古代から中国では、様々な時代で、壮大な人間ドラマが展開されてきました。とにかくスケールが大きく、ロマンの詰まった中国の歴史。ここでは、そんな中国を舞台として描かれた、おすすめの歴史小説を、5つ選んでご紹介していきたいと思います。
『蒼穹の昴』清朝末期を舞台に、浅田次郎によって濃密に描かれた時代小説『蒼穹の昴』。2010年にはテレビドラマ化もされ、日本と中国で放送されました。実際に存在した歴史上の人物と架空の人物を巧みに織り交ぜ、当時の中国の人々のひたむきな想いを壮大なスケールで描く、全4巻の長編小説です。
光緒12年、清朝では西太后が政治の実権を握っていました。しかし新しい政府を作り上げようとする変法派との対立が激化しています。
そんな中、田舎で貧しい生活を送る、春児という愛称で呼ばれる少年・李春雲。ある日彼は村の占い師から、権力の頂上にいる西太后の財物を総て手に入れるだろうと予言されます。
一方、裕福な家に育ち、春児の幼なじみであり兄貴分の梁文秀は、同じ占い師から「皇上に仕える側近となるが、苦労するだろう」と伝えられました。
- 著者
- 浅田 次郎
- 出版日
- 1996-04-17
清朝末期を舞台に、浅田次郎によって濃密に描かれた時代小説『蒼穹の昴』。2010年にはテレビドラマ化もされ、日本と中国で放送されました。実際に存在した歴史上の人物と架空の人物を巧みに織り交ぜ、当時の中国の人々のひたむきな想いを壮大なスケールで描く、全4巻の長編小説です。
光緒12年、清朝では西太后が政治の実権を握っていました。しかし新しい政府を作り上げようとする変法派との対立が激化しています。
そんな中、田舎で貧しい生活を送る、春児という愛称で呼ばれる少年・李春雲。ある日彼は村の占い師から、権力の頂上にいる西太后の財物を総て手に入れるだろうと予言されます。
一方、裕福な家に育ち、春児の幼なじみであり兄貴分の梁文秀は、同じ占い師から「皇上に仕える側近となるが、苦労するだろう」と伝えられました。
自ら宦官(後宮に仕える去勢された官吏)となり、西太后に仕えることになる春児。科挙試験を突破し、変法派の官僚となって皇帝に仕える文秀。違う道を歩むことになる2人の姿が、時に微笑ましく、時に切なく、時に壮絶に描かれ、こみ上げる熱い想いが抑えられません。
日本では馴染みのない科挙制度や宦官制度についてリアルに生々しく描写され、当時の階級社会の中でもがく人々の姿には胸が痛みます。
印象的なのは、影の主役とも言える西太后。極悪非道な女帝のイメージが強い彼女ですが、国のことを想い人生を捧げる姿が、とても魅力的に描かれています。
浅田次郎が、「この作品を書くために作家になった」と語るほどの、渾身の一作。登場人物一人ひとりの魅力が丁寧に綴られ、深く感情移入することができる中国歴史小説になりました。時代の流れに逆らいながら、たくましくのし上がっていく春児の姿に、心が震えます。
『重耳』舞台は春秋時代の中国。晋の君主・文公こと重耳の、波乱に満ちた生涯の姿を描く、宮城谷昌光の長編小説『重耳』。全3巻にわたるこの大作は、芸術選奨文部大臣賞を受賞しました。
物語は、賢く有能な重耳の祖父・称の代から描かれます。晋の分家である曲沃の君主・称が、本国の翼城を攻め落として滅ぼしたことにより、晋は再び統一国家となりました。
他の兄弟に比べ、これといって取り柄もなく冴えない重耳。しかし、翼との戦いでは思わぬ活躍を見せ、統一後の暮らしもなかなか明るいものでした。ですが、祖父の称が亡くなった後、様々な陰謀が顔を覗かせるようになり、重耳の人生も波乱に満ちていくのです。
- 著者
- 宮城谷 昌光
- 出版日
- 1996-09-12
重耳はそれほどの野心があるわけでもなく、平凡な面の多い男。そこに、親近感を感じることができるのではないでしょうか。国を亡命し、長い年月に渡って放浪の旅をすることになります。
ひたすら苦難を耐え忍び、徐々に力をつけていく重耳。その姿が、鮮明に細かく描かれています。
人の言葉に素直に耳を傾け、慎み深い重耳の人柄もとても魅力的。そんな重耳の周りを固める登場人物たちのドラマも、とても読み応えがあります。中でも印象深いのは、親孝行で出来の良い重耳の兄・申生の悲劇。
その生き様や決断が切ないものになっています。
重耳を慕い支える家臣たちも魅力的で、重耳の人柄の良さが、人を惹きつけるのだろうと感じることができるでしょう。
けして焦らず、ゆっくりと自身を成長させ、やがて覇王にまで上り詰める重耳。その姿から様々なことが学べる、おすすめの歴史小説です。
『水滸伝』中国の四大奇書の1つ「水滸伝」をもとに、北方謙三独自の解釈でオリジナルの物語を描き出した大作『水滸伝』。全19巻からなる、壮大なストーリーが展開されるこの作品は、第9回司馬遼太郎賞を受賞しました。
舞台となるのは北宋末期。皇帝に即位した徽宗は、芸術家としても知られる人物で、芸術に対する自身の欲のため、宮殿や庭園に多額の費用をかけていました。国の民へ重税を課したため、人々の生活は苦しく、国はすっかり腐敗しています。
- 著者
- 北方 謙三
- 出版日
- 2006-10-18
そんな国を滅ぼし、新しい世の中を作ろうと、108人の英雄たちが梁山泊に集結しました。
次々登場する魅力的なキャラクターたち一人ひとりにスポットが当てられ、彼らの活躍から目が離せません。
北宋の秘密特殊部隊として、青蓮寺と名乗る集団が登場します。彼らとの手に汗握る攻防が、『水滸伝』という物語をより一層面白くしていきます。敵となる青蓮寺も、ただの傍若無人な集団というわけではなく、彼らなりの志がしっかりと存在しているのです。
多くの犠牲を出したこの戦い。男たちそれぞれの生き様、死に様にロマンを感じずにはいられません。全巻を読破した時、なんとも言えない充実感を感じることでしょう。
いつまでも記憶に刻まれる、素晴らしい作品ですから、興味のある方は、ぜひ挑戦してみていただければと思います。
『大地』清朝から中華民国へと移り変わる時代を背景に、ある一家の物語を、父子3世代に渡って描いた名作、パール・S・バックの『大地』。女性としては初めてとなる、ノーベル文学賞を受賞した作品です。『大地』『息子たち』『分裂せる家』の3部作からなる、壮大な物語となっています。
- 著者
- パール・バック
- 出版日
第1部の主人公・王龍は貧しい農民。老いた父親と2人暮らしですが、地主である黄家に仕える奴隷女・阿蘭との結婚が決まります。阿蘭は美しくも若くもありませんでしたが、たいへん働き者で、結婚してからというもの、一家の暮らしは次第に明るくなっていきました。
そんな時、町を大飢饉が襲い、たくさんの人々が餓死していく事態に陥るのです。
物語では、しがない農民の王龍が、やがて大富豪へとのし上がっていく姿が、巧みなストーリー展開によって描かれています。王龍の妻となる阿蘭は本当に素晴らしい女性で、賢くてたくましく、王龍を献身的に支える様子がとても魅力的。飢饉による苦しい生活は壮絶で、それでも生きようとする一家の姿が濃密に描かれています。
第2部では、王龍の3人の息子に物語が引き継がれ、第3部では、3男の王虎の息子・王元が主人公となりました。それぞれの結婚相手となる女性たちも皆個性的で面白く、その存在感を発揮しています。
エンターテインメント性に富んだ魅力的なストーリーは、世代間の考えの違いがとても印象的。3世代に渡る一家の様子とともに、時代が移り変わっていく当時の中国の様子を、興味深く楽しむことができる傑作です。
『敦煌』20世紀に入ってから発見された、莫高窟の敦煌文献。それが誰にどのようにして封印されたのかを、井上靖が独自の想像で物語にした、傑作長編小説『敦煌』。井上靖は、この作品と『桜蘭』によって、毎日芸術賞を受賞しました。
1988年には、映画化もされた作品です。
宋の時代の中国。主人公の趙行徳は、科挙の受験中。最終受験を受けるため、北宋の首都・開封までやってきましたが、なんと試験の待ち時間に居眠りをしてしまい、夢を見ている間に試験は終わってしまったのです。
受験の失敗に落ち込みながら、開封の街を彷徨っていた行徳は、裸のまま「肉」として売られている女と遭遇。あまりにも不憫に思い、その女を助けてやると、女は行徳に西夏文字の書かれた、一枚の紙を手渡します。その文字に興味を持った行徳は、引き寄せられるように、西方へと向かい……。
- 著者
- 井上 靖
- 出版日
- 1965-06-30
難関と言われる科挙試験を楽に合格できるだけの能力を持ちながら、居眠りをして落とされるという、行徳の独特のキャラクターが面白い作品です。ふと気になった文字を調べるため、西夏に向かってしまう、文学に対する好奇心の強さも印象的でした。
行徳は、戦に巻き込まれることになりますが、戦闘の様子も、静かな文体で淡々と語られ、作品全体に詩的な雰囲気が漂っています。
日本と比べ、中国のなんと広いことか。この作品を読んでいると、改めて思い知らされます。風景描写がとにかく素晴らしく、どこまでも続く広大な砂漠を、鮮明に思い浮かべることができるでしょう。
人間の強い意志や宿命、そしてそれらを凌駕する、美しくも残酷な砂漠。無常感を感じるとともに、それでも力強く生きていこうとする人間の逞しさが、臨場感たっぷりに描かれています。
中国ならではの情緒あふれる壮大な歴史のロマンに、うっとりと想いを馳せることができる、井上靖の長編歴史小説。ぜひ読んでみてください。
中国を舞台とした、おすすめの歴史小説をご紹介しました。中国の歴史をもっと知りたくなる、魅力的な名作ばかりです。日本の歴史小説とは、一味違った面白さにぜひ挑戦してみてくださいね。