小型で可愛らしい姿とは裏腹に、かなり獰猛な性格をしているクズリ。危険生物として認識されています。この記事では、彼らの生態や天敵、繁殖と子育てなどについて解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
クズリの分類は、イタチやカワウソなどと同じ哺乳綱食肉目イタチ科です。容姿は小さなクマのようで、見た目は「かわいい」という印象を受けるのではないでしょうか。しかし大変獰猛な性格をしており、「小さな悪魔」とも呼ばれています。
生息地は、アメリカ西部や中国北部、ノルウェー、フィンランドなどで、寒い地域を好み、夏季の平均気温が22℃を超えるところには存在しません。体長は65〜105cmほどで、体重は成獣で30kg前後です。ただしアラスカ地方にいる種類は小さく、その半分ほどとなるようです。
黒い濃褐色の体毛をしており、帯状の白みがかった模様が体の側面をとおって肩から尾まで入っています。嗅覚が優れていて、肛門腺から出す分泌液でマーキングをすることも特徴です。
雑食性で、主なエサは小型の哺乳類や鳥類とその卵、果実など。顎の力が強く、獲物を骨ごとかみ砕くこともでき、動物の死骸をあさることもあります。
「クズリ」は漢字で「屈狸」と表記されることもありますが、これは当て字で、和名は樺太の先住民族が使う「ニヴフ語」に由来しています。英名は「ウルヴァリン」で、「オオカミを狩る者」という意味の「Wolver」が変化したものとされ、気性の荒さを表しているといえるでしょう。
獰猛な性格をした動物は肉食獣を中心に他にもたくさんいますが、なかでもクズリが「小さな悪魔」と呼ばれているのには理由があります。
まずは恐いもの知らずな点です。どんな動物も、基本的には自分の命を守るために、勝ち目のない相手に勝負を挑むようなことはしません。加減を知らない自然界では、負けることは死を意味するからです。
しかしクズリは、目の前にエサとなる食べ物があるとわかれば、相手の体格が自分より大きくても、また数が多くても、果敢に勝負を仕掛けます。なかにはクマやオオカミが仕留めた獲物を奪い取ったという記録も存在します。
さらに威勢がよいだけではありません。クズリの戦法は、相手がその場から逃亡するまでしつこく戦い続けるというものです。体の小さな彼らが大きな相手を殺すことは稀ですが、戦うことをやめないため、多くの場合は相手が諦めてその場を去っていくそうです。
小型の哺乳類のなかでは最強という呼び声も高いクズリですが、天敵はいるのでしょうか。
一般的に「天敵」とは、捕食される可能性がある相手のことを指します。そういう意味では彼らを好んで食べようとする動物はいないため、天敵はいないといってもよいでしょう。
クズリにとってもっとも天敵に近いのは、限られたエサを奪いあうライバルの存在で、オオカミやコヨーテ、クマなどが当てはまります。
オオカミやコヨーテには勝つこともあると先述しましたが、では体格差の大きいクマが相手ではどうでしょうか。もちろん真っ向勝負では難しいですが、実はクズリは知能も高く、大型の哺乳類に対して奇襲を仕掛ける知恵があるのです。
その戦い方は、樹上で待ち伏せをし、タイミングを見計らってダイブ。急所を強靭な顎で噛み砕きにかかります。体の小ささを活かしたスピードがあれば、クマの攻撃もなかなか当たらず、勝つ可能性も十分にあるでしょう。現に飼育下では、陸上で最大の体格を誇るホッキョクグマを殺傷したという記録も残っています。
一方で、クズリと同じく小型で獰猛な哺乳類の代表格であるラーテルと戦ったらどうでしょうか。ラーテルも気性が荒いことで有名で、たとえライオンが相手がでも物怖じしません。
生息域が異なるためクズリと出会うことはありませんが、もしも両者が戦った場合は互角の勝負がくり広げられるのではないでしょうか。ただラーテルは背中の皮膚がとても頑丈で、ライオンの牙にも耐えうる防御力を有しています。クズリの顎を使った攻撃がなかなか効かないため、有利かもしれません。
クズリは一夫多妻制です。ただハーレムを形成するわけではなく、オスは自分の縄張り内にいるメスと順番に交尾をしていきます。
繁殖期は4月下旬から7月にかけてで、メスの妊娠期問は30〜50日ですが、交尾から着床までに数か月の間が空くため、1月から4月に出産の時期を迎えます。また、1度に2〜4頭出産するそうです。
成長のスピードがはやいのが特徴で、生後1年ほどで大人と同じような体格になります。その間の授乳は基本的には母親がおこないますが、コミュニティによっては祖母が授乳することもあるようで、動物界のなかでも非常に珍しい行動だといわれています。
子どもが母親と行動をともにするのは1〜2年ほどです。それ以降は自立して、自分の縄張りをもつようになります。
成熟期に差しかかるまでは約3年です。繁殖期は毎年迎えますが、寒冷地帯に生息しているためエサが不足していれば交尾をしないこともあります。繁殖能力自体はそれほど高いわけではないようです。
- 著者
- 新宅 広二
- 出版日
- 2014-08-12
動物にはさまざまな属性や種が存在します。そしてそのほとんどにピラミッド型のパワーバランスがあり、弱肉強食の食物連鎖がおこなわれています。本書はそのピラミッドの頂点に君臨する猛者たちだけを集めた図鑑です。
掲載されているのは、クズリをはじめとする哺乳類や魚類、鳥類、昆虫などジャンルを問わず合計100体以上で、大迫力の写真やイラストでその恐ろしさを堪能できます。また、解説欄には役立つ雑学コラムもあります。
「危険生物」とありますが、ただ見た目が恐ろしい生物だけを特集しているわけではありません。クズリのように一見かわいいけれど実は獰猛な生物もたくさんいます。その生態を学びながらスリルを味わえる1冊です。
- 著者
- 出版日
- 2016-06-24
本書は、肉食獣やサメはもちろん、毒ヘビ、毒ガエル、ワニ、怪魚、猛禽類にいたるまでさまざまな危険生物を特集している図鑑です。
特徴として、個々の解説だけでなくバトルシーンも描かれています。野生動物にとって、生きることはすなわち食べることでもあります。そして、食べるためには戦わなければいけません。フィクションでは決して表すことのできないリアルな戦いを堪能できる1冊です。
絶対に遭遇したくないと思う生物ばかりですが、だからこそ探究心が刺激されます。危険だという事実だけでなく、なぜそのような生態をもつことになったのかという理由も知ることができ、命を繋ぐために進化をしていく神秘も感じられます。