川端康成代表作5選!読んじゃえ、日本文学の傑作

更新:2021.12.15

川端康成といえば、1900年代半ばに活躍を続けた小説家です。人間の負の感情を全て知った上で愛や美を解く小説は、高い評価を受け、今もなお読み親しまれている傑作ばかりだと言われています。そんな川端康成の、おすすめの作品を5つ紹介致しましょう。

ブックカルテ リンク

無垢な命をたたえ続ける作家、川端康成

川端康成は1919年にデビューした後、当時様々な有名作家が競い合っていた文学界において、川端は西欧の文学を取り入れることで新しい風を巻き起こし、注目されました。その作品は一貫して命や日本の美を扱っており、その美しい文章で彩られた情景は目に浮かぶような巧みさがあります。

命の美しさを説く作品においては、命の美しさだけにとどまらず、人間の持つ負の反面をも扱っています。それら暗い面を受け入れた上でも命の美しさを描いているため、命の賛美だけにとどまらない、深く考えさせられる作品ばかりです。

最期はガス自殺を遂げてしまいましたが、遺書はなく、その動機は不明。命を賛美し続けた作家が、なぜ自ら命を絶ってしまったのか、今でも議論の的になることがあります。
 

老いる命と、悠久な日本の自然の美しさを描く

『山の音』は、老いる命と日本の美を主眼に置いた作品です。川端康成作の長編小説の中では特に傑作との呼び声が高く、その美しい情景描写や命の描写は、海外でも高い評価を受けました。文壇においては、敗戦の傷跡が色濃く残る日本において、その影響をしっかりと捉えた作品として高い評価を受けました。

主人公である尾形信吾は会社の重役として日々を暮らしていました。もはや初老となった尾形は家庭を持っていますが、日本は未だ敗戦の影響をぬぐいきれずにいます。ある日、尾形は、「山の音」が聞こえてくることに気が付きました。尾形は恐れました。その「音」が、自分の死期を告げているように思えたからです。そうして日々を過ごす尾形ですが、もはや老人である自分の中に、息子の嫁に対する恋心があることを自覚します。死期が近い、と考える尾形が果たす行動とはいかに。
 

著者
川端 康成
出版日
1957-04-17

『山の音』は主人公の恋心を中心にして話が進みますが、主人公の家庭にもよく焦点が当てられます。本作の最大の魅力は、敗戦後という時代を背景にして、その悲しみに打ちひしがれる日本人の姿を描いていることにあるのです。そして、日本古来から受け継がれる、「悲しみ」の感性を細かく描ききっているところが大きな魅力といえるでしょう。

日本の悲しみの心を描き切った本作は、最近の日本人に疑問を持っている人にこそおすすめできる作品です。
 

美しい自然を背景に、淡くつたない恋情を描く

『伊豆の踊子』は、川端康成が伊豆へ旅をした際の実体験をもとに作成された小説です。川端康成の作品といえばこの作品を思い浮かべる人も多いでしょう。初期の作品ですが、その完成度は高く、何度も映画化されていることからもそのストーリーの完成度の高さがうかがえます。

主人公である「私」は傷心し、一人伊豆へ旅を出ることにしました。その時出会った旅芸人の一座に所属する踊子は、驚くほど無垢で、その傷ついた心は段々と癒されていきます。旅芸人一向と行動を共にする中、段々と踊子に魅かれていく主人公。しかし、いつまでも一緒にいるわけにいかない主人公に、ついに別れの時が迫ります。
 

著者
川端 康成
出版日
2003-05-05

『伊豆の踊子』は、あらすじからもわかる通り恋愛小説です。川端康成の心をそのまま映し出したような主人公の心理描写は心をえぐるものがあり、特に最後の部分における主人公の独白は、胸を打つものがあります。最初に発行されたのが1927年と昔の作品でありながら、読みやすい文章で書かれているので、恋愛小説を求めている方にはおすすめの一作といえるでしょう。

京都の美しさ、わびしさの集大成

『古都』は川端康成の作品の中で後期に発表された長編小説で、タイトルの通り、「古都」京都を舞台とした物語が展開されていきます。双子の姉妹たちが織り成す数奇な運命は勿論、次々と読み進めてしまう没入感がありました。入念な取材に基づいた、京都古来の祭りや史跡の、鮮明な描写が大きな魅力です。そのため、日本の美を描いた作品として特に海外で高く評価されています。

呉服屋の娘、佐田千重子は、自分が捨て子ではないかとの悩みを持っていました。そんなある日、八坂神社において熱心にお参りをしている、自分とそっくりな娘を見つけます。彼女は苗子といい、千重子の双子で、二人は生き別れの姉妹だったのです。両親の計らいもあって、受け入れられる苗子ですが、身分や教養の違いに悩んでいくことになります。
 

著者
川端 康成
出版日
1968-08-27

『古都』の見どころは、千重子と苗子のたどる運命もそうなのですが、最も印象に残るのは京都の催しごとや、有名な史跡の数々です。一度も行ったことのない人はその言葉で彩られた美しさに感動するでしょうし、一度行ったことのある人にとっては、その再現度の高さに驚くことでしょう。身分の違いを気にせず双子と接する千重子と、一方で身分と教養の違いを重く受け止める苗子の心理描写の巧みさにも注目です。京都に行ったことがない人はもちろん、京都が身近にある人にも是非おすすめしたい一冊となっています。

瞬間を生きる命の美しさ、愛の苦労を描く

『雪国』は川端康成の長編小説で、最初は小さく区切って書かれました。完成までにおよそ13年がかかった長編で、川端康成自身も最初から長編として製作しているわけではなかったようです。雪国を舞台に、女性が男性を愛することの苦労と献身を描いています。

文筆家のはしくれとして日々を過ごす男、島村は、旅の中で葉子という娘と、駒子という芸者に出会います。駒子は病気の許嫁のために芸者になったのですが、その過程で旦那を持ってしまい、17の時からずるずると続いていました。葉子は駒子の許嫁だった行男とは恋人同士です。行男自身は許嫁であることを否定しています。そんな三人の恋情の交差を、第三者として島村が見守ることに……
 

著者
川端 康成
出版日

『雪国』の特徴は、主人公が第三者として人物を眺めていくことにあります。そのため、視点が非常に読者と近く、そういった意味で主人公と読者の視点の一致はかなり高精度であるともいえるでしょう。『雪国』の名の通り、雪を背景にした美しい自然描写と、ドロドロとした人間関係との対比が非常にうまくできており、非常に評価が高い作品となっています。川端康成の作品の中でも特に「男女」に重きを置いて書かれており、恋愛が好きな人にとって本作はとてもおすすめできる作品だと言えるでしょう。
 

老人の性、消えゆく命の輝き

『眠れる美女』は他の川端康成作品とは違い、「日本の美」というものとの関わりはほとんどありません。しかしながら、その完成度は他の作品と全く引けを取りません。この作品のもっとも大きなテーマは「老い」と、その際に消えゆく命の美しさになっています。

主人公である江口老人は、すでに「男ではなくなった」老人限定の宿に招待されていました。そこでは眠っている全裸の美女と一夜を共にするという、秘密の倶楽部だったのです。何度も通う内、自分の中の性がいまだ完全に失われていないことに気が付きますが、娘に手は出さない、という宿の規則を思い出し、老人は何度も思いとどまりますが……
 

著者
川端 康成
出版日
1967-11-28

『眠れる美女』は老人の性と、失われていく命との対比表現が非常に美しい作品となっています。裸の美女たちの描写は非常に官能的で、エロチックさえをも感じる作品です。見どころは川端康成の中に存在する、死生観、処女感が色濃く出ている、その描写でしょう。様々なタイプの女性の描写は、まるで目の前に存在しているかのように写実的に記されていました。川端康成の作品としてはイレギュラーな存在ですが、一読の価値ありの名作です。
 

以上5作の紹介でした。川端康成の作品は、日本の美を背景に、人間の感情を巧みに描く、という作品が多くなっています。それらは川端康成にとって、どちらも美しいものなのでしょう。人間にせよ、自然にせよ、「美」を描く川端康成の表現は多彩で、文章にさえ美しさを感じるものとなっています。その表現は決して古風ではなく、今もなお色あせていないことからも、完成度の高さがうかがえるのではないでしょうか。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る