2021年に全11巻で完結した井上智徳のハードボイルドアクション『CANDY&CIGARETTES』。 ロートルSP・平賀雷蔵と小学生兼殺し屋・涼風美晴の異色バディが世界中の悪党を成敗して回る本作には、スタイリッシュなガンアクションとキャラクターの人間臭い魅力が詰まっていました。 今回は『CANDY&CIGARETTES』のあらすじや魅力を、ネタバレを交えご紹介していきます。
平賀雷蔵は元警視庁SPの頑固な老人。
難病の孫・正太の手術費を稼ぐため仕事を探していた折、裏路地にたたずむ「古書 ですぺら堂」の求人募集を目にする。店内には雷蔵を面接した眼鏡の女性・絹目の他に店番の少女・涼風美晴がいた。
仕事初日、現場に赴いた雷蔵が目の当たりにしたのは衝撃的な光景。なんと、美晴が麻薬の売人を殺していたのだ。
美晴の正体は天才的な殺し屋で、両親を惨殺した仇を追っているらしい。
子供が殺しに手を染める現実に苦い顔をしながらも美晴と組んで殺し屋の活動を続けるうちに、二人の間には年齢や立場を超えた絆が芽生え始め……。
- 著者
- 井上 智徳
- 出版日
『CANDY&CIGARETTES』は全11巻で完結済み。本作は知られざるハードボイルド漫画の名作として、ファンに根強く支持されています。
最初に注目してほしいのは主要キャラの設定。
正反対の人間が好む好まざるにかかわらずバディを組む話は古今東西数あれど、元SPの老人と現役殺し屋の女子小学生の組み合わせは類を見ません。
この二人がバディとなるまでの過程がとてもエモい。
雷蔵は元SP、即ち護衛。以前は殺し屋と真逆の仕事をしていました。彼にとって美晴は先輩、暗殺の腕前はかないません。とはいえ相手は自分の孫と同い年の子供。素直に従うのは沽券に関わるときて、序盤は葛藤する場面が目立ちます。単なるプライドの問題にとどまらず、純粋に美晴の身を案じていたのも否定できません。
小児性愛者にハニートラップを仕掛ける事もあるのですから、雷蔵の心配もわかります。
美晴は雷蔵の子ども扱いをうざがりながらも、足手まといな彼を助け、次第にその気持ちに応えるように。雷蔵の知恵や経験でピンチを切り抜ける展開も多く、共に絶体絶命のピンチを乗り越えていくうちに、確固たる信頼関係が育っていきます。
そんな雷蔵と美晴コンビの活躍は痛快の一言。
ドンパチの最中も軽口を叩き合い、互いを鼓舞するのを忘れません。雷蔵と過ごす時間が長くなるほど天涯孤独の美晴は彼に心を許し、精神的支柱のように頼ることが増えていきます。
オフでは実の祖父と孫のようにじゃれあい、仕事においては互いの不足を補い合い、対等なバディとして共闘する雷蔵と美晴の魅力が物語を引っ張っているのは確か。
二人の関係性を象徴するエピソードとして挙げたいのが、雷蔵が美晴の部屋を訪ねた際のやりとり。
美晴は暗殺の報酬として得た札束を、「使い道がないから」とバスタブに放り込んでいました。のみならず、「好きなだけもってっていいよ」と許しを出します。しかし雷蔵は首を縦に振らず、「孫の手術費は自分で稼ぐ」ときっぱり言いきりました。
相棒に甘えるのをよしとせず、意地と信念を通す雷蔵。いぶし銀のかっこよさに惚れ直す名シーンです。
- 著者
- 井上 智徳
- 出版日
美晴&雷蔵のターゲットとなるのは司法で裁けない悪党たち。汚職政治家や親の権力を嵩に着て罪を逃れた者たちに、次々天誅を下していきます。
中盤以降は日本を飛び出し、麻薬シンジゲートの帝王やイタリアンマフィアのボス、さらには中東の紛争地で暗躍する傭兵団など、海外の犯罪者を相手取るエピソードが増えました。
単行本の表紙では舞台となる国に合わせて美晴がファッションチェンジしており、目の保養です。
ところがどっこい、ストーリーの大枠は意外に骨太。アメリカ・イタリア・中東を股にかける中で、昨今の世界情勢を背景にした大国の陰謀や政治的駆け引き、それに翻弄される弱者の姿を描きました。
終盤のキーパーソンであるアメリカ合衆国大統領、トンプスンのモデルは言うまでもなくトランプ。
他にも小池百合子似の女性都知事が登場したり、実在の政治家に寄せた灰汁の強いキャラクターたちが、それぞれの思惑を秘めてメインストーリーに関わってきます。
美晴たちの敵に回り、時に共闘もする彼等の動きに、ぜひ注目してください。
- 著者
- 井上 智徳
- 出版日
『CANDY&CIGARETTES』を語る上で外せない魅力に、独特の絵柄が挙げられます。
CGに頼らないアナログタッチの絵は、ともすれば粗削りにも見えますが、だからこそ生々しい迫力を生むのに成功しています。
雷蔵が瓦礫の廃墟にたたずむワンカットをご覧ください。血しぶきや硝煙の形まで、徹底した美学を感じませんか?
作者の井上智徳はアメリカの犯罪小説やフィルムノワールに造詣が深く、それらの乾いた空気の表現にこだわったそうです。実際各話の表紙は洋画ポスターさながらスタイリッシュで、チャーミングとハードボイルドが奇跡的なバランスで両立していました。
最高に面白い『CANDY&CIGARETTES』、気になる人はぜひ手に取ってください。
- 著者
- 井上 智徳
- 出版日
『CANDY&CIGARETTES』がお気に召した人には同じ殺し屋漫画、『バイオレンスアクション』(原作:沢田新、作画:浅井蓮次)をおすすめします。
『CANDY&CIGARETTES』の美晴は女子小学生ですが、『バイオレンスアクション』のケイは簿記検定合格をめざす専門学校生。
まるで映画を見ているような、ハードなガンアクションと軽快な掛け合いが楽しめます。
- 著者
- ["浅井 蓮次", "沢田 新"]
- 出版日
さらに個性的な殺し屋の美少女と出会いたい人は、アニメ化もされた相田裕『GUNSLINGER GIRL』を読んでください。
本作はイタリアを舞台に、テロリスト制圧の任務を帯びた義体の少女と担当官のバディを描く群像劇。女たちの純粋さを強調するリリカルなモノローグと、硬派なミリタリー描写のギャップがたまりません。
- 著者
- 相田 裕
- 出版日