映画化され話題になった漫画『ミュージアム』。ヒット作品でありながら全3巻という短さで完結した本作。今回は、その魅力を余すところなくご紹介していきます。最終回で示された3つ目のエンディングについても考察を交えながら徹底解説します。
「週刊ヤングマガジン」で連載されていた衝撃的な漫画『ミュージアム』。
この漫画は、カエルの仮面をかぶったある殺人鬼(以下、「カエル男」)の逮捕を巡る物語なのですが、その殺害手法の凄惨さが飛びぬけており、漫画連載時点で話題になっていました。
カエル男はアーティストを気取っており、その殺害手法にはとにかくこだわりがありました。殺害シーンはかなりエグい描写となっており、おぞましい内容のはずなのに、怖いもの見たさでページをめくる手が止まらなくなるのです。
今回はそんな『ミュージアム』の魅力を、各巻のハイライトとともにネタバレありでご紹介します。
- 著者
- 巴 亮介
- 出版日
- 2013-11-06
この物語は、あるひとりの女性が獰猛な犬に生きたまま食い殺されるという、極めて残酷な方法で殺害されたところから始まります。その犬が吐き出した紙には「ドッグフードの刑」と書かれていました。
主人公である刑事・沢村の予想どおり、その後も連続して異常な殺害方法による被害者の遺体が発見されます。そしてあろうことか、沢村の妻である遥もカエル男に狙われていることが判明するのです。
殺人鬼の手から愛する妻を守れるのでしょうか……。手に汗握る展開で畳みかけるように疾走するサスペンスホラー作品です。
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「ドッグフードの刑」に続き、働きもせずに食っちゃ寝生活をし遊んでいたニートが「母の痛みを知りましょうの刑」として殺害されます。
殺害現場には、秤(はかり)が置いてありました。その秤の上に置かれたバケツには、3280キログラムちょうどになるように、耳や鼻、そして頭部など切り取った部位が入れられていました。これは、出生体重を意味し、母の出産の痛みを思い知らせるべく用いられた殺害方法でした。
これに続き発見されたのは、「均等の愛の刑」として体を上から真っ二つにされ、妻と不倫相手それぞれに段ボール詰めにして郵送された遺体でした。
その次には、整形で美貌を保っていた55歳の女性が全身を冷凍されて殺害された「ずっと美しくの刑」。さらに、占い師の男性が手足を縛られ無数の画鋲を飲まされて殺害された「針千本のーますの刑」と、猟奇的な殺され方をした遺体が次々と発見されます。
これら被害者の共通点は、かつて「幼女樹脂詰め殺人事件」を担当した裁判官と裁判員でした。裁判員らが被告人に下した判決は、「死刑」。判決結果にショックを受けた被告人の大橋茂は、移送された警察病院で首つり自殺をしました。
警察官は、大橋茂と親しかった人物による復讐と考え、その線で捜査に当たります。
- 著者
- 巴 亮介
- 出版日
- 2013-11-06
そして、友人の家に身を潜めていた沢村の妻子がカエル男にさらわれるという事件がおきます。その後、カエル男の方から沢村の前に姿を見せます。
「僕には君が必要なんだ」(『ミュージアム』1巻より引用)
不敵で意味不明なセリフを沢村に向けるカエル男。そして、カエル男は衝撃の動機を語りだします。
実は、「幼女樹脂詰め殺人事件」の犯人もカエル男だったのです。アーティストを気取る彼は、幼女樹脂詰め殺人事件のことを「傑作」と呼び、これまでも誰にもまねできない数々の作品を生み出してきたと語ります。
しかし、そんな傑作が無能な裁判員たちのせいで冤罪になった大橋茂という凡人の「作品」、つまり犯行であると世間に認知されてしまったことを恨み、裁判員たちに私刑を下していたと明かしたのです。
1巻では、これまでに見たことも聞いたこともないような凄惨な殺害方法がいくつも描かれます。不謹慎にも、次はどんな殺し方なのだろうか……とページをめくる手が止まらなくなるでしょう。
それだけでなく、刑事として有能な沢村の推理力と、それを嘲笑うかのように真実を明かしていくカエル男とのやりとりではミステリー要素もたっぷりで、「早く続きを読みたい」と思える内容です。
妻子をカエル男にさらわれた沢村は、カエル男が雨の日にしか犯行に及ばないことをヒントに、カエル男には重度の日光アレルギーがあると推理し、専門の医師のところをめぐりました。
医師は、同様の症状や特徴を持つ人間は、「霧島早苗」であると明かしますが、彼の父親と継母は、無数にコマ切れにされまるでひとりの人間のように並べられていたという未解決の猟奇殺人事件の被害者でした。そんなトラウマを抱える早苗が犯人なわけがない、と医師は主張します。
しかし、沢村はこの話を聞いて、今回の連続殺人事件、そして夫婦バラバラ殺人事件の犯人も霧島早苗であると確信しました。
- 著者
- 巴 亮介
- 出版日
- 2014-01-06
その後、霧島の家を突き止め、中に侵入した沢村は、ついにカエル男と対面します。しかし、凶器を持ったカエル男に反撃され、沢村は「スイートルーム」と彼が称する簡素な部屋に閉じ込められました。
そこはパスワードを打ち込まないと扉が開けられない部屋で、鍵のヒントとなりそうな難解なジグソーパズルが置かれていました。ジグソーパズルの完成には膨大な時間がかかり、疲弊しきった沢村にはハンバーガーとコーラが与えられます。
最初は毒が入っているかと警戒していた沢村も、殺すならとっとと殺しているだろうと開き直り、口にしました。数時間おきに投げ入れられる、「まずいハンバーガーと生ぬるいコーラ」。これらが4回投げ入れられ、それを食べ終えたころ、パズルの答えが「EAT」であると気付きます。 「EAT」、つまり「食べる」。
この行為として思い当たるのは、4つも食べてしまったまずいハンバーガー……。呆然とした沢村の表情で2巻は終わりを迎えます。
2巻の見どころは、カエル男の家を突き止めた沢村とカエル男との格闘シーンです。1巻から2巻にかけてカエル男に対して積もり積もった沢村の怒りが噴出する場面は痛快です。
しかし、これだけでは終わりません。次巻もカエル男の不敵さが一層引き出されるものになっています。
「EAT」というパスワードと食べかけのハンバーガーを見つめ、「よせよ オイ…」とつぶやく沢村。パスワードを入れて扉が開いた先は、血まみれの包丁、剃刀、ミンチマシーン、そして沢村の妻子の写真が貼られた冷蔵庫でした。 誘い込まれるように冷蔵庫を開けた彼の目に飛び込んできたのは、妻と子の頭部……のように精巧に作られた物体でした。
これは、沢村がカエル男に強い殺意を持たせるために仕組んだものでした。激高した沢村はカエル男に対し、所持していた拳銃で発砲します。入り組んだつくりになっているカエル男の家は、曲がり角だらけです。カエル男は、角を曲がって避けることで沢村の追撃をかわします。
そして、ある角を曲がった先には、カエル男とまったく同じ格好をさせられていた妻・遥の姿がありました。
「激高した沢村が、カエル男の格好をさせられた妻を見つけ、怒りに任せて射殺する。」これがカエル男の用意した「お仕事見学の刑」の執行方法でした。
しかし沢村は、目の前にある後ろ姿が、何度も何度も思い返していた遥の後ろ姿と同じであることを見抜きます。
- 著者
- 巴 亮介
- 出版日
- 2014-04-04
これに憤慨したのは、あと少しのところで作品が完成したはずだったカエル男。彼は、「美しく終わりたかった」、「こんなやり方は僕の美学に反する……」と言いながら沢村の息子を人質にとり、拳銃を構えます。
そこに現れたのは、息子の声を聞きつけた遥。カエル男と息子、沢村、遥の順番で、三者は一直線上に並びます。沢村の足元には、自分で持ち込んだ拳銃が転がっていました。
この状況でカエル男は、「沢村遥を殺せ、それが坊やを救う条件だ」と冷たく沢村に言い放ちます。 沢村は、自分は殺されたっていいから妻と子は見逃してくれ、と答えました。そして、足元に落ちている自分の拳銃を一瞥しますが、またその目線をカエル男に戻します。
カエル男は、沢村が何と答えるのか、そして自分の拳銃を一瞥してどんな行動を起こすのかをゆっくり確認したうえで、「……それが答えか」 と答えます。
そのうえで、エンディングは3つあった、とつぶやくのです。
1つ目は、カエル男から言われたとおり沢村が遥を殺して息子と2人生き残るパターン。2つ目は、カエル男の隙を狙って足元の拳銃を拾い上げてカエル男を撃ち殺し、家族3人が生き残るパターン。そして最後の3つ目は……、と言いかけたところで、カエル男は駆け付けた沢村の上司に銃を向けられます。
沢村の上司から発砲を受けたものの、下に防弾チョッキを着こんでいたカエル男は「こんな所で終わるものかッ!!」と叫びながら、家の外に出ます。しかし、外は雨が止み強い日差しが降り注いでいました。日光アレルギーのカエル男はアレルギーを発症し、ブクブクに顔面が腫れ、意識不明となり倒れました……。
こうして事件は解決したのですが、心に傷をかかえた沢村は警察を辞め、カウンセリングに通う日々となります。ふとしたタイミングで事件のことを思い出す沢村。ふと、カエル男がいいかけた「3つ目のエンディング」が何であったのかを妄想してしまうのです。
妄想の結果、それは「カエル男に銃で撃ち殺され、家族3人が天国で暮らすエンディングだったのではないか」と考えた沢村は、生気を失った目で、息子がバースデーケーキの火を吹き消す姿を見つめるのです。その吹き消されたろうそくの煙は、まるで墓前の線香の煙のように立ち昇り、物語は終わりを迎えます。
最終巻である3巻の見どころは、カエル男が提示しようとしていた3つ目のエンディングです。読後にすんなり納得がいくか、何を自分は期待していたのか、想像するだけでワクワクする魅力的な問題提起がなされています。
作中、沢村は家族3人がカエル男に殺されるエンディングを想像しました。 しかし、これが正解なのでしょうか、他に可能性はないのでしょうか。カエル男の言動から、その可能性を探っていきたいと思います。
(1)カエル男の目的
まず、カエル男にとって、最も重要なゴールは何でしょうか?
この物語の主役は沢村です。そして、1巻から3巻にわたり、沢村がカエル男によって苦しめられる姿が延々と描かれています。そのため、カエル男は彼にとって残酷な結末を用意していたのではないか……という勘違いに陥ってしまうかもしれません。
しかし、カエル男の目的は、自身のアート、つまり幼女樹脂詰め殺人事件で誤審した裁判員たちを、それぞれが報いを受けるにふさわしい刑によって殺害することにあります。そして、その裁判員であったのは、沢村ではなく、沢村の妻である遥です。
そう考えると、カエル男にとって最低限必要なことは、遥の死であり、沢村を苦しめることではありません。たとえば、カエル男が自殺して復讐の機会を失わせるというラストなどは正解ではないことになります。
これは、カエル男があくまで自分はアーティストであり、今後も作品を作り続けていくと考えているであろうこと、また「こんな所で終わるものかッ!!」と叫んでいたことからも明らかです。
(2)3つ目のエンディングは、沢村が銃を拾ってから起きること?
では、3つ目のエンディングを探るうえで、何がヒントになるのでしょうか。ヒントは、カエル男が沢村に与えたシチュエーションにあります。このとき、カエル男と息子、沢村(足元に拳銃)、遥、という直線状の位置関係にありました。ここでカエル男が沢村に指示をしたのは、足元の拳銃を拾って遥を撃って殺させることです。
この状況でキーになるのは、沢村が取り得る行動は何パターンあるのか、ということです。考えられるパターンは①銃を拾うこと、②銃を拾わないこと、このふたつでしょう。
そして、カエル男が提示した1つ目と2つ目のエンディングは、どちらも①銃を拾うこと、に関するものでした。「銃を拾った後」に妻を撃つのが1つ目のエンディング、「銃を拾った後」にカエル男を撃つのが2つ目のエンディングです。
では、銃を拾った後にあり得る沢村の行動には何があるでしょうか。
観念的には、自分を撃つ、息子を撃つ、といった可能性から、遥を撃ってカエル男も撃つ、息子を撃って自分も撃つ、遥を撃って息子も撃つ……など、さまざまなパターンが挙げられますが、いずれも合理的ではありません。
沢村にしてみれば、あくまで妻か息子、あるいは両方を救うための行動しかあり得ません。そうすると、やはりカエル男が提示した2つのパターンしかあり得ないことになります。なので、3つ目のエンディングは②沢村が銃を拾わないこと、の後に起きるパターンだということが明らかになります。
(3)沢村が「銃を拾わなかった」後に起きるエンディングとは?
では、②銃を拾わない、という選択をした後に起きうる可能性はなんでしょうか。
ここで思い出していただきたいのが、「裁判員であった沢村遥を殺す」というカエル男の最低限の目的です。そのため、遥だけを殺すエンディングと、彼女に加えて沢村や息子を殺すエンディングがありえることになります。
では、この場では殺さない、というエンディングはあり得たでしょうか?
たとえば、カエル男であれば、その場で息子や沢村を殺害し、「自分のせいで無実の大橋とともに家族も死に追いやった気分はどうだ?」という言葉を遥に投げつけることで、彼女を自殺に追い込むこともできたかもしれません。
それを匂わすものとして、3巻の後半でフリーライターと名乗る者が、生き残った遥に対して「どんなものですか?無実の人間を自殺に追い込んだ心境は……どんなものですか?」と質問するシーンがあります。
仮に、これがカエル男が仕組んだものであったら……。また、直接仕組まずとも、この事件の真相が明るみに出れば、大橋茂が無実であったことも明らかになり、遥にこのような質問をしてくるマスコミの者が現れることは想像できます。そこまでカエル男が考えて、息子(と沢村)を殺して遥の精神を殺す、という選択肢はありえるかもしれません。
ただ、ここで問題になるのが、「お仕事見学の刑」との関係です。沢村の刑事としての仕事と関わらない自殺という形での遥の死は、この刑と符合するでしょうか。アーティストとしてのカエル男の美学に合っているのでしょうか。
「美しく終わりたかった」、「こんなやり方は僕の美学に反する……」、そう述べた時点で、カエル男の美学には合っていない以上、もはやあまり気にする必要もないかもしれません。そう考えると、この可能性は「あり」になります。ただ、筆者としては、やはりカエル男はアーティストとしての美学を持っているものと信じ、この選択肢もないものと考えます。
(4)カエル男自身の手によって妻・遥が射殺される可能性!
そうなると、カエル男が自分の所持する拳銃で、遥だけか、遥に加えて沢村とその息子もあわせて殺すか、という選択肢が濃厚になってきます。この場合、あくまで夫である沢村の刑事としての仕事を十分に見学したその現場での死ですから、刑の名前ともぎりぎり符合するといえそうです。
そして、この説には、強力な根拠があります。それは、カエル男が3つのエンディングを語ったときのカエル男の右手の動きにあります。
まず、1つ目のエンディング、つまり沢村が足元の拳銃で遥を殺すエンディングを語っているときには、カエル男の拳銃は下を向いていました。
次に、2つ目のエンディング、つまり沢村がカエル男を殺して家族3人助かるエンディングのときには、カエル男は自分の銃の銃口を自分の頭に持ってきます。
そして、ついに3つ目のエンディングを語る際には、カエル男は、自らの持った拳銃を前に向けて構える姿勢をとったのです。その銃の先には、沢村、そして妻の遥がいます。加えて、先ほども述べましたが、カエル男の狙いはあくまで遥の死です。ですので、この時点でカエル男自らが遥だけ、または遥と沢村を殺すエンディングであることが強く示唆されます。
(5)カエル男は、沢村や息子までも殺害するか?!
疑問となるのは、もしカエル男が遥を殺した場合、その後に沢村や息子も殺すのかという点でしょう。この全員殺されるエンディングこそが沢村が妄想するエンディングですが、カエル男はどう考えていたのでしょうか。
これには、カエル男の美学が反映されると考えるほかありません。あくまで最低限達成しなければならないのは遥の死。沢村や息子を追加で殺すことは、はたして彼の芸術性を高めるでしょうか。
遥がカエル男によって有罪とされたのは、「四六時中休みなく働いて懸命に生活を支える夫を捨てた」ことが原因でした。この罪状からすれば、夫である沢村は懸命に生活を支えてきた、むしろ「無罪」の人物です。当然、息子にも罪はありません。
今回の一連の事件は、裁判員裁判を発端としたものです。カエル男は、裁判になぞらえて、裁判員たちの罪状を認定し、それに合わせた刑を執行してきました。そう考えると、無実の沢村と妻を殺害する必要はない、と考えることができます。
結果として、沢村が想像したエンディングは正しくなく、遥のみが殺されるエンディングが用意されていたと考えるのが適切なのではないでしょうか。
ただし、この仮説では、1巻でカエル男が沢村の後輩である西村を殺害しているのがひっかかります。カエル男が理由のない殺人を良しとしているのであれば、沢村とその息子もあわせて殺してしまうことも考えられます。カエル男の殺人に、本当に美学はあったのでしょうか。
しかし、西村の死が今回のアートの完成に必要なものだったと考えれば説明がつきます。
つまり、今回の遥への刑執行において必要だったのは、警察より先に沢村に自分の居所を突き止めさせることだったのです。
このような状況にもっていくためには、沢村が捜査から外されることと、それでも何としてもやり遂げなければならない理由が必要となります。それこそが、「自分のせいで死んだ後輩の復讐」だったのです。そう考えると、西村の死は今回のアートに必要なピースである、ということになるでしょう。
いかがでしたでしょうか。この作品には、単にエグいシーンを楽しむというだけではなく、含みをもたせたエンディングからいろいろな可能性に思いを馳せる、という楽しみ方もあります。今回ご提示した可能性以外にも、他にはこんなエンディングがあったのではないか、と想像しながら読み返してみるのも楽しいのではないでしょうか。
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※注意 今回ご紹介する作品は非常に刺激の強いものが多くあります。スプラッタやグロテスクに耐性のない方はご注意ください。この警告に同意頂ける方は、夏に向けておすすめしたいスプラッタホラー漫画5作品をどうぞご覧ください。
『ミュージアム』は実写映画化もされています!漫画では味わえない面白さを感じることもできるので、ぜひご覧ください!