少女漫画にも恋愛ジャンルを要素にした多くの作品がありますが、小説で読むとまた趣が違います。漫画やライトノベルではなく、小説というジャンルで、恋愛を楽しんでみませんか?ここでは特に10代におすすめの作品をご紹介いたします。
高校生の主人公である勝利が、5つ上の従姉妹・かれんと、その弟で中学生の丈と共に暮らすことになる人気シリーズ。それなりの冊数は出ていますが、直木賞受賞経験のある実力派作家の文章には引き込まれます。大きな物語の流れとしては、10巻で一度完結を迎えているので、まずはそこまで読んでみるのもいいと思います。
- 著者
- 村山 由佳
- 出版日
- 1999-06-18
第一巻は「キスまでの距離」と題された作品。久々に会い、大人になった従姉妹・かれんに惹かれていく主人公の姿が、これ以上ないぐらい、ピュアに描かれています。心の交流を重ねる二人でしたが、ふいな出来事で彼女の抱えている秘密を知ってしまった勝利。彼の起こした行動とは、なにか。
照れ臭くなるほどの純朴な姿、美しすぎる純愛が胸を打ちます。純愛恋愛小説のど真ん中をいく本作。甘酸っぱいキラキラした青春の恋に、思わず恋してしまいたくなるかも。
世界的な外資系企業の社長をしている父親を持つ大学生の澄雄と、低賃金の工場と出会い系サイトのサクラをして日々生活しているジュリア。ともに20歳でありながら、対照的な環境にいる二人は、現実世界に絶望感を抱く日常のなか、出会い系サイトで出会います。
- 著者
- 石田 衣良
- 出版日
- 2009-10-06
似た家庭環境で育ったせいもあり、どんどん惹かれあっていく二人ですが、双方の親から反対されてしまいます。そこで駆け落ちを考えていた矢先、ジュリアの父親が病に倒れます。そしてそのことをきっかけに、二人の間はぎこちなくなっていきます。
それまで流されるように生きてきた澄雄がジュリアと出会い、苦悩し、二人の未来を考え始める様子に、やはり大切な人ができると人間はいくらでも変わることができるのだと思えます。
それでも家賃300万の六本木ヒルズに住む澄雄と、借金取りに追われる父親を持つジュリアとでは、あまりに住む世界が違いすぎ、どんどん現実が二人の間に深い淵を作っていきます。
現代版ロミオとジュリエットともいうべきこの作品では、二人はどのような結末を迎えるのでしょうか?あなたがジュリアだったら、あるいは澄雄だったら、どのような選択をするでしょうか?
島本理生のデビュー作で、女子高生である「わたし」を中心としたお話です。「霧雨のような」冠くんをはじめ、登場するのは数人の少年たちだけ。
10代独特の気持ちの移り変わりや危うさの描写がとても上手で、作者が10代のころに書いたということにも納得できます。
- 著者
- 島本 理生
- 出版日
- 2004-11-16
決して嫌いあって別れたわけではない相手は、いつまでもその人にとって大切な人でしょうし、だからといって現在の恋人のことを大切にしていないわけではありません。この作品に登場する人物は、皆誰かを大切に思っているのに、その思いを実らせられないまますれ違ってしまうのです。
決して戻らない時間の中で、人を大切に思う心がその真意は変わず、ゆっくりと色味を変えていく様が非常に美しく描かれています。
割と短い小説なので、非常に読みやすい作品です。当時10代の作者が書いたみずみずしい感性を是非感じてください。
高校3年生の優希は友人に誘われて訪れた喫茶店「二枚の私のハンカチ」で、クールな店員・悟と出会います。一杯700円もする珈琲に対する、飲む前、飲んだ直後の優希の感想が非常に素直で好感が持てます。
- 著者
- 楡井 亜木子
- 出版日
- 2010-07-06
彼の存在が気になった優希はまたその喫茶店を一人で訪れるのでした。最初は30歳過ぎの悟と優希の関係に対し、はらはらと心配しながら保護者のように読んでいるのですが、悟の弱さや優希の強さを見ているうちに、いつの間にか応援している自分に気づきます。
誕生日を祝われたことのない悟に、優希がたくさんの手料理を作り、二人で過ごしているシーンでは、まるで母のような強さすら感じます。誰かを好きになると、そして相手が自分を好きでいてくれると、人はいくらでも強くなれるのでしょう。愛を感じる美しいシーンで、そんなことが感じられます。
倍ほど年齢が違っても、違いが持つ弱さと強さがうまくかみ合うとき、人と人の関係はうまく続いていくのだと感じられます。非常に正統派感のある年の差恋愛小説です。
虫壁知加子と安藤正次、そして二人が生活する周囲の人々の関係を描いたお話です。
真面目すぎる知加子と、人嫌いの雰囲気を持つ正次は、会社の同期であるが故に、どこか心の底で信頼感を持っていました。偶然近くに住んでいることもあり、会社以外でも会うことがある二人が、少しずつ距離を近づけていく様子が描かれています。
- 著者
- 伊藤 たかみ
- 出版日
- 2013-01-25
この作品は恋愛小説にありがちな、「ドキドキ、キラキラ」のようなときめきはあまり散りばめられていません。ですが、それが逆に二人の存在と、その気持ちの動きがリアルに伝わってきます。
一人でダーツをしていて相手の不在を強く思い、自分が今寂しいと感じているということを客観的に確認したりするところなどは、まさに自分がその人を好きなのだと認識する瞬間ではないでしょうか。
そんな自分の感情をぼうっとみつめるようなのんびりと、そして俯瞰的に見つめた視線が面白い、スローペースな恋愛小説です。
6つの短編が収録されています。ここでは作品タイトルにもなっている『風味絶佳』についてご紹介いたします。
自分をグランマと呼ばせる祖母に、徹底的にアメリカ的な女性への優しさを叩き込まれた志郎。それとは対照的に、尽くす母と父を持つ志郎は、自分の中に女性への接し方にどこかわだかまりを持っていたのでしょう。
- 著者
- 山田 詠美
- 出版日
- 2008-05-09
同じバイトの後輩のんちゃんと仲良くなりはじめますが、ふとしたときのわけのわからない不安感を感じ、志郎は理解できないでいます。
それをグランマは寂しいときは細かいことをやって気を紛らわせるものだとあっさりと言った瞬間は彼女の飄々と生きるかっこよさを表した名シーンでしょう。志郎とともに納得させられ、人を好きになることと寂しさを覚えることは、表裏一体なのだと改めて感じ入ります。
他の5つの短編においても様々な人物が登場しますが、人の愛し方がゆがんでいる人もいれば、まっすぐ過ぎてしまう人もいて、人の好きになり方は本当に人それぞれなのだと思えます。
恋愛を通して、何が正しいとか間違っているということではなく、それぞれの登場人物の人生が見えるような深い小説です。
ピアノが好きな「ぼく」は野球部エースの徹也から、突然試合のビデオを撮るよう頼まれます。人の命がかかっているという徹也の熱意に負け、「ぼく」は撮影を承諾します。後日、ビデオを上映すると連れて行かれた病院には、直美という少女が入院していたのです。
- 著者
- 三田 誠広
- 出版日
- 1991-10-18
思春期の頃、自分の生きる意味を考えたことがある方は多いと思います。主人公の「ぼく」も、小学校5年生の時に知った同い年の少年の自殺を機に、『二十歳のエチュード』など自死した若者の本3冊を繰り返し読んでは、とり憑かれたようにモヤモヤと死について考えています。そんな「ぼく」に対し、自らの死期を悟った直美が言うのです。
「あたしと、心中しない?」(『いちご同盟』より引用)
直美の存在は「ぼく」の心にチクチクと刺さります。好きだから会いたい。好きだからこそ会いたくない。どうしていいかわからない。怖い。……
「ぼく」は誰にも心を開いていません。正確な演奏を強いるピアニストの母にも、有名私学にいる秀才の弟にも、「ぼく」には関心がない父にも。そんな「ぼく」が、徹也や直美と向き合ううちに、自己を揺さぶられ、進路の上でも心の面でも大切な決断をくだしていきます。
「ぼく」は直美を挟んで徹也と三角関係のような状態になっていくのですが、死に向かう直美に対し、2人は奇妙な同盟を結びます。
「お前は、百まで生きろ。おれも、百まで生きる」(『いちご同盟』より引用)
直美と徹也の言葉は正反対ですが、2人が「ぼく」に望んでいることは同じです。生きること。モヤモヤもチクチクも抱えて、その上で生きていくこと。
ピアノと野球と病院のベッド。3人それぞれのフィールドからさりげなく語られる人生観が深く、ハッとさせられます。大人と子どもの間、そして生と死の間にいる3人のあやうさ、鋭さが相まって紡がれる恋は儚く美しく、作品中に出てくるラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』を聴きながら、もう一度ページをめくってみたくなることでしょう。
「選択しようのない環境で、当然のようにヒネクレ者の悪ガキに育った」(『GO』より引用)
在日韓国人の杉原は、友人の誕生日パーティーで出会った謎めいた少女桜井に一目惚れをします。本や音楽、映画などお互いの感性に触れる「カッコ良いもの」を見つけるデートを繰り返しては仲を深める二人ですが、杉原は自分の出自を話すことができません。初めて結ばれようというその直前に意を決して打ち明けた杉原に、父親から中国人や韓国人は血が汚いといわれて育った桜井は「こわい」と言い、二人は離れることになってしまいます。
- 著者
- 金城 一紀
- 出版日
それまで差別などなんとも思っていなかった杉原が、好きになった相手を前に初めて差別が怖いと思ったというところがせつなすぎます。ルーツゆえの差別や、それに端を発する血なまぐさい喧嘩、友人の死などの重いテーマを扱いながら、テンポよく読めてしまうのは登場人物たちがみな魅力的だからでしょう。
喧嘩が強いだけでなく感性も豊かな杉原は勿論のこと、杉原の父親も素敵です。理不尽に6店舗あった店を潰されていっても「何もなかった初めよりは多いさ」ととうそぶく逞しさ。定期的に繰り出されるオヤジギャグと、年頃の息子もぶちのめす腕っ節の強さ。まさに強さとやわらかさを併せ持つ人物なのです。そしてその父よりも強い母親。杉原のしなやかさはこの両親なくしてはありえません。
見た目や出自や肌の色で、人を差別してはいけません、というのは簡単です。でも、頭で考えただけでは割り切れないもので、人は生きています。そしてそれをやすやすと越えさせてしまうのも、恋のパワーなのだということを改めて感じさせてくれる1冊です。
思春期によくある恋愛や家族問題をラブコメとして描き出す本作。泣きラノベ、泣きアニメとしても有名になっている本作が堂々の第1位です。発行部数はシリーズ累計で300万部を突破。著者自身は『うる星やつら』、『めぞん一刻』に影響を受けたとしていますが、少女漫画の構造をラノベに落とし込んだといわれることもある作品です。
- 著者
- 竹宮 ゆゆこ
- 出版日
- 2006-03-25
ヤンキーに間違われ、普段から畏怖されてしまう主人公高須竜児は、高校2年生になった折に、親友の北村祐作や、竜児が好意を寄せる櫛枝実乃梨、そして「手乗りタイガー」として恐れられる逢坂大河と同じクラスになります。ある日の放課後、大河は、大好きな祐作へのラブレターを天性のドジで間違え、竜児のカバンに入れてしまいます。祐作への好意がバレたと思った大河は、深夜に竜児の家へ。そこから竜児は大河をなんとか説得し、恋の協力関係を築いていくことになりました。一人暮らしで生活能力が著しく低い大河を、主夫として生活能力が著しく高い竜児はほっておけなく感じ、世話を焼くようになります。そこから大河は竜児の家に入り浸るようになるのでした。
1巻の最後では、祐作へ告白するものの叶わなかった大河のもとへ竜児がやって来て、虎(大河)の横に並び立つのはいつも竜(竜児)と決まっている、つまり暗に「そばにいる」と励まします。そのことから、次第に竜児と大河の2人は協力関係を超えた関係へと変わっていきます。
現実に生きる人たちと同じように思い悩む登場人物たち。叶わない恋や家族との軋轢、親友と同じ人を好きになってしまう葛藤など、多くのことが重なり合い、物語が形成されていきます。現実に即した葛藤が見て取れるからこそ共感し、人気作品へとのし上がった作品ともいえるのではないでしょうか。泣き要素も多く、とりあえず泣きたいという人にもおすすめですよ。
また、物語に登場するキャラクターも魅力の1つです。生活力の高い竜児や、ツンデレの大河、そのほか元気一杯の櫛枝実乃梨に、清々しい態度が特徴の北村祐作、性格の悪いモデル川嶋亜美など、それぞれのキャラクターが反発し合いながら、助け合いながら、人間関係を構築していく姿は必見です。
無気力かつ無関心な主人公・三並英太は、楽しそうだからという理由で入った図書委員会で同じく図書委員である東雲侑子に興味を持ちます。侑子の持つ静けさに、自分の抱える空虚さに似たものを感じる英太。
実は、侑子は短編小説家として活動を行っていました。そんな彼女の悩みは、長編小説が書けないこと。短編小説しか読まない侑子の秘密を知ったことで、英太は自分との違いを痛感します。
侑子が恋愛小説を書くために疑似恋人となる英太は、仲良くなるにつれて次第に侑子に惹かれていきます。疑似恋愛から二人の関係は発展するのでしょうか――。
- 著者
- ["森橋ビンゴ", "Nardack"]
- 出版日
主人公・三並英太の一人称で進められる物語は、森橋ビンゴの心理描写が輝きます。
東雲侑子の秘密を知るまで、栄太はひたすら悩みます。秘密を知り、距離がぐっと縮まると思いきや、意外と縮まっていないような二人にやきもき。この作品は、二人をゆったりと見守る作品なのかもしれません。
初々しい、もどかしい、こそばゆい、甘酸っぱいなどなど恋愛小説には欠かせない要素がたくさん。無気力、無関心だった栄太が東雲侑子と関わることで、葛藤する様子はほほえましいです。
10代特有の心の不安定さや弱さ、逆に10代だからこそ持っている強さは近い年代では共感でき、その時期を過ぎた人々には懐かしいものでしょう。誰かを好きになる瞬間や、その後の不安な気持ち、相手を守ろうとするまっすぐな気持ちをお楽しみください。