本当に面白い直木賞受賞作品おすすめ10選!【1990年代編】

更新:2017.1.19 作成:2017.1.19

芥川賞と並び、日本で最も有名な文学賞の一つである直木賞。今回は1990年代の直木賞受賞作の中から、おすすめの作品を10作ご紹介します。

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直木賞とは?

直木賞(正式名称:直木三十五賞)は、芥川賞と並び、日本で最も有名文学賞の一つです。1935年に創設されて以降、年2回受賞作を発表しています。

発足当初は、新人による大衆小説が対象となっていました。大衆小説とは、芸術性よりも娯楽性を重視した小説で、エンターテイメント作品と呼ばれるものです。時代小説や恋愛小説、推理小説にSF、ファンタジーと多種多様なジャンルが内包されています。

戦前、直木賞は大衆文学唯一の新人賞でしたが、受賞後に作家が独り立ちできるだけの実力があるのかを重視した選考となったために、若手新人が受賞しにくい傾向がありました。そうした傾向を鑑みて、後に中堅作家という条項が付け加えられます。現在において直木賞は、一定のキャリアをもつ人気作家のための賞と認識されています。

実際の傾向としては、直木賞受賞作の多くが時代小説や歴史小説、人情小説です。推理小説やSF、ファンタジーといった空想性の強いジャンルは、大衆小説内での歴史も浅く、審査員の理解が乏しいこともあり、総じて評価が低くなっていました。

こうした傾向もあり、直木賞は大衆小説と言いながらかなり偏ったジャンルの賞でしたが、1990年代から、だんだんとミステリー作品のノミネートや受賞も増えていきました。今回紹介する10作の中にも、『マークスの山』『テロリストのパラソル』の2作のミステリー入っています。
 

1・ミステリー作家が放つ人情話【1990年上半期】

『蔭桔梗』は1990年上半期に直木賞を受賞した短編集です。

著者は、泡坂妻夫。ミステリー作家でありながら、奇術家であり、紋章上絵師でもありました。

様々な一面を持つ著者ですが、本作では紋章上絵師としての体験を前面に出しています。

章次は下町で紋章上絵師をしています。紋章上絵師とは、着物などに家紋を入れる職人の事です。ある日、章次の元に依頼が届きます。その依頼は、かつて愛した女性からのもので、二十年前にも同じ依頼がありました。首を傾げる章次でしたが、その依頼には彼女のひそかな願いが込められていたのです。
 

著者
泡坂 妻夫
出版日

ミステリーを中心に書いてきた泡坂妻夫がミステリー味を封印して、紋章上絵師としての知識と下町の人情味を中心にしたのが『蔭桔梗』となります。細かいディティールで江戸情緒溢れる下町の雰囲気を描きつつ、成熟した大人の静かな恋が展開されます。

喪失感が特徴的な『蔭桔梗』。失われていく職人芸や江戸情緒、それとともにそれらに親しんできた人たちの人間関係も失われようとしています。消えゆくものの儚さや美しさがよく表現されています。

表面上はミステリーを封印していますが、よくよく物語の構成を見てみると、謎の提示、捜査、解決といったミステリー的な構成であることがわかります。伏線の張り方も見事ですので、人情ミステリーとして読むのも良いかもしれません。

2・ロックに明け暮れる高校生の青春!【1991年上半期】

『青春デンデケデケデケ』は1991年上半期に直木賞を受賞した作品です。

著者は芦原すなお。大学時代同じクラスだった村上春樹の作品に衝撃を受け、本腰を入れて小説を書き始めました。

できる限り多くの人に読まれることを意識して書いたのは、底抜けに明るい青春小説でした。

1965年、高校進学を控えた藤原竹良はラジオから流れてきたザ・ベンチャーズの「パイプライン」のイントロに衝撃を受け、高校入学後すぐにロックバンドを結成します。四国の田舎町の高校生たちが、バイトや初恋、コンサートを体験しながら、一歩一歩大人の階段を上っていきます。
 

著者
芦原 すなお
出版日

本作は、地元の四国の観音寺市を舞台に、真っすぐで、疑うことを知らない純粋無垢な高校生たちが、ひたすらロックに明け暮れる姿は明るくて清々しいものです。

とにかく、1960年代の洋楽が所狭しと出てきます。ベンチャーズを始め、チャック・ベリー、ストーンズなど様々なミュージシャンの名曲たちが、物語を彩っています。ノスタルジックな雰囲気を出す一助となっていますし、登場人物がロックにのめり込んでいる様子を読者に実感させることにも成功しています。

本作は2つのバージョンがあります。当初は原稿用紙800枚の分量でしたが、直木賞の応募のために400枚まで削っています。削ったものが直木賞を受賞しているのですが、後に削る前の800枚が「私家版」として出版されています。

どちらを読んでも大筋は変わりませんが、より細かい描写で各人物の輪郭がよりはっきりしている「私家版」をおすすめします。

3・姿なき殺人犯を追う警察小説【1993年上半期】

『マークスの山』は1993年上半期に直木賞を受賞した作品です。

著者は高村薫。サスペンス小説を得意としており、直木賞受賞以前にも、日本推理サスペンス大賞や日本冒険小説協会大賞などを受賞しています。

かねてから評価が高かった高村薫の直木賞受賞作は、警察小説でした。

東京で起きた連続殺人事件。元暴力団員、法務省官僚と殺され、さらには警察にまで被害が及びます。被害者たちの共通点は何か?そして犯人は誰なのか?警視庁の刑事・合田雄一郎が、冷結な殺人犯を追います。
 

著者
高村 薫
出版日
2011-07-28

『マークスの山』は、過去、南アルプスで起きた出来事を発端とした連続殺人が描かれています。警視総監賞を何度も受賞する優秀な刑事の合田が、警察上層部から妨害をも物ともせずに、忍耐と努力で捜査していきます。事件だけでなく、警察内部のいざこざも読みどころです。

深層心理の描写が特徴的な、直木賞の『マークスの山』。とある人物が壊れかけた人格を持っています。精神分析学の知識をフルに用いて、その人格を徹底的に分析していきます。そうすることで、狂った人物の心の動きに強い臨場感が生まれるのです。

本作を読むと、寡黙ながら事件の真相に向かって突き進む合田刑事のファンになる方が非常に多いです。そんな方に朗報です!刑事・合田雄一郎の活躍はシリーズ化されています。2017年現在、第一作目の『マークスの山』を含めて5作発表されていますので、ぜひ読んでみてください。

4・倒錯した愛情に巻き込まれた女子大生【1995年下半期】

『恋』は1995年下半期に直木賞を受賞した作品です。

著者は小池真理子。1970年代からエッセイストと活躍していましたが、80年半ばより小説家としてミステリーやサスペンスを発表していました。

そんな小池真理子が描いたのは悲しい恋愛でした。

1972年冬に起きた浅間山荘事件の陰で、女子大生による殺人事件が起きていました。興味を持ったノンフィクション作家の鳥飼は、既に出所していた犯人の矢野布美子へインタビューを申し込みます。最初は断られましたが、やがて布美子は裁判でも明かされなかった真実を語り始めます。

布美子が発砲し殺人を犯すことはもうわかっています。では、なぜ発砲に至ってしまったのか。それは片瀬夫妻と過ごした濃密な時間が原因だったのです。
 

著者
小池 真理子
出版日
2002-12-25

全編に渡って、倒錯した奔放な恋愛が描かれます。布美子は大学助教授の片瀬に恋をしますが、それだけでなく、片瀬の妻とも恋に落ちます。そこに、大久保という青年が現れ、より複雑な恋愛模様となります。さらには、片瀬夫妻には人には言えない秘密があります。倒錯した恋愛は軽井沢の風景描写と相まって、不思議な美しさをたたえています。

また、直接的な性描写がほとんどないことも特徴と言えます。タブーを含んだ恋愛となると、激しさを表現するために性描写を用いることが多いですが、直木賞受賞の本作ではあまり性描写がありません。そのため、生々しさがほとんどなく、浮世離れした恋愛模様が強調され、ある種ファンタジーのように感じられます。

5・壮大なスケールのハードボイルド【1995年下半期】

『テロリストのパラソル』は1995年下半期に直木賞を受賞した作品で、史上初の江戸川乱歩賞とのW受賞でもあります。

著者は藤原伊織。1985年に『ダックスフントのワープ』でデビューしていましたが、しばらく執筆業を行っておらず、『テロリストのパラソル』で再デビューとなりました。

本作はそんなブランクを感じさせない、藤原伊織の力強いハードボイルド作品です。

島村圭介はアルコール中毒のバーテンダーです。ある朝、いつものように公園でウイスキーを飲んでいると、爆発が起きて多数の死傷者が出ました。被害者の中には、かつて島村とともに学生運動を闘った友人が含まれていました。

そして、現場に置いていったウイスキーの瓶についた指紋から、島村に疑いがかかります。果たして、島村は疑いを晴らすことができるのでしょうか?
 

著者
藤原 伊織
出版日
2014-11-07

アル中のバーテンダーが主人公のハードボイルド作品で、1960年代の学生運動での過去が現代での事件と絡み合い、重厚な物語となっています。

スケールの大きい島村圭介の作品です。ハードボイルドというと自分の身の回りの事件で収まりがちですが、本作では小さな事件だったはずなのに、その裏にはワールドワイドな事件が関わってきます。南米の左翼ゲリラや麻薬組織まで登場するほどのスケールが大きさを持つハードボイルドはなかなか見当たりません。だからこそ、直木賞を受賞したのだと思います。

作中では、会話の量が非常に多いです。そのため、登場人物が生き生きした印象を受けます。それに加え、会話は読みやすいので、自然とページをどんどんとめくっていくことになり、スピード感があります。短時間で一気に読むことができる、直木賞受賞の作品です。
 

6・寒村で起きた血塗られた悲劇【1996年下半期】

『山妣』は1996年下半期に直木賞を受賞した作品です。

作者は坂東眞砂子。1980年代に児童向けのファンタジー小説でデビューしましたが、後に一般小説に転向し、ホラー小説を中心に書いていました。

本作も坂東眞砂子お得意のホラー小説です。

明治末期、山里の村は小正月と山上への奉納芝居の準備で活気づいていました。そんな村に東京から旅芸人が芝居指導のために招かれました。旅芸人一座の役者・涼之助と、地主の家の嫁が密通をしたことがきっかけとなり、血塗られた悲劇が幕を開けます。
 

著者
坂東 真砂子
出版日
1999-12-27

外部との交渉が少ない山奥の村を舞台として、村人たちの緊密過ぎる関係性が描かれます。その関係性ゆえに排他性が強くなり、よそ者とのいざこざも起きてしまい、悲劇は起きるのです。

メインとなる伝承の山妣ですが、物語が進むごとにイメージを変化させます。最初は、恐怖の対象として山妣は描かれます。それから、女の憧れとしての存在、社会の底辺を生きるものの行き着く先、新たな命を吹き込む者といったように次々と別のイメージの山妣を描きます。こうした山妣の多面性がホラーのように見えた物語に、違う見方を与えるのです。

7・現代社会の女性の生き様を描く【1997年上半期】

『女たちのジハード』は1997年上半期に直木賞を受賞した作品です。

作者は篠田節子。ホラーやミステリー、SFや現代小説など様々な分野の作品を書いている、多彩な作家です。

そんな彼女が描いたのは、OLを主人公にしたコミカルな物語でした。

中堅保険会社に勤めるOL5人。それぞれ20代から30代半ばで結婚適齢期を迎えています。
お金持ちと結婚したいと思う人もいれば、キャリアを手に入れたいと考える人もいますし、
マイホームが欲しいと願う人もいます。彼女たちは自分が思う幸せを手に入れることはできるのでしょうか。
 

著者
篠田 節子
出版日

本作は5人のOLに焦点を当て、男性優位な社会の中で生きる彼女たちの結婚観やライフスタイル、人生観をコミカルに描いたものです。人生観なんていうと堅苦しくて説教臭い感じがあるかもしれませんが、コミカルでありのままに書かれているので、自然と受け止めることができるものになっています。

個性豊かなキャラクターが登場します。マイホーム購入のためならヤクザとの交渉も辞さない強気な女性もいれば、料理も仕事も何でもこなすのに男を見る目がない女性、恋愛そっちのけで資格取得に燃えている女性など、個性豊かな面々がいるおかげで、様々な生き様を見ることができます。

ジハードとは聖戦のことです。男性社会の中で女性が生きることは、聖戦といえるほどに苦難を伴うものです。作品発表からおよそ20年経った今も、それほど状況は変わっていません。闘う女性の背中を優しく後押ししてくれる直木賞受賞の小説なので、ぜひ女性に読んでほしいです。

8・男女の情念の深さが描かれる【1998年上半期】

『赤目四十八瀧心中未遂』は1998年上半期に直木賞を受賞した作品です。

作者は車谷長吉。かつては「反時代的毒虫」と自称しており、播州弁をふんだんに用いた、近代と自己の乖離に疑問を投げかける苛烈な私小説が高く評価されています

本作も車谷長吉と主人公の経歴が酷似しており、私小説に近いものです。

インテリだけど、会社勤めも長続きせず、ふらふらと行き着いた先で糊口を凌ぐ生島与一は、尼崎でひたすら牛や豚の肉塊に串を刺し続けていました。ある日突然、同じアパートに住む彫師の愛人が部屋に飛び込んできます。与一はその愛人の背後に見え隠れする闇社会におびえながらも、欲望のままに行動するのでした。

著者
車谷 長吉
出版日

恐ろしい人物の愛人を横恋慕してしまい、その末に心中をしようする様をサスペンス調のスリリングな展開で描きます。

関西弁を多用しています。登場人物のほぼ全員が社会の底辺にいる人々です。尼崎の地元の言葉の関西弁を多く用いることで、地元に居続ける彼らの言動に臨場感が生まれます。

粘り気の強い情愛が描かれますが、ラストは驚くほどにあっさりと切り上げます。かといって、尻すぼみというわけではなく、他の小説にはない独特の余韻を残します。普通の形の小説に飽きた人にはおすすめの直木賞作品です。
 

9・法廷闘争を描いた歴史小説【1999年上半期】

『王妃の離婚』は1999年上半期に直木賞を受賞した作品です。

著者は佐藤賢一。中世から近世にかけてのヨーロッパを舞台とした歴史小説を数多く手掛けています。

本作は中世ヨーロッパを舞台にしています。

1498年フランス、国王は王妃を相手取って離婚裁判を起こします。国王の息がかかった法廷では、王妃は圧倒的に不利でした。しかし、田舎の弁護士・フランソワはひょんなことから王妃と出会い、弁護を依頼されました。かつてパリの大学界隈きっての切れ者と評されたフランソワが、王妃を陥れようとする国王との闘争に挑みます。

史実を基にした歴史小説です。国王側の無理難題に対して、フランソワがそれを超える無理難題を吹っかけるという破天荒な展開です。裁判の状況は二転三転し、最後まで目を離すことができません。
 

著者
佐藤 賢一
出版日

具体的にどんな無理難題かといいますと、国王は夫婦の間に性交渉が無かったとして離婚を突き付けます。王女は性交渉はあったと反論しますが、国王は証明するために裁判所で処女検査を受けろと言います。受けなければ離婚ですし、受ければ衆人環視の中で辱めを受けます。さて、フランソワはどうやってこの危機を乗り越えるのでしょうか?

本作は、歴史小説としてのリアリティが非常に高いです。歴史学で博士課程を単位取得退学した経歴を活かして、フランス語の資料から時代背景を読み取っています。そのため、室内の小物や、身に着けている衣服、建物の外観といった細かい部分に至るまでこだわっており、中世フランスの雰囲気を存分に味わうことができます。

10・無償の愛を捧げた芸者の一生【1999年下半期】

『長崎ぶらぶら節』は1999年下半期に直木賞を受賞した作品です。

著者はなかにし礼。作詞家としての活動が有名ですが、小説執筆にも力を入れています。

失われかけた民謡を発掘するという、歌を愛する作詞家ならではのテーマの作品です。

長崎の芸者・愛八は、初めて本当の恋をしました。相手は長崎学の確立を目指す研究者の古賀です。古賀は一緒に埋もれた長崎の歌を発掘しないかと愛八を誘います。愛八は頷き、二人で「長崎ぶらぶら節」を探しに行くのでした。

著者
なかにし 礼
出版日
2003-09-28

本作は、芸者の愛八の一生を描いています。愛八は義侠心の強い女性で、周囲で困った人があれば、身銭を切って援助します。そんな彼女が初老を迎えた頃に自身の幸せについて考えさせられる物語です。

明治から昭和初期にかけての長崎の描写が秀逸です。長崎の花街の様子と人々の暮らしぶりの変遷が描かれているのですが、少しずつ古き良き文化が消え失せていきます。そうした様子が、作品のテーマの一つともいえる喪失による寂しさをしんみりと感じさせてくれます。

また、会話はすべて長崎弁です。多くの人があまり馴染みのない言葉ですので、最初は非常に読みにくいです。慣れてくるにしたがって、だんだんと親しみ深く感じてきます。方言だからこそ、人間味がより強く感じられますので、思わず感情移入してしまいます。

以上、1990年代の直木賞受賞作を10作ご紹介しました。様々なジャンルの小説がありますので、きっとあなたにぴったりの小説もあるでしょう。ぜひご紹介した直木賞作品を読んでみてください。