SCP有名作家・梨の注目ホラー小説『かわいそ笑』ネタバレレビュー

更新:2023.4.19

現在注目を集めているホラー小説『かわいそ笑』。 SCP記事やオモコロで活躍している梨の商業小説デビューである本作は、2ちゃんねるや同人サイトに纏わるオカルトジンクスなど、ネット黎明期の怪談をフックにした内容で読者の心を掴みました。 今回は梨『かわいそ笑』のあらすじや魅力をネタバレ解説・考察していきます。

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『かわいそ笑』の簡単な登場人物・ストーリー紹介(ネタバレあり)

『かわいそ笑』は全五部構成の小説で、筆者=梨が各章ごとに取材した話や収集したエピソードが収録されています。

第一章の取材対象者は四十代前半の女性。

彼女は二十年ほど前に同人サイトを運営しており、自身のホームページ上で好きな版権作品の二次創作SSを発表していました。当時共通の趣味を介して仲良くなったのがHNりんこと横次鈴。

彼女はりんと親密になり、近くに住んでる事が発覚した後は、一緒に即売会にでかけたりお互いの家を行き来するなど頻繁に遊ぶようになります。

ある時、彼女はりんが住むアパートに泊まりました。

りんの部屋で寛いでいた彼女は、プリンターに挟まれた一枚の紙を発見。なんだろうと思ってりんに聞いても、「見て面白いものじゃない」とごまかされます。

さらには彼女とりん以外人がいないのに廊下で「ドンッ!」と音が響き渡り、隣の部屋で何かを引きずる音がするなどの怪現象が続発。

異常な状況に好奇心をおさえきれず、りんの隙を衝いて紙を見た所、歪に引き伸ばされた知らない人の顔がプリントされ、右上から左下にかけて誰かの名前が書かれていました。

りんを問い詰めた結果、その紙はお札で名前は呪文、儀式やおまじないのようなものだと要領の得ない答えを返され戸惑います。

この一件以降りんと疎遠になり、友人関係は自然消滅。ところがごく最近、彼女の住む町の至る所にりんの顔をプリントした紙が貼られだし……。

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梨とは?オモコロライターとしての経歴やSCP注目作を紹介

以上が『かわいそ笑』前半のネタバレあらすじです。

作者の梨(別名Pear_QU)は2021年よりオモコロライターとして活動しており、主に九州地方の民間信仰に根差したホラー記事を公開しています。

梨の著作の特徴は、不気味に加工した写真や動画、または音源などを記事内に挿入し、ぞくぞくする臨場感を盛り上げていること。体験者の一人称形式で語られるのも特徴で、自分が日常と非日常のボーダーラインを超え、怪異に巻き込まれてしまったような恐怖を味わえます。

どの記事もクオリティが高く読み応えがありますが、中でも『まかりくがい』『おとみまけ』の厭~な空気感は秀逸。土俗的因習や儀式、怪異のおぞましさと人の怖さの双方を堪能できる良質なフィクションです。

また、梨のTwitterでは梨が原案を務めるホラー漫画やSCPの禍話など、オモコロ記事以外の創作活動の告知も行っていますのでファンはチェックしてください。

梨がホラーに触れた時期は古く、幼少時に読んだ『八尺様』で怪談に興味を持ったのが最初。2ちゃんねるの「洒落にならないほど怖い話を集めてみない?」、通称洒落怖の常連でもあり、当時から自作の怪談を書き込んでいました。

2015年、有志が創作した都市伝説データベース「SCP財団」日本支部Pear_QUのHNで登録。

『けりよ』『しんに』『攀縁』などの名作を次々発表して話題をさらいました。

136が朗読した梨の怪談『滲む写真』が、竹書房主催「怪談最恐戦2021」朗読部門でグランプリを獲得するなど、他クリエイターとのコラボにも積極的です。

HPやブログとリンク!『かわいそ笑』の実験的演出

『かわいそ笑』には従来のホラー小説と一線を画す、実験的演出が多く盛り込まれています。

本作はフィクションドキュメンタリー、いわゆるモキュメンタリー仕立てになっており、実際に怪異を体験した人物に梨がインタビューする形で進んでいきます。『変な家』『放送禁止』、またはゾゾゾの『フェイクドキュメンタリー「Q」』など、最近流行っているジャンルですね。

梨氏の場合はさらに手が込んでおり、『かわいそ笑』の単行本および電子書籍に、作中に登場する掲示板へのQRコードを貼る徹底ぶり。

このQRコードの仕掛けがリアリティーを出すのに一役買っているのは間違いありません。

『かわいそ笑』内には他にも同人サイトやアンソロジー、2ちゃんねるのオカルト板や洒落怖など、ネット黎明期の懐かしい話題がたくさん登場し、ノスタルジックな気分に浸れます。

特に印象的だったのは夢小説を使ったオリジナルの呪いとあまさらしの儀式。

前者は夢小説……即ち、主人公の名前を自由に変換し、推しキャラとの恋愛を楽しむ二次小説の主人公名を最初から呪いたい人物「横次鈴」に固定し、作中でひたすら酷い目にあわせることで呪いをかけるというもの。

夢小説自体は現在も引き続き根強い人気を誇っており、pixivなどのサイトを漁ればいくらでも読めるので、今すぐできるお手軽な呪いと言えます。

後者のあまさらしは日本古来の弔いの慣習に端を発するもの。本来は故人の名前を書いた衣服を道端にさらし、行き交うひとびとに水をかけてもらうことで成仏を祈るのですが、鈴を憎む人物はこれを悪用し、呪いの儀式に歪めてしまいました。

ネットが定着した現代だからこそ可能なカジュアルな呪い方と古の風習をアレンジした呪い方。

両方が取り入れられ、同等の効果を発揮してるのが面白いですね。

『このテープもってないですか?』の構成担当。不気味な余韻が癖になる

BSテレ東で12/27〜29に放送された『このテープもってないですか?』

いとうせいこう・井桁弘恵・水原恵里の3人が出演した本番組は、テレビ放送開始69周年を記念し、視聴者が持っている過去の番組を録画したVHSテープを募集する企画でした。

……というのはフェイクで、実際は梨が構成担当を務めたモキュメンタリーホラー。ただで終わるわけがありません。

三夜に亘り番組に寄せられた録画映像は、次第に狂気に満ちたものに変わっていき、出演者ならびに視聴者を戦慄させました。

同時期に雨穴が構成担当した『何かおかしい2』もBSテレ東で放送されていましたが、最初からドラマでフィクションとわかっている向こうと違い、実話と勘違いした方も多いのではないでしょうか。

『このビデオもってないですか?』を見て、じわじわ忍び寄る不気味な余韻が癖になった方なら、きっと『かわいそ笑』を楽しめますよ。

『かわいそ笑』を読んだ人におすすめの本

『かわいそ笑』を読んだ人には雨穴の『変な家』『変な絵』がおすすめです。

雨穴は梨と同じオモコロライター。ブログやSNSアカウント、動画とリンクしたホラー記事が高く評価されており、作風の類似性から並べて語られることが多いです。

『変な家』『変な絵』は、雨穴がYouTubeで公開した動画、およびオモコロで発表した記事を原案とする小説。こちらもぜひ押さえてください。

著者
雨穴
出版日
著者
雨穴
出版日

梨原案、景山五月作画のホラー漫画『コワい話は≠くだけで。』も背筋がぞぞっとするのでおすすめ。

ひょんなことから怪談を集めることになった漫画家が怪異に見舞われる話で、サクサク読めるテンポ感が魅力です。

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["景山 五月", "梨"]
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