隆慶一郎おすすめ作品ランキングベスト5!『花の慶次』原作者が生んだ傑作!

更新:2021.12.15

『北斗の拳』で一世を風靡した漫画家、原哲夫とタッグを組み『花の慶次』『影武者徳川家康』の漫画原作者としても、その魅力を世に知らしめた隆慶一郎。今回は、そんな隆のおすすめ5作品をご紹介します。

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隆慶一郎とは?

1984年、60歳を超えて脚本家から小説家に転身し、処女作『吉原御免状』が直木賞候補に上った隆慶一郎。1989年には、『一夢庵風流記』で柴田錬三郎賞を受賞。1989年には、『柳生非情剣』で再び直木賞候補となります。同年、急逝。

作家として活動したのは晩年のたった5年間ほどでした。

5位: 徳川家康の第6子・忠輝の数奇な生涯

天正20年、徳川家康の6男として生まれた忠輝は、産まれたときより父に嫌われ、誕生後すぐに養子に出されました。史実では母・茶阿局の身分が低かったからであるとか、その容姿が醜かったからである、などと言われています。『捨て童子・松平忠輝』でもやはりその異形の風貌をまず挙げています。

「容貌怪異なため、生まれ落ちてすぐ家康に「捨てよ」といわれた“鬼っ子”松平忠輝の異形の生涯を描く、伝奇ロマン傑作」(講談社文庫内容説明より抜粋)

わざわざ「捨て子」とせず「捨て童子」としているのは人外の鬼、酒呑童子と掛けています。しかしこの「鬼っ子」が成長すると、みるみる高い能力を発揮し始めたのです。それに嫉妬し恐れるあまり流刑に処し、力を発揮されまいと画策するのが家康の嫡男・秀忠です。大河ドラマなどではデキの良い、おっとりした人物に描かれることの多い秀忠が、隆慶一郎の筆にかかると、これはもうどうにもならない最低の小心者に描かれます。

著者
隆 慶一郎
出版日
2015-04-15


「この浮遊感の素晴らしさはどうだ。望むなら世界のどこまででも、いいや、そんなけちなことはいわない。あのきらめく星々にまでも行けそうな身軽さである(『捨て童子・松平忠輝』下巻より引用)」。忠輝がすべてを奪われた後の心境です。永代流罪という仕打ちを受けて初めて心の平安が訪れた忠輝は、当時としては驚くべき長寿でした。92歳まで生き抜いた忠輝の波乱に満ちた生涯を、その心情を、生き生きと描いていく本書には、隆慶一郎の思い込みで書かれた部分も確かにあります。しかし史実と照らし合わせてみると、「もしかしたら案外こちらの方が本当かも」と納得させられてしまいそうになります。

4位: 隆慶一郎デビュー作の続編!

デビュー作『吉原御免状』の続編『かくれさと苦界行』。前作では吉原の惣名主、松永誠一郎と御免状を狙う酒井忠清の争いが描かれていました。今作では前作で中途半端になっていた「御免状」の内容についても明らかにされます。御免状の内容に触れて大きなショックを受ける老中酒井忠清の顛末も見所の一つです。

著者
隆 慶一郎
出版日
1990-09-27


宮本武蔵の弟子であり、上皇の落胤である二天一流の達人松永誠一郎と柳生義仙、義仙を鍛える荒木又衛門、執拗に「神君御免状」を狙う酒井忠清。幻斎、柳生宗冬、野村玄意、……。御免状の正体もさることながら、荒木又右衛門や悪役として登場する柳生一族など様々なキャラクターが登場する中で、戦わずにはいれない状況に追い込まれる男達の葛藤も読み応えのある1冊となっています。

本書で隆慶一郎が著したかったことは、実は不明です。なぜならば氏はこの巻の後、3部、4部まで執筆する予定でしたから。特に第3部では上野寛永寺を舞台に既にかなりの構想が練られていたということです。氏の早逝が悔やまれますが、この巻を「剣豪小説」として読まれるのもアリかなと思います。

3位: 歴史の裏側(?)を探る

「時代小説か」と問われれば「その通り」と答えますが、「エンターテインメント小説か」と問われても「その通り」と答えてしまう、答えざるを得ない小説が『影武者徳川家康』です。

著者
隆 慶一郎
出版日
1993-08-31


なんと言っても徳川家康は実は関ヶ原でその命を落としており、その後の家康は影武者だったという新しい史実(?)に基づく話を、著者得意の、史実を仮説でコーティングする手法で、その時代をさもありなんと読ませます。ヘタな作家が同じ手法をとっても、陳腐な読み物になってしまう危険がありますが、そこはさすが隆慶一郎です。「これが本当の歴史なのでは」「もう、これでいいや」と思わせてくれます。そこには著者のキャラクターの書き込みの緻密さがあるのでしょう。本多正信に見出された「世良田二郎三郎元信」が単に家康に顔形が似ているだけでなく、ものの考え方から元の知識まで家康にそっくりであるといったバックボーンが詳細に示されており、読み手に疑いを持つ余地を与えません。

解説の縄田一男をして「伝奇的手法」「歴史的事実を再構築」「歴史を捉え直す」と言わしめた本作は、原哲夫の作画で漫画化もされました。

謎解きの面白さよりも、一篇の歴史小説風に完成された物語。氏のファンの中には『影武者徳川家康』をナンバーワンに上げる方も多いと聞きます。ぜひ手に取って読んでもらいたい1冊です。

2位: 隆慶一郎が描き出す武士道

『死ぬことと見つけたり』を書くきっかけとなった『葉隠』という佐賀鍋島藩の口述書物。『葉隠』に関しては「武士道と云ふは死ぬことと見付けたり」の文言が独り歩きしてしまっている感がありますが、きっと隆慶一郎は全文を理解していたのでしょう。ただし主人公斉藤杢之助以下の葉隠武士たちは、どこまで理解していたのか……。

著者
隆 慶一郎
出版日
1994-08-30


斎藤杢之助の朝は「死ぬこと」から始まります。死を恐れない自分を創るには、既に死んでいることとして生きるのが望ましいと考え、毎朝「死」をイメージトレーニングするのです。ある時は虎の爪にかかり、またある時は敵の刀に倒れる。起きた時には死んでいるのですから、主君のためにその日死ぬことになっても死を恐れなくて済むわけです。

死を恐れぬ人間の恐ろしさが想像できますか? いや、死人の恐ろしさと言い換えましょう。なにをやってくるかわからない死人ら、それも武器を持った複数の死人との対峙です。江戸時代、財政破綻や天災などで何度も危機的状況に陥った鍋島藩は、きっとそんな彼らに守られていたから存続できたのだろうと思います。

陸軍士官として先の大戦に参加した際、陣中に『葉隠』を持って行った隆は、別にそれを読もうと思って持って行ったわけではありませんでした。くり抜いた『葉隠』の中に、敵性禁書を忍ばせていたのです。しかし戦地での活字の欠乏に我慢が出来ず、『葉隠』を読破したと後に語っています。

作者急逝のため絶筆となった本書。隆慶一郎本人は、『死』に対しての準備は出来ていたのでしょうか? その辺りにも注目してもらいたい1冊です。

1位: 隆慶一郎の柴田錬三郎賞受賞作!

本書を隆慶一郎作品の第1位とするのに、反論は少ないでしょう。少年誌に連載された漫画『花の慶次』の原作として有名な本書には、漫画では描ききれない深さがあります。本書で氏が貫いている「漢の美」は、目からの情報だけでは足りません。脳で構築する情報が十人十色の「漢」を創り出すのです。

著者
隆 慶一郎
出版日
1991-09-30


主人公は天下御免の傾奇者、前田慶次郎。彼が、愛馬である松風と共に戦国時代末期を駆け抜けて行きます。権力者に媚びず、弱い者には優しく、敵も味方も男も女も惚れさせる、野蛮で粗野なところもある主人公の姿が魅力的です。また他の登場人物は前田にその魅力を引き出されていきます。

第2回の柴田錬三郎賞受賞作である本書を、ぜひ読んでみてくださいね。

『吉原御免状』直木賞選考時、時代小説作家の大家である藤沢周平は「奇説も独断も大いにけっこうだが、作者は一度考証以前の、虚構は細部の真実から成り立つというあたりの平凡な認識に立ちもどってみる必要がありはしないか」という評を残したそうです。この評を見て隆慶一郎ファンは「そこが面白いのに」とニヤリとしたはず。今回ご紹介した本を、ぜひお手にとってみてくださいね。

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