人物描写と切ない展開が魅力の榎田尤利作品。BLだからと読まず嫌いをしたら損をする!と言い切れるくらい良作揃いです。ライトノベル作家としても活躍する榎田尤利の作品のおすすめを5作ご紹介します。
『エロティック』をテーマに、人気イラストレーターとともに描く短編集です。
上司×部下(扉絵:えすとえむ)、同期に近いサラリーマン同士(扉絵:越乃)、顧問弁護士×ヤクザ(扉絵:円陣闇丸)、女装の新入社員×兄貴分サラリーマン(扉絵:鬼嶋兵伍)、若き取締役×秘書(扉絵:中村明日美子)、書生→作家(扉絵:今市子)となっています。
- 著者
- 榎田 尤利
- 出版日
- 2012-08-20
切り取られた時間で、いろいろなエロティシズムを描いています。少々断片的な印象がありますが、物語の作り方、見せ方はとても巧みです。
最終話として収録されている書生さんのお話は、作家との往復書簡形式になっていて、触れ合うことはおろか、会うこともありません。その距離感が逆にお互いの強い気持ちを引き立て、精神的な抑圧に色気を感じます。直接的でないこのお話は最後まで美しく、儚いせつなさに満ちています。
ふだんの長編とは趣が異なるのですが、個性豊かな作品を色々楽しめるものとして一読の価値があります。
31歳の弁護士・久我山は自殺した担任の通夜の帰り道事故に会い、17歳の高校生に戻ってしまいます。成長した意識のまま戻ったことで周囲に馴染めない久我山に、担任の曽根は諦めずに関わってこようとします。
最初は煩わしがっていた久我山も曽根の優しさに惹かれ、いつしかその甘い声を求めるようになっていく久我山。しかし曽根には恋人がいる上、教師という立場が二人の障害として立ちふさがり……。
- 著者
- 榎田 尤利
- 出版日
- 2009-10-19
何と言っても障害に悩みながらも、久我山が曽根の未来を変えたいという気持ちに突き動かされ、変化していく様子が素晴らしいです。30代の視点をもって17歳を生きる彼の視点は、なにもかもが違く、恋をする相手も変わっていきます。この恋は、あたりまえの17歳のままだったらしなかったはずの、ある「はつ恋」の話なのです。
その久我山の気持ちが溢れた号泣のシーンは胸に詰まるものがあります。曽根の未来を救うために行動を変えてゆく久我山。彼は初めて感じる熱い気持ちに戸惑い、それまで流すことのなかった涙を流します。
攻めである久我山がもう一度青春を体験して変わってゆく姿がピュアで美しい、31歳の男の「はつ恋」についての物語です。
久留米充は一般のサラリーマン。そんな彼は友人・魚住真澄と同居中です。彼は誰もが羨む美貌で、男女問わず虜にしてしまうくせに生活力は皆無。しかし充にはその魅力は通じず、迷惑な居候に過ぎませんでした。
それなのに、狭いアパートの一室で毎日顔を合わせているうちに、だんだんと気持ちが揺れ出して……。決して同性愛者ではないふたりが惹かれ合って、身体も心も結ばれていくお話です。
- 著者
- 榎田 ユウリ
- 出版日
- 2014-07-25
この作品は普通の男同士の青春小説のように始まっていきます。二人のあたたかい日常とやさしい感情の起伏がのんびりと物語を進めていきます。そんななのんびりした展開の中で、感情に疎い魚住が久留米に惹かれていき、久留米もまた魚住が気になっていく様子がいじらしく、やきもきしてしまいます。
じつは魚住は重い生い立ちを抱えているのですが、甘え過ぎずに自分の足で立っていて、とても飄々としています。王道の設定も、作風の優しさにいいスパイスとなって効いてきます。
作風と合わせてその他の登場人物も個性的ながら、普通に生きていて、弱さも強さもちゃんと持っていて、ふっと隣にいそうに思えてくるひとたちばかり。シリーズもので味わいたい、スローペースで優しいBL小説に仕上がっています。
会員制のデートクラブ「Pet Lovers」から「犬」として、轡田の屋敷に派遣された三浦倖生を待っていたのは、人でありながら犬扱いされる躾の日々で……。
男娼がほしかったのではなく、ホンモノの「犬」を求めていた轡田に徹底的に犬扱いされる、反発しつつも甘やかされ可愛がられていくうちに、倖生はその関係性に溺れていきます。
- 著者
- 榎田 尤利
- 出版日
- 2006-06-26
あまり幸せな生い立ちではない倖生なので、この状態がとても嬉しいのですね。構われていたいんです。そのあたりの描かれ方がとてもいじらしくて、恋心を自覚していく様子も切なくて可愛らしい。そして実は攻めの轡田も家族に縁のない環境で育っているのです。
倖生だけでなく、轡田も寂しい部分があり、その隙間を埋めるように二人が惹かれ合っていく姿が犬とご主人様という病的な結びつきの設定でより激しい想いを感じさせます。二人男性が恋に溺れていく姿が激しく、美しく書かれた作品です。
芽吹章は元検事で元弁護士。暴力・脅迫・強制が大嫌いで、弱い立場の人を救うため、国際紛争と嫁姑問題以外はなんでも扱う交渉人として『芽吹ネゴオフィス』を経営していました。ある日、二度と会いたくない男・兵頭寿悦がヤクザとなって彼の現れて……。
- 著者
- 榎田 尤利
- 出版日
- 2007-02-23
芽吹がしっかり足を地につけて生きる理知的な姿が印象的で、男らしい。一方の兵頭はとにかく芽吹が大好きだ!というまっすぐな感情で押しまくります。そんなふたりのお話。
職業がヤクザと民間の交渉人ですから、仕事内容はよくわからないのですが、人物描写が魅力的で、会話のテンポがいいので、一気に読むことができます。このテンポ良さで読者をスピード感ある展開に引き込ませます。そして明かされる互いに持つ悲しい過去の秘密で緩急をつけた読み応えのある作品となっています。
BLとして考えたら、エロは多くないですが、このふたりの関係性を見ているだけで満足できてしまう不思議な作品でもあります。全7巻ありますが、最後まですべてがおすすめですよ!