安部公房おすすめ作品5選!『砂の女』など、多くの傑作を生み出した作家

更新:2021.12.15

芥川賞作家であり、実験的な作風の小説を数多く執筆し、海外でも多数の賞を受賞した安部公房。晩年には、ノーベル文学賞の候補と目されていました。今回は安部公房のおすすめ作品を5点紹介します。

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前衛的な小説を発表し続けた作家・安部公房とは?

安部公房は、1924年に東京で生まれ、医師である父の仕事の関係もあり、少年時代は満州で暮らしていました。1951年、『壁 - S・カルマ氏の犯罪』で芥川賞を受賞し、以後、実験精神溢れる小説を続々と発表し、国際的な評価を高めていました。晩年にはノーベル文学賞の候補とされていたが、1993年急性心不全により68歳にて死去しました。

安部公房の特徴は、前衛的な作風です。幻想文学に留まることなく、SF的技巧を取り入れたり、小説というジャンルを批評する小説、いわゆるメタフィクションを実践したりするなど、文学の最前線をひた走りました。

名前を失った男の寓話 『壁』

ある朝から主人公の「ぼく」は自分の名前が書けなくなりました。身分証明書の名前は消えています。事務所の名札には「S・カルマ」と書かれていますがしっくりきません。それ以来、彼は現実での存在権を失ってしまいました。現実が不条理にしか感じられず、他人とまともに接触することもできなくなってしまいます。

『壁』は1951年に発表された安部公房の作品です。三部構成となっており、その第一部「S・カルマ氏の犯罪」が1951年に芥川賞を受賞しました。第一部では名前を、第二部では身体を失い、第三部には繭になってしまいます。

著者
安部 公房
出版日
1969-05-20

次々と自分を示すものを失っていき、社会とつながる術がわからなくなってしまった「ぼく」は、ただただ理不尽な状況に巻き込まれるばかりです。

本作の魅力は、不安定さです。物語そのものは寓話のようですが、現実と非現実の境目が曖昧で、常に不安定な足場に立っているような揺らぎを感じます。そういった不安定さのおかげで、名前を失った「ぼく」の内面の不安をより強く読者に印象付けます。

特殊な構成の、安部公房による実験的小説 『箱男』

男は段ボール箱をかぶって都市を彷徨します。社会の帰属を捨て、人から見られることなく、のぞき窓からひたすら社会の動きを眺めます。

ある日、謎の女性に声を掛けられて、「5万円でその箱を買いたい」と打診されて、箱男は困惑します。不審に思いましたが、彼女に欲望を抱いたがために、彼女の勤める病院に通い詰めることになりました。そこで、謎の男と出会ってしまいます。

『箱男』は1973年に発表された作品です。社会の枠には収まりきらない箱男という存在は、それでいて社会に適度に溶け込むという稀有な存在です。

そんな箱男の視点から世の中を眺める物語です。しかし、ただただ眺めるのではなく、様々なトラブルに巻き込まれます。ニセ箱男、不審な少年、露出狂の画家など、様々な人物が箱男を悩ませます。

著者
安部 公房
出版日

安部公房による本作の魅力は、実験的な構成です。箱男の手記を軸にしていますが、突然寓話や新聞記事、詩、写真8枚などが挿入され、他に類を見ない構成となっています。

複雑な構成ゆえに理解もやや難しいですが、都市における匿名性や、見る・見られるという認識、人間の帰属についての追及など、様々な主題を一つの物語に盛り込むことに安部公房は成功しています。

理不尽な状況に陥った男の心境 『砂の女』

砂丘へ昆虫採集に出かけた男は、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められてしまいました。男は脱出を試みますが、女は男を引き留めようとします。そして、村の人々は二人の姿を上から眺めています。果たして、男は穴から抜け出せるのでしょうか?

『砂の女』は1962年に発表された安部公房の作品で、1967年にはフランスで最優秀外国文学賞を受賞しました。理不尽な状況下で展開される男の脱出劇をスリリングに描き出しています。一般社会の常識は一切通じず、砂穴での慣習に抵抗しながらも、男は徐々に砂穴に住む女に同情にも似た愛情を注ぎます。
 

著者
安部 公房
出版日

安部公房による本作は、男の心の移り変わりの描写が魅力的です。穴の中に閉じ込められた男は当然、そこから脱出しようとします。

しかし、一緒に住むことになった女とも馴染んでいき、気持ちが変わっていくのです。しまいには恐ろしく感じていた村人たちにも親近感すら感じてしまうのです。理不尽な状況にも、知らぬうちに順応してしまうという恐ろしさをまざまざと見せつけられます。

日本初の本格的長編SF 『第四間氷期』

予言機械を使って、一個人の未来を予言してみようと、「私」は一人の中年男を尾行します。しかし、翌日、男は殺害されます。そこから事態は次々と移り変わり、やがて予言機械は過酷な未来を語りだします。

『第四間氷期』は、1959年に発表された安部公房の作品で、日本で最初の本格的長編SF小説と言われています。未来がわかれば安心して暮らせる。そんな考えを真っ向から批判する物語で、未来予知によって現在の自分が否定されてしまうという悲劇が描かれます。
 

著者
安部 公房
出版日
1970-11-27

本作の魅力は、わかりやすさにあります。安部公房の作品の中で最もわかりやすい小説の一つです。文体は純文学作品と同じですが、物語の展開はオーソドックスで読みやすいものとなっています。それでいて、現在と未来の関係性というテーマをしっかり描かれています。読み応えもあるので、安部公房の初読者にはぴったりの作品です。

ユーモラスだけど不気味な小説 『人間そっくり』

脚本家である「ぼく」の元に火星人と名乗る男が訪ねてきました。その男は退院したばかりの狂人で、「ぼく」は男の話に合わせました。度々男の相手をしているうちに、「ぼく」は自分も火星人なのではないかと思い始めます。

『人間そっくり』は1967年に発表された安部公房の作品です。登場人物は少なく、ほとんど「ぼく」と火星人と名乗る男の会話で進んでいきます。自分のことをまともだと「ぼく」は思っていましたが、次第に何が正しいのかわからなくなり、苦悩します。

また、位相幾何学を文学的に取り入れるという試みを行っており、人物の関係が逆転するという仕掛けも施されています。

著者
安部 公房
出版日
1976-05-04

安部公房による本作の魅力は、滑稽さにあります。狂人との会話という不気味な物語ですが、その文章は軽快で面白おかしく描かれています。不気味なものをユーモラスに描くことで、他の作品にはないマンガのような滑稽さを持っています。その滑稽さに浸っていると、ラストのどんでん返しがより衝撃的なものに感じられます。
 

以上、安部公房のおすすめ作品を5点紹介しました。様々な前衛的手法を取り入れた作品は一読で理解することが難しいかもしれません。しかし、前衛的だからこそ、表現できるものがあるのも確かです。ぜひ、安部公房の前衛的な世界観を読んでみてください。

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