「天才」としてレオナルド・ダ・ヴィンチやアインシュタインと並び評価される、ドイツの文学者ゲーテ。小説、詩、戯曲と多くの才能にあふれ、後世の文学者たちに影響を与えています。この記事では、彼の作品のなかから特に読んでおきたいおすすめのものを紹介。教養として手にとってみるのもよいでしょう。
1749年、ドイツのフランクフルトにある裕福な家庭に生まれたヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。教育熱心な父親により、幼少期から語学を学び、6ヶ国語を習得していたそうです。
16歳でライプツィヒ大学の法学部に入学。ただこれは父親の意向で、ゲーテ自身は文学の研究をしたかったそうで、数年で退学してしまいます。その後はフランス領にあるシュトラースブルク大学に入り、シェイクスピアやホメロスなどを学びました。
卒業後は、弁護士事務所を設立するものの、仕事よりも文学や自然科学に没頭。文芸評論を寄稿したり、初めての戯曲『ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン』を書き上げたりしています。この戯曲は数年後に改作して自費出版をすると注目を集め、彼の名を広めることになりました。さらに数年後の1774年、代表作『若きウェルテルの悩み』を出版。一大ブームとなります。
またゲーテは、小説家や劇作家、詩人として有名ですが、ヴァイマール公国のカール・アウグスト公から招かれ、公国の大臣を務めた政治家でもあります。
彼が人生で経験した挫折や苦悩はすべて作品の血となり肉となり、文学においても芸術においても、「いかに生きるべきか」というテーマが通底しているのです。たくさんの女性に恋をし、多くの失恋をしているのも有名でしょう。
つまりゲーテの作品は、天才が書いた難しい本ではなく、読者が共感しやすいシンプルなもの。それを圧倒的な言葉の美しさで表現しているので、「文豪」と呼ばれているのです。
ではここからは、そんなゲーテの作品のなかから、特におすすめしたい小説や詩集、名言集などを紹介していきます。
ウェルテルという青年は、婚約者がいるシャルロッテという女性に恋をしてしまいました。その苦悩に耐えきれなくなり、彼女がいる土地を離れるものの、新しい仕事もうまくいきません。
結局シャルロッテがいる町に戻ってくるのですが、彼女はすでに結婚をしていて、ウェルテルに対し冷たい態度をとりました。
そんな時、彼の知り合いが叶わない恋のすえ殺人を犯す事件が発生。ウェルテルは自分の状況と重ねあわせ、彼の弁護をするのですが、もちろん取り合ってもらえるはずもありません。そうして彼は、遂に自殺することを決意するのです。
- 著者
- ゲーテ
- 出版日
- 1951-03-02
1774年、ゲーテが25歳の時に発表した作品。ウェルテルが友人充てに送った数十通の手紙で構成された、書簡体小説です。
ゲーテ自身の失恋と彼の友人の死、という実体験をもとにしたもので、刊行後はすぐに評判になり、各国で翻訳されて大ブームを巻き起こしました。ウェルテルを模倣して自殺する者も出たために、「精神的インフルエンザの病原体」「ウェルテル効果」という言葉も生まれています。
本作の特徴は、哲学的でありながら、魂から絞り出されるようなシンプルで切ない言葉の数々。いま現在恋にもがいている人はもちろん、その苦しみから卒業したはずの大人でさえ狂おしい感情に襲われてしまうのです。
恋とはなんと残酷なものか、なぜ他の人で満たすことはできないのか……苦悩のすえに死を選ぶほどの、強い想いにあふれた作品です。
ドイツの商人の家に生まれた、演劇好きのヴィルヘルム。女優をしている恋人がいましたが、彼女にパトロンがいることを知り、別れてしまいました。その後、とある劇団で虐待を受けているミニヨンという少女を引き取ります。これをきっかけにヴィルヘルムは、さらに演劇に没頭するようになるのです。
ヴィルヘルムは劇団員とミニヨンとともに、シェイクスピアの「ハムレット」の上演を目指しながら旅をします。そのなかで身分も性格も異なるさまざまな人と出会い、成長していくのです。
- 著者
- J.W. ゲーテ
- 出版日
- 2000-01-14
1796年に発表された作品。主人公がさまざまな経験をすることで内面から成長する様子を描いた「教養小説」の範として、後の小説家たちに大きな影響を与えたといわれています。
ヴィルヘルムの演劇への情熱を中心に物語が進みますが、とにかく登場人物が多いのが特徴。「修業時代」というタイトルから想像される堅苦しさはなく、特に多彩な女性たちがストーリーを盛り上げてくれます。一見バラバラに見える彼ら彼女たちの関係が、下巻ですべて繋がるのも見事な構成です。
ヴィルヘルムは、夢や恋におぼれながら、仲間の死やケガ、失恋など多くの挫折を味わい、現実を見つめて成長。最後は神父から修業証書を授けられて、旅が終わります。詩や名言が物語に織り込まれるように絶妙に挿入されていて、全体として美しさを感じる作品でしょう。
ゲーテが生んだ膨大な数の詩を、年代順にまとめている詩集です。
シンプルながら美しい言葉の力を感じることができるでしょう。
- 著者
- ゲーテ
- 出版日
- 1951-04-25
1948年に刊行された詩集です。翻訳はドイツ文学者で、ゲーテにまつわるさまざまな著作を発表している高橋健二が担当しています。
人生において、壁を乗り越えるたびに作品を生み出してきたというゲーテ。彼の詩には、その体験と思想が反映されています。
青年期はほとんどが淡くて美しい恋の詩。相手の素晴らしさや、恋をすることで輝く世界を情熱的に綴っています。中年期になると、悲哀が滲む愛の詩や、人生の迷いと決意を語った詩が登場。そして老年期には、感情の機微を端的にあらわし、人生の格言のような詩へと変化していくのです。
ゲーテがどのようなことを考えながら年を重ねていったのか、時代を追いながら感じてみてください。
ゲーテの著作や対話集から見つけた名句を、いくつかのテーマに分類してまとめた格言集です。1943年に刊行されました。
翻訳と編集は、ひとつ前の詩集同様に高橋健二が担当しています。
- 著者
- ゲーテ
- 出版日
- 1952-06-27
どちらかといえばロマンチックな内容だった詩集と比べ、本作は鋭く厳しい言葉も投げかけてきます。ゲーテは文豪でありながら有能な政治家でもあり、ビジネスマンの心にも響く、説得力と重みを感じるでしょう。
テーマは「愛と女性」「幸福」「自我と自由と節度」「個人と社会」「生活の知恵」などさまざま。どのページを開いても、本質を突いた思考と、真理を貫く言葉の選択に出会えます。
小説のなかに格言集の一文を見つけるのは楽しいもの。本作をきっかけにゲーテに興味をもったら、ぜひほかの作品も読んでみてください。
序曲の舞台は天上です。悪魔のメフィストと、神様が言い争いをしていました。
メフィストは神様に対し、「あなたたちがあげた理性を人間はろくなことに使っていない」とののしります。すると神様は、「常に向上の努力を成す者」の例として、ファウストという男の名を挙げるのです。
こうして2人は、ファウストの魂を悪の道へと引きずり込むことができるかどうか、賭けをすることになりました。
- 著者
- ゲーテ
- 出版日
- 1967-11-28
第1部が1808年、第2部がゲーテの死の翌年である1833年に発表された長編戯曲です。ゲーテは、15~16世紀にかけて実在したといわれる錬金術師「ドクトル・ファウストゥス」の伝説に触発されて、20代前半で本書の執筆を開始。なんと約60年かけて完成させました。
『ファウスト』の執筆は、まさにゲーテのライフワーク。本作が最後の作品となりましたが、死の間際彼は、「もっと光を」という言葉を残しました。生きることに常に光を求め見出してきた彼が、最後まで闇を拒否した証しではないでしょうか。
悪魔のメフィストは、死後の魂を渡すことと引き換えに、人生の享楽を与えると誘惑。「俗」の世界に足を踏み入れたファウストの行方はどうなるのでしょうか。