夏目漱石の代表作おすすめ11選!名作読み始めに遅すぎるなんてことはない

更新:2021.12.15

夏目漱石といえば、旧1000円札の絵柄にもなっており、非常に有名な文豪です。教科書に載っている作品を読んだことがある人も多いのではないでしょうか。その平易な文章と魅力のある物語から、現代においても人気のある作家となっています。

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世界の傍観者、夏目漱石

夏目漱石は、明治から大正にかけて活動した作家。その作風は俯瞰的な視点から世界を眺めています。およそ11年という短い期間の作家人生の中で生まれた物語たちは、今も私たちを楽しませてくれる存在です。

現代日本語で描かれた作品は当時、「余裕派」と呼ばれ、夏目漱石とその門下を中心にしてある程度の広がりを見せていきました。

作家人生が短かったのは決してデビューが遅かったわけではなく、夏目漱石自身が非常に短命であったことが理由になっています。胃潰瘍を患った夏目漱石は、当時書いていた『明暗』を完成させることのないまま、その短い一生を終えることになりました。
 

猫の視点から、皮肉気味に人間の生活を描く

『吾輩は猫である』は夏目漱石が初めて発表した作品です。猫である「吾輩」を主人公として話が進み、飼い主である英語教師の珍野一家や、彼らと関わりのある人物たちの生活を風刺的に描いた作品でした。

猫の「吾輩」は、英語教師、珍野苦沙野に飼われていました。「吾輩」の目から見ると不思議なことをする人間たちを、猫特有の視点から描いています。
 

著者
夏目 漱石
出版日
2016-06-24

『吾輩は猫である』は猫の視点で描かれた作品です。猫という視点の特性から、人間を皮肉ったり、私たちが普段常識であると思っていることを別の視点から見たり、生活様式は100年前のものではありますが、それでも現代と通じることの多い名作だといえます。
 

痛快で滑稽な腕白小僧の半生

『坊ちゃん』は、夏目漱石作品の中では最も大衆に親しまれた作品となっています。主人公「坊ちゃん」の巻き起こす物語はとても滑稽で、胸がスカッとするようなものになっています。

主人公である「坊ちゃん」は四国の中学校数学教師に赴任することになりました。しかし陰険な教頭や、生徒たちによっていやがらせを受けてしまいます。そんな日々を過ごす坊ちゃんですが、持ち前の無鉄砲さで様々なものを解決していくのです。
 

著者
夏目 漱石
出版日

『坊ちゃん』は夏目漱石がわずか10日足らずで書き上げました。しかしながら、物語のクオリティは非常に高く、「坊ちゃん」の痛快な行動は、私たちの心を晴らしてくれます。何より、抑圧的な日常を送っている人には特におすすめな作品といえるでしょう。
 

人の世の生きづらさを描く

『草枕』は夏目漱石初期の作品で、人の世の生きづらさ、夏目漱石の言葉を借りると「非人情」を描いた作品です。人間に情があることは誰もが経験からわかることですが、一方で、「人情」というものを感じさせてくれないこともあるのは、同じく経験からわかることではないでしょうか。そんな世界を「生きづらい」として、達観した視点から描いています。

主人公である洋画家は、山の中にたたずむ温泉宿に泊まりました。その中で美しい女性、那美と出会います。ある程度仲良くなった主人公は、那美に絵を描いてほしいと頼まれますが、それを断りました。主人公は、彼女一人を絵にするには、どこか足りないところがある気がして……

 

著者
夏目 漱石
出版日

『草枕』は、洋画家の主人公が那美を描くまでの物語をつづっています。田舎での生活を通して、人の世の中の生きづらさを描いているのです。また、「非人情」の体現者である那美との付き合い、そして漱石が思い描く芸術論など、様々な要素が統一され、一本の物語となっています。「非人情」を漱石がどう捉えているのかを、現代社会と照らし合わせても面白いかもしれませんね。

田舎の青年の目を通して変わる都会と、青年の成長

『三四郎』は、明治末期を舞台にした作品となっています。田舎の一青年が上京することは当時からよくあることであり、日本社会の縮図である東京を彼の目を通して批評しています。皆よりも高い場所から社会を見つめるという作風からの転換期となった作品となっていました。

主人公である三四郎は、九州から上京した青年でした。東京で様々な人と出会い、様々な経験をするうち、自分を取り巻く世界が三つの世界に分けられることに気が付きました。三四郎はその世界の内、華美の溢れる世界に魅かれ、その世界に住む女性に恋をするのでした。
 

著者
夏目 漱石
出版日
1948-10-27

『三四郎』の中で、田舎と東京の対比が度々登場します。この対比は、現代日本においても散見され、田舎の人であればあるほど、東京が「別世界」として映ることは、一度上京した人ならば経験したことのある人でしょう。その時の気持ちを思い出しながら、あるいは想像しながら読むと、より物語を楽しめることでしょう。

 

一人の男の大きな決意を描く

『それから』は、主人公である代助が、とある決意をするまでの過程を描いています。一見するとどうしようもない男であっても、大きな決意をするときの悩み、心の痛みなど、多くの葛藤があることを見事に描き切っています。

主人公代助は、実家から送金される金で日々を過ごしていました。そんなある日、友人である平岡が仕事を失くし、代助に仕事の紹介を頼み込みます。言われる通り新聞社に仕事を紹介した代助でしたが、日々を平岡の妻と暮らすうちに、彼の妻である三千代に恋をしてしまいました。三千代の元へ、愛を告白する代助でしたが……
 

著者
夏目 漱石
出版日
1985-09-15

『それから』では、代助が決意をするまでの過程と、そしてその決意の行方を描く小説になります。大きなテーマや社会的な風刺は見られませんが、等身大の青年をメインに据えた物語は面白いものです。特に、代助がした決意がどのような影響を及ぼすのか、というところが大きな見どころとなっています。人を想うことの力の強さを改めて感じさせられるのではないでしょうか。

罪に対する救いを描く

『門』は『それから』と大きな繋がりを持っている作品であり、決意によって負った罪の救いを描いています。登場人物は別の名前となっていますが、実質的に『それから』の続編ととってもよいでしょう。

主人公野中宗助は、かつて親友だった安井から御米という女性を奪い、妻としていました。それ以来、安井は姿を消してしまい、宗助は救いを求めて日々を過ごしていました。そんなある日、安井の消息が宗助の元に届きます。安井の元へと出かける宗助ですが……
 

著者
夏目 漱石
出版日
1986-11-29

『門』は罪を犯した宗助が、ひたすら救いを求め続ける日々を描いています。後ろめたいことに対する救いを探すことは誰しもあることですが、彼が救われるべきか、そうでないかは、人によって意見が変わるところでしょう。そんなことを考えながら読むと、非常に味わい深い物語となるはずです。

人間のエゴイズムと倫理の間にある、心の葛藤を描く

『こころ』は、夏目漱石のもっとも有名な作品といえるでしょう。教科書で読んだことのある人も多いかもしれません。教科書に載っているのはごく一部で、もとは三部構成の長編小説です。売上総数は700万部を超えています。

「私」は奥さんと静かに暮らす「先生」と夏休みに出会い、親交を深めます。過去を話そうとしない「先生」でしたが、彼は「来るべきとき」に話すといって、決して口を割ろうとしませんでした。父親の容態が悪化したことで帰省した「私」ですが、いよいよ山場となった父親の元に、「先生」からの遺書が届き……
 

著者
夏目 漱石
出版日
1991-02-25

『こころ』は「私」と社会における、エゴイズムとの葛藤、そして「先生」のエゴイズムのまま行動した結果起きた結末、そして先生の中に常にあった後悔など、「心と、心を抑え付けるものとの葛藤」をメインに描いています。

見どころは、先生の過去が詳細に明かされる第三部で、第一部の先生の言葉をもう一度見直してみると、さらに楽しめる構成となっています。

10編が織りなす夢のお話

本作『夢十夜』は、夢のお話です。10の短編で構成されていますが、実際に夏目漱石が見た夢なのか、夢として創作したものかは定かではありません。ただ、数多く書かれた作品群の中では異色の作と言えるでしょう。

「吾輩」という猫の視点から、人間社会の機微をシニカルにユーモラスに描いた『吾輩は猫である』。また、嘘が大嫌いで無鉄砲な熱血教師、坊ちゃんを主人公とした大衆性あふれる『坊ちゃん』。これらにくらべ本作は、より自由な寓話的・ファンタジーのテイストがあります。

夢の話はえてして支離滅裂、要領を得ないものです。本人は夢で見た怖さを伝えたいのに、相手には怖さがさっぱり伝わらず、お互いにじれったくなるというのはよくあります。しかしながら、『夢十夜』においてその心配はありません。漱石が描く登場人物の言葉づかいや情景描写で、自然と理解しイメージすることができます。

著者
夏目 漱石
出版日

第一夜から第十夜それぞれの話には繋がりは無く、登場する人物や時代背景は各話ごとに違い、男女や親子、明治時代や神代の時代などさまざまです。ストーリーも、見かたによっては艶を感じる別れの切なさを描いたものや、怪談めいたものがあり広がりがあります。

夢というものは、そのときの精神状態や過去の体験などに影響を受ける場合があります。美しい文章表現ながらも、作中から読み取れるのは死別や孤独、恐怖や焦燥です。漱石に、執筆時の状況や幼少・青年期の体験に目を向けることも、作品を楽しむ方法の一つでしょう。

多くの方に朗読の題材、テキストとして取り上げられるほど、幻想的・寓話的な世界を美しい日本語で表している作品です。第一夜から第十夜まで、いろいろなテイストが楽しめます。

夏目漱石、かく語りき

この学生時代を回想したエッセイは全5章で構成されています。いまや国民作家として知られる漱石ですが、かつては当然のことながら、学業にうち込む若者のひとりでした。

漱石は、帝国大学を卒業してイギリス留学を経験した、たいへん秀才なイメージで通っています。そうした私たちの漱石像をくつがえしてくれるのが、『私の経過した学生時代』というエッセイです。それは誰もが学生時代に感じた思いにつながるのではないでしょうか。

著者
夏目 漱石
出版日
2012-09-15

では、どんなことが書かれているのか。漱石はエッセイでこのようなことを告白します。いくら英語を勉強しても、分からないものは分からないと憤ったこと。同僚とボート競走で汗を流したこと。落第したことをきっかけに、授業中は先生の話に耳を傾け、試験の前にはテストに出る範囲を勉強しておこう、と心に誓ったこと。また初めてのアルバイトに英語を教える先生の仕事に就いたことなど、私たちにも身近に感じられる学生時代が回想されます。

夏目漱石も私たちと変わらず同じような学生時代を送り、同じように勉強に苦労して愚痴をこぼしたのです。

吾輩は小説の執筆でいそがしい。夏目漱石が自宅で飼い始めた文鳥の行方は?

もうひとつ、夏目漱石が身近に感じられるエッセイをご紹介します。日本を代表する国民作家として不動の地位を築く漱石。そんな彼の苦手なことをご存知ですか?じつは彼が苦手としていたものがひとつあるのです。それが文鳥を飼うことでした。

夏目漱石は多くの門下生を抱えていましたが、その内のひとりに、鳥好きとして知られる鈴木三重吉という童話作家がいました。彼はある日の夜に、漱石の自宅を訪ねて「文鳥を飼ってみてはどうでしょう?」と執拗に勧めてみるのです。その気になった漱石が鳥を飼う日々の記録を綴ったのが、この『文鳥』というエッセイです。

著者
夏目 漱石
出版日

当初は文鳥の世話を細めにおこなっていました。朝はやくに起きれば、鳥がついばむ粟を餌箱に入れてやり、壺に入った古い水を新しいものに変えてやります。漱石はたいへんに文鳥を慈しんでいたのです。

漱石には楽しみにしていることがありました。三重吉の話によれば、文鳥は「千代々々(ちよちよ)」と美しく鳴き声をあげるというのです。また、飼い主に慣れてくると、手に乗せた餌を自然とついばむようになるというのです。文鳥のさえずる声とその餌をついばむ愛らしい姿を見たいと、はやる気持ちを抑えます。

ところが、鳥の世話をすることに慣れない漱石は、日に日にその世話を、家の者に任せてしまいます。以後、エッセイは、小説の執筆に忙しい漱石と見放されてしまった文鳥との関係に焦点があてられていきます。

漱石の門下生のなかには、内田百閒など鳥好きの文士が集っていました。彼らの綴ったエッセイと読み比べると、文鳥の飼い主たちのそれぞれの性格を比較することで、エッセイがいっそう興味深く感じられると思います。漱石もいわば人の子。このエッセイで、漱石の存在をより身近に感じてみてください。

夏目漱石の獲得した境地を文章に。未完の名作

『明暗』は夏目漱石が書いた最後の作品となっています。決まった視点人物はおらず、それぞれがそれぞれのエゴイズムを抱えながら生きているということをありありと描いています。

会社員である津田由雄は、病気のために手術費を親に借りようとしていました。しかしながら、親には断られ、妹にも責められる始末でした。彼の手術費の工面と、そしてどこか不安定な夫婦関係を中心にして、様々な視点人物を介して物語を描かれています。

 

著者
夏目 漱石
出版日

『明暗』は漱石が死去してしまったため、100年が経過した現在でも未完となっています。しかし、夏目漱石という作家が、その人生で獲得したもの全てを込めた作品は非常に巧みで、面白く、人間のエゴがどれだけ多様なのか、ということを思い知らされます。人と付き合う人が多い人ほど、そう実感することでしょう。


夏目漱石の作品は、どの作品でも共通して人間の「心」を描き切っています。「心」を描くということは全てのことに共通していますが、作品によって視点が違ってくるのです。心は誰しもが持っているものなので、共感しながら、読み進めることができるでしょう。文章も比較的平易で、読みやすいものばかりです。名作と呼ばれる夏目漱石の作品、読み始めるのに遅いということはないと思います。

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