そして、今日も課題に取り組んでいる

文化放送で働き始めて、今度の4月から8年目。

新卒からお世話になっているので大学生の終わり頃から研修をしてもらって、私の場合は2015年4月からアナウンサー人生・社会人人生が始まりました。

それからというもの、会社という“組織”から仕事という“課題”を与えてもらい、不安やプレッシャーに打ち勝つために食らいつきながら、学び、放出し、反省し、また次の課題に取り掛かる。という作業を重ねています。

 

アナウンサーとしての初鳴きは、先輩の砂山圭大郎アナウンサーにゴムパッチンをするというドッキリ企画の生中継。初鳴きにしては無茶ブリ感もありますが、文化放送という社風をダイレクトに表している初仕事だと思います。中学生の頃から声を聞いていた砂山アナと絡み、スタジオの吉田照美さんや先輩アナウンサーに構ってもらえてほくほくの初仕事。

 

それからすぐに、「スタートゲート」という動画配信番組を担当しました。これから世の中に出ていくであろう、まさにスタートゲートに立つアイドルやアーティストの皆様をゲストに迎えるトーク番組のMC。業界の先輩である現場スタッフからは、来てもらったゲストや番組を見て下さったファンの皆さんに「楽しかった〜」って思ってもらえることが一番なんだよ。と助言されていました。それでも私はアナウンサーとしての言葉遣いに気を配ったり、毎回はっきりとでる視聴人数や再生回数を常にチェックして、勝手に個人的に一喜一憂する日々。結局……動画配信という地上波ラジオの改編に関わらない構造だったからなのか、番組は2年半続き、毎週月曜日、一週も休まずに、ゲストと楽しいひとときを過ごし続けました。

 

いま思い返してみても、他の仕事も含めて、学びや出会いの多い大変豊かな新入社員時代です。目の前の課題に向かうだけで、多くのことが約束されている。

ただ、入社して3年ほど経ったくらいで、一度立ち止まった時期がありました。いくつかの改編を経験し、放送に関わる一般的な知識を得て、放送局に勤める者の喜びや悲しみに一巡くらい触れた頃。

自分が日々作っているものに実体がないことに気がついたのです。入社3年目くらいで社会が見えてきて悩む……世間では至極一般的な事象に自分も足を踏み入れたようです。日々の幸せに心を傾けられなくなってきました。

 

そんな時に母から、「今のあやちゃんに必要なことが書いてあるよ。」

と言って渡されたのが、こちらの1冊。

著者
曽野 綾子
出版日
2013-07-28

 

様々な視点から「人間の成熟」について考えられている新書。時事や流行、身近な人たちの言動に対する曽野綾子さんの想いが紡がれていて、価値観がするすると伝わってきます。例えば、諦めるということは人間にとって大切な知恵のひとつ。昨今の広告に見られるようなひとりよがりの文章の背景には押し付けがある。現代には個人の選択の自由さがあるが、実はその自由を評価したり行使したりしていない。など、当時の私に気づきや反省を沢山与えてくれました。

年のせいと笑われているのだが、この頃、弱い、卑怯な日本人が増えたような気がしてならない。そういう人々の多くは、健康状態も申し分ない。外見もいい。教養や学歴も充分。親も良識ある家庭の人たちである。それなのに、そこの育った若い世代は、いつも及び腰で、周囲に文句ばかり言っている。

(中略)

現状に満足せず、自分はもと大切に遇されて当然と文句を言うことで自分を支えている。それが劣等感の塊である証拠なのである。

 

気づきや反省というよりは、もやもやの正体を知ったような感覚になったこの章。劣等感からつい生まれてしまう他罰的な考えを阻止するためにはどうすればよいのでしょうか。詰まる所、人生の課題に向き合い続けるしかないのだという考えに至ったのは最近です。

 

入社して3年目くらいで一度立ち止まってからも、ルールを知らなかったスポーツの取材を重ねたり、自分の意志では選んでこなかったエンタメを享受したり、知らない人と関わって価値観を共有してもらったりして、課題に挑み続けている。いつもその時の自分よりもちょっとレベルの高い課題を与えられるのですよね。焦りや、時には文句を伴いながら、これからもこの作業を繰り返してゆくのだろうと思います。本当に……人の運命はうまいこと構成されているなあという客観的な感心さえある。

 

課題を与えられ、自分のだらしなさを嘆きながら、時が来れば終了している。振り返ってみると6〜7割の出来で課題を終わらせていて、周囲は良かったところのみを抽出して伝えてきてくれる。その繰り返しにしか過ぎないけれど、経験という事実だけはしっかりと手の中にあって、感情もべったりと心に張り付いている。これを全力で繰り返していくうちに「成熟」に確実に近づいていると信じたいものです。

ちょうど良い塩梅で次の挑戦をさせてくれる文化放送には心からの感謝をしていて、この鎖が続く限り、自分の人生が余ることはなさそうです。


 

このコラムは、毎月更新予定です。

info:ホンシェルジュTwitter

writer Twitter:西川あやの

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