小学生に大人気の児童書「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズ。累計発行部数は300万部を突破し、テレビアニメ化や映画化もされています。一風変わった女主人が売る駄菓子はふしぎな力をもっていて、客の悩みを解決してくれそうにみえるのですが、使い方を間違えると……。この記事では、シリーズの魅力や主なエピソードのあらすじを紹介していきます。
「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」シリーズは、運命を左右するふしぎな駄菓子を売る、少し変わった店の物語。2013年に1巻が刊行されると瞬く間に人気に火が付き、2019年に刊行された12巻からは第2シーズンが始まり、2020年にはテレビアニメ化、映画化もされています。
シリーズの魅力のひとつは、その設定です。物語の舞台となるのは、昭和の時代を思い起こさせるような木造の駄菓子屋「銭天堂」。切り盛りしているのは、髪を結い上げた着物姿の女主人です。店の所在も女主人の正体も不明。さらにこの店の駄菓子は、ふしぎな力をもっているんだとか。
偶然この店に辿り着いた客たちの悩みを解決することもありますが、予定調和では終わらない展開をすることもあり、読者の心を離しません。
また1話完結の連作短編で構成されていて、手軽に読めるのも魅力です。店を訪れる客の視線で物語が進むことも、読者にマンネリ感を与えないのでしょう。もちろんシリーズ全体を通してのストーリーもあるので、読めば読むほどファンになり、はまってしまうこと間違いなし。
作者の廣嶋玲子は、ファンタジー作品を得意とする児童文学作家です。またイラストレーターのjyajyaが描く、どこか古風で貫禄のある女主人の姿は忘れられない強烈な印象を与えてくれます。絵の細部に面白い仕掛けが施されていることもあるのでご注目。文章と絵の両方に「銭天堂」シリーズの世界観があふれていて、想像を膨らませてくれるのです。
銭天堂をとりまくキャラクターたちは個性豊か。シリーズで活躍する主な登場人物を紹介していきます。
紅子(べにこ)
銭天堂の女主人。結い上げた白い髪と真っ赤な紅、そして古銭柄の着物がトレードマークです。紅子は、訪れる客の悩みを察する能力をもっていて、その悩みが解消できるような駄菓子を選んで薦めます。語尾に「でござんす」と付けるのが口癖です。
墨丸(すみまる)
紅子が飼っている黒猫。なんと紅子と会話をすることができます。賢くて機転が利くので、客を銭天堂に導いたり、店の留守番を任せられたりることも。
よどみ
駄菓子屋「たたりめ堂」の経営者で、紅子を敵対視しているライバル的存在。おかっぱで、彼岸花柄の着物をまとい、不気味な雰囲気を醸し出しているのが特徴です。よどみが売る駄菓子は、客から悪意を吸い取る不思議な力をもっていて、紅子にさまざまな悪だくみを仕掛けます。
水が怖くて泳ぐことができない小学生の真由美。学校で水泳の授業が始まるので鬱々とした日々を過ごしています。そんななか、下校途中で見つけたのが、銭天堂。陳列された駄菓子を眺めていると、女主人が声を掛けてきます。
泳げない悩みを解決するお菓子があると、紅子が取り出してきたものは……。
- 著者
- 廣嶋 玲子
- 出版日
2013年刊行の1巻に収録された、「銭天堂」シリーズ最初のエピソードです。
紅子が真由美に紹介したのは、かなづちを解決する「型抜き人魚グミ」というお菓子でした。翌日の水泳の授業で、真由美は周囲が驚くような泳ぎを披露するのですが、変化が起きたのは水泳だけではありませんでした。
紅子の忠告を忘れて注意書きをきちんと読まなかった真由美。気がはやっている時ほど注意力が散漫になりがちで、そんな彼女の姿に読者もドキリとするのではないでしょうか。
どうやら紅子は、客がふしぎな駄菓子をどのように扱うのか、どこかで見ているよう……1話読むだけで「銭天堂」シリーズの魅力に惹き込まれてしまう物語です。
一人暮らしをしているみどりという女性。紅茶の葉を買い忘れたことに気付き、戻ろうと踵を返した瞬間に銭天堂が現れました。駄菓子屋に紅茶の葉は置いていないはずなのに、なぜか身体は銭天堂に向かい、紅子から「おもてなしティー」を買うことになちます。
「おもてなしティー」には、お客様用のティーカップに紅茶を注ぐと、孤独を癒す友達を呼んでくれるというふしぎな力がありました。みどりは紅茶の魔法で呼び出されたサンタクロースやダンサーなどと楽しい時間を過ごします。
そして最後の1回分の紅茶をいれた時、彼女の目の前に現れたのは……。
- 著者
- ["廣嶋 玲子", "jyajya"]
- 出版日
2014年に刊行された「銭天堂」シリーズの2巻。「おもてなしティー」の最後の1回分には、運命の人を呼び出せるかもしれない特別な魔法が備わっていました。みどりはこの力に気付かないまま、紅茶をいれます。
ほろ苦い小学校時代の思い出と、甘いケーキが奏でる素敵な結末。子どもにはちょっぴり早いような大人のロマンスが描かれ、想像が膨らむ作品です。
毎晩ファミレスに現れるやさぐれた男性に、ひとりの客が声を掛けました。
その客は、男がかつてカリスマ美容師と呼ばれていたことや、事故を起こしてしまったことを知っているようです。そして、人生が転落した理由が銭天堂にあると触れ回っていることに興味を示し、男から話を聞き始めました。
- 著者
- ["jyajya", "玲子, 廣嶋"]
- 出版日
2019年に刊行された「銭天堂」シリーズの12巻。よどみとの対決に決着をつけた紅子に新たな敵が現れる、第2シーズンの始まりです。
本書に登場する駄菓子は、ものまねがうまくなるチョコレート「インココイン」や、自分と同じ趣味をもつ人が一目でわかる「お仲間まんじゅう」など。その扱い方しだいで結末がハッピーエンドだったり違ったりするストーリーが並びます。
それぞれの物語を横串で刺すかのように展開していくのが、銭天堂で売るお菓子の副作用を調べる謎の紳士です。彼は、紅子から駄菓子を買った客をつきとめ、その顛末をリサーチしていきます。紳士はいったい何者なのでしょうか。深まる謎にページをめくるスピードがあがる一冊になっています。
銭天堂をリサーチしていたのは、六条教授と呼ばれる初老の紳士でした。
彼の研究所では、振り分けた小銭が集められ、次の計画が実行されようとしています。手先を銭天堂に辿り着かせようとする六条ですが、客が同じ小銭袋を持っていることに気付いた紅子は……。
- 著者
- ["廣嶋玲子", "jyajya"]
- 出版日
2020年に刊行された「銭天堂」シリーズの13巻。紅子に危機が迫り、ハラハラしながら読むことになるでしょう。
本書に登場する駄菓子も、連載漫画の続きが読める「先取りメガネ」や、自分に合う服が見つかる「ぴったりピーナッツ」など、あったらいいなと子どもたちが胸を躍らせるものばかり。これまでのエピソードと同じように、説明書をきちんと読まなかったために思わぬ仕打ちを受けることもあるので注意が必要です。
六条教授の目的はまだ明かされませんが、紅子は不審な動きに感づきます。次巻の展開が気になる一冊です。