浦賀和宏のおすすめ小説5選!破滅的な展開が魅力の作品

更新:2021.12.15

鬱屈した内面を爆発させた破滅的な展開の多い浦賀和宏。その狂った物語に魅了される人が後を絶ちません。今回は浦賀和宏のおすすめ小説を5点紹介します。

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タブーをテーマに扱ったミステリーが得意な浦賀和宏

浦賀和宏は1998年、第5回メフィスト賞受賞作『記憶の果て』でデビューしました。当時19歳の若さでの受賞です。メフィスト賞はミステリーの賞ですが、今までにない変わった作品が多く、同時刊行だった乾くるみや積木鏡介と共に、既存のミステリーだけではないことを良くも悪くも印象付けました。

浦賀和宏の作品の多くは、破滅的な展開をたどります。近親相姦やカニバリズム、読者などへの痛烈な罵倒などタブーとされるテーマを扱い、登場人物は鬱屈した感情を爆発させるため、他にはない破滅的な展開になりがちです。人を選ぶ作風ですが、一度ハマるともう浦賀和宏の作品なしでは生きていけません。

既存のミステリーからの脱出を図った意欲作『記憶の果て』

自殺により父を亡くした安藤直樹は、父の残したパソコンを立ち上げました。ディスプレイには「あなたは誰」との文字が浮かび上がり、自分の名前を答えます。パソコンは「私は安藤裕子」と応答しました。

疑問に思った直樹は裕子について調べるうちに、18年前に自殺した姉の存在にたどりつきます。父は脳科学者でした。パソコンの中の裕子はただのプログラムなのでしょうか、それとも……。

『記憶の果て』は1998年に発表された浦賀和宏のデビュー作で、安藤直樹シリーズ第1作です。コンピューターは意識を持てるのかというSF的な要素を絡め、19歳の主人公安藤直樹の重々しい青春を描いた小説です。

著者
浦賀 和宏
出版日
2001-08-10

傲慢でコミュニケーションを拒否する直樹の言動は、冷酷さを感じさせます。様々な謎が提示されますが、謎を解くたびに既存の世界観は崩壊し、人との関わりや友情を失うのです。

浦賀和宏による本作の魅力は、既存のミステリーからの意図的な脱却です。アンチ探偵小説の形を取り、直樹を通して名探偵批判を語ります。不必要な謎はあえて放置し、あくまで安藤直樹の物語として描きます。なお、放置された謎は浦賀和宏のシリーズ作の伏線となっています。

ミステリアスな少女と卑屈な少年のコンビが活躍『松浦純菜の静かな世界』

手に大怪我を負って療養生活を送っていた松浦純菜が2年振りに自宅に戻ってきた頃、女子高生の連続殺人が起こっていました。純菜は、別の事件で奇跡的に一命を取り留めた八木剛士に興味を持ち、積極的に近づきます。その理由とは一体……。

『松浦純菜の静かな世界』は2005年に発表された、松浦純菜・八木剛士シリーズの第1作です。安藤直樹シリーズとは違い、ストレートな推理小説となっていますし、直接的なタブーも鳴りを潜めます。しかし、タイトル通り「静か」に残酷な描写や内面の葛藤を描いています。それだけに真実味が強くなっているのです。

著者
浦賀 和宏
出版日
2005-02-08

本作の魅力は、純菜と剛士のコンビです。一見では意図の見えない行動を取り神秘性を漂わせる純菜と、卑屈で鬱屈した感情を持つ剛士の二人は、心に傷を持った者同士のつながりがあり、思春期だからこその繊細さがあります。安藤直樹シリーズでもそうですが、浦賀和宏は思春期の暗い葛藤を描くのが非常に上手です。

ライターが医療事故の真相に挑む『彼女の血が溶けてゆく』

ライターの桑原銀次郎は、元妻の医師・聡美が引き起こした医療事故の真相を探ることとなりました。患者の女性は自然と血が溶ける溶血を発症し、治療を施しましたが原因不明のまま亡くなってしまいました。

聡美は、自分の治療に落ち度はなかったと主張していますが、本当に医療事故ではなかったのでしょうか。死因を探るうちに次々と真実が露わになっていきます。
果たして銀次郎は真相にたどり着くことができるのでしょうか。

著者
浦賀 和宏
出版日
2013-03-14

『彼女の血が溶けてゆく』は、2013年に発表された、浦賀和宏による桑原銀次郎シリーズの第1作です。

医療関係に疎い銀次郎が、元妻とのよしみから真相に挑む医療ミステリーで、それだけに医療用語が多いのですが、丁寧な説明があるので問題なく読むことができます。ただの医療事故だったはずが患者を中心とした人間の異常な行動が見えてきて、様相が変わっていきます。ただの医療ミステリーで終わらせず、人間の利己心からくる企みまでも暴いた浦賀和宏のミステリー小説です。

本作の魅力は、推理の過程です。ライターが主人公ということもあり、自分の足を使って情報を集めていきます。亡くなった女性の過去や、その家族の秘密を解き明かしていく中で、新たな謎の提示や、事件の見方がぐるりと変わる様がよくできています。

めくるめく展開、さらに衝撃のラスト『眠りの牢獄』

女性が階段から落ちて意識不明になり昏睡状態になってしまいました。それから5年、三人の青年が女性の兄に呼び出され、地下室に閉じ込められます。解放の条件は、女性を突き落としたのは誰かを告白すること。

それと同時に、外部では女性二人による交換殺人が実行に移されようとしています。突き落とした犯人は誰なのでしょうか、交換殺人の真意とは何でしょうか。

『眠りの牢獄』は2001年に発表された浦賀和宏の作品です。250頁ほどの長編ですが、それだけに余計な事を書かず、無駄のないミステリー小説に仕上がっています。ストレートなミステリーかと思いきや、浦賀らしいタブーへの言及を交えて、予想だにしない方向に物語を何度も展開させます。そして破滅的なラストを迎えるのです。

著者
浦賀 和宏
出版日
2013-02-15

浦賀和宏の今作の魅力は、論点が次々と変化することです。誰が女性を突き落としたのか、という話から始まり、地下室に閉じ込めたのは本当に女性の兄か、兄の隠された裏の顔とは、といったように目まぐるしく変化していきます。そしてラストには、今までの論点を総括した帰結にきれいに着地するのです。

タブーだらけで刺激の強い作品『彼女は存在しない』

人と変わらない生活を送り、平凡な幸せを謳歌していた香奈子でしたが、恋人が何者かに殺されてしまい、歯車が狂い始めます。一方、根本は妹の異常な行動を幾度も目撃し、多重人格ではないかと疑い出しました。凄惨な事件を通して、関わりのなかった二人が結びつき、事態は混迷を極めていきます。

著者
浦賀 和宏
出版日

『彼女は存在しない』は2001年に発表された浦賀和宏作品です。多重人格をテーマにしたミステリーは数多あり、かなり手垢がついているのですが、多重人格の特徴を活かした構成や、複雑に張り巡らされた伏線によって、驚愕のラストを演出します。また、淡々とした文章で描かれる人物の心の葛藤や痛ましい過去は、妙に生々しく、読み手の心に突き刺さります。

本作の魅力はタブーの多さです。浦賀和宏の他の作品でもタブーをテーマに扱いますが、本作では一際言及が多く、近親相姦や同性愛などタブーの目白押しになっています。直接的なグロ描写も多く、従来の浦賀読者や刺激を求める方にはうってつけの作品です。
 

以上、浦賀和宏のおすすめ小説を5点紹介しました。たしかにクセが強い小説家ではありますが、他の小説家には描けないミステリーを多数書いています。ぜひ、浦賀和宏が描く破滅的展開に酔いしれてください。

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