夢野久作おすすめ作品5選!傑作は『ドグラ・マグラ』にとどまらず

更新:2021.12.15

圧倒的な個性で、読む者をその世界観に引きずり込む、夢野久作の作品。傑作として名高い『ドグラ・マグラ』は、日本三大奇書の1つとされています。ここでは、幻想的で奇怪な世界観が魅力的な、夢野久作のおすすめ作品をご紹介していきましょう。

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独創的で怪奇的な世界を魅せる作家・夢野久作

1889年、福岡県に生まれた夢野久作は、両親の離婚により祖父の手によって育てられました。慶應義塾大学を中退後、農園の経営に携わりますがうまくいかなかったようで、その後僧侶となり、修行する日々を経験します。還俗した後、新聞記者として九州日報に勤め、この頃から童話などの執筆もおこなうようになりました。

1926年、『あやかしの鼓』で作家デビューを果たすと、その後も数々の作品を発表。1929年に発表された『押絵の奇蹟』は、江戸川乱歩から褒め称えられるほどの傑作でした。10年以上の歳月をかけ書き上げた、代表作『ドグラ・マグラ』が発表された翌年、夢野久作は47歳で脳溢血のため亡くなっています。

1・これぞ奇書!怪奇な世界に引き込まれる夢野久作の代表作『ドグラ・マグラ』

日本の三大奇書の1つとして有名な『ドグラ・マグラ』。奇抜なタイトルが目を引きます。精神病棟を舞台に、記憶をなくした青年の混乱を独特な文体で綴った傑作です。「読破したものは精神に異常をきたす」とまで言われた作品で、1度ハマれば、その奇妙な世界観にどんどん引き込まれていくことでしょう。

ブウーーンンという時計の音とともに目覚めた主人公の男は、自分が何者で、どうしてここにいるのかまったく思い出せません。男は混乱し、さらに現れた1人の博士、若林鏡太郎から、ここが精神病棟だということや、自分が精神科学を利用した、とんでもない犯罪事件に関係していたことを聞かされるのです。

物語の鍵を握るのは、冒頭から登場する若林博士と、一ヶ月前に自殺してしまったという、以前男を担当していた、正木敬之教授。男は若林博士から、これまでの経緯についての説明を受け、正木教授の研究室で様々な資料を目の当たりにするのです。

著者
夢野 久作
出版日

けして古さを感じることがなく、昭和初期に書かれたとは思えないほど、現代の精神科学にも通じるところがある、その内容に驚かされます。「ナアーンだ」「…ですからネエ」「胸が一パイになって」などなど、独特の文体が随所で展開され、重苦しい内容の中に、絶妙のユーモアが隠されていることに気づくことができます。

主人公の錯乱とともに読んでいるものの時間の感覚を麻痺させ、何が正気で何が狂気かの判断さえも難しくさせるほどの、力がある作品です。読んでいてとにかく混乱し、それでも読むのをやめられない奇怪な物語。人によって、まったく違う解釈や感想になることでしょう。みなさんにもぜひ1度挑戦してみていただきたい、夢野久作の傑作長編小説です。

2・夢野作品の中でも読みやすいと評判の未完の名作 『犬神博士』

奇人として知られる主人公、通称「犬神博士」の生い立ちを描く長編小説です。連載していた新聞の廃刊により、未完のままの作品であるにもかかわらず、多くのファンから未だ愛されています。

物語は、主人公の犬神博士こと大神二瓶の1人語りで始まります。舞台となるのは、日清戦争前後の北九州。大神二瓶は、まだ小学校にも上がらないほどの少年で、チイと呼ばれています。少女の姿をさせられ、育ての両親が演奏する三味線と太鼓の音に合わせて、お尻を振りながら踊り、投げ銭を稼いで生活していました。

著者
夢野 久作
出版日
2008-12-25

チイには、超能力かと思うほどの不思議な力があり、周囲で起こる様々な大人たちの問題を解決していく姿が、なんとも魅力的に描かれています。中でも7歳の少年チイが挑む、博打勝負の場面がとても印象的で引き込まれます。

カタカナを多用する独特の文体が面白く、テンポよくリズミカルに物語は進んでいきます。未完ということもあってか、チイのその後がとても気になり、物語をついつい想像してみたくなります。1人の少年の冒険に魅了され、チイの姿がいつまでも心に残る作品です。

『ドグラ・マグラ』の印象が強いため、難解なイメージのある夢野作品ですが、この物語はとても読みやすく、『ドグラ・マグラ』は読破できなかった、という方にもおすすめの作品です。全体に、どこかモダンな雰囲気が漂い、苦労せず気軽に読むことができるでしょう。

3・美しく切なく怪しい夢野久作の傑作作品集 『押絵の奇蹟』

江戸川乱歩から絶賛されたという表題作『押絵の奇蹟』の他、『氷の涯』と、作家デビュー作となった『あやかし鼓』の3編が収録された作品です。どの物語にも、手紙の形で綴られる書簡体形式が利用されていて、美しくも怪奇的な世界観に惹かれてしまう、夢野久作の中編小説集になっています。

時は明治30年代。ピアニストである『押絵の奇蹟』の主人公・井ノ口トシ子は、演奏中に突然喀血して倒れます。病気により、助かる見込みのないことを悟ったトシ子は、若く美しい人気歌舞伎役者・中村半次郎に向けて、自身の生い立ちを告白する手紙をしたためるのです。

著者
夢野 久作
出版日
2013-10-25

歌舞伎役者・中村半次郎こと菱田新太郎の容姿は、トシ子と瓜二つ。歳も同じなことから、血を分けた双子の兄妹なのではと思うほど。ですがそこには、切なくも奇怪な秘密があるのだとトシ子は言うのです。

その他、江戸時代に鼓作りの男が、恋い焦がれた姫を想い作った鼓。それが様々な怪奇事件を巻き起こし、後に「あやかしの鼓」と呼ばれるようになるという『あやかしの鼓』。主人公とロシア人女性との逃避行を描く『氷の涯』が収められた本作は、どの物語も因縁や悲哀に満ちていて、恐ろしく切ない世界観に、読後は胸が締め付けられます。

夢野久作独特の台詞回しがだいぶ抑えられている作品で、初めて夢野作品を読む、という方には読みやすくとてもおすすめです。どうしようもなく運命に引きずられていく登場人物たちの姿に、目が離せなくなってしまう素晴らしい作品ですから、ぜひ一読して、夢野作品の世界観を体験していただければと思います。

4・美しく滅びる少女たちに姿を描いた物語 『少女地獄』

ドロドロとした少女の本質を描き出し、やがて身を滅ぼしていく姿を圧倒的な文体で綴った『少女地獄』。3つの物語が収録された本作には、自殺によりこの世を去ることになる、3人の女性が登場します。夢野久作お得意の書簡体形式が用いられ、それぞれ個性的な性質を持った少女たちに、思わず魅せられる一冊となっています。

嘘に嘘を重ね、可憐な少女を演じ続ける看護婦を、開業医の視点から描いた『何でも無い』。自分でついた嘘に苦しめられ、やがて自殺にまで追い詰められることになる女の姿が魅力的に描かれています。騙されたため女を憎んでいるはずの医師が、手紙を書きすすめるうちに女への愛情を募らせていく様子が、圧巻の表現力で記されていて、印象深く心に残ります。

著者
夢野 久作
出版日
2016-08-31

読む者をも欺く妖艶さで騙す女と、次々にその虜となる男たち。どこまでが虚構で、何が真実なのかがわからなくなり、もうすべてが虚構でできているのでは、と思わせる不思議な世界観です。あまりの華やかさに、時折差す厳しい現実の影にはっとさせられるでしょう。

『殺人リレー』では、友人を殺したかもしれないバスの運転士の男を警戒しながらも、彼の魅力にどんどん心を奪われてしまう女車掌の姿が。『火星の女』では、身体的なコンプレックスを持った少女が処女を奪われたことをきっかけに、壮絶な復習劇を展開していく姿が、それぞれ手紙の形で綴られていきます。

少女たちの切ないまでの狂気は、ため息が出るほど美しく、心を奪われてしまうほどです。夢野久作お馴染みのカタカナが多用された文体が、その世界観をより魅力的にしているのではないでしょうか。作品を通して、分かりやすくシンプルに女の念が描写され、読後なんとも言えない余韻に包まれる作品です。

5・夢野久作が描く恐ろしい恋愛短篇小説 『支那米の袋』

書簡体形式と並んで夢野久作が得意とする、主人公の1人語り・独白体形式が用いられた短篇小説です。とても短い作品ですから、いきなり長編や中編に挑戦するのが不安な方は、まず短篇で肩慣らししてみると良いかもしれません。

物語はロシア人女性・ワーニャの1人語りで進んでいきます。話している相手は日本の軍人。「殺したいくらいあんたに惚れてる」と話すワーニャは、過去に出会ったアメリカ人の話を始めます。その男に騙され、壮絶な体験をするワーニャですが、どこか楽しげに、小気味良く話す様子に、逆にワーニャの狂った精神を読み取ることができます。

著者
夢野 久作
出版日
2016-07-20

アメリカ人がワーニャに聞かせたという、恋愛の果ての、究極の男女の“遊び”。日本に古くから伝わるという、この“遊び”とはいったいなんでしょうか。物語の最後で、それが明らかになるとき、背筋がぞくりとする思いがします。

最後まで男を信じる、女の健気すぎる情愛が、切なさと恐ろしさを感じさせ、痛々しくもあります。独特のリズム感で物語は進んでいき、最後まで惹きつけられるこの作品。夢野久作が描く、幻想と狂気の世界を垣間見ることができるでしょう。


夢野久作のおすすめの作品を5つご紹介しました。有名な『ドグラ・マグラ』だけでなく、読み応えのある魅力的な作品が他にもたくさんあります。興味のある方は、ぜひその奇怪な世界観を覗いてみてくださいね。

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