茅田砂胡(かやたすなこ)といえば『デルフィニア戦記』を思い浮かべてしまうくらい印象付けられていますが、他の作品だってとってもおもしろいんです。 そんな茅田砂胡の作品のおすすめを5作ご紹介します。
茅田砂胡は1992年、『デルフィニアの姫将軍』でデビューし、翌年大幅改稿して「デルフィニア戦記」シリーズの1作目『放浪の戦士』を発表しました。
これが大ヒットし、多くのシリーズ人気作品を生み出しています。特に『スカーレット・ウィザード』はセンス・オブ・ジェンダー大賞を受賞しました。
また、2013年にデビュー20周年を記念して『茅田砂胡全仕事1993-2013』を刊行し、さらに『茅田砂胡プロジェクト』と冠してCDブックなどが発売されています。
前国王の妾の子として生まれた若き国王・ウォルは、貴族たちの陰謀によって王位も命も狙われて逃げ出し、追跡者たちと闘い続けていました。
そんな彼の前に異世界からの迷子だという少女・リィが現れて……。
舞台は、アベルドルン大陸という架空の大地。ウォルはのちに「獅子王」、リィはのちに「姫将軍」と呼ばれるようになります。
ウォルはちょっと天然が入っていて、リィは強すぎる少女という設定をもつキャラクターで、この二人だけでも印象的なのですが、ほかにも国王の親友の山賊や女たらしの騎士団長など、個性的で強烈な登場人物たちが物語を動かしているところが茅田砂胡の今作のおもしろいところです。
特に、ねじ曲がっているような大真面目なような独特のノリの会話には思わずくすっと笑ってしまいます。
- 著者
- 茅田 砂胡
- 出版日
文章は的確で、「戦記」と銘打ちながらも作戦などが綿密に描かれているわけではないので、ややこしいことを考えずに読み進められます。
全18巻からなる茅田砂胡の人気シリーズなので、一気に読むのは大変ですが、4巻までが1エピソードとなっていますから、まずはここから読んでみていただきだいです。キャラクターの魅力にはまれば、離れられなくなりますよ。
海賊王(キング・オブ・パイレーツ)の異名を持つ宇宙一の船乗りケリーのもとに、クーア財閥の女王で、無敵の戦闘機乗り・ジャスミンから「1年だけ結婚してほしい」という奇妙な仕事が舞い込みました。
それに対して、ケリーは自分を捕まえることができたら引き受けるとの条件を提示し……。
宇宙を舞台にした茅田砂胡が描く恋愛物語になっています。互いに「女王」「海賊」と呼び合う契約上の夫婦で、190センチ越えの大柄で無敵の強さを誇っているのですから甘ったるいものではありませんが。
代わりに、信頼関係が強くなっていくのがひしひしと感じられて、そこが作品の魅力となっています。コメディ調だったりシリアスだったりアクションだったりと展開も多彩です。
- 著者
- 茅田 砂胡
- 出版日
茅田砂胡自身は「ハーレクインを書きたかった」ようなのですが、ロマンティックなラブストーリーというより、コミカルな感じに仕上がっています。ラブシーンで「さて、やるか」という台詞が出てきてしまうあたり、思わず笑ってしまうかも。
茅田砂胡が織りなすスペースオペララブストーリー、ぜひ楽しんでみてくださいね。
大地主であった百之喜家に生まれたものの、「やる気なし、根性なし、能力なし」の三拍子がそろった怠惰な性格の百之喜太朗は、祖母の友人の姪である越後屋銀子に脅されるみたいな状態で探偵もどきの事務所を開くことになりました。
やる気皆無の喜太朗ですが、無自覚ながらもある特殊能力を持っていたのです……。
この喜太朗、主人公なのに見せ場が少ないのです。狂言回しみたいな存在で、彼が「迷子になってふらふらすれば行く先々で拾わなくていい真実にぶち当たる」わけで、それを仲間たちが究明し、解決していく展開となっています。
その仲間たちは桃太郎の犬、猿、キジなどをモチーフにしているらしく、名前からも伝わってきますし、気心のしれた関係性がとても楽しげなのです。
- 著者
- 茅田 砂胡
- 出版日
事件そのものは謎解きというほどのものではないので、この作品のおもしろさは、やる気なしの主人公をやる気や才知に満ち溢れた脇役が支えるというキャラクターたちの魅力に尽きるかなと思いました。
茅田砂胡の他作品のように長いシリーズではありませんし、肩のこらない作品なので、気楽に読んでみてほしいです。
関東近郊呉里六郷(くれさとりくごう)市に住む桐原家には似ていない三つ子がいました。眞己、猛(女の子)、都(男の子)です。眞己は16年間ほんとうに三つ子なのかどうか疑惑を抱き続けてきたのですが、その真相は思いがけないもので……。
母方の祖母を含む7人家族という大家族の桐原家を舞台にした茅田砂胡のホームコメディ作品です。
- 著者
- 茅田 砂胡
- 出版日
家族の意外な秘密が明かされてのドタバタなのですが、悲壮感はまったくなく、ほんとうににやにやしてしまうくらい楽しい展開をします。
キャラクターたちも活き活きとしていて魅力的ですし、似てない三つ子はもちろん、母親も兄もとにかくパワフルで楽しいんです。親と子、兄弟間のやりとりには思わず笑ってしまうことと思います。
桐原家は複雑怪奇な関係性をもっているのですが(説明するとネタばれになりますので、そこは読んで確かめてくださいね)、どんな関係だろうと家族っていいなと思えてしまうシリーズ。
とてもおすすめなのですが、ついにやにやしてしまうので電車の中で読むのは危険ですよ。
大国ヴィルドナの公爵家より、名門・ウィンスロウ家のまだ14歳の令嬢・キャサリンと、彼女の幼なじみである息子のフランツを急遽婚約させたいという手紙が届きました。
内容の不自然さに嫌な予感を覚えたキャサリンは、猫のケイティ、ごちゃまぜのダムー、蜥蜴のベラフォード、竜のヴィンセントという不思議な用心棒たちとともに旅立つ決心をし……。
- 著者
- 茅田 砂胡
- 出版日
茅田砂胡が描く女性はみな、身体、精神ともにとにかく強いのですが、このお嬢様・キャサリンも無鉄砲なだけでなく凛としていて強い女の子です。好奇心旺盛で明るく曲がったことが大嫌いな彼女の姿に好感を持って読み進められることと思います。
物語は明るく前向きに進んでいくので、不幸になる人はおらず、読後感もすっきりと爽快。きっとハッピーな気持ちになれるはず。茅田砂胡の作品の中でも、特におすすめです。
20年にわたって一線で作品を発表し続け、それらがみな人気を得ている茅田砂胡。その一端でも楽しんでいただけたら嬉しいなと思います。長いシリーズばかりなので大変でしょうが、ぜひ挑戦してみてくださいね。