日本SF小説の父と呼ばれる海野十三。どの作品も昭和初期に書かれたとは思えないアイディアや仕掛けに溢れています。現代だからこそ新鮮味を持って読める、おすすめ5作品を紹介致します。
海野十三(うんの じゅうざまたはうんの じゅうぞう)は1897年徳島県安宅町に生まれました。早稲田大学を卒業後、逓信省の電気試験所で勤務する傍ら、機関紙などで小説を発表するようになります。1928年に探偵小説「電気風呂の怪死事件」を雑誌「新青年」から発表し、本格的なデビューを飾りました。昭和初期の作家ながら科学を題材にした作品を多く発表しており、その魅力は現代でも色褪せないほど斬新です。
ある寒い冬の朝、大阪の街が鼻をつく臭気につつまれます。探偵・帆村荘六は臭いの元をたどり、ある建物へたどり着きました。町の人々から「奇人館」と呼ばれるその建物。年齢不詳の男が1人で住んでいると噂されるその屋敷で、帆村は暖炉で焼かれる半焼死体を発見します。
同じころ大阪に住む大富豪・玉屋総一郎の元に、殺害予告が届きます。同封されていたのは蝿(ハエ)の死骸。差出人は「蝿男」と名乗る不気味な人物でした。部屋に立てこもる玉屋ですが、厳戒態勢の警備の中、密室状態の部屋で殺害されてしまいます。それも、頭部に穴が開き、天井から吊るされた奇妙な状態で……。
別々の場所で起こった奇妙な事件。捜査を進めるうちに、帆村はどちらの事件にも蝿男が関与しているのでは?と考え、正体を突き止めるべく、蝿男の影を追い始めます。
- 著者
- 海野 十三
- 出版日
- 2016-09-26
帆村荘六シリーズの中の1作品です。戦前に書かれたとは思えない密室トリックやアイディアには驚嘆。また、主人公の帆村は、まるで『相棒シリーズ』の杉下右京を思わせるキャラクターであり、とても魅力的です。
物語は有名な天文学者・蟻田博士の熱弁から始まります。人類は、火星兵団という組織に狙われていて、大急ぎで戦闘準備をしければ、人類は一人残らず死んでしまうだろうというなんとも突飛な内容。そんな博士のラジオ放送を聞き「火星兵団」に誰よりも心を奪われた少年が、物語の主人公である友永千二でした。
ある日千二少年は、不思議な声と、薄桃色に光る爆弾のような謎の物体に遭遇しました。物体を追いかけた千二は、正体不明の怪物に襲われて気を失ってしまいます。千二が目覚めると、薄桃色の湯気に包まれた空間に寝かされており、丸木と名乗る見知らぬ男が現れます。その言動や彼の放つ独特の匂いから、千二は「丸木は火星人ではなかろうか・・・」と考えます。一方、丸木は「くすりを買いたいから、一緒についてきてほしい」と千二に頼みます。そしてふたりは、東京・銀座へと向かうことに……
- 著者
- 海野 十三
- 出版日
- 2013-10-21
海野十三が"日本SF界の父"といわれる所以が存分に分かる本作。隕石と思われる謎の物体や火星人、瞬間移動など、まさにSFの醍醐味といわれるモチーフが随所に登場します。千二は果たして火星兵団の謎を解くことができるのでしょうか?少年の気持ちになってワクワクと読み進められる、スペース冒険作品です。
主人公の探偵・甲野八十助は一向に芽が出ない探偵小説家。小説のネタを探すためにフラリと出かけた新宿の夜店街で、ひとりの奇妙な男とすれ違います。「あの奇妙な男は果たして誰だったかな」という発言のように、甲野はその男を以前どこかで見たことがあったのです。
甲野はその謎の男の存在がどうも頭から離れず、グルグルと思考を巡らせていると、男がかつての同級生・鼠谷仙四郎であることを思い出します。しかし、彼は重大なことを思い出すのです。その鼠谷がすでに死んでいるということを…
- 著者
- 海野 十三
- 出版日
- 2015-09-12
数日後、再び鼠谷が甲野の前に現れます。
「なぜ死んだ人間が、生き返って君達に逢うことができるのか―もしそんなことが出来るとしたら、君はそれがどんなに素晴らしい思いつきだと考えないか」(『火葬国風景』より引用)
死んだはずの同級生はなぜよみがえり、甲野の前に現れたのか。舞台が夜の街ということもあり、作品全体にどこか幻想的な雰囲気が漂います。例えば、甲野が初めて鼠谷と遭遇するシーン。飲み屋街の喧噪の中で死んだはずの同級生を見つける場面は、人物の容姿や歩き方が丁寧に描かれ、まるで自分がこの目で見ているかのような錯覚に陥ります。読み進めるうちに不思議な世界へと迷い込む物語です。
"僕"こと浅間信十郎の最大の楽しみは、深夜の散歩。ある晩いつものように夜の散歩を楽しんでいると、殺人事件の現場に遭遇します。その犯人に襲われ気を失った浅間が目を覚ますと、現場から犯人と死体はすでに消えており、懐中時計と3枚の貨幣だけが残されていました。それらをポケットにしまったところで運悪く警察に見つかってしまい、冤罪を恐れた浅間はその場を逃げ出します。もう逃げきれないと思ったその時、ひとりの老人が彼を助けるのでした。
老人は「深夜の市長」と呼ばれる人物。浅間は彼に、事件現場で拾った懐中時計と貨幣を見せると、「深夜の市長」はそれらの証拠品に興味を示します。そして証拠品を「速水輪太郎」なる科学者に届けるよう、浅間に命じるのですが……
- 著者
- 海野 十三
- 出版日
- 2016-11-19
こちらも先ほど紹介した「火葬国風景」と同様、タイトルの通り"夜"が舞台となっています。作者である海野十三、夜の街が好きだったのでしょうか?「火葬国風景」は淡々とした物語であるなら、こちらは疾走感の溢れる冒険譚。浅間と、彼を振り回す市長のコンビが、良い味を出しています。
太平洋上で、遭難事件が多発。海軍に所属する太刀川青年は、ある日上司から呼び出され、1つの缶を渡されます。命じられて缶を開けると、赤黒くねばねばしたものに覆われた砲弾の破片のような物体と、人の血で染まった紙片が出てきます。そこには走り書きで遭難報告が書かれていました。そこに書かれていたのは、口から火を噴き、鉄の玉を飛ばす巨大な「大海魔」に船は襲われた、とにわかに信じがたい内容でした。
太刀川青年はこの化け物の正体を探る為、香港を経由し、アメリカへと調査へ向かいますが、旅の途中で新たな事件に巻き込まれ、人質に取られてしまいます。犯人は何故か進路を太平洋の真ん中に指定します。銃を向けられた太刀川青年や船員たちは、目的も分からぬまま船を進めます。
- 著者
- 海野 十三
- 出版日
- 2016-07-20
太平洋の真ん中に何があるのか?太刀川青年は「大海魔」の正体を突き止められるのか?海を舞台にした壮大な冒険譚です。戦前生まれの作家ながら、舞台を海外とする発想には驚きです。
この作品は1939年に発表されましたが、太平洋戦争時、1942年からは海軍従軍作家として軍艦「青葉」に乗船します。もしかすると、この作品が軍の誰かの目に留まり、軍艦に乗艦することになったのでしょうか?海野十三の人生を変えたかもしれない、運命の1作です。
以上5作品を紹介させて頂きました。登場するキャラクターが魅力的で、とても昭和初期に書かれたとは思えず、親しみをもって読み進めることができます。海野作品は、著作権の切れた名作が集められる「青空文庫」に、そのほとんどの作品が収められているため、気軽に読む事が可能です。新しいジャンルを開拓したい方、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか?