「専門用語が難しい」「言い回しが独特でわかりにくい」といったイメージで読まず嫌いになりやすいSF小説。しかし、一度その世界に踏み込めば刺激溢れる世界があります。そんなSF世界に飛び込む入門編にぴったりなSF短編集5作品をご紹介します。
1048話もの作品を残した日本を代表するショート・ショート作家の星新一が描くSF短編集です。小中学生向けと紹介されることも多い作品ですが、大人が読んでも引き込まれる普遍的な魅力に溢れるSF寓話が収められています。
- 著者
- 星 新一
- 出版日
- 2006-01-25
この『きまぐれロボット』では宇宙人やロボットなどSFの定番キャラクターが多く登場し、1話10分程度で読めてしまう手軽さがあります。また、この作品では大人になったからこそわかる、味わいブラックユーモアも魅力です。
「ネコ」という作品は、飼い主にとても可愛がられている猫が主人公。その猫と飼い主のところに異星人がやって来て、異星人が地球について「地球の支配者は誰なのか」と猫に聞きます。猫のために何でもする飼い主とその世話を受けている猫の関係性に、視点によって物事の捉え方が変わるブラックユーモアが詰まっています。
子供でも読みやすい文体でありながら、SF小説としての本格的な世界観を伝える星新一。著者の作品群の中でもSFジャンルに特化したこの『きまぐれロボット』はSF世界の入門編として最適な一冊です。
アメリカのSF作家を代表する一人であるレイ・ブラッドベリ自ら選んだ短編集です。レイ・ブラッドベリはSFの叙情詩人とも呼ばれています。SF世界にセンチメンタリズムを組み合わせ、詩的と評される文体で数多くのSF古典と呼べる作品を残しています。
- 著者
- レイ・ブラッドベリ
- 出版日
- 2006-02-27
この『ウは宇宙船のウ』にはロケットや宇宙船、宇宙旅行、タイムスリップなどを舞台とした16編の短編があります。この短編の中から2つの作品をご紹介します。
「『ウ』は宇宙の略号さ」という話ではパラレルワールドとも言える少し違った地球に住む、ロケットに憧れる少年達が主人公です。その少年達が夢であるロケットに乗るために宇宙飛行士を目指す思いや葛藤、そして成長し大人になった時に訪れる選択を通して描かれる成長の物語です。
「おくりもの」という作品は宇宙旅行が普通となった未来の世界を舞台にクリスマスを初めての宇宙旅行で過ごそうとするある3人家族の物語。準備万端だった宇宙旅行でしたが、息子が楽しみにしているクリスマスプレゼントが税関に引っかかりロケットに載せる事ができません。しかし父親はその臨機応変さで素晴らしいプレゼントを用意します。宇宙を舞台に描かれた温かな家族物語です。
取り上げた2作品でも少年の成長や家族愛などを描き、SF小説という形を通して人間性をあたたかに描くレイ・ブラッドベリ。SF小説が苦手な人でも小説として楽しめる一冊です。
2015年に本作品で日本SF大賞を受賞した、これからの日本SF小説界を担う一人である長谷敏司による短編集です。
ライトノベル出身である長谷敏司初となる作品集で、収録されている作品4作品です。前半の「地には豊穣」「allo,toi,toi」という2作品は科学技術が発達した近未来を舞台にITPという他人の経験を伝達することができる作者独自のガジェットが登場します。このITPという技術に関わる人間の思考や心の機微を描いた、人の在り方を考えさせられる2作品です。
- 著者
- 長谷 敏司
- 出版日
- 2014-02-21
後半の2作品である「Hollow Vision」「父たちの時間」では霧状コンピュータやナノロボットといったガジェットが登場し、読んでいてワクワクするエンターテイメントとして楽しめます。
独自の発達した科学技術が出てくることで難しい印象を持ちますが、文体はとても読みやすいものなので、軽く読めることが魅力的です。ライトノベル出身である作者の良さが現れています。そして読み進めることでその世界観に引き込まれるのは物語としてしっかりとした構成があり、「人のこころ」という普遍的なものをテーマにしているから。読みやすく、厚みのあるしっかりとしたSF小説を楽しめます。
航空宇宙軍史シリーズや軌道傭兵シリーズといったハードSF(正確かつ論理的な科学技術の描写や理論上可能なアイデアが取り入れられたSFジャンルのひとつ)を代表する谷甲州が描く、宇宙土木SFの短編集です。
- 著者
- 谷 甲州
- 出版日
- 2013-09-26
月や火星など太陽系の惑星で行われる土木工事に関わる技術者達がこれまで経験したことのない事故に立ち向かう、働くエンジニアの世界が描かれています。
ハードSFに分類される作風を得意とする谷甲州による工事に出てくる機械などの描写にはリアリティーがあります。また、惑星という舞台設定なのに土木工事という現実的な仕事に関わるエンジニアの姿に現実味と共感を覚えます。
そして宇宙で働くという非現実ながら近い将来に起こり得ることを想像し楽しむことができる一冊。そこかしこの設定が全て身近に感じられるように書いてあり、SFだけど日常のことを読んでいるかのように入り込むことができる作品です。
幼いころにニューヨークに住み、アフガニスタンとインドを放浪した国際経験を持つ宮内悠介による短編集『ヨハネスブルグの天使たち』。2013年に日本SF大賞特別賞を受賞したこの作品では日本製のロボット人形を鍵に民族対立や紛争とそれに関わる人々をテーマに描かれています。
- 著者
- 宮内 悠介
- 出版日
- 2015-08-21
表題作「ヨハネスブルグの天使たち」は紛争が起こった南アフリカが舞台です。夕方になると無数の少女型ロボットが空から降ってくるのが日常となっている少し不思議な世界で生きる少年と少女が主人公。近未来を感じる退廃した雰囲気と少女型ロボットが降ってくる描写で一気にこの作品世界に引き込まれていきます。
収録作全編で、少女型ロボットが実在する建築物をモデルとした建築物から落下するという世界観が設定されています。また、実際の世界で起こっている紛争問題を近未来に落とし込むなど、これまでの日本SF小説ではなかった新たな日本SF小説を読むことの出来る一冊です。
独特な設定と、それに引き込ませる描写力は初心者の方でもどんどん読み進められるものとなっています。