『東京タラレバ娘』『海月姫』『ママはテンパリスト』などのヒット作を次々と生み出す大人気漫画家・東村アキコ。そんな作者の半生を描いた『かくかくしかじか』をご紹介します。 ちなみに本作はスマホアプリで基本無料で読むことができますので、そちらもどうぞ。
常にいくつもの連載を抱え、次々とヒット作を生み出す大人気漫画家、東村アキコ。本作は作者の生涯の恩師である日高先生と過ごした日々をつづった物語です。
高校生の林明子(作者の本名)がどのようにして人気漫画家・東村アキコになり、どんな漫画家生活を送ってきたのか。そして恩師・日高先生と過ごした強烈な日々とは。シリアスな場面もある中、東村アキコならではのギャグがちりばめられていて、読者を笑わせてくれます。
また、スマホアプリ「マンガMee」で無料で読むこともできるので、気になった方はご覧ください。
そして物語の終盤で起こる予想もしなかった出来事に、読者は涙を流さずにはいられないことでしょう。そんな『かくかくしかじか』をご紹介します。ネタバレを含みますのでご注意ください。
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オシャレ作品と見せかけて女子心理の痛いところを突き、ハイテンションなギャグをかましてきたと思えば、ドシリアスな場面を描く。変幻自在の漫画家東村アキコの魅力をご紹介いたします。
林明子は漫画が大好きな高校3年生。漫画雑誌「ぶ~け」を愛読し、美術部に所属しています。幼いころから絵を褒められてきた彼女は自分を天才だと思っていて、進路を決める時期になってもなんの勉強もせず、ノリで美術大学に受かるつもりでいました。
しかし、クラスメートの二見に受験はそんなに甘くないといわれ、彼女の紹介で絵画教室に通うことにしたのです。その絵画教室の先生こそが、彼女の生涯の恩師となる日高健三先生なのでした。
- 著者
- 東村 アキコ
- 出版日
- 2012-07-25
先生はジャージ姿で竹刀を持ち、鋭い眼光を放つ見るからに怖い人でした。明子のような若者はもちろん、お年寄りや子供も容赦なくしごくスパルタ先生です。先生に絵を見せろといわれた明子は自信がある絵を出しますが、「全然下手クソでーす!!」と思いきりダメ出しをされ、竹刀で絵をバンバン叩かれておののきます。
教室は誰も先生に逆らうことはできず、怒声を浴びせられ、竹刀で叩かれた生徒の泣き声が聞こえるという異様な光景。さらに先生が描いた不気味な絵を見て、自分が描きたい絵と違うと思った明子は、仮病を使って逃げ帰ってしまいます。
こんな緊迫したシーンですが、東村アキコ流のギャグがいたるところにちりばめられていて、読者を笑わせてくれます。そしてこの後、明子は先生の意外な一面を知ることに。怖いとばかり思っていた先生の本当の心に触れた明子は、教室に通い続けることにしました。
そして季節は過ぎ、本格的な受験シーズンが到来します。明子は運よく推薦入試を受けることができました。早くも合格した気分で浮かれる明子。そして合否が出た日の夜、明子は先生に居酒屋に呼び出されました。
1巻の見所は明子と先生の居酒屋でのシーンです。先生は未成年の明子にビールを注ぎ、一言いいます。
「林、飲め。今日だけ飲んで、明日からまた描くぞ」
(『かくかくしかじか』1巻より抜粋)。
先生のさり気ない優しさが染みる、しみじみとした空気が流れるこのシーンに、読者は心を打たれることでしょう。
全国受験の旅も残り一校となりました。明子は金沢美大へ合格の望みを託して試験を受けますが、うまく描けず、すっかり落ち込みます。先生はそんな明子を散歩に連れ出し、「1年ここで描け。毎日描けば来年はどこでも受かるから」と不器用に慰めてくれました。しかし、家に帰った明子を待っていたのは、まさかの合格通知だったのです。
- 著者
- 東村 アキコ
- 出版日
- 2013-05-24
高校の美術部の後輩たちが明子と二見の合格祝いをしてくれました。遅れてやって来たのは「今ちゃん」というヤンキー部員。ひょんなことから美術部に入部し、絵に目覚めた今ちゃんを、明子は先生に紹介します。このあとの先生と今ちゃんのケンカシーンは爆笑必至です。
明子は金沢で一人暮らしを始めました。大学でバリバリ絵を描くはずだった明子ですが、なぜか描くことができません。明子は絵を放り出して遊びまくるバカ大学生になり、教授からも単位をあげられないと注意される始末でした。
留年が目前の、追いつめられた夏休み。明子は実家に帰省しました。2巻の見所は、ここでの明子と先生とのやり取りです。明子は絵が描けないことから騒動を起こします。そこへ先生が乗り込んできて、こういうのです。
「余計なこと考えんでいいから、見たまんま描け」
(『かくかくしかじか』2巻より抜粋)
そして明子に筆を握らせると「描け!!」と明子の顔をキャンバスに押し付けました。先生に喝を入れられた明子は……。
このシーンでは、先生の迫力と師としての力、そして明子の先生への信頼感をあらためて感じることができます。
そして2巻ではこのあと、明子の人生最大の恋のエピソードがあります。そちらも要チェックです。
明子がひたすら遊び呆けているうちにあっという間に時が過ぎました。高校生のころ、大学在学中に漫画家デビューすると決めていたのに、何もしないまま大学生活が終わろうとしていました。そんなある日、M垣さんという人と展示作業中、明子はふと漫画家になりたいともらします。
そう口にした途端、明子にスイッチが入りました。古本屋でバイトを始め、ありとあらゆる漫画を読みまくって知識を蓄えていったのです。ここで得た経験は、現在のアキコのアイデアの源となっていると本人は振り返ります。
- 著者
- 東村 アキコ
- 出版日
- 2014-01-24
卒業後、明子は日高先生の口利きで高校の美術教師の職を得て、宮崎に戻ります。しかしその話は消え、無職になってしまいました。時間がある明子は毎日先生の教室に通って絵を描くようになります。ここでの根性担当・日高とテクニカル担当・林のエピソードは笑えるので、お見逃しなく。
その後明子は父親が勤務する会社に放り込まれました。そこではパソコンを使って仕事をするのですが、パソコンが苦手な明子はすぐに音をあげます。そして会社を辞めたい一心で、ついに本気で漫画を描き始めるのです。
3巻での見所は、明子の漫画と絵への気持ちの対比、そして先生への気持ちです。明子は漫画家デビューへの道を着々と進んでいました。しかし、それに反比例して絵を描くことから気持ちが遠ざかっていきます。
先生は明子と二人展をやる気満々で、
「描きたいものなんてなくていいんや。
ただ描けばいいんや。
目の前にあるものを」
(『かくかくしかじか』3巻より抜粋)
といって明子に絵を描かせようとします。とてもいい言葉ですが、漫画に気持ちが傾いている明子はその言葉を重く感じるのです。
漫画と絵、そして先生への気持ちに明子は悩みます。そして、先生を誰よりも尊敬しているから、大好きだからこそ、明子はある大きな決断をするのです。心が揺さぶられる明子とともに、読者も複雑な気持ちになることでしょう。
明子は会社・絵画教室・漫画と大忙しの日々を送っていました。会社では率先して残業し、絵画教室では石畳を作りたがる先生のために働き、夜中の空いた時間で漫画を描くのです。周囲の誰もが明子のオーバーワークを心配する中、先生だけは違いました。
4巻での見所は、大忙しの明子にかける先生の言葉です。
- 著者
- 東村 アキコ
- 出版日
- 2014-07-25
「大丈夫や。できる。
お前は若いし体力もあるから大丈夫や。やれ!」
(『かくかくしかじか』4巻より抜粋)
当時の明子にはきつい言葉でしたが、有名漫画家になって、当時よりはるかに多くの原稿を描く現在のアキコには、あの時の先生の「大丈夫」が支えとなっていると振り返ります。先生がアキコに与えた影響の大きさが伝わるエピソードです。
その後も明子は二足のわらじならぬ三足のわらじで頑張り続け、とうとう『きせかえユカちゃん』という作品で初連載を取ります。そしてある日、出版社のパーティーで明子はある漫画家と出会いました。大阪に住んでいるその漫画家と意気投合した彼女は、大阪で描くことを勧められます。
大阪に行くことを決めたのはいいものの、先生にどう伝えようか悩む明子。心の中で様々な葛藤が起こった末、恐る恐る伝えると、先生は意外にもあっさり許してくれたのです。
そして明子は大阪で本格的に漫画家生活を始めました。パーティーで仲良くなった漫画家仲間にいろいろなことを教わったり、産まれて初めて「ど修羅場」を見て感激したり、毎日が楽しく過ぎていきます。そのうち明子は、先生のことを考えないようになっていきました……。
そんな時、明子にある人物から電話がかかってきます。そしてその衝撃の内容に明子はショックを受けるのです。一体何が起きたのでしょうか……!?
明子は先生から大事な頼み事をされ、宮崎へ帰りました。そこで待っていたのは、いつもと変わらない先生。先生のことを気にしながらも、一方で、この様子なら頼み事を聞かなくても大丈夫なのではと考えます。
不安な現実から目をそらし、自分の心をごまかした明子は、先生の頼みごとよりも自分のことを優先してしまいます。そしてこのことは抜けない棘となって、長い間明子を後悔させるのです。このシーンを読んで「若い頃の過ち」にドキッとする読者もいるのではないでしょうか。
- 著者
- 東村 アキコ
- 出版日
- 2015-03-25
5巻では過去と現在の明子が先生への想いをつづっています。そして見所は、絵画教室仲間の集まりで今ちゃんが語った、先生の話です。
友人とライブペインティングをすることになった今ちゃん。先生は今ちゃんのパフォーマンスを見に来てくれました。しかし、今ちゃんはパフォーマンス中に頭が真っ白になり、その場に立ち尽くしてしまいます。そんな彼に先生は、こう一言いったのです。
「描け」(『かくかくしかじか』5巻より抜粋)
この言葉を聞いた瞬間、読者の皆さんは涙が止まらなくなることでしょう。先生への気持ちがあふれる切ないシーン、そして最終回を、ぜひご自身でご覧になってみてください。
名言の番外編。
「ウソじゃねえ!!ノストラダムスの予言は本当じゃ!!」(『かくかくしかじか』2巻より抜粋)
今ちゃんが先生に放った言葉です。