大岡昇平おすすめ作品ランキングベスト5!映画化作品『野火』作者の傑作!

更新:2021.12.15

2015年に映画化された『野火』。原作を描いたのは、戦時中に捕虜体験をした作家大岡昇平でした。今回は戦争文学の名作を数々発表した大岡の作品群から、ベスト5をご紹介します。

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戦争文学の名作を生み出した大岡昇平とは?

1909年に東京に生まれた大岡昇平は、成城高等学校から京都帝国大学に入学しました。大学でフランス語の勉強をしつつ、詩人の中原中也らと共に同人誌『白痴群』を創刊するなど、既に小説家としての片鱗を示していました。

卒業後、語学力を活かした仕事に就いていましたが、戦争のため戦地に赴き、米軍の捕虜になることなどを経験しました。それが後に文学的出発となる『俘虜記』を生み、戦争文学の大家と言われる作家活動の礎となったのです。

5位: 冷静な眼で戦争を語る短編集

戦争「小説集」とは謳っていますが、大岡昇平の実体験に基づいたフィクションとして読んでも間違いのない1冊『靴の話―大岡昇平戦争小説集』。「出征」「暗号手」「襲撃」「歩哨の眼について」「捉まるまで」「靴の話」という、氏の戦争体験の時系列と被る6編の短編が収録されています。

著者
大岡 昇平
出版日


とっさの判断など、ましてや心情分析などできない状況を作り出すのが戦争でしょう。その戦争中、自身に起こった様々な出来事を冷静に分析しつつ、人間の生と死を深く考え、戦争の是非まで問う作りになっています。

表題作「靴の話」は、盗んだ官給品の靴を履いたまま米軍捕虜となった「私」の心情や、心理を細かく描写しています。実は心情や心理に事実はなく(あるいは薄く)、あるのは「靴」という事実のみだということに気付きます。兵隊の戦闘や行軍だけでなく、普段の生活にも必需品である靴に焦点をあてたために、よりいっそう当時の悲惨さがリアルに押し寄せてきます。

6編すべてが「珠玉」と言って良い短編集。戦争体験のない世代の方は、必読です。

4位: 大岡昇平が横光利一文学賞を受賞した作品!

5位にランクインしている『靴の話』にも収録されている「捉まるまで」から始まる本書。第1回の横光利一文学賞を受賞し、小説家としての地位を固めた本作は、第二次世界大戦後の「日本の戦争文学」の筆頭に現れるようになりました。

著者
大岡 昇平
出版日
1967-08-14


居心地の良い収容所の中で堕落して行く日本人捕虜たち。文中には、相手が気に入るようにふるまうという意味の「阿諛(あゆ)」という言葉がたびたび表れます。当時の収容所内の生活ではリアルな分析なのかもしれません。

終戦を迎えると、物資の豊富な古参の捕虜が、腹を空かせた新参の捕虜から腕時計を缶詰などと交換という形で巻き上げ、国に戻った時の財産を作り始めました。本文中にある「『これが軍隊』なのではなく、『これが世間』なのである」は、人間の嫌な面を強調しているようです。

3位: 戦争の追体験ができる

中公文庫から出版されている大作『レイテ戦記』は、レイテ島における日本軍8万4千人の戦死者の鎮魂歌です。

一兵卒の視点から書く小説とは違い、レイテ島攻防を「兵士の視点を重視」しつつ全体像を明らかにしていきます。その都度差し込まれる地図と詳細な時間経過を頭に入れながら読み進めて行くと、戦場のイメージが広がっていきます。つまり小説としての面白さよりも、歴史書としての面白さに重点が置かれているわけです。

著者
大岡 昇平
出版日
1974-09-10


太平洋戦争の天王山と呼ばれたレイテ島戦は、実は大本営のレイテ島放棄の決意によって早い時期に負け戦は決定していました。大本営としては、米軍の本土攻略が現実味を帯びていたこの時期にレイテ島どころではなかったのです。

補給もなく、作戦もない兵隊が敵に囲まれた島の中。ただただ飢え死にを待つ者もいました。自ら爆死を選ぶ者もいました。歩ける者は日本兵の死体を道標として、裸足で山中を彷徨いました。天皇陛下からの賜りものである小銃を捨て、飯盒のみを持っての行進でした。

公式の報告書などはもちろんのこと、生還者の証言、当時の司令官の日記、回想録などの資料をもとにして書かれた『レイテ戦記』。先の大戦での軍部への強い批判のこもった歴史小説といえるでしょう。

2位: 大岡昇平による推理小説

戦争作家のイメージの強い大岡昇平。ここで氏の残した秀作の中から、当時の推理小説の最高傑作を1編ご紹介します。何人かのアドバイザーと共に書き上げた本小説は、幾度か映像化もされました。1978年の映画版では日本アカデミー賞作品賞をはじめ、数々のタイトルを獲得しています。

著者
大岡 昇平
出版日
1980-08-27


事件は神奈川県の田舎町で起こります。単純な刺殺事件であると思われたこの事件には、複雑な事情が絡んでいました。その謎を解いていく、ベテラン弁護士菊池。「自白」のある殺人事件は、公判中に菊池の手で姿を変えていきます。はたして司法は真実にたどり着けるのでしょうか?

徹底的なリアリズムを描き出す本書。読み手は裁判を見守る傍聴人として参加している気分になれるでしょう。日本推理作家協会賞を得た、深く考えさせられる上質な推理・裁判小説をぜひ読んでみてくださいね。

1位: 大岡昇平による圧倒的リアリズム!

圧倒的リアリズムを描く大岡昇平の第1位は、『野火』。2位から5位までの作品で描かれたリアルとの違いを感じていただければ嬉しい限りです。2度の映画化で話題にもなりましたから、どのような内容なのかをわかっておられる方も多いでしょう。しかし映画では当然のように表現がマイルドになっています。本書はぜひ文字で読んで、おののいてください。

著者
大岡 昇平
出版日
1954-05-12


行くアテが「死」しかなくなったとき、それが極限の飢餓が理由だったとき、人は人を喰うのか……? フィリピン・レイテ島での敗残兵の生還率は、約3%といわれています。主人公田村は「猿」の干肉を戦友と焼いて喰います。その肉の正体を知っていながら……。

極限状態の人間の行為はどこまでが許容の範囲なのでしょうか。敵を殺す。殺した敵を喰う。原住民を殺す。殺した原住民を喰う。死んだ戦友を喰う。戦友を「殺して」喰う。宗教や哲学をもってしても答えの出にくい問題です

もちろんレイテにおける人肉食の実態も未だ明らかにはされていません。愚かなのは人肉食ではなく、そこに追い込んだ戦争そのものなのでしょう。本書で、あなたなりの答えを導き出していただければ幸いです。

「ケンカ大岡」と呼ばれるほど論争家であった大岡昇平。彼が批判し、論争に至った作家や評論家は、枚挙にいとまがありません。井上靖から森鴎外までその論争の的になりましたが、それらのほとんどが史実・事実の改変についてでした。都合の良い歴史の歪曲を許さない、圧倒的リアリズム作家の魂のこもった5作品をぜひ手にとってみてはいかがでしょうか?

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