての教師と生徒の、固くて揺るがない恋の物語です。透き通るような表現で綴られ、物語の中を漂う雲のような感覚に囚われ、入り込んでしまうでしょう。

70歳のセンセイと38歳の月子は、偶然に行きつけの居酒屋で再会します。約束せずとも、なんとなく会うようになる二人。お互い一人で過ごしてきた「孤独」という共通点からか、いつの間にかお互いに、なくてはならない存在になっていくのです。淡々とした会話の中には、とても穏やかな、居心地のいい空間があり、温かい優しい気持ちが伝わってきます。

 

著者
川上 弘美
出版日
2004-09-03


1人で過ごす日々を楽しいと思っていた月子でしたが、センセイと再会し、「偶然」会い語り合ううちに、眠っていた感情が目覚めていくのです。

センセイの冷静さは大人の恋を思わせますが、しかしそう呼ぶには少年のような一面もあり、二人の恋の純粋さを物語ります。そして、季節の移ろいと共に近づく二人の距離は、固い絆を感じさせ温かい気持ちにさせてくれます。

月子は、他の男性からのアプローチで自分のセンセイへの想いに気づくも、一度は恋心に蓋をしてしまいます。そして、先生も月子へ温かい眼差しを向け淡い恋心を抱くも、自身の最期を目の当たりにさせてしまうことから、深入りすることへの不安を感じています。

これまでの背景を物語る二人の掛け合いに心動かされますが、センンセイの老いだけが悲しく横たわり、「永遠」のないことを意識させ胸に刺さります。

限りある時間を、穏やかな距離を保ちながら互いを想い、静かな時を共に過ごす。そんな二人の温かい関係に、心が優しく包み込まれるようです。

この二人の純愛を育む過程は、世の中にあくせくせず、ゆったりと緩めるべきものもある、ということを思い起こさせてくれるでしょう。

想いは空と共に

空を舞台とした戦記物語です。

混血のため疎外されていた飛空士シャルルは、その腕を買われ一国の命運の鍵を握る任務を受けます。それは敵の包囲網を掻い潜りながら、皇女ファナを無事本国に連れ帰るというものでした。

序盤から終盤にかけて、巧みな文章も相まって、時折笑みが零れてしまうのですが、終盤での秀逸な心情描写には、思わず感極まり、嗚咽が漏れてしまうほどの作品です。

 

著者
犬村 小六
出版日
2011-08-09


階級社会の底辺に位置する、流民あがりの傭兵であるシャルルが、誰よりも腕が立つことから課せられた重要任務。しかし、極秘裏に進められていたはずが、敵国に筒抜けだったため、孤立無援の中敵の戦闘機の群れに襲われてしまうのです。空中戦は手に汗握るほどの緊迫感があり、読む手が止まらないでしょう。ギリギリの緊張感が脳内で鮮明な画像となって浮かんでくるほどです。

誰にも心を許さないファナは、シャルルと出会うことで、少しずつ心を開いていきます。そして、時期皇妃のファナと一介の飛空士のシャルルは恋するも、身分の違いが邪魔してしまいます。互いに抱いた恋心は、身分の違い故に結末は見えていました。

未来の皇妃として国を導く立場にあるファナ、飛空士として国のために戦わなければならないシャルル。二人はその結末をよく理解し、真摯に向き合っていきます。洋上の美しい情景描写が、ファナの心情やシャルルの葛藤をより切なくさせ、迫りくる苦しい想いが心を震わせます。

限りある時間を強く生きたいと思わせてくれる作品です。

これは僕の恋愛に関する物語だ

在日朝鮮人である主人公の、葛藤と恋愛と友情を綴った青春恋愛物語です。

物語は、主人公の語りで疾走感あるテンポで、進んでいきます。暗鬱な悲壮感は感じられず、それを跳ね返す程に主人公のエネルギーが溢れ出している作品です。

在日朝鮮人というレッテルを貼られ日本社会で生きる主人公は、純血主義の家庭で育った日本人の少女に恋してしまうのです。国籍は関係ない、大したことないと思っている主人公ですが、恋人に打ち明けるには勇気を振り絞る必要がありました。

 

著者
金城 一紀
出版日


差別や暴力は明らかに存在していて、それを生んでいるのは偏見という人の闇です。言葉や態度で傷つけ、更には拳を振り上げてしまう人もいます。国家、国籍、国境は誰が何のために引いた線なのか、何のために創り出された線なのか、理解せずに流される世の中。そんな世の中で、差別をただの障害物とし強く生きる主人公に、心動かされるものがあります。いつか、国境線のない世界になってほしいと、切に願わずにはいられません。

伝えなきゃいけない想い

小説家である主人公治と死んでしまった恋人との恋愛を描く、苦しみや悲しみを超越した純愛物語です。

病気でこの世を去った恋人である柿緒の死後、柿緒の二人の弟妹と関わりながら、柿緒との日々を回想する小説家の治。

物語は三章に分かれていて、その間に主人公の描くSF的な恋愛小説を挟みながら描かれています。口語文調でとても読みやすく、あっという間に中に引き込まれてしまいます。

 

著者
舞城 王太郎
出版日
2008-06-13


回想しながら描く小説は、謎の寄生虫に犯された女性が死んでいく様を、女性の恋人視点で描いたものをはじめとし、三作品あります。二つ目は、主人公の少年は夢の中に出てくる少女に恋をして追い続けるのですが、衝撃な結末が待っているというものです。三つ目は、「神」に抗い戦う男女の物語です。この三作品ともが愛する女性にまつわる死を描いています。

自分の大切な人に、できるだけ「好きだ」という気持ちを伝えるようにしたいと思わせてくれます。自分が、あるいは大切な人が、突然事故に遭うかもしれない。だから、しつこいくらいにでも、日々の感謝と想いをしっかり伝えたいなと思わせてくれる作品です。

幸せはすぐそばにある

女であることを武器に生きるるり子と恋にのまれることを恐れる萌。対照的な二人の生き方を通して様々に模索し、自分の幸せを探す物語です。

美貌を武器にしているるり子は、気まぐれで浅はかな女性として描かれています。自分を省みることがなく、何度結婚しても学習しません。3度目の結婚でも、式が済んでしまえば相手に飽きてしまいます。

一方萌は、強情で屈折している女性として描かれています。人間関係に不器用で、自分の居場所を見つけられずにいるのです。好きになりそうになると容赦なく距離を置き本気で向き合うことを恐れます。

そんな生き方をしてきた二人それぞれに、向き合わなければならない問題が起きます。

 

著者
唯川 恵
出版日
2004-10-20


二人の潔さと自分を分析できる聡明さは、対照的だけれど実は似た者同士なのだと感じさせます。相手の行動に苛立ち、自分にないものに惹かれずにはいられない。真っ向からぶつかり合える二人だからこそ、共に成長していけるのでしょうね。そんな二人を中心に、家出少年や美青年のゲイや不倫相手、様々に絡み合いながら、読みやすい文調とテンポで物語は展開していきます。

女性の本音がとてもよく描かれていて、離婚、不倫、妊娠、就職といった、大きなテーマを含め描かれているので、共感できることが多いかもしれません。

誰しも異なる価値観のなかで、自分がしっくりとする場所を見つけ、現実との折り合いをつけて生きています。今ある現実が本当に「幸せ」と感じているか、再確認させられる作品です。自分らしく生きる過程で見つける、すぐそばにある幸せ。こんな幸せも素敵ですね。

恋は冒険

舞台は京都。恋愛に奥手な先輩と天然な少女「黒髪の乙女を中心に、彼らの周りの個性豊かな友人との面白い出来事が描かれています。先輩と黒髪の乙女の、近くにいるのにすれ違ってしまう恋の行方が優しく紡がれていて、ファンタジーな展開も散りばめられた物語です。

大学に通う天然な「黒髪の乙女」に思いを寄せ、彼女に近づく為に悪戦苦闘する先輩。「黒髪の乙女」の詩的なまでの純朴さが物語を予想外の方向へ転がしていき、そして先輩の一途さがとてもいじらしく感じます。

酒豪の歯科衛生士の羽貫、浴衣姿で天狗と自称し至る所に神出鬼没な樋口など、個性豊かな人々の面白おかしな登場に、心が和みます。そして、その個性豊かな人たちとの珍事件で、「黒髪の乙女」との距離が近づいていくのです。人との縁が、愛しく大切なものなのだと感じさせてくれる作品です。

 

著者
森見 登美彦
出版日
2008-12-25


個性的な言い回しやリズムが独特の世界観を醸し出し、読めば読むほど引き込まれてしまうでしょう。さらには、下鴨神社の古本市や、夜の先斗町などの情景や、少し古風な文体は京都のはんなり感や京都独特の世界観に酔い、訪れてみようかなと思わせてくれます。

登場人物たちの起こす、奇想天外な騒動が次々と繰り広げられる様は、なんとも愉快痛快。そして、ハチャメチャな舞台の中でだからこそ、ぶれることのない一途な想いが強調され、胸に甘い切なさを運んでくれます。

非現実的な世界観は時に心を癒す栄養剤になります。このユーモラス溢れる物語はまさに、心に笑いやわくわく感を与えてくれるでしょう。疾走感のある展開は、心にピュアを埋め込み、温かい気持ちにさせてくれます。

狂気が潜む恋愛小説

相手に執着してしまう水無月。彼女の異常なまでの愛を描いた作品です。女の狂気に恐怖します。

ある編集プロダクションに勤務する井口の誕生日に、しつこく押しかけてきた元カノ理香子。主人公である事務員の水無月が理香子を説得してくれたことを井口は知らされます。これをきっかけに水無月の独り言を聞くことになるのです。男性の語りから始まる物語は、気付かないうちに水無月の視点へ変わり、展開していきます。

 

著者
山本 文緒
出版日


夫との離婚で、もう二度と誰も愛し過ぎないと誓った水無月でしたが、長年のファンであった作家の創路と出会ってしまいます。恋に不器用な水無月は、愛人関係になってしまうのです。創路を想いながらも、別れた夫も忘れることが出来ない水無月の苦しい想いは胸にグッと突き刺さります。

水無月は、創路と愛人関係を必死に受け止め、精一杯尽くしていくのです。献身的な彼女の想いに、切なく胸が締め付けられます。しかし、恋心が次第に狂愛にかわっていくのです。その展開に、じわじわと不気味さと恐怖が襲ってきます。しかし、恐怖を感じながらも、彼女の狂愛に共感してしまうのです。

相手の気持ちが離れてしまうことへの疑問を、自分では消化できず、折り合いもつけられずにいる水無月。私たちが出会いと別れを繰り返し、居場所を求め続けるのは、その狂気に駆れてしまわないため、なのかもしれませんね。

シンプルな愛。江國香織がつづる名言も注目!

結婚したばかりの笑子と睦月。実は笑子はアル中で、医者の睦月は同性愛者で紺という恋人がいます。そんな三人をめぐるストーリーは、もちろん王道の恋愛小説とは少し違います。

著者
江國 香織
出版日
1994-05-30

笑子も睦月も紺も、お互い脛に傷を持つ者同士でありながらも、ひどくまっすぐで、とても魅力的な人物です。夫婦の両親の思いも絡み合いながら、時に互いを傷つけ、傷つけられたりしながらも、読んでいて嫌な気持ちにならないのは、やはり登場人物が、皆お互いのことを思っているからでしょう。

「男が好きなわけじゃないよ。睦月が好きなんだ」「それじゃあ私と同じだ」このやりとりが作品のすべてを表しているのではないでしょうか。人をおもうというシンプルなこと。その気持ちに性別や条件は関係ないのです。自分の人を思う気持ちを見つめ直したいときに、ぜひ読んでいただきたい作品です。

どうしても忘れられない、特別な人への思い

2017年に映画化、島本理生の代表作『ナラタージュ』。切ない恋愛小説といえば、本作を思い出す人も多いかもしれません。

主人公は、高校時代に好きだった先生のことを忘れられずにいる女子大学生。先生も主人公のことを憎からず思ってはいるのですが、事情があり、つかず離れずの関係を保とうとします。主人公はやがて同級生の男の子から告白され、交際を始めますが、先生の存在が心の中から消え去ることはありませんでした。

 

著者
島本 理生
出版日


好きな人、という一言で表すことさえ憚られるような特別な人。理屈ではなく、どうしても大切な、忘れられない人。先生の仕草を追う目線や、先生から貰った言葉を大事に抱える主人公の様子に、ままならぬ恋心を感じることでしょう。付き合った同級生に向き合おうとするも、相手に伝わる心の揺れ……。結局は相手を傷付け、自分も傷付いてしまいます。

損得勘定などを抜きに、とにかく先生の助けになりたいという純粋さには、眩しさを感じると同時に胸が痛くなること間違いなしです。

失うのが怖くて踏み出せず、芽生える疑い

第1回「日本ラブストーリー大賞」を受賞した原田マハのデビュー作『カフーを待ちわびて』。「カフー」とは沖縄の方言で、「果報」という意味だそうです。

主人公は沖縄の与那国島で、祖母から受け継いだ雑貨店を営み、のんびりと暮らす男性。ある日、一通の手紙が届きます。「幸」という差出人の名前には見覚えがありません。幸は、主人公が旅先の神社の絵馬にふざけて書いた「嫁に来ないか」という言葉を見て、それが本当なら嫁になりたいと言ってきたのでした。幸は本当に島に現れ、二人は一つ屋根の下で暮らし始めます。

 

著者
原田 マハ
出版日
2008-05-12


主人公は元々何事にも消極的な性格で、幸も謎を秘めた女性。そのため一緒に暮らしてはいますが、なかなかうまくコミュニケーションを取れず、すれ違ってしまいます。また幸がやってきたことを類まれなる幸運だと思っている主人公は、それを失うことが怖いため、彼女の謎に迫ることをためらうのでした。

挙げ句の果て、後半で登場するリゾート開発を手掛ける男によって、幸が差し向けられたのではないかと疑う主人公……。失いたくないからこそ踏み込めず、信じることができない。そんな切ない関係性に、やきもきすることでしょう。海に囲まれた離島を描いた、美しい情景描写にも注目です。

恋愛・SF・ミステリーを、一気に楽しめる

推理小説をメインに執筆する、松尾由美による恋愛小説『九月の恋と出会うまで』。タイトルも、煽り文「男はみんな奇跡を起こしたいと思っている。好きになった女の人のために」もロマンチックで、よくある純愛系の物語かと思ってしまいそうですが、そこは松尾由美ならでは。SF・ミステリーの要素がふんだんに盛り込まれた、読み応えのある作品となっています。

 

著者
松尾 由美
出版日
2016-02-10


主人公志織が引っ越してきたアパートで、エアコンの穴の奥から突然人の声が聞こえてきます。声の主は同じアパートにする平野と名乗りますが、喋っているのは未来の平野なのだと言います。声の主は志織に、現在の自分を尾行して欲しいと頼み、志織は何のためかわからないながらも、指示通りに尾行を続けます。9月末の尾行の後、ある事件が起こり、エアコンの穴からの声はぱったり聞こえなくなるのでした……。

顔の見えない相手との交信、芽生える好意……と、王道SFと恋愛ものが融合したような本作。声の主の目的は? 本当の正体は? というミステリー要素も充実していて、どんどん先を読み進めてしまうことでしょう。

切ない恋愛作品の醍醐味だけでなく、ミステリーの面白さも十分に味わえる1冊です。

幻想的な美しさに満ちた短編集

『いま、会いにゆきます』で有名な市川拓司による短編集『ぼくらは夜にしか会わなかった』。収録された6編は独立していますが、シチュエーションが同じだったり、眠りや生死などうっすらと共通するテーマもあったりして、それぞれの短編がお互いに影響を与えながら補完し合う部分もあります。

 

著者
市川 拓司
出版日
2014-07-24


表題作は、孤立した少女と少年のお話。天文台の赤道儀室で幽霊を見たという少女早川は、嘘つきだと言われて学校で浮いてしまいます。傷付きやすい彼女の笑顔のために、主人公は「自分も幽霊を見た」と嘘を重ね、二人は夜ごと、様々な場所で会うように。しかし、最後の待ち合わせ場所に現れた彼女の姿は――。切ない初恋の顛末が描かれています。

どの編においても、不器用で世界に疎外感を覚える個性的なキャラクターが登場します。彼ら彼女らが抱える傷や不安を描く繊細な筆致は、市川拓司作品ならでは。一貫して幻想的な雰囲気が漂っています。心が洗われるような、現実離れした純愛ものをお探しの方にはぴったりでしょう。

一夏の思い出を優しく綴るベストセラー作品!

これまで数々の名作を生み出してきた作家、吉本ばななによる恋愛青春小説『TUGUMI』。病弱で気の強い美少女と、その従姉の一夏の出来事を綴った本作は、第2回山本周五郎賞を受賞しました。ベストセラーを記録し、海外でも高い評価を受けている名作です。

 

著者
吉本 ばなな
出版日


物語の語り手となる白河まりあは、大学への入学と同時に、それまで母と身を寄せていた山本屋という旅館から、東京へと引っ越しました。

まりあが10年間を過ごした山本屋には、つぐみという少女がいます。つぐみは生まれつき病弱で、大事に育てられてきたこともあり、わがままで口が悪く、負けん気の強い美少女。

ある日、そんなつぐみからまりあに電話があります。旅館をたたみ、場所を変えてペンションを開くことになったので、夏休みに遊びに来いと言うのです。こうしてまりあは、夏休みを山本屋で過ごすことになりました。

そしてこの夏、つぐみは恭一という青年と出会い、つぐみ、まりあ、恭一の3人で過ごす夏がスタートするのです。

まりあの視点から描かれる、つぐみの圧倒的なパワーには本当に驚かされます。反面、長くは生きられないだろうと宣告されたほどの、病弱な身体が悲鳴をあげ、すぐに高熱を出し寝込んでしまう姿がなんとも儚く、読んでいて、つぐみの魅力にどんどん魅了されていってしまうでしょう。

つぐみの良き理解者であるまりあや、穏やかで心優しい恭一など、つぐみの周りにいる登場人物は皆魅力的で、作品全体がキラキラと優しく輝いているようです。ノスタルジックな世界観に包まれ、読後は夏の終わりのようなちょっぴり寂しい気分にもなる素敵な作品になっています。

映画化もされた表題作を含む、大人のための珠玉の恋愛短編集

2003年に公開された同名映画も話題を呼んだ表題作『ジョゼと虎と魚たち』を含む、短編8篇を収録した作品集。20代〜30代の女性に特にオススメしたい、心の奥深くにそっと触れる珠玉の恋愛短編集です。

著者
田辺 聖子
出版日
1987-01-01

特にオススメしたいのはやはり、表題作「ジョゼと虎と魚たち」。元々本書のファンだったという人もいれば、映画を先に観てから本書を手に取ったという人もいるでしょう。本書に収録されている他の短編は30代以降の大人の恋愛を描いているのに対し、「ジョゼと虎と魚たち」で繰り広げられるのは20代前半の若者の恋愛模様。 

主人公は大学を卒業したばかりの恒夫と、ほとんど外の社会に触れてこなかったジョゼ。二人の恋愛は自然に始まり、また何事もなかったかのように自然と結末を迎える物語が胸を打ちます。ジョゼの純粋さがいじらしく、何とも表現しがたい不思議な気持ちになる読者も多いに違いありません。特にジョゼが恒夫と結ばれた後彼に言う一言が、読了後も読者の心に切ない余韻を残します。

「アタイ、好きや。あんたも、あんたのすることも好きや。」(『ジョゼと虎と魚たち』より引用)

約30年前に出版された本作品集ですが、時代の移り変わりを感じさせない、瑞々しさが作品中に溢れています。特に20代〜30代の女性にオススメですが、10代の多感な時期に読んでもまた違う読後感があり、楽しめるはず。その後20代、30代と歳を重ねていくにつれて違った読み方ができ、新しい発見もあることでしょう。登場人物が発する大阪弁も、作品全体にじんわり効いてくるスパイスのような役割を果たしています。

恋愛経験ゼロの主人公を取り巻く、ふたつの恋愛模様

26歳で恋愛経験ゼロの主人公、江藤良香。彼女の頭の中は片想い中の憧れの彼イチと、突然告白してきた同僚ニのことで忙しい。彼女の脳内で繰り広げられる妄想に共感し、読んでいるうちに切なくなってきます。微妙な人間の心の揺れを繊細に捉えた秀作です。

著者
綿矢 りさ
出版日
2012-08-03

物語は主人公良香の妄想のつながりで進んでいきます。流れるような感情を表す文体の中に、かつての自分の気持ちを重ね合わせる読者も多いはず。

一見妄想に走り現実離れしているように思える良香ですが、一方でとても冷静に状況分析や人間観察をしていることが分かります。一章の冒頭にはそれが色濃く現れています。

「とどきますか、とどきません。光りかがやく手に入らないものばかり見つめているせいで、すでに手に入れたものたちは足元に転がる沢山の屍になってライトさえ当たらず、私に踏まれてかかとの形にへこんでいるのです。」 
「足るを知れ、って言いたいのかって?ちょっと違う、足らざるを知れって言いたいの。足りますか、足りません。でもいいんじゃないですか、とりあえず足元を見てください、あなたは満足しないかもしれないけれど、結構良いものが転がっていますよ。色あせてなんかいません、まだ十分使えます。ほかの誰かにとっては十分うらやましいんじゃないですか、その縁が欠けたマグカップ。水玉柄がかわいい。求めすぎるな、他人にも自分にも。」(『勝手にふるえてろ』より引用)

頭の中では色々な感情が回っているけれど、それをなかなか言葉にできない良香。イチに対して持つ憧れ、手の届かない存在への想いとは逆に、自分に近づいてくるニに半ば上から目線で対応する良香。手の届かない存在への収拾のつかない感情を打ち消すかのように、自分が優位に立つ関係の中では態度が変わってしまう心理は、共感できるものがあるのではないでしょうか。

物語の終盤良香はニに対し、私のこと知りたいと思わないのとストレートに気持ちをぶつけます。他人との関係は、感情を自分の中だけに収めておくのではなく、表現してシェアすることで初めてスタートするのだと改めて気付かせてくれます。主人公良香と一緒に読者も心の成長を遂げられるような、稀有で貴重な作品です。

成熟した大人の恋愛を鮮やかに描いた、衝撃的な恋愛小説

成熟した大人の恋愛を求める読者には、『わりなき恋』がおすすめ。70歳を目前に控えた国際的なドキュメンタリー作家・伊奈笙子と、58歳で大企業のトップマネジメントを務める九鬼兼太がお互いへの恋に溺れていく様子を描いています。

著者
岸 惠子
出版日

主人公たちの出会いはパリへ向かう飛行機のファーストクラス。読者はまずその世界観に惹きつけられ、その後徐々に主人公たちの物語へといざなわれていきます。情景描写が丁寧で、まるで自分も主人公たちの生活を疑似体験しているよう。

2005年の春から2011年秋までの7年間の恋愛が描かれる中、パリやプラハの革命の歴史も物語に織り込まれており、興味深く読み進めることができます。大きい視点で見ると物語は1968年の「プラハの春」から2010年に起こった「アラブの春」までの時間を舞台に繰り広げられ、そして2011年の東日本大震災をも最後に盛り込み、読者を飽きさせません。

タイトルにある「わりなき」とは「理屈や分別を超えてどうしようもない」という意味だそうで、その言葉が表すのは、一回りも年下の妻子持ちの男性に身を焦がしていく笙子の切なさ。恋とは往々にして理屈や分別を超えてしまうもの。そうは分かっていても「所詮恋とはそんなもの」と切り捨てきれない、切なさややり切れなさがこの小説では美しい言葉に乗って表現されています。

お互いに歳を重ね人生経験も積んだ大人だからこそ成り立つ、政治や文学、美術や歴史など広範囲にわたる話題を肴に、関係を進展させていく笙子と兼太。大人の恋愛ならではの醍醐味とほろ苦さが同時に味わえる、魅力的な作品です。

読めばあなたも元気になる!ドラマ化もされたガールズコメディ

ドラマ化もされ、大きな反響を呼んだ本作。予想外に舞い込んだ仕事に奮闘する女子の毎日を描いた、恋愛小説というより仕事愛?をうたったガールズコメディ。リズムよく進んでいく物語と前向きな主人公に、気づけば元気付けられている読者も多いはず。

著者
宮木 あや子
出版日
2016-08-25

ファッション雑誌が大好きで編集の仕事に関わることを夢見てきた主人公、河野悦子。憧れの雑誌の出版社に念願叶って入社できたはいいが、「名前がそれっぽい」という理由で編集部ではなく校閲部に配属されます。

本書ではそんな悦子が毎日の中で遭遇する人や出来事の数々が、小気味良いテンポで描かれます。話のメインではないですが、覆面作家・是永是之として活躍する折原幸人への恋も随所に盛り込まれています。

悦子は苦手な文芸書の校閲に向き合い、入社して2年が過ぎた今も仕事への不満は尽きない日々。考えているのはファッションのことばかり。しかし仕事ができないというわけではなく、

「ダメだよー感情移入したら。冷静に校閲できなくなるでしょ。」(『校閲ガール』より引用)

という言葉に現れているように、校閲の仕事をする上で大切な客観性も持ち合わせています。フィクションですが校閲の仕事や出版業界について興味のある人は、物語の節々からたくさん学べることがあるはず。

「見た目が整っていることは悦子にとって正義で、見た目を整えようと努力することも悦子にとっては正義だ。」 (『校閲ガール』より引用) 

という主人公の思い切り・威勢の良さ、スピード感あふれる文章や物語の展開にも目が離せず、一気に読み終わってしまってもまた最初から読みたくなる、そんな作品です。

等身大の高校生の姿を描いた感動作

様々な悩みや葛藤を抱える、高校生の男女6人を主人公として描かれた、天沢夏月による連作短編集『拝啓、十年後の君へ。』。10年前の自分からの手紙を読んだことをきっかけに、それぞれの少年少女たちが前を向き成長していく姿を綴った、感動の青春物語です。

 

著者
天沢夏月
出版日


ある日突然、自宅にタイムカプセルが送られてきました。一緒に送られてきた封筒には「連絡網順にまわして下さい。」と書かれたメモが入っています。

タイムカプセルの中には、小学校1年生の時に書いた、10年後の自分へ宛てた手紙が束になって入っており、受け取った人は自分の手紙を抜いて、当時の連絡網の次の人へと郵送していくのです。

こうしてタイムカプセルの手紙は1通ずつ減りながら、人から人へと渡っていき、それぞれが過去の自分からのメッセージを受け取っていきます。そんな中、もやもやとした曖昧な恋愛関係に悩む千尋は、10年前の自分の手紙を読み、切ない初恋の記憶を思い出していました。

物語は章ごとに主人公を変え、大人とも子供とも言えない、この年代特有の苦悩を抱える少年少女たちの日常が、フレッシュで読みやすい文体で描かれています。恋や様々な人間関係、そして夢に見た自分とは違う現実の自分。誰もが1度は経験するような悩みに、共感を覚える方もいるのではないでしょうか。

幼い頃の忘れていた真っ直ぐな想いに触れ、自分を見つめ直していく彼らの姿には本当に胸を打たれます。それぞれの物語が少しずつ繋がっていき、最後に訪れる、ある恋の結末に優しい想いが込み上げるでしょう。読後、爽やかな気分にさせてくれる素敵な物語なので、ぜひ一読してみてくださいね。

格好いいオトナの少女たち

17歳の「私」が語り手になり、同年代の少女たちが描かれる連作短編集『放課後の音符』。この連作短編集からは、鍵付きの日記帳にそっと書きとめておきたいような名言がたくさん零れ落ちてきます。

著者
山田 詠美
出版日
1995-03-01

17歳で男性とベッドに入ることが日常になっているカナ、煙草を吸いながらセックスについて話す雅美、酒を飲み煙草を吸いセックスもするマリ、人の彼氏を寝取るヒミコ……。健全を説く大人たちからすれば明らかに不道徳な少女たちですが、彼女たちは決して不潔ではなく美しくて格好いいのです。それは彼女たちが自分に素直に、自然体で生きているからでしょう。

ヒミコは言います。

「友達の男に私が手を出したからって、何の関係もないあんたに言いに行かせる。こんな不自然なことないわ」(『放課後の音符』より引用)

告白に友人がついていく、または振られた女子の友人が振った男子に抗議にいく、などは女子には見慣れた光景かもしれませんが、確かにヒミコの言う通りです。それよりは好きな男がいれば周囲は関係なく好きと伝えるほうがどれだけ健全かしれません。

彼女たちが魅力的な理由はもう1つあって、それは年齢よりも背伸びしている自分の言動にきちんと向き合っているところです。例えばカナは妊娠し、退学して出産する道を選びます。悲痛な決意と共にそうするのではなく、好きな男の人と愛し合った結果としてできたものを捨てたくない、という自然さで。

友人たちを白眼視せず、憧れの気持ちさえ持つ「私」ですが、実は両親の別居に傷ついた過去がありました。

「十五歳の大人もいれば、三十歳の子供もいるということを、私に話してくれたのは、大好きだった母だったけれども、彼女は、今、家を出て、若い男の人と一緒に暮らしている」(『放課後の音符』より引用)

そんな「私」はカナや雅美たちと触れ合う中で、両親も一人の男と女であること、彼らが自分たちらしい決断をしたことを受け入れていきます。

最終章では「私」も好きな男の子ができ、自然と体も結ばれます。その時、母の言葉の真実味を肌で感じ「私たちは、まだ子供。けれど、恋する気持ちは、誰よりも一流だ」と誇らしく思うのです。

自分の体と内面の年齢が合っているかと考えさせられ、格好いいオトナになって恋をしたくなる1冊です。

ピュアな大人の恋愛小説

ひょんなことから同居生活をすることになった男女の、ラブストーリーを描いた作品です。小説は大ヒットし、2016年には岩田剛典・高畑充希主演で映画化もされ話題になりました。

 

著者
有川 浩
出版日
2013-01-11


主人公・河野さやかは1人暮らしをしているOLです。ある晩、飲み会から帰ってきたさやかは、自宅マンションの前で男が倒れているのを発見します。通報した方がいいだろうかと、顔を覗き込むとこれがなかなかのイケメン。男は「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか」「咬みません。躾のできた良い子です」と頼み込んでくるのです。

その様子がおかしくてたまらなかったさやかは、男を部屋に上げ、カップラーメンをご馳走します。翌日さやかは出て行こうとする男に、生活費の提供と、男が家事全般を担当することを提案。行くあての無い男は迷いながらもこの提案を受け入れ、名前をイツキと名乗ります。こうして2人の奇妙な同居生活がスタートしました。果たしてこの同居生活がどのような結末を迎えるのか。

2人の何気ない日常が温かく描かれ、徐々に距離が縮まっていく様子が微笑ましい恋愛小説になっています。

最後までお読みいただきありがとうございました。文庫本化されたことによって、結末や内容が少し変わっていたりと、新たに楽しめる作品も多くあります。懐かしさを感じるものも多く、あとがきや解説、ボーナストラックなど新たな要素も楽しめるはずです。どんなに時が流れても、変わらない感動を感じて下さい。

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