泉鏡花おすすめ代表作6選!覗いたことはあるか、この世界

更新:2021.12.15

泉鏡花といえば、幻想文学の先駆けとして有名です。泉鏡花は独特な世界観のもと、彼なりの「ロマン」を描き、そしてその世界観を、高い表現力で余すことなく表現していました。そんな彼の、独特な世界観を持つ作品を6つ、ご紹介していきます。

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泉鏡花おすすめ代表作6選!幻想文学の先駆者!

泉鏡花、という名前はそもそもペンネームで、その名前から受ける印象とは裏腹に、本人は男性です。本名は鏡太郎。彼は潔癖症としても有名で、生ものは一切口をつけなかったそうです。

彼の作品中には奇怪なことが数多く登場しますが、それは彼の怪奇趣味から来るものです。しかしながら、その繊細かつ写実的な描写は、泉鏡花の作品を現代に至るまでしっかりと印象付けており、今でこそ数多く存在している幻想文学の先駆者として評価されています。
 

『高野聖』 作家「泉鏡花」を形作った短編

『高野聖』は、泉鏡花が作家として成功するきっかけとなった短編になります。語りの軽妙さ、物語の面白さもさることながら、何より評価されているのはその表現の豊かさです。物語には、泉鏡花最大の魅力である多くの形容詞を用いる語彙力の高さが存分に生かされており、読み終えるころには、彼が形作る世界のとりことなっていることでしょう。

「私」は、旅の道連れとなった高野山の僧侶の話に耳を傾けていました。彼は、ひどく奇怪な体験をしたのだというのです。天生峠で恐ろしい蛇にあった僧侶は、なんとか逃げ切り、妖艶な美女にいる家屋で一夜を過ごしました。一夜明け、帰路を進む僧侶でしたが、女のことが忘れられず、戻ろうとします。しかしそのとき、馬引きの親方と鉢合わせし、彼から衝撃の事実を聞かされることになるのです。
 

著者
泉 鏡花
出版日

『高野聖』は短いストーリーながらも、小説のよさがしっかりと詰まっており、泉鏡花という作家を知るうえで最適な一作だといえるでしょう。

『照葉狂言』 母を失った悲しみを鮮明に描く

『照葉狂言』は、母を失った傷を引きずり続ける男の半生を描いた作品です。元は新聞で連載されていた作品で、泉鏡花特有の幻想的な表現はそれほどないもの、彼特有のテンポのよい文章は健在です。

母を失った男は、叔母に育てられながらも毎日芝居を見るのが日課となっていました。「雪」という女性は男にとって好感のもてる琴奏者だったのですが、母の死後からその音色を聴くことはできていませんでした。節約家で知られる叔母は雪のことをあまり快く思っておらず、育てられている手前、叔母の顔もあって、雪に想いを告げることができないでいました。
 

著者
泉 鏡花
出版日

『照葉狂言』においては、叔母と雪が対立する女性として、その間にいる主人公の生き様をありありと描いています。文章を読むと、そのすみずみに男が幼いころ失った母の痕跡を読み取れることでしょう。これは泉鏡花自身、母を失った悲しみを映しとっているために、写実的で、雄弁に男の心情を語りきっているのです。男の結末はぜひ本を開いて確かめてみてください。

『外科室』 人の感情の美しさ、そのロマン

『外科室』は、泉鏡花が最初に評価された作品といってもよいでしょう。『高野山』よりも前の作品であるため、怪奇趣味の活かされた幻想文学ではありませんが、泉鏡花独特のセンスによるロマンシティズムには、思わず息をのんでしまうこと間違いなしです。

画家である「私」は、医者の友人を持っていました。彼の手術を見学することになった私ですが、その日の患者である夫人が困った患者だったのです。手術をするのですから身体を裂かねばならないのですが、なんと彼女は麻酔を受け付けようとしないのでした。彼女が言うには、心に秘密があるので、麻酔を受けてしまうとそれを喋ってしまうので、麻酔などいらない、とのことでした。そこまでして、麻酔を拒む「秘密」とは何なのでしょうか。
 

著者
泉 鏡花
出版日
1991-09-17

読後には、泉鏡花が考える、人の感情の美しさに胸を打たれることでしょう。一度かなわぬ片思いをしたことがある人には、特におすすめの作品となっています。
 

『歌行燈』 能と謡を背景に、「芸」に賭ける人間の心を描く

『歌行燈』は、泉鏡花が愛した「能」が深く物語に関わっている物語です。泉鏡花自身が「芸」を仕事にしている人物であるがゆえ、それに命を懸け、全身全霊を込めることの美しさとロマンを彼自身の現身としての主人公の内面でしっかりと語っています。

主人公喜多八は、謡の師匠と腕比べの末、自殺に追い込んだため、能を二度としないという罰則を受けて勘当されていました。そんなある日、師匠の娘であるお三重と出会う主人公。能を禁じられていた主人公でしたが、芸者となったお三重の前にして感情を抑えきれなくなり……
 

著者
泉 鏡花
出版日
1988-09-16

今でも続く伝統芸である、能。芸の世界の奥深さを泉鏡花の幻想的な文体に乗せて読んでみてください。特に、誰にも譲れない一芸がある、というものがある、もしくはあった、という人は是非手に取ってみてはどうでしょうか。

『夜行巡査』 融通の利かない男の悲劇を描く

『夜行巡査』は、『外科室』と同時期に発表された作品で、泉鏡花が高い評価を受けるための基盤となりました。物語の主人公である八田巡査はひどく生真面目で、どんな職務も警察官として全うしています。彼の性格設定である「融通の利かなさ」「真面目さ」というものがこの短編の大きなテーマとなっていまして、これは当時から日本人特有の民族病のようなものだったのではないか、という考察すらも出来ます。初期の方の作品であるため『高野山』のような怪奇な雰囲気はありませんが、やはり軽妙な、能や謡のような語り口は健在でありました。

主人公、八田巡査はいつも通り、丁度深夜零時に署を出ました。見回りが彼の職務なのですが、そんなある日、酔っ払いに突っかかられることになります。酔っ払いは八田巡査の想い人の叔父で、逆恨みから決して巡査との仲を認めようとしない頑固者でした。彼は叔父と口論するうちに、叔父が池に落ちてしまい……
 

著者
泉 鏡花
出版日
2016-07-20

融通の利かない、ともすれば生真面目すぎる八田巡査が、どんな考え方をして、どんな結末に至るのか、身近な真面目な人を思い浮かべながら読んでみると、その人の人生や、その人との付き合い方を考えるいい機会になると思います。

『春昼』 狂うほどに焦がれる思いの行方は……

ほかほかと、でも少し汗ばむような春の日のさす山間を散策する散策人。目指す山寺についた彼は寺の中に貼ってある一枚の札に興味をそそられます。

「うたた寝に恋しき人を見てしより夢てふものは頼みそめてき  玉脇みを」

そこに寺の僧がやってきて、ふたりは腰を落ち着け世間話に興じます。そしてその世間話は札の女人に心を奪われ命を落とした一人の男「客人」の話へと変わっていくのです。

著者
泉 鏡花
出版日
1987-04-16

『春昼』はこの二人の世間話で終始するのですが、二人の対話がテンポよく、親しみやすいタッチで描かれているので、僧の話に強く興味を示す散策人におかしみを感じながら、身近な感覚で読み進められます。

『春昼後刻』は摩訶不思議な物語を聞き終え寺を後にした散策人が、先ほど僧が語っていたうわさの女人「みを」と出会うところから始まります。「みを」は夫のいる身ですが、胸に恋い焦がれる想い人の存在があります。『春昼』で「みを」を想い、焦がれ死んだ「客人」はその想い人とどこか似通っていたのです。そして散策子も……。

狂うほどに焦がれる相手にはどうしても会えない……。せめて身近にいる似た男性を探し、我が心を慰めている、そんな日々を送っていると、散策子に語るのです。

「みを」の現実と夢が交差し語りは終焉に向かいます。

はたして、焦がれる相手とその相手に似た男の狭間で「みを」の心は本当に慰められたのでしょうか……。ふわふわと漂う感のある「みを」の精神愛のなかに、現実身を帯びた愛への問いかけがあるように感じるのです。

泉鏡花の作品はどれも表現が巧みで、かつ、語り口がはっきりとしています。これは、泉鏡花自身が能に造詣が深かったため、言葉のリズムのようなものをしっかりと意識しているからでしょう。彼の作品は現代で見ると古語として扱われるものが多いのですが、彼が意識したであろうリズムを想像しながら読んでみてください。見た目よりも読みやすく、すいすいと読み進めることが出来るでしょう。面白い物語を読みながら、こんなに言葉のリズムを考えられることに、感心してしまうこと間違いなしです。

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