多感な年頃の子どもたちにとって、生活環境の変化は大きな出来事。中学校を卒業し高校に進学する彼らへは、希望を抱くことができ、心も成長できる本を手渡したいものです。この記事では、そんな思春期の胸に響くであろう小説や詩などのおすすめ本を紹介していきます。
交通事故で足が不自由になった恵美が話をするのは、たったひとり、病気がちの由香だけ。事故の原因をクラスメイトのせいにしていたからです。
ただ、2人の性格はまったく異なります。おっとりしている由香に対し、恵美はきつく接します。しかし由香の優しさに触れていくうちに、恵美は彼女こそが本当の友だちだと気付いていきました。
そして2人の関係は、恵美の弟のブンちゃんやクラスメイトにも影響を与えていき……。
- 著者
- 重松 清
- 出版日
- 2008-06-30
数々の文学賞を受賞し、多くの話題作を輩出している重松清の作品です。2005年に刊行されました。複数のストーリーがやがてひとつの束になるように紡がれる連作短編集で、物語が展開していくリズムに自然と乗っかって読み進めていけるでしょう。
本作には「語り」を担当する人物が登場します。その内容は読者へのアドバイスとなるものばかり。「友だちとは何か」「みんな」と「自分」など、思春期に多くの人が悩むであろう身近なテーマが語られていきます。中学生であれば、十分理解できるはず。
また「語り」の正体は巻末で明らかになるので、そちらも楽しみにお読みください。
物語の舞台は、春野台高校の陸上部。新1年生の神谷新二は、幼馴染の一ノ瀬連と陸上部に入部しました。連は中学生時代に全国大会でも活躍した、天才肌のスプリンター。一方で中学生までサッカーをしていた新二は、陸上の初心者でした。
さあ、最速のランナーを目指す新二の挑戦が始まります。
- 著者
- 佐藤 多佳子
- 出版日
- 2009-07-15
児童文学から小説まで幅広く執筆活動を展開する佐藤多佳子の作品です。2006年から全3巻が刊行され、テレビドラマ化や漫画化でも話題になりました。
陸上競技をベースとしながら、少年の不安定な心情が詳らかに描かれるのが魅力的。必死に努力をしても簡単には勝たせてくれない親友を前に、時にはひねくれながら練習に打ち込む新二に共感する読者も多いでしょう。
見どころは、終盤のインターハイ。日々自分と向き合う少年たちが、リレーで心をひとつに駆け抜けます。中学を卒業し、高校生活へと歩みを進める読者にも勇気を与えてくれるはずです。
物語の舞台は、医療技術が発達した近未来。老いることのない社会が実現し、世の中には「若い姿のまま」の人が増えました。その代わり、新たな子どもが生まれなくなります。
主人公のタリンは、数少ない「本物の」子ども。「子どもと過ごす時間」を提供することで生計を立てていました。大人になる日が迫ってくるにつれ、見た目を変えず「永遠の子ども」でいられる手術を受けるよう勧められますが……。
- 著者
- アレックス・シアラー
- 出版日
世界的なYA作家として名高いイギリスの小説家、アレックス・シアラーの作品です。2005年に刊行されました。
子どものままでいたい、年をとりたくない……誰しもが1度は考えたことがあるのではないでしょうか。節目の時を迎える子どもたちも、まだ中学生のままでいたい、卒業したくないと考えることもあるはずです。
外見は変わらないのに中身だけが老いていくアンバランスさがどこか不気味。老いることのない人は、現実を受け入れていないようにも見受けられます。そんななか、タリンはどのような決断をするのでしょうか。
長生きすることが果たして本当に幸せなのか、年を重ねることや生きることなど人間の本質を考えさせてくれる作品です。
中学生の夏休み。数日前から行方不明になっていた少年が亡くなったという噂を聞き、死体探しの旅に出ることにしたゴーディやクリストファーら4人の少年たち。彼らはそれぞれ家庭環境に問題を抱えていましたが、もしも死体を見つければ英雄になれると考えたのです。
旅の途中では、悩みを打ち明け互いに励ましあい、ついには死体を発見。しかし同様に死体を見つけた年上の不良少年エースたちと対立し、死体の場所はエースたちによって警察に通報されることとなりました。
やがて時が経ち、4人はバラバラの進路へ。ゴードンは夢だった作家になります。そんな時、弁護士になったクリストファーが、飲食店で客同士の諍いを止めに入ったすえ刺殺されたことを知るのです。
- 著者
- ["スティーヴン・キング", "Stephen King", "山田 順子"]
- 出版日
アメリカを代表する人気作家、スティーヴン・キングの作品です。1982年に刊行されました。もともとは中編作品集『恐怖の四季』のうちの1編で、1986年に映画化される際に『スタンド・バイ・ミー』とつけられています。
物語は、ベストセラー作家となったゴードンが、13歳になる年の夏に経験した濃密な日々を振り返る半自伝的な構成で進んでいきます。死体などの要素はあるもののホラーではなく、少年時代の苦悩や揺れ動く心情を、当時の時代背景とともに描いた青春小説。彼らの成長物語は、中学を卒業し高校へと進学する子どもに贈るのにぴったりです。
映画とは異なるアプローチもあるので、すでに映像で観たことがある人も違った味わいを楽しめるでしょう。
「今日、あなたは空を見上げましたか。空は遠かったですか、近かったですか。」(『最初の質問』より引用)
本書に記されているのは、すべて質問です。答えを考えながら読み進めることで、自然と自分に向き合える内容になっています。
- 著者
- ["長田 弘", "いせ ひでこ"]
- 出版日
詩人である長田弘の代表作のひとつ。2013年に刊行されました。絵は、数々の絵本賞や文学賞を受賞し、『ルリユールおじさん』で知られるいせひでこが担当しています。
美しい言葉で心の底にそっと問いかけられるたびに、日常で見過ごしてしまっていたことに気づき、自分にとって本当に大切なことは何なのかと考えさせられる作品。単純ゆえに、あらためて問われないと忘れてしまうのです。
また添えられているイラストは、木を見つめる紳士だったり使いかけの絵の具だったりと、一見、質問の内容とは直結しないものばかり。これはいせが詩を咀嚼して描いたものだそうで、読者の想像を膨らませてくれます。
中学校を卒業する子どもだけでなく、たとえば就職や結婚など新しい道を歩む大人にもおすすめの一冊です。
「本物を見抜ける人間になるためには、自分が本物にならなくてはならない」(『14歳からの哲学』より引用)
自分とは誰か、死、家族、社会など30のテーマから「考える」きっかけを与えてくれる作品です。
- 著者
- 池田 晶子
- 出版日
- 2003-03-20
文筆家である池田晶子の作品。2003年に刊行されました。担当編集者の子どもが当時中学3年生で、生の意見を取り入れながら執筆したそうです。
本書が伝えているのは、哲学の専門的な知識ではなく、物事を「考える」ということ。考え、知ろうとすることこそが哲学であるとして、広い視点から原理、現実、真実を解説していきます。
内容は全3章に分かれていて、1・2章は14歳から、3章は17歳からとのこと。中高生が対象なので語り口は易しいですが、作者によるとそもそも「考える」ことは全人類に共通しているものであり、内容のレベルは落としていないそう。大人も手にとっておきたい一冊です。