女性同士の恋愛を描いた百合漫画。友情から恋愛へ、少しずつ変化していく感情に戸惑いながらも、相手を一心に想う姿には、共感すること間違いなしです。今回は女性特有のドロッとした心理描写も魅力的な、初心者にもおすすめできる百合作品をランキング形式でご紹介します。
- 著者
- 木戸 朋生
- 出版日
- 2016-11-11
沖田そよ子は、16歳の女子高生。先週、ある高校に転入してきたばかりの転校生です。「父の都合で 転校が多い私は、転入してきた学校 そのすべてで “学年1位”の成績を獲ってきた」と彼女が語るように、彼女は、努力を重ねた上での秀才でした。しかしこの学校での成績は、なんと学年2位!1位を獲った人物は、こともあろうに、同じクラスの隣の席でいつも居眠りしている女子深稲ねむりで……。
勉強するそぶりも見せない子が、優秀な成績を獲ると、どんな勉強法をしているのか無性に気になったりしませんか? 優秀な子ほど自分より優れた人物の理由を探り、いいところは真似して自分のものにしてしまいますよね。そよ子も、ねむりが学校では居眠りばかりしているのに、自分よりもいい成績を獲るのにはワケがあると思い、彼女の周りを調べ回ります。初めは、ねむりにライバル心を燃やしていたそよ子でしたが、彼女のことを知る度に、彼女への思いが少しずつ変わっていくのでした。そよ子は、果たして良い成績を獲るねむりの秘密を見つけられたのでしょうか?
少し変わっている登場人物たちですが、彼女たちが気持ちよさそうに眠っている姿には、睡眠の幸せと大切さを改めて噛みしめられそうです。
効率よく熟睡するためのグッズや方法の数々が載っている点も魅力のひとつでしょう。良質の睡眠が確保されずにお困りの方は、ぜひ本作をチェックしてみてくださいね。この漫画の熟睡方法を実践すれば、毎晩、心地よい眠りが得られるかもしれませんよ。
- 著者
- 柊ゆたか
- 出版日
- 2015-12-18
百合が全面に押し出されていない点で初心者におすすめの本作。
両親の再婚によって、突然姉妹になったサチとあやり。いきなり姉妹と言われても、どう接したらよいか戸惑う2人。しかしサチは食べることが好きで、あやりは料理を作ることが好きだとわかり、一緒に食卓を囲むようになると、2人の距離はぐんと縮まっていくのでした。
昨日まで他人だった2人が、戸籍上家族になったからといって、いきなり本当の親子や姉妹になるのは難しいことでしょう。毎日を共に生活をしていくことによって徐々に「家族」となっていくのでしょうが、本作ではそんな時に大きな役割を果たしたものが「食」でした。
料理の香りが本から溢れてきそうなほど美味しそうな食べ物の絵と、食べている彼女たちの幸せで満足そうな顔を見ていると、こちらもお腹が空いてきます。漫画を読み終えた時には、台所に立っている人も出てくるのではないでしょうか? 時に高価な材料もありますが簡単に手に入る材料も多く、レシピもついていますので、美味しい料理を作りたい人におすすめの漫画です。
- 著者
- 藤村 真理
- 出版日
- 2003-02-01
女子高に通っている、明るくて友達思いなごく普通の女の子、凪。そんな彼女の元に転校生が訪れます。名前は椿比呂、やはりどこにでもいるような、大人しい女の子でした。
転校初日。体育のため更衣室に向かい、着替えをしていた凪たちクラスメイトですが、転校生の比呂はなかなか着替えようとせず困っている様子でした。
意を決して「体操服、持ってないの?」と比呂に話しかける凪。そこから2人の交流が始まります。
凪に懐いて他のクラスメイトとは話そうとしない比呂。しかし彼女のことを大切な友達だと思っている凪は、もっと他のクラスメイトとも話して欲しいと思っています。一方比呂は、凪と他のクラスメイトが話していることに対して嫉妬をあらわにするのです。
2人の距離感は友情以上に近くなり、物語が進むにつれて破綻していきます。偏愛と言い切れるような関係はどうなっていくのでしょうか。
年ごろの少女同士の、友情とも愛情とも言い切ることができない関係を描いた作品で、2人の関係性の変化によって、彼女たちは精神的に大人へと成長していきます。
一見百合漫画のように思われるかもしれませんが、描かれるのは学生時代特有の、友人に強く依存してしまった女の子たちの物語。ガールズラブとまでは言い切れない、友情以上恋愛未満な2人の共依存的な関係性なのです。
明るく王道な少女漫画を想像していると、驚くかもしれませんが、この多感な時期を経験した方にはぜひ一読していただきたい名作です。
- 著者
- 藤枝 雅
- 出版日
東京都紫野市に店を構える「飴色紅茶館」は、紅茶の専門店。店主の犬飼芹穂は25歳、宝くじに当選したお金を元に飴色紅茶館を開店させました。紅茶を淹れる腕は確かですが、おっとりとした性格の芹穂は、経営が苦手です。アルバイトとして紅茶館の経営と芹穂を支えるのが、17歳の女子高生琴織さらさ。生真面目で大人っぽい性格で、困っている人を放っておけません。おしゃれで可愛い女子の憩いの場、飴色紅茶館を舞台に、芹穂とさらさの恋模様が描かれます。
藤枝雅『飴色紅茶館歓談』は、のんびりと優しい空気が漂う紅茶館を中心に物語が進んでいきます。芹穂に恋をしているさらさは、2人の居場所でもある飴色紅茶館を支えようと、新メニューの企画や考案をするなど、経営を軌道に乗せるために試行錯誤していました。将来は飴色紅茶館専属のパティシエを目指していますが、行動のすべて芹穂のために行っているものです。とにかく一途で健気なさらさを大切に想っている芹穂ですが、最初は恋という明確な感情を持っていませんでした。紅茶館での日々で想いは膨らみ、デートをきっかけに恋へと変化します。
芹穂は突拍子もないことを言って周囲を驚かせたりする天然気質の持ち主ですが、それは恋愛方面でも発揮されます。さらさへの恋心が無自覚だった頃から「50年後も隣にいてね?(『飴色紅茶歓談』より引用)」と、プロポーズまがいの発言をしている芹穂。自らの恋心に気づいた後は、指輪を渡して未来への約束をするなど、かなり行動的な面も見せます。一見しっかり者のさらさが芹穂を引っ張っているのかと思えば、芹穂がリードをとっている……年齢差を感じさせる、ときめきを感じるポイントですね。
さらさと芹穂の恋は、少しの独占欲をのぞかせながらも、相手を思いやる気持ちに満ちています。紅茶館ということもあり、さらさが作るお菓子やお店の小物、飴色紅茶館の制服が可愛らしいのも見どころの一つ。シンプルな表紙は手に取りやすく、百合漫画初心者でも、手に取りやすい作品です。
恋と紅茶とお菓子と糖分たっぷりの、25歳と17歳のピュアで可愛らしい物語。ふんわりと甘く、心地よい空気にずっと浸っていたくなるはずです。50年後の行方にも大注目です。
- 著者
- かずま こを
- 出版日
- 2013-04-18
かずまこをによる、少女たちピュアな恋愛物語を収めた作品集『名前はまだない』。全3話からなる表題作「名前はまだない」のほか、「3秒ルール」「uracoi」「恋はお静かに」「消し去る恋と願いごと」の短編4本と、『純水アドレッサンス』の番外編「匿名プロローグ」が収録されたボリュームのある1冊です。登場するのは、いずれも10代の少女たち。彼女たちの中にある、真っすぐな愛情の眩しさや美しさが詰め込まれています。
転校生の如月さんは、一見ボーイッシュで他人に興味がなさそうな雨森さんに興味を抱きます。なかなか心を見せない雨森さんに対して、思わせぶりな行動を仕掛けていく如月さん。抱きしめてキスもする2人の物理的な距離は近いものの、同級生という関係は変わらないままなのでした……。
表題作「名前はまだない」は、2人の少女の恋の駆け引きが見どころです。如月さんは雨森さんに抱きつき、自らご飯を食べさせ、不意打ちでキスを仕掛けます。その度にわずかに心を揺らす雨森さんの姿を見て悦に入るのですが、仕返しのキス、邪気のない笑顔に心を囚われ、ときめいてしまう気持ち。それでもからかっているだけという空気を崩さず、揺れた自分の気持ちを押さえます。まるで惚れたと言ったら負けだといわんばかりですが、如月さんが仕掛ける、雨森さんの興味を引くための行為は、すでに恋に落ちているといえるでしょう。しかし2人は明確な答えを口にすることはありません。恋に落ちた事実を見ずに、恋に落ちる過程を楽しんでいるかのようです。
本作では、駆け引きを楽しむ少女2人の危うさが、どこかエロティックな魅力を生み出しています。しかし駆け引きの中には、不意打ちに頬を赤らめる、年頃の少女らしさも見られ、少女特有の清純さが見え隠れするのです。少女同士だからこそ生み出される、危うく、一瞬のきらめきが美しい、そんな恋の形をお楽しみくださいね。
- 著者
- いけだ たかし
- 出版日
- 2007-12-22
村雨純夏は、クールでボーイッシュな性格。身長175㎝と長身で、運動神経抜群、成績優秀、クラス委員長も務めています。さらに家は空手道場で黒帯所有、中学生の時に高校生男子5人を撃退したことから、「暴刀村雨」の異名を持つ猛者として、その名を轟かせていました。そんな純夏の友達、風間汐は女の子が大好きという少女。彼女は、女性同士が愛し合うことを否定する世の中を嘆きます。汐の発言を軽く受け流している純夏ですが、実は「汐のタイプと自分は正反対だから」という理由で、汐への片想いをひた隠しにしていたのでした。そんな純夏は、ひょんなことから女子空手部を創設し、汐への想いを募らせながら賑やかな日々を送っていきます……。
いけだたかし『ささめきこと』は、純夏と汐の恋と、女子空手部のメンバーの活動をコミカルに描いた作品です。純夏や、おっとりした性格の汐、2歳年上で宝塚の男役のような口調の蓮賀朋絵、ドイツから来た留学生シャルロッテ・ミュヒハウゼンなど、個性的な少女たちが登場するほか、男子生徒も登場します。本作では、女子ばかりが通う女子校ではなく共学が舞台となっている点も特徴の一つ。主軸となる純夏と汐の恋が、様々な人間関係を絡めながら描き出されます。
友達という、一番近い距離にいられる関係を壊したくないという気持ちから、前へ進むことができない純夏。多くの読者が、片想いの辛さの中にいる純夏に感情移入してしまうでしょう。一方の汐も純夏の気持ちに気づきながらも答えを口にしないのですが、それは過去に女性を好きだと公言し、傷つけられた経験があったから。読者の胸を締め付けてくるような、それぞれが抱え込んだ感情、心の痛み。彼女たちはすれ違いながらも、ゆっくりと、前へ向くために想いを重ねていくのでした……。
タイトルの「ささめきこと」とは、ささやくこと、小声でひそやかに話すことという意味があります。賑やかな学園生活の中で、ひそやかに紡がれる恋は、純夏と汐にとっては特別なものです。
「この空の下に私の好きな人が 私を好きな人が――(『ささめきこと』より引用)」
同性であることが特別なのではなく、自分が好きな人が自分を想ってくれている……。本作で、想いを繋げること自体が特別で、奇跡に等しいことだと実感してみませんか?
- 著者
- 缶乃
- 出版日
- 2014-05-23
缶乃『あの娘にキスと白百合を』は、中高大一貫の女子校「清蘭学園」を舞台に、2話で1つのカップルを描く、オムニバス形式の作品です。百合漫画と言えば女子校、挨拶は「ごきげんよう」のお嬢様、というイメージがあるという方も多いでしょう。『あの娘にキスと白百合を』は、お嬢様学校が舞台ではありますが、登場するキャラクターたちは普通の少女ばかり。しかしまっすぐでピュアな、まさしく白百合の花言葉である「無垢」のように、穢れのない心を持っています。
様々なカップルが登場する『あの娘にキスと白百合を』には、物語をつなぐ役割をしているキャラクターがいます。品行方正で成績優秀、まさしく「生徒の鏡」と評される白峰あやかと、なんでもできる天才でありながら、自由で変わり者の黒沢ゆりねです。授業中は寝てばかりで部活動にも入らず、クラスの中で孤立気味のゆりね。最初は友人作りに協力する目的で声を掛けたあやかでしたが、ゆりねの天才ぶりにコンプレックスを刺激され、いら立ちが募っていきます。遂には、ゆりねに対して「貴女なんてちょっと要領がいいだけの ただの人だってことわからせてあげるわ!!(『あの娘にキスと白百合を』より引用)」と言ってしまうあやかは。しかしこれによって、ゆりねはあやかに本格的に惚れ込んでしまうのでした……。
天才だからと、他人に距離を置かれてばかりだったところに、自分の本質を見て救い上げてくれたあやかに対して向けられた、ゆりねの熱をはらんだ泣き出しそうな表情は、やけに色っぽくてドキリとしてしまうことでしょう。あやかとゆりね、ツンデレ秀才少女とマイペース天才少女の恋の行方をお楽しみください。
本作ではほかにも、陸上部のエースと医者に運動を止められているマネージャー、幼馴染の先輩と後輩のすれ違いなど、様々なカップルとシチュエーションが登場します。読者は自分の好きなシチュエーションの物語が必ず1つは見つかるという嬉しい仕様ですが、もちろんそれだけではありません。過去のエピソードなどを絡めることで、それぞれの物語に厚みと説得力が与えられているのです。メインとなる話は各カップルで2話が基本ですが、限られているからこそ密度の濃い物語が描かれています。
本作では、オムニバスという特性を生かし、気になるカップルのその後が垣間見えたり、気になっていた2人の恋が語られたり、読者の希望が反映されやすい形がとられています。丁寧な作画は、少女たちの魅力が十二分に表現されており、赤面する表情のかわいさは格別です。悶絶するほどかわいい、お嬢様学校の青春群像劇で、あなたが好きなカップルがきっと見つかるはずです。
- 著者
- 志村 貴子
- 出版日
- 2005-12-15
江ノ電の沿線にある進学校、松岡女子高等学校に入学した万城目ふみは、肉体関係を持っていた従姉の千津が結婚してしまい、落ち込んでいました。そんなとき、10年ぶりに幼馴染あーちゃんこと奥平あきらと再会。あきらは江ノ電の沿線にあるお嬢様学校、藤が谷女学院に通っていました。かくしてふみとあきらは、一緒に登校するようになり……。
『青い花』は違う学校に通うふみとあきらを軸とし、女性同士の恋や友情を描きます。女子校が舞台ということもあり、同性の恋愛が生まれやすい環境ではありますが、本作では女性同士だけではなく、異性との恋愛も描き出されます。そこには異性と同性、両方の恋愛を描くことで、同性同士の恋愛にリアリティを持たせるという作者志村貴子の意図を感じられることでしょう。だからこそ本作には、百合作品特有の清らかさだけではなく、終焉を感じさせる悲しい空気が漂っているのです。
よりリアルなのは、ふみが恋人と肉体関係を結んでいる、と明確に描写されている点です。百合漫画では肉体よりも精神の結びつきを重視する傾向にあり、それは性欲から離れた清く美しいものであると尊ばれますが、一方でリアリティを失わせる原因も秘めており、女性同士の恋に、友情の延長線上という逃げ道を作ります。キャラクターは作品の中で生きている存在ですが、恋への戸惑いだけではなく、人間であれば当然持つであろう性欲をも描くふみたちの恋は、読者の胸により重く、強く胸に響くことでしょう。
とはいえ、主に登場するのは10代の少女。両想いになって、きゃあきゃあと歓声を上げる年相応とされる姿も見られます。その中で、自分と相手の想いが本当に同じ「欲」をはらんでいるものなのかを、測り続けていくのです。たとえば付き合い始めたときに、あきらはふみに、キスをしたいかと訊ねました。慎重になっていたふみは、「だめよあーちゃん もっと自分を大事にしないと(『青い花』より引用)」と答えるのです。好きな気持ちが大いからこそ、相手のことを大切にしようと一生懸命我慢するふみの姿に、愛おしさを感じられる1コマです。
ふみたちは恋しい人に対する肉欲を持ち、同性を愛することが世間からどう思われるのかを理解しています。それでも誰かを想わずにはいられない恋という感情に振り回され、生きていく少女たち。本作を通して、10代の少女たちのきらめきには抗うことはできないし、向き合わなければならない現実が内包しているのだ、と教えられるようです。
百合漫画で描かれる、女性同士の恋愛。その中に見出せる清らかな美しさ、悩み、そして欲望……。すべての人が共感できる恋の形を描く、初心者の方も楽しめる百合作品を、ぜひお手に取ってみてくださいね。
『青い花』について紹介した<『青い花』になぜ心惹かれるのか。名作百合漫画の魅力をネタバレ考察!>の記事もあわせてご覧ください。