漫画『ARMS』はストーリーの面白さ、中二病心をくすぐる秀逸な設定、数多くの名言・名シーンで絶大な人気のSFアクション漫画です。この記事ではアニメ・ゲームにもなった漫画『ARMS』の魅力やストーリーを、わかりやすくご紹介していきます。 超常的な能力を持つナノマシン兵器「ARMS」を移植された少年少女が、強大な軍事秘密結社と暗闘を繰り返し、平和を取り戻す物語です。
普通に生活していたはずの高校生が、ある事件をきっかけとして自分の中に眠るナノマシン兵器「ARMS」に覚醒。世界的な軍事秘密結社「エグリゴリ」の陰謀に巻き込まれ、日常とかけはなれた戦いの日々を送らざるを得なくなります。
漫画『ARMS』は1997年から「週刊少年サンデー」で連載されていた作品です。2000年代前半には『PROJECT ARMS』と改題して、アニメ化およびゲーム化もされました。
作者の皆川亮二は重厚なストーリーテリングと緻密な設定に定評のある漫画家で、『ARMS』の他に古代文明の遺産を巡るSFアクション『スプリガン』でも有名。
『ARMS』は主人公達の出生の秘密と軍事結社の陰謀を軸にして、ナノマシンをはじめとするSF設定がふんだんに盛り込まれ、熱い台詞やシビれる展開が魅力です。ハードSFと正統派少年漫画を両立した名作といえるでしょう。
今回はそんな漫画『ARMS』の魅力や名言、今も多くのファンに支持されるストーリー全巻分を一挙にご紹介していきます。
- 著者
- ["亮二, 皆川", "鏡一, 七月"]
- 出版日
漫画『ARMS』は自分の意志とは無関係に、ナノマシン兵器「ARMS」を人体移植された17歳の少年少女の物語です。そこででまず注目すべきは、主要人物となる4人のキャラ。
主人公の高槻涼は飄々とした性格の少年です。圧倒的な破壊力を持ち、進化し続ける最強の「ARMS」ジャバウォックの持ち主。
最初は涼と敵対するものの、のちに欠かせない親友となるのが新宮隼人。血気盛んな少年ですが、ムードメーカー的な一面があります。「ARMS」は剣にも盾にもなるもっとも硬いナイト。
気弱な巴武士はチームの抑え役。戦いを苦手とする内向的な少年でしたが、中盤以降は目覚ましい活躍を見せます。彼の成長は物語の見所の1つ。彼のホワイトラビットは移動力に長けた「ARMS」です。
仲間の中ではもっとも最後に加入するヒロイン、久留間恵。戦闘能力は皆無ながら、あらゆるものを見通す「ARMS」クイーン・オブ・ハートを武器に戦闘を指揮するリーダー格。
そして物語の途中で行方不明になる、涼の幼馴染み赤木カツミも忘れてはいけません。彼女を取り戻すことが涼の戦う動機でもあります。カツミはただの一般人ですが、なぜか恵と瓜二つ。その理由とは……。
物語全編に渡って主人公に立ち塞がるのは、「エグリゴリ」を統括する存在「キース」。主人公らとは異なる「ARMS」を所持しており、同じ名前の青年が複数登場します。
世界的秘密組織と敵対する関係上、基本的に主人公サイドは少数。しかし敵味方ともに、非常に印象深いキャラが多数出てくるのが本作の魅力になっています。
本作のSF部分は単純な設定だけに留まらず、理論立てた科学的説明が付けられるため、普通の少年漫画にはない説得力があります。群集心理を突いた科学的作戦なども描かれて、海外の小説などと比べても遜色ないでしょう。
たとえばタイトルにもなっている「ARMS」は、秘密結社「エグリゴリ」の生み出したナノマシン兵器ですが、厳密にいえば炭素(有機物)と珪素(無機物)の融合したハイブリッド生命体と呼ぶべき代物。物語中盤以降に出てくる量産型ARMSなどを除く、主人公達に移植された「オリジナルARMS」4体は、独自の思考と意志すら持っています。「ARMS」の起源が物語の核心にも繋がっています。
現実にある科学技術の延長線上にある、クローンも重要な要素です。人工的に生み出された天才、クローニングと遺伝子操作で造られた超能力者などが、劇中の各所で活躍します。
作品のタイトルにもなっている「ARMS」や、作中で派手に披露される能力も魅力的です。数え上げればキリがないので、代表的なものに絞ってご紹介します。
まず主人公達が持つ「オリジナルARMS」。涼のジャバウォックは魔獣とも呼ばれ、作中最強の戦闘力があります。初期は右腕が変形した際の攻撃力、ナノマシン「ARMS」の再生力を無効化する「ARMS殺し」が主な能力ですが、完全体となって覚醒した暁には惑星規模の破壊が可能な反物質砲を獲得します。
完全体ジャバウォックはまるで鬼のような姿ですが、隼人の完全体ナイトはそれと正反対。名前のとおり全身鎧の騎士となり、あらゆる物質を粉砕する「ミストルテインの槍」をふるう、ヒロイックな戦い方が印象的です。
敵側の使う「アドバンストARMS」も要注目。こちらは自我を持たない「ARMS」で、より扱いやすい実戦的兵器となっています。マッドハッターの荷電粒子砲「ブリューナクの槍」、空間断裂を引き起こすチェシャキャットの「魔剣アンサラー」など、威力も見た目も「オリジナルARMS」とまったく遜色ありません。
勘のよい方はお気づきかとおもいますが、「ARMS」の名前は『不思議の国のアリス』に由来しており、技名などは神話が元ネタだったりします。その辺りに注目して読めば、より一層楽しめるでしょう。
漫画『ARMS』は名シーンが多く、そこでかわされる魅力的キャラの放つ台詞があまりにも格好いいため、いわゆる中二病心に突き刺さると評判です。あまりにも多数あるのですべては紹介しきれませんが、特に印象的な名言・名シーンを3つご紹介しましょう。
「人の足を止めるのは絶望ではなく"諦観(あきらめ)"、
人の足を進めるのは希望ではなく"意志"」
(『ARMS』18巻より引用)
作中ではある人物の受け売りとして、隼人が言い放ちます。諦めない意志さえあれば、未来がひらける……人生の標語にしたいくらいの名言です。
- 著者
- ["亮二, 皆川", "鏡一, 七月"]
- 出版日
「ギリシャ神話で災厄がいっぱい詰まったパンドラの箱に、どうして一緒に希望が入っていたと思います!?」
「希望こそが………
ヒトにとって最も恐ろしい災厄だからですよ…」
(『ARMS』17巻より引用)
発言者は涼達を「エグリゴリ」中枢に誘い込んだキース・ブラックです。希望にすがりついた者が、最悪の結果を導くことを示唆しました。どんなによい結果でも、冷静に判断しなければいけないと思わせる名言。
- 著者
- ["亮二, 皆川", "鏡一, 七月"]
- 出版日
「力が欲しいか!!」
「力が欲しいのならくれてやる!!」
(『ARMS』1巻より引用)
漫画『ARMS』の代名詞ともいえる名言です。最初に言ったのはジャバウォックですが、最終盤にはある事情で使用不能となっていた全「オリジナルARMS」が、この台詞とともに復活するという激アツな展開を見せてくれます。
漫画『ARMS』の魅力についていろいろ述べてきましたが、結局のところ最大の魅力はストーリーに集約されます。本編は大きく分けて4部構成となっているので、ここからは各部ごとにあらすじと注目ポイントをご紹介していきましょう。
高槻涼は少しサバイバル能力に秀でたところがあるものの、普通の男子高校生でした。しかし、新宮隼人の転校を機に、涼の日常が一変します。秘密結社「エグリゴリ」による執拗な強襲。涼と隼人、そして巴武士の3人は幼少期に事故で手か足を失い、代わりに「エグリゴリ」が求める「ARMS」を移植されていたのです。
3人は敵の追跡をかわしつつ、すべてが始まった隼人の故郷・鐙沢(あぶみさわ)村へと向かいます。
第1部は日常の瓦解がテーマでしょう。涼達が平和な日本社会から、徐々に危険な戦場へ踏み込んでいく様子が描かれます。主人公達の出生の秘密、「ARMS」との関係、そしてラストの展開が衝撃的です。
- 著者
- ["亮二, 皆川", "鏡一, 七月"]
- 出版日
鐙沢村の一件で幼馴染みの赤木カツミを失った涼は、自ら周囲と孤立していきます。そんな彼を訪ねてカツミそっくりの少女、久留間恵がやって来ます。彼女はエグリゴリ抵抗組織「ブルーメン」の使者でした。
仲間は増えましたが、「エグリゴリ」の追撃はまったく収まりません。超能力を使う強敵の猛攻、一地方都市全体を巻き込んだ残酷な作戦が涼達を襲います。
ここから『ARMS』の本番と言っていいでしょう。無関係な一般人の犠牲をはじめとして、容赦なく激化する戦況に圧倒されます。知将ガウス・ゴールの仕掛ける「スナーク狩り」作戦は、サスペンスドラマさながらの恐ろしさがありました。
- 著者
- ["亮二, 皆川", "鏡一, 七月"]
- 出版日
「ARMS」の正体、「エグリゴリ」の起源。それらはどちらも、1人の科学者の思い描いた妄執、「プログラム・ジャバウォック」が根底にありました。憎悪によって無制限に進化する涼のジャバウォックこそが、その計画の要でした。すべてを知った涼達と「エグリゴリ」の黒幕による最後の戦いが始まります。
世界規模の戦闘はもちろん、涼達と「オリジナルARMS」同士の微妙な関係も見所。同じ「オリジナルARMS」でも、ジャバウォックとナイト達は明らかに役割が違います。隼人や武士の意志とは裏腹に、「涼=ジャバウォック」と敵対しかける流れにもハラハラさせられました。
「エグリゴリ」との決戦で、すべての因縁に終止符が打たれますが……。
- 著者
- ["亮二, 皆川", "鏡一, 七月"]
- 出版日
決戦によって「プログラム・ジャバウォック」は未然に防がれました。涼達は「エグリゴリ」に軟禁されていたカツミと再会。役目を終えた「ARMS」は機能停止し、平和が戻った……はずでした。
魔獣ジャバウォックと対をなす神獣。カツミの体内で生まれた新たな「ARMS」が、世界を滅ぼす計画「プログラム・バンダースナッチ」が密かに進行していたのです。
やっと救出できたカツミが最悪の敵になるという、まさかの展開。しかも涼達の「オリジナルARMS」は沈黙したままで、生身で戦わなければいけない絶望感が、登場人物はおろか読者をも震え上がらせます。
物語がどんな結末を迎えるのか、ぜひ実際にご覧ください。
- 著者
- ["亮二, 皆川", "鏡一, 七月"]
- 出版日
漫画『ARMS』は2021年現在も未だに色褪せない不朽の名作です。約20年前の作品ですが、先進的なSF設定が見事なため今読んでも古くささがまったくありません。現在新たに生み出されている少年漫画家に大きな影響を与えている作品でもあります。未読の方はぜひ、この機会に読んでみてください。
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