世の中に溢れる「物語」についての本5冊

更新:2015.10.3

人間が生きていく上で必要なものとは一体何でしょうか。食べること、眠ること、いくつもありますが、私は、「物語」が大切だと考えています。物語といえば小説などをイメージしがちですが、外への物語、内なる物語、強い物語、弱き物語……、様々な物語が世の中には溢れています。今回は小説にとどまらない、様々な「物語」についての本を紹介しようと思います。

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ジョーゼフ・キャンベル『神話の力』(早川書房)

まず、物語の原型である「神話」について知ることから始めてみましょう。この著作は、神話学の泰斗、ジョーゼフ・キャンベルとの対話を収めたものです。古代ギリシャから東洋の思想まで、縦横無尽に語るその博学ぶりに圧倒されますが、ひとまず、第5章の「英雄の冒険」だけでも読んでみて欲しいと思います。「神話」という古色蒼然としたものが、私たちにとっていかに重要であるかがよく分かります。
キャンベルは現代社会を「神話が失われた時代」と捉え、人々の生が困難になっている原因をそこに見ています。しかし、人々の欲望は様々な神話を文化に持ち込みます。キャンベルからすると、『スターウォーズ』などはその典型です。このような映画が大ヒットすることからも、人々が「神話的な物語」を求めていることがよくわかります。 この著作を読み、『スターウォーズ』を続けて観るなんていう贅沢な時間を過ごすのも良いかもしれません。
 

著者
["ジョーゼフ キャンベル", "ビル モイヤーズ"]
出版日
2010-06-24

藤沢烈『社会のために働く』(講談社)

「神話」という過去の物語に想いを馳せた後は、視線を現代に向けてみたいと思います。さて、現代の物語を考える場合、どこに注目すればよいのでしょうか。私は、「ソーシャルビジネス」という文脈に、上質な物語があるのではないかと考えています。
「ソーシャルビジネス」とは社会問題をビジネスの手法で解決する活動一般を指す概念ですが、なぜその文脈に注目する必要があるのでしょう。それは、ソーシャルビジネスが「共感」という感情に重きを置いているからです。経済的利益に訴えかけるのではなく、人々の共感を集めて、社会問題を解決するソーシャルビジネスだからこそ、その共感を呼ぶための「物語」がどうしても必要になってきます。
藤沢烈さんの『社会のために働く』は、東北復興に関わる様々な人々や企業の奮闘を描いたものです。仕事の合間、昼ごはんを食べながら、この本を読んでいた私ですが、危うく涙を流してしまうのではないかと焦ったほど、感動的な「物語」がちりばめられています。特に、Googleやyahooという大企業のトップの人の言葉には胸を打たれます。上質な物語に引きずりこまれ、気がつけば、否が応でも社会のことを考え始めることになるでしょう。また、ソーシャルビジネスは経済的利益に訴えかけるものではない、ということを先ほど述べましたが、この著作を読むと、そう簡単に説明することができない、新たなソーシャルビジネスの胎動を読み取ることができます。そう、新たな物語が生まれる場所はそう単純ではないのです。
 

著者
藤沢 烈
出版日
2015-03-11

窪田良『極めるひとほどあきっぽい』(日経BP)

さて、「物語」という言葉には、「文系」の香りがします。たしかに、いわゆる文系の学問が物語を特権的に扱ってきたことは間違いないでしょう。しかし、「理系」と呼ばれる領域にも「物語」は溢れています。『極めるひとほどあきっぽい』は、アキュセラという創薬ベンチャーを立ち上げた窪田良さんの起業にいたる来歴をまとめた本です。研究者、医者、起業家と転身を遂げた窪田さん。しかし、ここから読み取るべきは、その変化ではなく、ある種の「変わらなさ」ではないでしょうか。
幼い頃からずっと目に関心があった。そして、目の病気の原因を突き止め、多くの人を助けたい。窪田さんにはこのような「情熱の一貫性」があります。創薬という先の見えない大事業を、しかも資金力の少ないベンチャーで成し遂げるというのは、多くの困難が伴うことは想像に難くありません。その困難を乗り越えることができたのは、窪田さんの内側に物語があったのではないかと想像します。理系の発見を支えているのは、そのような「内なる物語」なのではないでしょうか。これは困難な旅に出る「英雄」たちと共通しているかもしれません。
 

著者
窪田 良
出版日
2013-05-23

ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』(NTT出版)

物語を歴史的観点から捉えた場合、注目すべきは、ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』です。ここまで紹介した本とは少し毛色の変わった著作ですが、非常にアカデミックな内容で、20世紀後半の社会科学に与えた影響は計り知れません。
この著作のテーマは「ナショナリズム」です。アンダーソンは、ナショナリストがどれだけ遠い過去からの連続性を訴えようとも、ナショナリズムはあくまで近代的な現象であることを説得的に論じています。しかし、だからといってナショナリズムが国際社会に対して猛威を振るう現実は変わりません。
多くの人を動員するナショナリズムは、現代の「強い物語」と言えるでしょう。(アンダーソンがナショナリズムの背景として、出版資本主義を重視し、さらに、小説を重要な分析対象としている点も、物語を考える点で示唆的です。)その強い物語がどのような背景と構造を持っているのか、それを知ることは、現代社会に生きる全ての人にとって、必須の「教養」なのではないかと思います。
 

著者
ベネディクト・アンダーソン
出版日
2007-07-31

高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』(朝日新書)

最後に、物語の担い手である小説家の著作を取り上げたいと思います。しかし、小説を取り上げるわけではありません。ここでは、小説家が異分野へと果敢に挑戦した著作を紹介します。
この著作は、高橋源一郎さんの朝日新聞への論壇時評をまとめたものです。論壇時評とは、一カ月の間に発表された言論をベースに、それに対して論評を加えていくというものです。様々な媒体に発表される論考に目を通し、それを論評するというのは、それだけでも大変な仕事ですが、そこに共時性を見出さなくてはならない、とても繊細な仕事です。高橋さんも「あとがき」で、「大きな声、大きな音が、この社会に響いていた。だからこそ、可能な限り耳を澄まし、小さな声や音を聞きとろうと努めた」(252−253)とその苦労を述懐しています。
そう、この著作に収められているのは、消え入りそうな「弱き物語」です。しかし、どうでしょう、この著作を読み終えると、微かな勇気が沸き起こってきます。声高に叫ぶことではなく、スッと立ち上がること、それを後押しするような。
 

著者
高橋源一郎
出版日
2015-05-13

外への物語、内なる物語、強い物語、弱き物語、様々な物語についての本を紹介しました。物語といえば小説などをイメージしがちですが、「物語」という視点から様々な本を読んでみるということができる自由さも本を読むことの楽しさではないかと思います。

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