大人も楽しめる児童書おすすめ5選!家に一冊置いておきたい

更新:2021.12.15

児童書は子どもだけが読むお話とは限りません。なかには、大人も楽しめる秘密があります。それは児童書が、端的に「生きること」や「人生について」解りやすく語りかけてくれるところです。大人になってこそ読みたい、そんな児童書をご紹介します。

ブックカルテ リンク

1:自分と同じ姿を見つけられるかもしれない『ムーミン谷の仲間たち』

トーベ・ヤンソン作・絵の『ムーミンシリーズ全8巻』の6作目にあたり、9つからなる短編集です。物語は、ムーミン谷で起こる出来事が綴られており、個性的な9名がそれぞれ主人公です。彼らは他の誰とも違っていても、ムーミン谷では受け入れてくれる居場所があります。

この作品は、ムーミン谷に住む様々な登場人物を細やかに描いています。みんながみんな個性的で、お互いにそれを認め合い尊重しています。決して他の誰かを傷つけようと思うことはありません。「失敗しちゃったかな。」と思っても自分なりの方法で接していきます。

例えば、6つ目の、目に見えない女の子ニンニは、おばさんからひどくいじめられて、すっかり姿が見えなくなっています。

ムーミンの家に連れてこられ、預けられますが、みんなは、ニンニにどう関わって良いか悩みます。ムーミンママ、パパ、ムーミン、ミィ…それぞれがニンニの姿が見えるようなる方法を考えて接していくのです。

やっと足先だけが見えてきて、上手くいったと思っても言い方が違うと、また怯えて消えてしまいます。けれども、彼らは根気よく自分なりの方法で、ニンニのためと思うことをしていきます。
 

著者
トーベ・ヤンソン
出版日
2011-07-15

さて、この作品に出てくる生き物たちはいったい何ものなのかはよく分かりません。しかし、彼らの言うことや、していることは私たち人間とそっくりです。

また、それぞれの話で人間の喜怒哀楽を豊かに表現しています。特に、負の感情では妬みや悲しみや孤独などがあり、読んでいてドキッとさせられます。けれど、暖かい家族のふれ合いや純粋な友情からくる思いやりには、ほっとした気持ちにもさせられます。

「みんな」は一人ずつで、おのおの違う性格を持っています。だから、同じ気持ちでいても表現の仕方は違っています。

私たちも、同じことを感じてもまったく別の言葉を使うことがあります。そんな時、もしかしたら「自分はひとりぼっちだ」と感じるかもしれません。けれど、この本を読めば、きっと、どこか自分に重なる部分があるのではないでしょうか。

ひとりぼっちだと感じたとき、そっと手に取ってみたい一冊です。
 

2:子どものころのできごとや、大事にしていたものを忘れない『飛ぶ教室』

作者のケストナーは、冒頭で子どもの時に大事にしていたお人形を失くした時の涙と、大人になって友人を亡くした時の涙は同じものと考えるべきだと伝えています。

空を飛ぶ教室というからには、このお話はファンタジーなのではないか思い込んでしまいそうですが、しかし、実際はクリスマスの出し物で、劇の中でのお話なのです。将来の学校が、飛行機に乗ってイタリアのベスビオ火山へ、ギゼーのピラミッドへ、そして北極へと飛んで行く劇をするお話なのです。エンディングはクリスマスらしく飛行機の故障とトラブルで天国へいくというものです。

物語は、1933年に書かれました。ですから、ナチス統治下のお話になります。つまり、ドイツのギムナジウム(高等中学校)でのお話です。その劇の練習をしている間に、登場人物である中学生の男の子たちの人間関係や、先生たちとのやりとりが描かれているのです。
 
興味深いのは、少年たちが全く違う境遇をもっていることです。両親を亡くしたヨーニー、ボクサーを目指しているマチアス、貴族出身のフォン、美少年のテオドル…。そんな彼らが、劇を作り上げていく中で、同等に駆け引きや喧嘩をしたり、労わり合ったりしてゆくのです。
 

著者
エーリヒ ケストナー
出版日
2006-10-17

少年たちは大人顔負けの口ぶりで、講釈をし、激しく彼らの時代を駆け抜けていきます。勉強や規則や、上級生下級生の関係。正義だとか勇気だとか、友情だとか、そういったものが一番大事だった子どもの時代。大人になって忘れてしまった大事なものが、そこにありありと存在します。
 
しかし、ケストナーが物語の根底で、語っているものはそれだけではありません。「思いやり」が一貫として描かれています。友だち同士の、両親への、先生への思いやり。それはケストナーが、人が人であるために、重要なものであるということを伝えようとしています。

思いやりは純粋なものです。ちょっと疲れてしまったときに、この本を手にしてみると気持ちが晴れ晴れとして、もやもやしたものが消えてしまうかもしれません。
 

3:時間とは、生きるということそのもの『モモ』

この作品はミヒャエル・エンデの2作目の作品です。俳優をしていたエンデは、子どものために物語を書くようになりました。 『モモ』は世界中で翻訳されましたが、日本ではドイツの次に多く出版されています。『はてしない物語』も映画になり、エンデの作品を知る人は少なくないでしょう。

お話は、どこからともなくやってきた風変わりな女の子モモが、ある街にやってきたところから始まります。その町の人々はみな、貧しくはあっても心が豊かで想像力があり、親切で思いやり深い人々でした。

ところがある日、時間貯蓄銀行を名乗る灰色の男たちがやってきます。そして、人々に時間の節約を勧め、心を豊かにする時間を奪っていきます。街の人々はみな、毎日、せかせかと急いで追われるように生きるだけ。何のために生きているのかさえ、考える時間も無くなるのです。
 
モモの大好きな友だちも全員、灰色の男たちの罠にはまってしまいます。モモは友だちを助けるために、カシオペイアという不思議なカメに導かれ、時間をつかさどるマイスター・ホラに会いに行きます。
 
灰色の男たちに包囲されてしまった二人は、マイスター・ホラが眠りに付き、時間を供給するのを止めます。そして、ホラは、モモにそれは美しい1時間分の時間の花を渡します。時間の花は、その人のいのちそのものです。
 
モモは大事な人々を助けるため、ひいては人間すべてを助けるために、たった一人で(カシオペイアも一緒ですが)灰色の男たちと戦うのです。
 

著者
ミヒャエル・エンデ
出版日
2005-06-16

とてもどきどきするお話で、子どもはもちろんですが、大人さえも引き込むスリルがあります。しかし、ファンタジーであるはずのお話が、まるで、現代の世界のありようを描いているかのようで、はっとさせられるのです。
 
今、私たちは忙しく、時間を無駄にすることを避けています。また、自然に触れたり、空想する時間を持とうとしていないかもしれません。

モモは心を自由にすることができます。話をじっと聴いて受け止めてくれます。これは愛です。モモは時間をかけて誠実に考えて返事をします。誰もが、モモと話したがります。子どもたちはモモと遊ぶととても楽しくて、作られたおもちゃなど必要ありません。

エンデは、私たちに警鐘を鳴らし痛烈な時代批判をし、人間が生きるのに本当に必要なものは何かを問いかけています。

さあ、いまからすぐ、私たちもモモのところへ行きましょう。
 

4:「かんじんなことは、目に見えないんだよ。」の台詞が生まれた『星の王子さま』

これは、実は星の王子の言葉ではなく、王子と仲良くなったキツネの言葉なのです。キツネは言います。「さっきの秘密をいおうかね。なに、なんでもないことだよ。心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ。」(『星の王子さま』、岩波書店99ページ)

キツネは用心深く、やっと仲良くなった王子にそっと大事な秘密の言葉を教えます。それは、王子がキツネにとって大切な人になったからです。つまり、友だちです。

王子はずっと、自分の星に残してきたたった一つの花のことを思っています。その花と一緒にいることにうんざりして、星を飛び立ち、星々を旅して地球へやってきました。そして飛行士の「ぼく」に出会うのです。
 

著者
Antoine de Saint Exup´ery
出版日
2005-08-26

立ち寄ってきた星々の人たちは、みんな大人で王子には「大人ってわからないなあ。」と思わせる人々でした。まるで、地球の人間たちそのものです。私たちは、子どもの純粋な心の目から見たら、ちっとも訳が分からないことをやっているのかもしれません。なぜなら、人間にとって大切なものは目に見えない「友情」だからです。

サン・デグジュペリは飛行機に乗って、雲の中であるいは砂漠でたった独りになった時に、人間の愚かしさや愛しさを見つめることができたのかもしれません。

この作品は、文章も易しく短いお話で、子どもも簡単に読むことができますが、子どもの時に読んでも、実は深く読み取れないかもしれない作品です。まさに、大人の童話です。美しくて、哀しくて、愛しく優しいお話なのです。
 

5:本当にあった、少し前の戦争のお話『ガラスのうさぎ』

戦後何十年も経ち、民主主義の国として立ち直った日本ですが、街角のアンケートなどで過去の戦争を知らない人たちが多くいます。

これは、高木敏子という方の、実体験による「私の戦争体験談」という手記から出版化された本です。

フィクションでも、ファンタジーでもありません。既に戦争を知らない大人たちが増えている時代です。あの当時、実際にどのようなことがあったのか、どのように人々は死に、生き抜いたのか。運命はちょっとしたことの掛け違いで生死を分かつということを、この本を通じて知ることができます。
 

著者
高木 敏子 武部 本一郎
出版日

『ガラスのうさぎ』には、第二次世界大戦の末期から戦後にかけて、主人公敏子の身の上に起こった、あらゆることがつづられています。その中で戦後女学校に行くようになった敏子が、GHQのアメリカ兵たちを見て以下のように思います。

「あんな優しそうなアメリカ兵が、ほんとうに爆弾を落として、この東京を焼け野原にしてしまったのだろうか。………私にはわからない。わからない。」
「一人一人みんな、良い人たちなんだ。それなのに、国のためだと言って戦争したのだ。それだったら、なんとか話し合いで解決できたはずだ。」(『ガラスのうさぎ』、金の星社145~146ページ)

この本は、戦争が一人一人の顔が見えない命のやり取りであり、それが何をもたらし、何を奪ったか。そして、今の平和な社会がどのようにして作られたのかを考えさせてくれるお話です。
 

以上の5冊の本を推薦させていただきました。子どものために書かれた本というものは、実は人が生きるために必要なことが描かれています。

忘れていたものを思い出させてくれることもあり、また、新しく発見させてくれるものもあります。

読書は、その時の自分の年齢や状況などによって、感想が違ってきます。だからこそ、子どもの頃の本を、大人になった今こそ読んでみてはいかがでしょうか。

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